第19話 盗賊団「蜂の巣」(3)
いよいよ砦決戦。はじまります。
第19話 ~盗賊団「蜂の巣」(3)~
ゼリーは最後に残していた3階の部屋を確認した。
そこを最後にした理由については、各階それぞれ大体10前後の部屋があるのだが、その中でも3階には、大きな部屋で2部屋しかなく、その内ひとつは『会議室』となっていて、もうひとつが『隊長室』となっていたからだった。
そのため、各階の部屋の確認を先に済ませ、最後にグリーン・ビーがいると思われる『隊長室』を確認したところ、そこには予想通り、グリーン・ビーがいた。
ゼリーが部屋の中へ入って行ったとき、ビーは食事中であった。
また、街から拐ってきたと思われる女性が何人か部屋の隅に立たされて、ビーの指示を待っている様子であった。
「おい、酒だ!」
ビーが立っている女性の一人に命じる。
グリーン・ビーは魔法使いといわれるだけに、体格は、他の盗賊達よりは華奢ではあるが、痩せているわけではなく、筋肉質で均整のとれた体つきをしていることから、魔法しか使えないという訳ではなさそうであった。
目付きは鋭く、油断のならない顔付きをしている。
身長はやや高めで180cm以上はあると思われた。
体には何時でも戦えるように、軽量の甲冑を付け、防御魔法を付与していた。
酒を注ぐように指示された女性は、テーブルの上に置かれた酒瓶を持ち、グリーン・ビーの持っているグラスに、ワインと思われる赤紫色の液体を注いでいるが、その手元は小刻みに震えていた。
かなり怯えているようであり、部屋の中は、恐怖のためなのか誰もしゃべらず、シーンとしている。
そこへ部屋のドアをノックする音が聞こえてきた。
女性達は一瞬、ビクッと身体を震わせドアの方を見たが、すぐに目を下へ伏せた。
「ビー様、キベツです。」
と扉の向こうで声がした。
「入れ」
ビーが入室を許可する。
「失礼します。」
こう言って部屋に入ってきた男は体格も大きく、がっしりしていて、目付きは鋭く、ルーケイーストに来ていたリーダー格の男よりも、凄みがあり、体にはビーと同じく甲冑を付け、腰には本人の体に合うような大きめの剣を差していた。
その動作や身なりから、かなりの戦闘能力を秘めていると思われた。
「どうした?」
ビーが、キベツと呼ばれる男に、部屋へ来た理由を聞く。
「実は、ルーケイーストに守り料を取りに行かせた者達の帰りが遅いもので…」
「ふっ、そんなことか、金を受け取った後に、寄り道でもして酒でも飲んでいるのだろう。まあ、守り料を使い込んでいれば只では済ませんがな、ふっふっふっ」
「いかがいたしましょう?」
「案ずるな、放っておけ、ルーケイーストの奴等が我々をどうこうするような力はない。それに、もし奴等がギルドとかを雇ったとしても、あの結界は俺様がちょっと工夫して作り上げた特別製の結界だからな、普通の人間にあれを破って抜けてこれる者はまずいない。まあ、その前にこの砦に人がいると気づけたらの話だがな、この元ガルガード帝国の上位魔法使いの俺様が言うのだ、安心しろ。」
「わかりました。また、何かあるようでしたら報告に参ります。」
とキベツが頭を下げて退室した。
「ああ、わかった。」
ビーはそう言いながら、片手をあげて了解の意を示した。
ゼリーの送ってくる映像を見ながら、誠三郎が、
「あやつ、ガルガード帝国の魔法使いでしたか、なるほど、道理で頭の切れる奴だとは思っていましたが、あとキベツとかいう奴もなかなか、頭が切れそうですな。警戒心や報告の時機とかも、剣などの腕前もかなりのものと思われますが。」
「ビーの次に、蜂の巣で地位があるやつだろうか?これは早くしないと駄目かも。」
蔵光も作戦を考えていた。
「若、どうしますか?」
「うーん、そうだな。ゼリー、砦内の人間に魔法をかけて眠らせてくれないか?」
「ちょー簡単や!でもあの、ビーの奴は無理かな?」
「ん?」
蔵光が怪訝な顔をする。
「あいつ、自分の部下たちを全く信じていないみたいやわ。というんも、自分の身体にだけ、周囲に防御魔法をかけてるからな。」
「ということは?」
「たぶんワイの魔法が効きにくいな。」
「そんなにか?」
「結構強めの魔法かけてるで。効かんことはないと思うけど、種類によったら魔法を跳ね返されるかも知れんからなぁ。」
「ですが若、このまま眠らせないまま飛び込めば、人質を取られる可能性もありますし、騒ぎを聞き付けたビーだけ逃げられるのも、厄介な話ですからな。」
誠三郎は眠らせることに異論はないようであった。
「わかった、じゃあビーを除く、盗賊の一味と囚われている住民全員を眠らせてくれ!その後で俺が結界を破って中に入るから。ゼリーはその後もビーの動向をその部屋で見ていてくれ、たぶん、奴は……うん、それとセイさんは、一階のフロアの盗賊を全員片付けてくれ。俺は他の階層の盗賊の始末とビーの始末をするから。」
