第23話 懸賞金の決定
第二章突入です。
第2章 新人冒険者として
第23話 ~懸賞金の決定~
「若っ!」
八鬼誠三郎の大きな声が彼らの拠点となっている宿屋『海老の尻尾亭』内に響く。
この宿屋は、木造3階建てのかなり大きめの宿屋で、1階部分が食堂で、2階3階が宿泊部分となっている。
一室は大体6~8畳間くらいの広さで、室内にはベッドと机、タンスなどが置かれている。
トイレは1階の共同トイレがあるが、それは、これまでの垂直落下型非水洗式トイレとは一線を画するトイレである、『魔導機能型お尻洗浄機能付き水洗式トイレ』というものが設置されている。
これは最近開発されたトイレ型魔鉱機であり、用済み後はなんとお尻のアノ部分に適度な温度の水が、適度な水量で噴射され、汚れた部分を綺麗に洗浄してくれるという優れもので、その後は便器内にある排泄物は水流を起こして、接続されたパイプを通して洗い流し、宿屋の外にまで配管してあるパイプで下水道まで排出するという画期的なもので、なかなか宿泊客に好評である。
また、これまで貴族や富豪などしか使えなかった風呂というものも増築された建物内に作られているが、これについては新型の『お風呂型魔鉱機・湯弐場』というもので、湯張り、保温、温度設定、追い焚き、自動排水、水質改善、浴槽洗浄の機能がついていて、湯張り、洗浄時間以外はいつでも入れるようになっている。(うちにも欲しいわ!)
あと、風呂場には、発汗作用を促し、使用後は冷水で体温を冷やして爽快感を得るために使用される、
『高温式発汗促進魔導装置・躁中』((注)躁…気分や意欲が高揚すること 中…空間的に仕切られたものの内側※気分や意欲が高揚する部屋の意(こじつけすぎるやろ!)
が、最新機種として導入している。
話が逸れた。
『海老の尻尾亭』の2階に間借りを始めて2週間が経過した。
水無月蔵光らは、この街へ来た当初は、バタバタと忙しく、街のことなども十分に知らなかったこともあって、仕事もそこそこにタスパの街を散策して過ごしていた。
蔵光は、朝食を摂った後、自室の机に向かって、これまでの出来事や、街で得た情報等を自分の手帳に書き込んでいたところに、誠三郎が先程のように声を張り上げて部屋に入ってきたのだ。
誠三郎は蔵光とは別の部屋に泊まっていて、蔵光はスライムネコの従魔ゼリーと一緒に寝泊まりしているが、これは、誠三郎が従者であるため主人とは同じ部屋に寝泊まりできないからだった。
これは彼等の国、ジパング王国の侍の作法である。
「なんやぁ、セイノジ?元気がエエなあ。」とゼリーがベッドの上でゴロゴロと転がりながら返事をする。
「どうしたの、セイさん?」
蔵光が手を止めて誠三郎へ向き直る。
「若!ようやく、報償金の受領が出来るみたいですぞ。」
「えっ、?そうなの?」
「ええ、先程ギルドの使いのものが、私のところへやって来て、ギルマスのところまで来て欲しい、と伝えてきました。」
「へぇー、じゃあ早速、用意してギルドへ行こうか。」
と蔵光は座っていた椅子から立ち上がった。
蔵光達は宿を出ると、宿の近くにある商店街の脇を抜けて冒険者ギルドタスパ支部へ足を向けた。
途中で、商店や屋台の途切れるようなガラの悪い場所を通らなければならないのだが、宿屋からギルドへの近道になるためよく利用するようになった。
街の裏道を通っていたところ、蔵光達がタスパに来て初めて絡んできたチンピラリーダー軍団と出くわした。
すると、チンピラリーダーことコールが、
「おはようございます!お疲れ様ッス、蔵光さん、今日はどんなご用で?」
と超低姿勢であいさつをする。
仲間の奴等も、かなり蔵光にビビっているのか伏し目がちだ。
初対面で蔵光から、死ぬ直前ギリギリセーフの殺人級デコピンを食らい、建物の壁に叩きつけられ、半殺しの目にあったが、ゼリーの防御魔法と回復魔法で何とか生き延びていたのだ。
そして、更には蔵光らの盗賊団壊滅の活躍の噂を聞きつけ震え上がってしまった。
それからというもの、蔵光らを見つけては、ひたすら平身低頭で、今では完全に舎弟状態である。
「やあ、おはよう、今日は今から、ギルドに行くんだよ。」
「あっ、そうですか。お気をつけて」
チンピラリーダーは背筋をピーンと伸ばし敬礼した。
「ありがとう。」
蔵光はニッコリとわらう。
裏道を抜けるくらいに、
