第18話 盗賊団「蜂の巣」(2)
ようやく、砦に潜入です。
第18話 ~盗賊団「蜂の巣」(2)~
蔵光達は盗賊達が乗って来ていた馬に乗り、盗賊団「蜂の巣」が隠れているという、タスパ山へ向けて駆けていた。
なお、街の外で待機していた盗賊の仲間については約30人くらいいたが、蔵光の水魔神拳のひとつで、高圧で無数の水滴がマシンガンのごとく対象に一斉掃射される『滴』という魔法により、文字通り『蜂の巣』にされ、全滅していた。
蔵光は、さすがに最初こそ怒り心頭といったところであったが、盗賊どもの首を跳ねる頃には冷静さを取り戻していた。
蔵光は10歳であるが、魔物の討伐だけではなく、もう既に人を殺すことに戸惑いはない。
簡単に人の命を奪う行為に走る蔵光に違和感を覚える者もいただろうが、蔵光には『裁定者』というスキルが水神ミズハノメから与えられているからだった。
蔵光は、父や祖父らと共に、ジパング王国という国で生まれ育っているが、元々はドリタニア王国という国の武装部隊のうち、暗部を受け持つ一族の末裔であった。
暗部とは、諜報や暗殺といった影で活動する部隊であり、決して表舞台には出ない組織で、今でこそ武術指南役とか老中等の表舞台にいるが、その根底は変わっておらず、その仕事は従者の八鬼家や王鎧の直轄部隊『忍』に引き継がれている。
その関係もあり、水無月家の当主となるものは、全て幼少の頃より人の「死」というものに身近に置かれた。
罪人の処刑場所、暗殺現場などはもちろん、人の解剖や戦場なども経験させられ、戦場などは何日もその中を歩かされる。
だが発狂はしない。
スキルの影響で精神崩壊を押さえられるのだ。
処刑や暗殺についてだが、ただ、人を殺すところだけを見せるのではなく、対象者の犯している悪事や、その卑劣さ、凶悪さ、残忍さ、冷酷さ等、人間のあらゆる悪意を見せてから、『悪』とはどういうものかを認識させてからその者の命を奪う。
『裁定者』のスキルはそうやって訓練される。
ただ、戦場は双方の理念や思想によって、自分達が正しいと思って戦っているため『悪』の判断が厳しいところがあるが、その補助的なスキルとして『観察眼』というスキルも与えられている。
蔵光もそうであるが、父・航夜、祖父・王鎧らも幼少の頃は同じ経験をさせられているのは言うまでもない。
そして、最終的には自分の手で人を殺す経験をさせられることとなる。
蔵光の初めての人を殺したのは8歳くらいの時であった。
相手は今回と同じような盗賊の討伐であった。
蔵光が祖父に連れられて、兄弟国のドリタニア王国へ行ったときの話であるが、ドリタニアからの依頼で、ドリタニア中を荒らし回っている非常に凶悪な盗賊を討伐する依頼を受けたのだった。
いくら、蔵光に裁定者のスキルがあってもまだ10歳にも満たない子供である。
追加効果に精神異常無効のスキルがあったが、まだ十分に体に馴染んでいなかったためか、何も影響はないということはなかった。
蔵光はしばらく、食事も喉を通らない状態となったが、あることがきっかけで気持ちを取り戻し、その後はみるみるうちに裁定者のスキルを自分のものとして扱うことができるようになっていた。
◎『裁定者』スキル
○人の善悪、軽重を判断し、人を見極め、処分を下す。(補助スキル『観察眼』)
○追加効果…精神異常無効
○絶対正義…人を殺すことに対し、躊躇しない。→悪人と認めれば殺してしまう。(魔鉱機「ラーの瞳」と同じ効果)
蔵光達の乗っていた馬は、真っ暗な山道のなかでも帰る場所を覚えているためか、タスパ山の方向へ頭を向けると自然に砦跡へ向けて走って行った。
「若!まもなく砦跡みたいですぞ!」
誠三郎が指を指す方向に、大きな砦が見える。
砦までは、まだ距離にして大体3㎞以上はあると思われるが、かなり大きい砦のため、遠くからでも確認できる。
タスパ山の奥の谷あいに沿うようにして建てられたその砦は元々は北からの魔物などの侵入を防ぐために造られたものであったらしいが、さらに、その奥に大きな防壁ができたことにより、不要となったもので、壊すのにもお金がかかるという理由で放置されていたのだった。
蔵光が、生命体感知を使って砦内の状況を探る。
「結界が張られている。」
蔵光が砦を砦を見ながら言う。
生命体感知は、結界の術者にバレないように魔力を抑えて行っている。
魔力を上げれば中の様子は分かるであろうが、術者にも感知の魔力がバレるため魔力は上げることはできない。
山の中腹で高台になっている場所から砦を見たが、辺りと同じで真っ暗な状態であったが、
「それに魔法で、外へ明かりが漏れて見えないようにしている。」
この状態では中の様子が全くわからないため、手が出しにくい状況となった。
中にいる盗賊の人数や囚われている住民の数や場所が把握できないとなると、無闇やたらな攻撃が出来ない。
また、下手をすれば罠にかかることも考えられるからだ。
「それは厄介ですな。」
誠三郎はそれを聞いて、口をへの字に曲げて息を吐く。
「どないするんや、主?」
ゼリーも蔵光の作戦待ちの状態である。
「策もなく結界を直接破れば、直ぐに気づかれてしまうから、何人か倒せたとしても肝心のグリーン・ビーに逃げられたり、住民を殺されてしまっては元も子もない。」
誠三郎も状況把握はできている様子である。
このような結界を張れるくらいの魔法使いであるということであれば、油断が出来ない相手であり、これまでの悪事の傾向から只の力任せの盗賊ではない。
「これだけのことをする盗賊団だ、頭目のグリーン・ビーも頭がかなり切れる奴だろう…恐らくは逃げ道や抜け道を確保しているだろうな。」
と誠三郎が続けた。
しばらく蔵光は考えを巡らした末、
「ゼリー、結界の中に気付かれずに侵入できるか?」
とゼリーに聞いた。
「はっ?そんな簡単なこと、オチャノコサイサイや!」
ゼリーは腕を組んで胸を張る。
「じゃあ、砦の中に潜入して中の様子を見て欲しいんだ。」
「えっ、潜入捜査?うーやるやる!まかしとき!」
ゼリーはこの手の仕事が大好きである。
二つ返事で了解した。
何度も言うが、ゼリーは以前飲み込んだ魔法使いの知識から魔法が使えるようになった、特殊なスライムネコである。
なので蔵光ほどの強力な魔法を使う事はないが、色々な魔法を知っているため、困ったときは大体『ゼリー』なのだ。
それに、ゼリーもこのような困った人や状況を見るのが好きであるのと同時に、それを自分の力で解決して、解決出来なかった相手に対し優越感に浸るのが大好きなのだ。(表向きは性格悪ぅー!)
