第24話 巨大な何かを調査せよ
話が動きます。
ヘルメス再登場です。
第24話 ~巨大な何かを調査せよ~
蔵光達が盗賊団『蜂の巣』を討伐した報酬を受け取ってから、はや一週間、相変わらず、冒険者ギルドは『蜂の巣』の残党狩りでワイワイと賑わっている。
蔵光らがタスパに来た当初はまだ初夏の日差しであったが、今は相当暑くなってきていて、さすがに爽やかな暑さとは言えないぐらいの猛暑日になっていた。
蔵光は、宿屋『海老の尻尾亭』の1階にある食堂にて、誠三郎、ゼリーとともに、朝食をとっていたが、彼等の前に珍客がやって来ていた。
「えっ?クエスト?」
蔵光の声が辺りに響く。
それは、冒険者ギルドの適正検査で誠三郎と模擬戦闘試験をした女性剣士ヘルメスと、同じパーティーにいるというヴィスコという年齢が14~15歳くらいで、やせ形の女性魔法使いであった。
事の起こりはこうである。
蔵光が、自分の部屋で朝の体操をしていたところ、突然、ヘルメスとヴィスコが蔵光の部屋に押し掛けてきたのだが、そのあまりにも慌てた状況から、ただ事ではないと思われたため、朝食をとりながら話を聞こうということになったのだったのだが、その時の状況がまた大変で、
最初にヘルメスが蔵光の部屋に訪れた時、ノックも無しで扉を開け、開口一番、
「頼みがあります!」
と大声を上げたのだ。
その時の蔵光は、上半身裸でストレッチをしている状態であり、この時のヘルメスはというと、自分の方を不思議そうに見つめている蔵光の顔を見て我に返り、慌てて部屋を飛び出した。
一呼吸おいて、ヘルメスが廊下から扉越しに声をかける、
「ノックも無しに扉を開けてしまい、大変申し訳ありません、実は、急な話なのですが、どうしても水無月様に頼みたいことがあってこちらまで来ました。」
と非礼を詫びた後、ここへ来た理由を話した。
「じゃあ、みんなで朝食を食べながら話をしようよ。」
と蔵光が言い出したもんだから、先程のような状況となっていたのだった。
ちなみに、ヘルメスが蔵光の部屋にやって来ている気配や、扉を開ける気配などは既に察知済みであったが、蔵光自身には然したる影響が無いと判断されたため、そのまま放っていて、様子を見ていたのだった。
最初に口を開いたのは、ヘルメスだった。
「実は、水無月様や八鬼殿にクエストを手伝ってもらいたいのです。」
ヘルメスは食堂に置かれたテーブルを挟んで、頭を下げた。
「私は、このヴィスコと他二人の仲間とパーティーを組んでいて、先日、調査もののクエストを受けたのですが、他の二人に急な仕事が入ってしまい、クエストが滞ってしまっているのです。このまま、達成期限がくればクエスト失敗になってしまうということで困ってしまい、現在、手が空いている冒険者ということで紹介をされたのです。」
ヘルメスは剣士であるが、先日、蔵光達の試験官をしていた者である。
彼女自身は誠三郎とだけ対戦したが、一瞬で誠三郎に負けてしまい、その後は蔵光の試合を見て彼等の実力の一端をまざまざと見せつけられた一人であった。
紹介を受けた人物がこの二人だったため、二つ返事でクエストの応援依頼にやって来たのであった。
「で、そのクエストというのは何だい?」
誠三郎がヘルメスに尋ねた。
「ええ、実はこの調査クエストは既に何組かのパーティーが投入されていて、何度か調査が入っていたのですが、誰も帰ってきていないらしいのです。それで、私達のパーティーにこのクエストが回ってきたのですが、どうにも、クエストの内容が曖昧というか、調査ものなのですが何か雲を掴むような話で、何から話をすればいいのかわからない状況なのです。」
とヘルメスは答える。
「何じゃそりゃ?」
