第21話 ギルマス部屋再び
後日談まだ、もう少し続きそうです。
第21話 ~ギルマス部屋再び~
次の日の朝、蔵光達は、冒険者ギルドタスパ支部のギルマス部屋にいた。
何故かというと、もちろん、盗賊団「蜂の巣」の討伐報告である。
昨日は、調査隊の関係で現場に行っていたジアドは忙しくて、彼らから報告を受けられなかったため、本日となった。
「君達って、何なの?すごくない?」
冒険者ギルドタスパ支部ギルドマスター、ジアド・アロバスタが語尾の発音が微妙な言い方で蔵光らの偉業を讃える。
「いやあ、まさか、害獣退治で出ていったはずが、いつの間にか巨大な盗賊団を壊滅して帰ってくるんだから、何とも豪儀だねぇ。」
「ありがとうございます。でも、まだタスパ山のウサギ狩りクエストが残っていますんで…」
と蔵光が受注しているクエストが未了の状態であるのを気にしていた。
「何を言ってるんだ!君達は、あの誰も出来ないと言われていたA級指定の盗賊団「蜂の巣」を討伐したんだぞ!我々が何度奴等に煮え湯を飲まされたことか!それに、最初に受けていた害獣駆除のクエストなんだが、あれも指定クエストの中では超難関クエストとして入れていたもので、誰も成功したことがないクエストでな、まあ、疫病とか、盗賊とかが関わっているとは誰も知らなかったがな。だから、F級の指定クエストはクリアということで、ランクアップ確定だ!ウサギなんぞ狩らなくたって、君達なら俺様がC級だろうが、B級だろうが、いくらでもあげてやるぞ!」
とジアドは興奮して叫ぶ。
「はあ、いや、しかし…」
蔵光はとりあえずミスリル登録なのでC級でお願いしたいと申し入れた。
蔵光はこういうところは、ちょっと固いところがある。
「ふーん、君は欲がないな。」
とジアドがあきれていると、横から副ギルドマスターのハーブが口を挟む。
「ジアド様、いくらクエストの成果が良くてもギルドの規則もありますし、いきなり昇級すれば、彼等も他の冒険者から悪目立ちしますので…」
「うーんそう言われたら弱いな~。」
ジアドも頭をかく。
とりあえず、蔵光達はC級に昇級することとなり、超難関クエストをクリアしているため、ギルドの規約に基づき、様子を見て順次昇級させることとなった。
そして、蔵光らは今回の盗賊団「蜂の巣」討伐に至る顛末や、盗賊団がガルガード帝国から追放された元上位魔法使いや魔法騎士などを中心にして構成されていたこと、加えてルーケイーストの他にも彼等の仕業により、同じくスラム化させられた街があることなどを報告した。
それはどれも冒険者ギルドとしては初耳であり驚くべき内容であった。
その報告を聞き、ジアドは、
「うーん、まさかルーケイーストがその様な状態であったとは…全く、ギルドマスターとしては恥ずかしい限りだ。」
ジアドはギルドマスターとして、奴等の討伐のため幾度となくパーティーを送り込んだが、ことごとく返り討ちにあい、万策尽きた状態であった。
また、これまでのルーケイーストに悪い印象を与える事件や噂、貧困、疫病などによるスラム化の原因が全て「蜂の巣」のせいであり、また、このような街がまだ他にも多数あることなどの話に衝撃を受けたが、それらのことを全て解決し、盗賊だけでなく、疫病や魔物の害獣等ルーケイーストの問題も解決してしまう等、今回、蔵光達が成した偉業は恐らく今後、同じようなことが起こったとしても本人達以外、誰も解決できないのではないかとさえ思えるほどの内容であった。
「ありがとう、君達のおかげで多くの人々が救われた、君達には本当に感謝している。」
と深々と頭を下げた。
ジアドはギルマスとして、またジアド・アロバスタ個人として彼等に深い感謝の意を表した。
「今回の君達の働きで、我が冒険者ギルドから盗賊の討伐クエストクリアの報酬と特別賞与を渡す予定であり、メトナプトラ国からも今回の働きに対して手配者の討伐に対する賞金及び賞与の贈呈が予定されている。賞金等の額や、贈呈の日取りなど詳しいことは今後順次決定されるので、判り次第連絡するから、しばらくは宿などで待機をしておいてくれ。」