「ほんま、調子のええやっちゃで。ワイが助けんかったら死んどるとこやからなぁ。」
ゼリーが皮肉たっぷりにぼやく。
「まあ、実際、命が助かっただけでも儲けものとぐらいは思ってるんじゃないか?」
と誠三郎が笑いながら話を合わせる。
「まあ、そんなとこやろ。」
ゼリーがニヤリと笑うと顔がプルンと震えた。
蔵光らが冒険者ギルドタスパ支部に入ると、中は結構込み合っていた。
受付に、受付嬢のアロマがいたので声をかけようとすると、アロマが先に気付いて丁寧な挨拶をしてきた。
「おはようございます。水無月様。」
「ギルドマスターに呼ばれて来たんだけど?」
「あっ、その件ですね、少々お待ちください。」
そう言ってアロマが奥の階段方向へ行こうとするところに蔵光が声をかける。
「今日は結構人が多いね、何かあったの?」
と蔵光が言うと、アロマが答えた。
「水無月様の件ですよ。」
「えっ?」
いきなり、そういう答えが帰ってくるとは思っていなかったので蔵光は一瞬ドキッとした。
「例の盗賊団『蜂の巣』の残党の討伐クエストが公開されたんです。」
「残党?あ~なるほど。」
「何でも、砦跡の捜索で仲間のものと思われる名前が入った資料が見つかったとかで、警備隊からギルドへ応援要請があったそうです。」
そういうとアロマが2階へ上がって行った。
盗賊団『蜂の巣』頭目グリーン・ビーは拠点であったタスパ山の砦跡の他、自分達の身を守るためや、警備隊やギルドの動向を探るため、いくつかの街の中に自分の部下を残していたようで、その資料が砦跡から発見されたため、それを元に残党狩りが始まることになったのである。
「じゃあ、ハスパラのおっさんも張り切っているんじゃないか?」
「確かに。」
蔵光もうなづく。
誠三郎がこう言ったのも、彼等が警備隊からの事情聴取されている合間に、警備隊タスパ支部の隊長であるハスパラから『蜂の巣』にかなり手を焼いたとか、今回の『蜂の巣』の捜査ではかなりやる気を出していると聞いていたからだった。
蔵光らが受付前で待っていると、しばらくしてアロマが2階から降りてきた。
「お待たせしました。さあ、どうぞこちらへ。」
アロマは、蔵光らを、2階ギルドマスターの部屋まで案内し、部屋の扉をコンコンとノックした。
「おう、入ってくれ!」
部屋の中からジアドの声がした。
「失礼します。どうぞ、」
そう言ってアロマがドアを開け、蔵光らを招き入れた。
蔵光達がここへ来るのは3回目だ。
「よく来てくれた。まあ、座ってくれ。」
ジアドが蔵光らにソファーをすすめ、全員が着席したところで、ジアドは早速話を切り出した。
「連絡があったとおり、盗賊団『蜂の巣』討伐の報酬や報償金などの金額が出た、総額で1億2000万マスタだ。」
「いっ、1億2000万マスタ?」
蔵光が驚きで立ち上がった。
「まあまあ、落ち着いて。」
ジアドが蔵光を抑える。
「まあ、色々と盗賊の死体の処理とかで他の冒険者を使ったんで、諸経費が差し引かれてるけどな。そこは了解してくれ。」
「いやぁ、それでも、凄い額ですよ!」
いくら、水無月家のお坊っちゃんと言えども、自分で稼いだ金となるとまた違う。
「あと、タスパとルーケイーストの排水溝の清掃報酬として更に2000万マスタが別途支払わる。」
「えっ、ええ?」
「すまないな、本来ならば、清掃、駆除、魔物討伐と、かなり難しいクエストなんで、もっと支払ってもいいと思うのだが、今回の討伐でかなりの額がそちらに回ってしまったからなぁ。」
「いやいやとんでもないです。ありがとうございます。」
蔵光はジアドに礼を言う。
「まあ、予想通りの凄い額なので、すぐにここで支払うという訳にはいかないので、君達のギルド口座に振り込むことになっている。」
とジアドは報酬の支払い方法を説明した。
ギルド口座とは…
冒険者ギルドに登録した際、同時に作られる口座で、銀行口座のように預金、引き出し、振り込みなどの手続きができ、世界各国ギルドがあればどこででも使用できる。
また、今回のように、受け取り金額が大きい場合等は、その冒険者のギルド口座へ自動振り込みとなり、ギルドの指輪の登録と同じく魔力で管理される。
ちなみに口座を使用した借金、融資等は不可である。
残高照会等はギルドの各支部で照会可能で、上限100万マスタまで引き下ろし可能だ。
「わかりました。」
