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水無月蔵光の冒険譚  作者: 銀龍院 鈴星
第二章 新人冒険者として
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第29話 ノースヨーグ砦の中へ

いろんなキャラクターが出てき始めたので頭が混乱してきました。

おかしくても、流して下さい。

第29話 ~ノースヨーグ砦の中へ~

蔵光とゼリーは隠れていた場所から、ノースヨーグ砦の方へ走って向かっているが、その途中で、

「なあ、あるじー、さっき、セイノジが言いかけたことってなんなんや?」

セイノジとはゼリーが誠三郎を呼ぶときの愛称である。

「ああ、あれね、水無月家はジパング王国の中でも特別でね、鎖国はしているんだけど、裏では世界の色々な国と繋がっていて、裏だけに色々と秘密があるんだよ。だから、あんまり他の国の内情とかを人前でしゃべってはいけないって決められててね。」

「ほお~裏でな~それ面白そうやん。で、セイノジは魔族の事をなんか言おうとしてたな?」

「あれね、あそこにはヘルメスとかいたんであんまり言えなかったんだけど、この近くの領域を支配している魔族の王、つまり魔王は穏健派で、他の領地への侵略行為はしないだろうと言おうとしたんだろうと思う。」

「それホントなんか?」

「うーんまあ、情報は確かだとは思うんだけど。」

「はー、なるほどなぁ、ようわかった。」

「なので、ゼリーも他言は無用だよ。」

「ああ、わかった。」

補足するが、先程も蔵光が言っていたとおり、水無月家は、裏では世界の国々から様々な難題を依頼されている。

(過去編1~水無月家の資格者~等、参照)

また、蔵光の祖父王鎧はジパング王国の老中にして、世界の情報を集約する「(しのび)」という組織の長であり、世界中全ての動きを把握できる立場にある。

そのため、極秘事項が多く、他言無用というのは珍しくないのだ。

当然、その下の仕事を受け持つ八鬼家も例外ではない。

ジパング内ではあるが、誠三郎もかなり、水無月の仕事を受け持っているので、世界の事情にも部分的に詳しい所があるため、あのような会話となっていたのだが、一般人の前では当然口外すべきではない、だから例え相手がヘルメス達だからといって魔族だけでなく他国の情報を知っていれば場合によっては命を狙われる可能性も出てくる、なのであの時、蔵光が、魔族の事を話しかけようとした誠三郎に口止めの合図をしたのだ…誠三郎、口が軽いぞ!

誠三郎も今回が初めての海外となり、国外の人間と一緒に行動するのも初めてであるが、本来、他国の者には情報を持っていることすら悟られてはいけないのが鉄則…情報管理って難しいね。

まあ、蔵光も誠三郎も、魔族の情報については情報と言っても噂に近い所もあり、実際と違う場合もあるため、全てを信じているわけではなかったが…

ただ、穏健派と聞いている魔王が自分の配下達を、人間の土地へ理由もなく立ち入らせるだろうか?

これには絶対に理由があり、当然、何らかの目的を持って行動をしているはずである。

知っていて損はない。

ただ、一般人でこんな行動をするならば、死を覚悟しなければならないだろうが…


蔵光達が、ノースヨーグ砦の近くまでやって来た。

さすがに大きな建築物である、正面の大きな門は閉じられていたが、その横に勝手口というか、比較的普通の出入口があった。

防御魔法は今も継続中で、『老朽化』さえ防御対象に入っているのか、建物自体かなり綺麗というか新築に近い。

蔵光が、勝手口と思われるドアのノブを回す。

ドアに鍵はかかっていなかった。

中へ入るとそこはどうも過去に検問所の役人が詰めていた待機室のようであった。

なので、その場所から建物内へ入って行けるようになっていたので、蔵光とゼリーはそのまま建物内へ進んで行った。

検問所詰所の奥は、ちょうど大門の内側部分となっていたが、そこは、巨大な広場となっていた。

100mくらいはあろうか、天井部分が恐ろしく高い。

建物内は外がかなり暗くなってきているのに、魔鉱石で光を出しているのか、かなり明るいので、その建物の巨大さが一目瞭然で理解できる。

恐らく、ここは砦というよりも建物自体が街となっていたようで、栄えていた頃は、門を開いて、来訪者を迎え入れていたのだろう。

だが今は誰もいない。

開店前の超巨大なショッピングモールといったところだろうか。

大きさは全然違うが…


「すごい…」

蔵光が砦の内側を見て感動している。

彼の実家の建物も相当デカイが、それでもこの砦はその規模を軽く凌駕する。

蔵光が見とれていると、突然、近くからドーンという大きな音が聞こえてきた。

蔵光はすかさず、気配を探る。

自分達の気配遮断は常にかけられているが、奴等の気配は全く遮断されておらず、簡単に場所がわかった。


「地下?一体、何を?」

隠密のスキルで気配がした地下へ移動する。

地下へは大きな階段を使って降りていく。

壁の所々に光るタイルのようなものが貼り付けられていて明かりには困らない。


建物自体には防御魔法がかけられているが、建物の出入口や建物の内の部屋には結界などは無く、魔族と言わず誰でも出入りができるようで、これは建てられた時の背景に関係するようで、過去には色々な種族も出入りができたのであろう。

蔵光が階段を移動しながら、

「そういえば、ここはかなり前から建てられていたとか誰かが言ってたな?」

と言うと、ゼリーが、

「ああ、なんか魔族が侵攻してくる前からあったとか、なかったとか…」

と曖昧な答えを返す。

長い階段を下まで降りた。

地下の一階といったとこだろうか。

そこは、真っ暗でもなく、建物の構造なのか、魔鉱石の影響なのか、全体的にぼんやりと明るく、蔵光などの目にはハッキリと見える。

一階の広場ほどではないが、天井も高く地下空間内には真ん中に大きな通路があり、その通路から三階層分の吹き抜けがあり。吹き抜けを挟んだ両サイドにそれぞれ、ある程度の広さで区切られた多数の部屋がある。

(地下一階なのに三階層って、じゃあそこは地下3階じゃないのか?)