「わかりました。」
ジアドは蔵光達にそう伝えると、警備隊へ立ち寄るとのことで、あわただしく席を立った。
それは、先程、蔵光から聴取した報告内容を警備隊の調査隊と裏付けした後、囚われていた住民からの聴取内容とともに精査、検証、調整したうえ、メトナプトラの首都ヨーグへ報告するためだった。
何故、これほど調査に手間がかかるのかというと、今回の報酬や賞金の額がとんでもない程の高額になると予想されたからであった。
というのも、グリーン・ビーをはじめ、盗賊の構成員一人一人には、個別に懸賞金が設定されており、身元が確定すれば、懸賞金の額が判明するため、300人近い盗賊達の懸賞金の特定には相当時間がかかるものと想定されていた。
また、囚われていた者はルーケイーストの街の住民だけではなく、盗賊団「蜂の巣」が自分達の毒牙にかけていた、その他の街の住民であり、その全てがスラム化させられていた街と判明したことで、それらの街に関連した被害などが調査の結果、グリーン・ビーらに関連した仕業であると確認がとれれば、関連した盗賊の討伐クエストとかがクリア扱いとなり、報酬金額が跳ね上がるという仕組みであった。
なお、囚われていた住民達からの事情聴取の結果、その他の街には「蜂の巣」の息がかかった残党が潜んでいる可能性が浮上していて、当然、その者達の討伐が始まるであろうが、これらについては既に頭を失った烏合の衆であり、現在、クエストが受注可能な冒険者らに、討伐依頼を検討している状態であった。
まあ、その様なことになっているとは蔵光らは全く知らなかった。
その後、蔵光らは、自分達の拠点となっている宿屋「海老の尻尾亭」に戻り、宿屋の一階にある食堂で、早めの昼食を兼ねて、昨日は出来なかった盗賊討伐の祝勝会(?)を開いていた。
食堂はまだ昼前ということで客は比較的少なかった。
カシャーン!
「かんぱーい!」
蔵光達、二人と一匹は、グラスに注がれた飲み物を突き合わした。
蔵光は葡萄ジュース、誠三郎はエール、ゼリーは蔵光特製の魔素水だ。
「プッハァー!やっぱ、主の作ったマソスイは最高やぁ~!」
「ははは、ありがとう、今回はゼリーが一番頑張ったからね。」
と蔵光が、ゼリーを誉める。
「いやいや~もっとほめて~!」
ゼリーが『もっと来い!』というような手振りをする。
「はっはっはっ、確かに、害獣駆除といい、砦内に潜入したことといい、とてもいい活躍だったぞ!」
誠三郎も誉めちぎる。
「ワハハハハー!ワイは無敵やぁ~!主以外には。アハハハハ~!」
とゼリーも魔素水をイッキ飲みして悪のりしている。
「しかし、若もよく、ビーが自分の部屋に残るということが判りましたな?」
誠三郎がテーブルの上の骨付き肉にかぶりつきながら尋ねた。
「あぁ、あれはゼリーからの報告で、あれほど強固な結界魔法を砦に掛けているにも関わらず、さらに自分の身体だけに防御魔法を掛けていることに対して、『あぁ、こいつは小心者だな』とかゼリーが言ってたように『部下も全く信じていないな』と感じたんだ。」
「ほぅ、で?」
「そこで、考えたんだ、『誰も信じていない、ビーはここを逃げても誰かに裏切られ、逃走口や逃走先をバラされることを恐れている、例え、砦の部下が全員殺されても自分だけは絶対に逃げてやると思っている』と。だから、すぐに砦から逃げるよりも、一旦自分の部屋に残って見つからないようにして俺達をやり過ごし、後で隙を見て部屋から逃げるのではないかと、そのためには、その砦に囚われているものなどに変身するなどして部屋に残り、自分の所在を確認に来た者が自分を探しきれずに諦めて帰るのを待つという方法でやり過ごそうとするのではないかと…」
「なるほど、それであの時、若は何かを言いかけてたんですな?」
「そうなんだ。」
「はあ、すごいですな。」
誠三郎は、年齢に似合わぬほどの蔵光の洞察力に驚いていた。
「それで、ゼリーにビーを見張らせていたんだ。」
「なるほど!」
誠三郎がポンと膝を叩く