ゼリーが突っ込みをいれる。
「うああ!?しゃ、しゃべった!」
ヘルメスが叫び、ヴィスコが驚きで固まる。
それはそうであろう、普通はしゃべらないであろう只の従魔が急にしゃべりだしたのだから。
「何やねん、ワイは試験の時も大声で叫んでいたやろ?」
とゼリーはヘルメスに言った。
「いや、まさか、スライムのネコが、しゃべるとは思わなかったし、周囲の声もあったので、誰の声かわからなかったから…しかし…」
ヘルメスは驚きと珍しさでまじまじと見ている。
また、ヴィスコなどは、
「可愛い…」
とボソリと呟いている。
確かに、ネコ型のスライムというだけで珍しいというか、まずいないし、ましてや言葉をしゃべる従魔はほぼいない。
「まあ、とにかく訳がわからないクエストなんです。わかっていることと言えば、
・ピータバの村から少し離れた『クライ渓谷』という所の調査であるということ
・調査の対象は『そこにいる巨大な何か』
ということだけで、他は何もわかっていないんです。」
と、ヘルメスが答える。
「ふーん、巨大な何かって、何だろうな?」
蔵光があごを指先でつまんで呟く。
「巨大な猪か何かでしょうか?」
誠三郎も、憶測で話をする。
今度はヴィスコが状況の説明を始めだした。
「このクライ渓谷という谷は、草食や肉食の動物の他に、以前から亜龍種のワイバーンや大カマキリといった肉食の魔物なども住んでいることが確認されています。また、谷は数十kmにも及び、その深さは浅いところで50m、深いところでは200m以上もあるというところで、肥沃な土地柄もあり、草食の動物は多数いるため、それらを獲物とする肉食の魔物はめったに村の方へ出てくることはなかったのですが、ここ最近になって…」
「出没するようになったと?」
「ええ、そうです、それで調査が実施されることとなり、最初は、D級の冒険者が調査に入ったのですが、途中で消息を断ち、ついで、C級やB級の調査員が投入されたらしいのですが、全て帰還しなかったそうです。ピータバの村人が案内役として一度クライ渓谷の入り口付近まで入ったらしいのですが、高台のところから一瞬だけ、谷底の方で巨大な生き物か何かが移動しているのを見かけたということでした。」
「ほお、それはどんな生き物だったとかは聞いていないのか」
誠三郎はヴィスコに聞いた。
「えぇ、ちょうどその辺りは霧が立ち込めていたらしく、あまり良く見えなかったそうです。」
「ふぅーん、霧ねぇ。」
と言いながら蔵光が、ゼリーを見る。
「ん?あるじ、ワイを疑っとるんかいな?アホ言いなや、ワイとちゃうで。」
と必死に反論する。
確かにゼリーも強酸の霧を使う凶悪モンスターだから、蔵光がゼリーを見るのは仕方がないのかなと思われたが、
「いやいや、そうじゃなくて、霧を使う魔物って他にどんなものがいるのかなと、思って。」
「そらなんぼでもおるやろ、エンペラー以外にも!ちょっと魔法が使えたら簡単やろ!」
とゼリーが言うと、ヘルメスとヴィスコが反応した。
「あの、エンペラーって、あの災厄級とも言われるエンペラースライムのことですか?」
ヴィスコが引き吊った表情でゼリーを見る。
「当たり前やん!エンペラーって名前に入るゴブリンはおらへんやろ?」
とゼリーが両手を上げて叫ぶが、その仕草はどことなく可愛い。
「あの…すみません…このスライムネコちゃんって…もしかして?」
と恐る恐るヴィスコがゼリーを指差して蔵光を見る。
「うん、元々はだけど」
とゼリーの正体をそれとなく明かした。
「ひっ…」
ヘルメスとヴィスコは目を剥いて固まってしまった。
それを見た蔵光は、その場を和ませようと、話を強引に調査クエストに戻そうとした。