そして、その部屋の前には部屋に沿った長い通路が設けられていたり、対面する側の通路と渡り通路で繋がっていたりと、かなり凝った造りとなっている。


「しっ!」

蔵光が唇に人差し指を当てて口止めの合図をする。

音のする場所が近付いてきた。

蔵光らが下へ降りてくる間も、何度かあの大きな音が聞こえてきていた。

通路を進むと、何やら大きなホールのような場所が見え、その奥で先程の4人の魔族がいた。

蔵光とゼリーは建物の影に隠れて様子を見る。


体のゴツいゴリマッチョ魔族の男が、手に持っている巨大な斧で何かをぶっ叩いている。

ドゴーン!

ホール内に轟音が響く。

さっきから聞こえていた音は、この音だった。

さらに、背が一番高い魔族の痩せマッチョ男が持っている槍で何かを突く。

ゴウーーン

先程よりも大きな音が響き渡る。

「どうだ、ザビエラ?」

と一番背の低い魔族の男が痩せマッチョ魔族に声をかける。

「う~む、やはり上手く刃が通らん。」

「ちっ、今日も無駄足か!」

魔族の男が悔しがる。

「前回、魔法を打ち込んだり、解除魔法を使ったりしてダメだったから、今回は物理破壊をしようとしたのに、ドラギゴの怪力もダメ、ザビエラのデスフレアも通らないとは、何て結界なの。」

どうも、破壊しようとしたのは何かの結界であり、それが破壊できなかったことで、魔族の女はその結界の頑丈さに呆れている様子であった。

そして、会話の中で、あのゴリマッチョ魔族がドラギゴ、痩せマッチョ魔族の男がザビエラというのがわかった。


『結界?』

蔵光が結界という言葉に反応する。

『要するに、コイツらはこのノースヨーグ砦の中に張られている何かの結界を破ろうとしているみたいだな。』

と蔵光は魔族の会話内容とその様子を見て状況を把握する。

そして、破壊されようとした結界の方を見る。

『あれは…』

蔵光はそれを見て、黙り込む、というかさっきから黙ってるけど。


「どうするのデストロ?」

女の魔族が尋ねる。

どうやら、この一番背の低い魔族の男はデストロというらしい。

「仕方がない、何とか別の手段を考えなければ、このままではギルガンダを使えないからな。」

「そうね、一度帰って別の作戦でも立てましょう。」

「ああ、奴の能力があれば我らの目的が達成しやすくなるからな。」

とデストロが忌々しそうに結界を睨む。

そして、

「エルザ、例の実験結果は?」

とデストロがエルザと呼ばれる女の魔族に聞く。

「大分、上手くいっているわ。」

「よくやった。じゃあ、あとはギルガンダの所在だけだな…ザビエラ、あいつの捜索はどうなっている?」

「まだ行方がわからん、恐らくはこの近くだとは思うのだが…」

「早く探せ、時間がない。」

「わかった。下の者には伝える。」

ザビエラが答える。

どうやら、このデストロがこの中のリーダー格と思われる。

「さすが濃霧龍ですね。デストロさん」

ドラギゴがデストロに言うが、

「バカ野郎、何を感心しているんだ、お前もさっさとこの近くを探せ!」

「す、すみません。」

デストロに頭を小突かれていた。

どうも、このドラギゴは上位魔族みたいだが、頭はあまり良くないらしい。


魔族の4人は、その後、飛翔魔法でその場から飛び立ち、ホールの天井の隙間を抜けて行った。

蔵光の生体感知では、どうやら、そのまま砦を後にし、北の方へ戻って行ったようである。


「一体何なんやあいつら?」

魔族の奴等が飛び去るのを見届けてから、ゼリーが蔵光に聞いたが、蔵光は何も答えず、先程、奴等が壊そうとしていた結界のところまで行き、その結界を確認した。

「やっぱり…」

蔵光が呟く。

「何、何?何かあるの?」

ゼリーも蔵光のところに近付いてきた。

そこには、蔵光もよく知っている結界魔法がかけられた岩があった。

岩の間には別の岩が隙間無く詰められている。

「これって?」

ゼリーもよく知っている結界だ。

「ああ、これは水無月家のご先祖様が施した負の魔素の封印結界だよ。奴等はこれを破壊しにやって来たみたいだな。」

「何やて?じゃあ…」

「うん、どうもこの結界は、魔素の封印だけでなく、建物の防御魔法も兼ねているみたいだな。」

「ということは、この建物は(あるじ)のご先祖様が建てたのか?」

「うーんそれはどうかな?建造は別の人がやってて、結界とかを別に担当してたんじゃないかな。」

「はーんそういうことか。そら、あいつら程度にはこの結界は壊されへんわ、せやから、何もできずに帰って行ったんやな。」

「うん、だけど、奴等は何故、この封印を解いて、何をしようとしていたのかな?」


蔵光は魔族の魔力を追っていたが、かなり北の方へ離れていったので感知を止めた。

だが、この時、蔵光にも感知されない、魔族を追跡する一つの影があった。


「とりあえず帰ろうか。」

こうして蔵光は魔族の目的が何なのかよくわからず帰ることとなった。


砦の中には何かあったかな?

ゼ「何もなかった。」

店屋さんとか?

ゼ「そんなんない」

結界だけ?

ゼ「極秘事項や。」

…ゼリーって結構口硬いな。


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