「わかりました。」
「わかった!」
こうして、蔵光らの『蜂の巣』討伐が始まった。
『睡眠魔法・夢見る少女』
ゼリーが砦内の人間に睡眠の魔法をかけた、それまで、賑やかであった1階の盗賊どもは、ある者はグラスを持ったまま、ある者は食べ物を口に入れた状態で眠っていた。
街の住民達も全員がその場に倒れて眠っている。
これに驚いたのは、グリーン・ビーであった。
目の前に立っていた女達がバタバタとその場に倒れ寝てしまうのを見て、この砦内の異常に気づいた。
「なっ、何事?まっまさか、これは魔法?いや、まさか、結界には異常はなかったはずだが?」
グリーン・ビーは自分の結界魔法に相当の自信があったみたいで、この状況を目の当たりにしてかなり動揺していた。
そして、まさかの侵入者が姿を消して横にいるとは思っても見なかったようであり、今起こっている状況を把握しようと、魔法で周囲の感知を始めだした。
『やっぱり、こいつには魔法効かんかったで。こいつどないする?殺ってまう?』
ゼリーが蔵光に水蓮花で思念伝達した。
『ちょっとそいつには聞きたいことがあるので、そのままで、』
『わかった。そしたら、ちょっと様子見とくわ。』
『頼んだぞ。』
蔵光はゼリーにビーの監視を任せ、砦内への突入を開始することとした。
「よし、突入だ。」
蔵光はそう言うと、結界を如意棒で破壊し始めた。
ゴリーン!、ゴリーーン!
蔵光が結界の防御面に如意棒を叩き付けた。
普通、結界とは、物理的な攻撃ではまず破壊されないというのが、通例である。
特に、この、ビーが張っている結界は多重結界で、大砲の弾を1000発打ち込んでもびくともしないくらい、頑強なものであったが、その結界に蔵光の攻撃が加えられ、その轟音が、地響きとともに周囲数十kmの範囲に響き渡った。
それをビーが部屋の窓から魔法を使って蔵光を『拡大暗視』していた。
「なっ、何だアイツは?!馬鹿か?魔法結界だぞ、棒で叩いたくらいでは、びくともし?はっ?!」
バリバリバリーン!
一際大きな音が山の中に響き渡り、結界は蔵光の攻撃でガラス細工のように、粉々に破壊された。
本当は一発で破壊できていたが、蔵光の本気は結界だけでなく、砦も破壊してしまうことになるため、何回か軽く叩いてみて、結界だけ破壊できるように力を調節してから破壊していた。そうしないと、下手をすれば砦内に囚われている街の住民まで殺しかねなかったからだった。
「ばっ、馬鹿な、あの結界を…破壊した?」
全ての結界が消滅したのを見て、ビーが石の床へガクリと膝をつく。
蔵光の如意棒は、ギルマス戦で使っていた時のサイズではなく、少しというか、かなり大きい、長さも20m以上あり、太さも野球のバットの太い部分くらいはある。
如意金箍棒は普通の金属製の棒ではない。
伸縮自在のうえ、重さも数gから100tくらいまで変化させることができるという代物で、この時の重さは50t以上はあると思われる。
(まぁこの重さを操れるのは蔵光くらいしかいないと思うけど…)
そして、如意棒にはもう1つの特性として『破魔特性』というものがあり、今回のような魔法結界も砕いてしまうという威力を持っていたのだった。
盗賊どもはほぼ全員に近い人間が1階にいるという状況であった。
地下1階は食糧庫や武器庫で、地下2階は牢屋となっていた。
そこには残りの住民が入れられていたり、その見張りの盗賊達もいたが、それらの者たちも眠らされていた。
ここの建物に2階はなく、1階の吹き抜け部分と砦の防御壁へ移動する連絡通路になっていた。
4階から10階は、元々兵士のための休憩室となっていて、今は盗賊どもの居室となっているようで、今は誰もいない状況であった。
ゼリーが送信してきていた画像により、砦内の状況は既に把握済みであり、迷うことなく蔵光は地下2階にある牢屋へ進む。そして、まずはこの牢屋を見張っている者共を始末する。
元々、砦は対魔物対策として作られていたが、牢屋自体も魔物用というわけではなく、人間用として作られていた。
なので以前は刑務所的なものとして使用されていたのではないかと思われ、部屋の数は全部で10室あり、一部屋に5人くらいは入れそうであった。
牢屋には鍵が掛かっていたが、これも瞬時に破壊して、すぐに3階へ向かう。
1階のフロアでは誠三郎が大量の盗賊を始末していた。
全て眠っているが、慎重に、囚われている人と盗賊を確認しながら、首を跳ねていく。
蔵光はそれを横目で見ながら、
「セイさん、大丈夫?」
「はっ、ありがとうございます、若もお気をつけて。」
誠三郎はそう蔵光に言ったが、全然心配はしていなかった。
彼は、そう『水無月一族』なのだから…
そう思いながら、風のように階段を上がっていく蔵光を見送っていた、その時であった。
誠三郎の背後から何者かが襲ってきた。
ギュィィイイイーーーン!!