「ま、まあまあ、その話は後程、詳しく…」
しかし、この衝撃は彼女らには相当のショックであったみたいで、中々元に戻らなかった。
「若、無理ですな、エンペラースライムと言えば一国をも滅ぼすと言われている凶悪なスライム…それが目の前にいるとなれば誰でも少し位は驚くでしょう。」
と誠三郎が言ったが、そこにちょっと怒りモードのヘルメスの突っ込みが入る。
「少しどころか、滅茶苦茶驚いているんですけど!」
「おっ、戻ってきたで。」
ゼリーがニヤリと笑う。
「本当にエンペラースライムなんですか?」
ヴィスコが蔵光に尋ねる。
この質問は至極当然である。
エンペラースライムのような最凶最悪と言われるモンスターを、倒すどころか従魔にするなど前代未聞のことであり、到底信じられないことなのである。
「そら、疑うのも無理はない。元々はこんなプリティな姿やなかったし、もっと大きかったからなあ。まあ、心配せんでええ、主との契約で人は基本襲わへんから。せやけど、ワイに手ぇ出したら、その時はどうなるかわからへんでぇ。」
といってゼリーはちょっと悪い顔をしながら、両手を上げて二人を脅したが、すかさず、蔵光の手刀がゼリーの頭へ落ちる。
「ゲフゥ…」
ゼリーの目が白目になる。
本来、ゼリーの身体は物理攻撃耐性があり、痛覚も無効の身体であるが、蔵光の手刀の威力が桁違いのためゼリーにも非常に効く。
「ゼリー、怖がらせたらダメじゃないか。」
と蔵光が優しく諌めるが、その手刀は全然優しくなかった。
「もう、主の攻撃ハンパ無いわ、何かワイ、主が強すぎるせいで自分がエンペラースライムっていうの忘れてしまいそうやわ。」
まあ、確かに従魔になるまで、全くの敵無しであり、痛さや恐怖を感じる攻撃を蔵光から食らうまでは怖いものなしであったから仕方がない。
「で、若はどうしますか?この話、受けますか?」
誠三郎が尋ねる。
「うーんどうしようかな?ところで仲間の人達の急な仕事って、何の仕事が入ったのかな?」
と何気に蔵光が聞いたところ、
「実は、例の盗賊団『蜂の巣』のところから救出された人達の最終組の事情聴取が終わって、その人達を、遠隔地まで送り届けるという仕事が入ったもので…」
「えっ?」
今度は蔵光達が固まってしまった。
「そうなんです、これがなければ、あなた方にクエストの応援を頼むことはなかったのですが…」
蔵光は自分達がクリアした仕事の影響で、他のパーティーに迷惑をかけてしまっていたことを知り、何か申し訳ない気持ちになってしまった。
「くっくっくっ、ぐぁっはっはっはっはっ」
ゼリーが堪えていた笑いが止まらなくなった。
「あるじぃ~、もう…くっくっ、この話ふふふ、受けな、ははは、あかんやろ…」
ゼリーは腹を抱えて笑っている。
厄介事や面倒事が好きなゼリーにはもってこいの話だ。
「若、仕方ありませんな。」
誠三郎も少し笑っている。
「先日の俺達の盗賊団討伐で、君達のクエストの遂行に大変な迷惑をかけたのは事実だから、君達の申し出を受けようと思っているんだけど…」
と蔵光は少し照れながら、ヘルメスに握手の手を差し伸べてクエスト応援の答えを返した。
「わかりました。それでは、よろしくお願いいたします。」
とヘルメスも手を出して握手に応え、蔵光の答えに返事をした。
「よし、じゃあこれで決まりだ、まだ朝食を最後まで食べていないし、一緒に食べながら、これからのことを計画しよう。」
と誠三郎が再びみんなを席に座らせる。
いつの間にか全員が立ち上がっていたようである。
祝、緊急事態宣言解除!
ゼ「解除になったらやめるとか何とか言うてたよな」
は?
ゼ「おいおい、それより第2章おもろいの?」
のつもりで、作ってます。