「それで、アイツの部屋で主がワザと大きな隙を作って見せて、ビーの攻撃を誘ったっちゅー訳や。」
「まあ、事前にゼリーからビーの倒れている位置を教えて貰っていたから、楽だったけど。ただ…」
「ただ?」
「隙を見せても、恐らくビーは俺達をやり過ごすために、襲ってこないと思ってたんだけどな~。これは当てが外れた。」
この時蔵光は、実はビーが、蔵光をガルガード帝国の刺客ではないのかと勘違いし、逃げるためには殺してしまわないと逃げられないと感じ、背中を見せたのが最後のチャンスだと腹を括った末の攻撃であったとは知る由もなかった。
「せやけど、主の短刀の返しやデコピンは最高やったな、アイツの防御魔法かかってる状態やったのに全く無効にするんやから!さすがやわ!」
ゼリーがビーの防御魔法が蔵光に全く効かなかったことをドヤる。
「そういえば、あれはどうして?ああ、なるほど。」
誠三郎が一旦、考えを整理した。
『相手より自分の魔力の差が大きければ、防御魔法が掛かっていても相手の身体に対し魔力等の力を干渉させることができる』
というのがこの世界の摂理であり結論である。
「ところで、若、明日はロッコの母親をルーケイーストまで送って行くんでしたかな?」
「あぁ、その予定だよ。」
「他の街から連れてこられていた者達も事情聴取が終われば警備隊や冒険者ギルドの冒険者が護衛して、元住んでいた街まで送っていくらしいですな。」
「そうなんだ。」
「まあ、何にしてもこれで良かったんとちゃうか?あんな奴等のせいで家族も、生活も奪われてたんやからな。」
「おっ、ゼリー、お前魔物のくせに、人の気持ちが解るのか?」
誠三郎がゼリーの言葉に反応する。
まあ、本来、魔物ならば、人間の生活や家族のことなんかは全く無関係の話になるからだ。
「当たり前や!ワイは今、主のお陰で生きていられるし、まあ、いうならワイと主は家族やからな。以前の森暮らしの時とは違うで!」
「なるほどな。」
さっきから誠三郎のなるほどが多くなってきた。
「それにな、魔物はビーみたいな外道な真似はせん、というか出来んわ。」
「ほお、どうして?」
「森に住む魔物は、知能が低いのもあるけど、人間のように、自分達の同族を虐げたり、快楽のために殺したり、傷つけたりすることはまずしない。凶暴化したりはするが、基本的には本能で生きている野生動物と同じく、生きるため、食うために生き物を殺す。同族間なら、ボスを決めるために争うとかはあるけど、勝負が決まればそれ以上残酷なことはせえへん。」
「うーん、そういうものか?ゼリーも仲間同士で争ってたんじゃないのか?」
蔵光がゼリーを従魔にしたとき、仲間同士争って最後に残ったというのを思いだし尋ねた。
「そうやな、ワイの場合の同族間の争いはボス決めとか、共食いというよりかは、融合とかに近いけどな。ワハハハハ」
「融合ねぇ。」
蔵光と誠三郎は、ゼリーの会話の内容に加えて物の考え方や見方に対する観点が段々と人間に近くなってきていることに違和感を感じていた。
「ゼリー、もしかしてだけど、以前言ってた、飲み込んだ魔法使いの記憶…甦ってきてるんじゃ?」
「えっ?……あ、いや、それはない。」
一瞬、ゼリーの表情に余裕が無くなり、目が泳いだ。
「うーん、なんか怪しい!白状しろ!」
と少し意地悪そうな笑顔で、ゼリーに詰め寄る。
「何もアヤシクないわ!」
「あっはっはっ!」
蔵光はゼリーが小さな両腕を振り上げて叫んだ仕草が可愛い過ぎて思わず笑ってしまった。
蔵光は、『まあ、自分から言いたくなったら言うだろう』と思い、それ以上突っ込んで問い詰めるのをやめた。
蔵光達は、明日の午前中に、今度は警備隊からの事情聴取を受ける予定があるため、祝勝会を早々に切り上げ、その後は自由行動にし、蔵光はゼリーと街の散策を楽しんだ。
ゼ「ドヤ、ドヤ、ドヤ、ドッ、ヤ~!」
ドヤる→どうだ見たか、恐れ入ったかと言わんばかりの態度、またはその表情。
ゼ「そんなんエエねん、それよりドヤった?ワイの活躍?」
めっちゃドヤってたね。
ゼ「…もうエエわ!」