誠三郎が握っていた刀で攻撃を受ける。
それは、キベツだった。
キベツが誠三郎に剣で切りかかっていたのを誠三郎が止めたのだった。
キベツが誠三郎に誰何する。
「何者か?」
「ギルドの冒険者だよ。」
誠三郎はそう言いながら、キベツを押し返す。
「お主、なかなかやるな。」
誠三郎はニヤリとする。
眠っている者共を殺すのは、誠三郎としては簡単というよりか耐え難い作業であり、剣客としてはこのように、できるならば相手と剣を交えて戦いたいと思っていたからだ。
キベツは元ガルガード帝国の魔法騎士であった。
訳あってビーとともに帝国を追放され、盗賊に身をやつしていたが、帝国内でもかなりの腕前と言われていた猛者であった。
彼は魔法耐性があり、ゼリーの睡眠魔法に耐えれたのだった。
恐らく上位の『昏睡魔法』とかであれば、効き目があったであろうが、これは、かけられると数日間は目覚めないため、ゼリーは使わなかったのだ。
キベツも誠三郎と向かいあい、誠三郎の実力を肌で感じる。
「これほどの手練れ、あのタスパのギルドにはいなかったと記憶しているが…」
「はっはっはっ、それはそうだろう。我々はギルドに入りたての、初心冒険者だからな。」
「そういうことか。」
と言いながら、キベツはスキル『駿足』『怪力Lv2』付与魔法『高速化』『鋭利』『硬質化』
を瞬時に使用して、誠三郎に切りつける。
キィン!
誠三郎がキベツの剣を弾きながら呟く。
「惜しいな、その腕があれば、こんな稼業に手を出さなくても良かっただろうに…」
「ほざくな!我々は帝国に裏切られ、国からも追われ、浪々の身となった。国から手配をかけられた俺達に、そんな余裕もなく、できるといえばこんな盗賊稼業!」
キベツは誠三郎を攻撃しながら身の上を語るが、自分達の置かれた境遇に良い感情を持っていないことがわかる。
「だかな、この商売もなかなか面白いぞ!領主どもの上前を跳ねて、街の奴等から搾り取る。歯向かう奴は殺す、寝たいときに寝て食いたいときに食う。帝国にいた時は、贅沢もできなかったからなぁ!はっはっはっ」
しかし、長い盗賊生活で騎士としての矜持も忘れてしまったようであった。
「残念だ。」
誠三郎がキベツの言葉に失望したのか、能面のような無表情となる。
ギャィン、ザッ!
その直後、誠三郎の刀がキベツの剣を跳ね、キベツを袈裟斬りに切り裂いた。
グハッ!
キベツは血飛沫をあげてその場に倒れ伏した。
「ありがと……」
キベツは誠三郎に最後の言葉を伝えようとして事切れた。
「………」
しばらく、誠三郎は倒れているキベツを悲しい目で見下ろしていたが、すぐに残りの盗賊の討伐を再開した。
ゼ「やっぱり主はめちゃくちゃやな。」
段々とここのコメント欄がストーリーの余談コーナーとか、おまけコーナーみたいになってきてるんですけど?
ゼ「気にすんなや。」
いやいやいやいや
ゼ「大丈夫やって、おまけコーナー見たがる言うほど、読者おらへんし、気にするほど人気もないし…」
はっ?
ゼ「あっ…」