蔵光がジアドの説明に了解の意を示す。
「ああ、後、説明しておくが、この報償金とかをルーケイーストの街とかに寄付とかしないでもらえないか。」
「えっ?」
蔵光は、不意を突かれたような表情となる。
まさしく、蔵光はこの後、ロッコ達の街に報酬の一部を寄付しようとしていたのだ。
「やはりな…」
ジアドは予想通りというような顔でうなづく。
「どうして?」
「これは、ルーケイーストも含め近隣の街の取り決めでな、寄付を受けた街は必ずその街を統括する領主へ申告しなければいけないこととなっていて、申告しなければ、その関係者は死罪となる。」
「えっ、死罪?」
蔵光は何故というような顔になる。
「そうだ、本来、寄付金は一旦領主へ渡さなければならないこととなっている。」
「そんな馬鹿な?」
誠三郎も呆れている。
「そして、寄付金を受け取った領主は、領地内の施策のためにお金を使うこととなっているのだ。」
「施策って、自分で取り込んでるんと違うんかいな?」
ゼリーも突っ込みを入れる。
「まあ、それはその領地の領主次第だからなんとも言えないが、全部その街に渡されることはない。」
「うーん、参ったな。」
蔵光が眉間にシワを寄せて唸る。
「まあ、今回、君達が寄付をしなくても、『蜂の巣』から回収した金や財宝は対象となる街へ分配返還される予定だ。」
「返還って?」
誠三郎が何かに気づく。
「そう、寄付ではなく、あくまでも被害金品の返還だ。だから、領主へ渡す必要は全くない。」
「なんだ、良かった~。」
蔵光もホッと胸を撫で下ろす。
「それに、その金品は一旦商業ギルドへ預けられ、信用のおける代表者を5名選出のうえ、全員の同意があって初めて引き出し可能となるので、個人的にお金を引き出そうとしても一人だけの一存ではどうにもならないようなシステムになっている。」
「そんなに厳重なのか…」
蔵光らは感心している。
「そういう仕組みなので、返還金等は確実に守られる。」
「で、その5名は誰が選出するんだ?」
誠三郎が尋ねた。
「住民に対する聞き込みや風評など信用性のある人物を商業ギルドと冒険者ギルドが調査して推薦する。」
「なるほど、外郭組織が判定するのか。」
「うむ、調査員は秘密…賄賂を掴まされても困るしな。」
とジアドは付け加えた。
「あと最後に、寄付を禁じている理由だが、もし個人的な寄付をしたとすれば、寄付をされていない街から妬まれて『自分達の街にも寄付をしてくれ。』と言われたり、国等に他の街と格差のないようにして欲しい申し立てをして国へ返還金等の追加請求するような事案もあったりして、トラブルになった事が過去にあったので、個人的な寄付をさせないようにしているのだ。」
「あーなるほど、そういうことだったんだ。わかりました、寄付はやめておきます。」
と蔵光はジアドに答える。
「それがいい、それに、その金は自分達が危険を冒して勝ち取った正当な報酬だから、全て君達のものだ。他人に渡すことはない。」
とジアドが言うと、すかさずゼリーが、
「そやで、あるじ、ロッコには、屋台の串焼き肉くらいをおごってやる程度でエエんやで。」
と言う。
「安ぅ~!」
蔵光が笑いながらゼリーに突っ込みを入れる。
「わっはっはっはっ!」
誠三郎も笑っている。
「じゃあ、そういうことなので、1階の受付で手続きをしてくれ。おーいハーブ!」
とジアドが叫ぶとハーブが部屋に入ってきた。
副ギルドマスターであるハーブは、ジアドと違って色々な業務を任されている。
今回の報酬のことについても手続き関係は大体ハーブが絡んでいる。
「すまんが、彼等の報酬の入金手続きをしてやってくれないか?」
「わかりました。」
ハーブはジアドに命じられると、蔵光らを連れて再び階下へ降りていった。
ハーブは受付で、蔵光らが冒険者登録をした時に作ったミスリル製の指輪を二人から受け取り、その指輪に入金情報を入力した。
「これで完了です。出勤したいときは、ギルドの窓口で申し出てください。」
「ありがとう。」
蔵光達は指輪を受けとると、当面の生活費となる宿代や食事代等をギルド内の現金取り扱い所で引き落とした後、ギルドを後にした。
ストーリーの下書きに時間がかかってるので、投稿にも時間がかかってます。
ゼ「いつものことやん。」
………とりあえず、ちょっとずつでも話は進めていきます。