なので、厄介事や困ったことがあると嬉しくてしょうがないのだ。
だが、逆に考えると困った人を見たら放っておけない性格とも言えるが…考え過ぎか…
とにかく、ゼリーが切り込み隊長として砦内に入ることとなった。
蔵光達は、砦の近くまで来ると、馬を近くの森の中に止めて、途中から歩くこととした。
馬の足音を聞かれて感づかれても困るからだ。
そして、蔵光達は、結界の張られている境界くらいまで砦跡に近付いた頃、ゼリーが単独となり砦の門に近づいた。
砦の門の前付近は、比較的広めで平らな場所となっていて、街からの荷物の搬入などが可能な場所がいるためであろう。
門の外側周辺には人影は見られない。
恐らくは砦跡の周囲を結界魔法が包み込んでいることから安心しているのであろう。
『結界透過』
ゼリーが結界の手前で、呪文を唱えると、ゼリーの体の周りに魔力の防御膜みたいなものが現れた。
普通であれば、結界に触れたり、通り抜けようとしたりすれば、その者を弾き飛ばすか、毒や麻痺等の効果を与えるなどの追加効果が付与されていたりして、他者の侵入を拒絶するため、基本的には結界の中に入ることはできないのだが、この『結界透過』魔法を使用すれば、結界に何ら影響を与えず、また感知すらさせずに通過することができるのだ。
ゼリーは結界の表面に触れたが、何ら異常もなく、そのまま結界を通り抜け、結界内に入り込んでいった。
門の前には見張りの者はおらず、結界を抜けた影響からか、ようやく門扉の向こう側に何人かの気配が感じ取れた。
ゼリーは結界を抜けた後、身体を透明化し、少し開いていた砦の門を通り、門番をしている盗賊らの横をすり抜け、砦の建物内に潜入していった。
まずは、中の状況の把握だ。
盗賊団の人数の把握や、街から連れてこられた住人が何人、この砦内にいるのか等の他、頭目のグリーン・ビーの所在など、情報はできるだけ多いほうが良い。
そのため、ゼリーは害獣駆除の時に使用した、『水蓮花』を使用して蔵光と連絡を取り合っていた。
この魔法のいいところはゼリーの体の一部が有線状態のため、無線状態と違って、魔力感知がされにくいというメリットがあった。
ゼリーが透明化した体で、砦内を進む。
砦内は、かなり老朽化しているが躯体の大半が大きくて硬い岩を切り出して造られているため、さすがは砦跡と言うべきか、構造はしっかりしている。
砦は10階建てくらいの高さがある建物部分と、それを囲むような形で防御壁部分が連結された建造物で、防御壁はタスパ山のすそや、その下を流れる谷川に沿って建造されており、川の対岸から魔物等に侵入されないように造られていた。
また、建物部分の一階には、大きな木製の出入口扉が設けられ、中に入ると正面には、天井が大きく抜けた巨大なフロアがあり、そこに、大きめのテーブルが大食堂のように数多く置かれ、大体200人以上の盗賊と思われる男達がガヤガヤと酒盛りをしていた。
また、その中には、首に金属製の首輪と、足に錘のついた鎖が取り付けられた男女が混じっており、そのうち女性は盗賊達の食事の用意や酒の相手をさせられ、男の方はというと、重い荷物を運ばされたり、糞便の処理や掃除、雑用などをさせられていたが、どちらも大した抵抗もできず、簡単には逃走できないような状態となっていた。
恐らく、双方とも街から連れてこられた者達であろうが、それらの中には動きが悪い等と因縁をつけられ、殴られたり、蹴られたりする者もおり、盗賊達から奴隷のようにこき使われていた。
建物内は後付けであろうか、多くの照明(魔導具)が取り付けられ、夜中であるにも関わらず、かなり明るかったが、首輪に繋がれた彼らの表情は暗く、ルーケイーストの住民らと同じく着衣はボロボロで痩せこけていた。
ほぼ全員が日常的に暴力を受けているのであろうか、顔や体には大や小の生傷がいくつも見られた。
「これは、ひどいですな。」
誠三郎はゼリーから送られてくる、プルプルしたゼリーの体の一部で作られたモニター画面に映し出される砦内の状況を見て唸る。
ゼリーが砦内の奥へ進み、全ての部屋を次々に確認していく。
夏場のためか、一階の出入口扉を含めほとんどの部屋が開け放たれていたため、比較的自由に部屋を出入りできた
ゼリーは『透明化』の他、念のため、
『気配遮断』
という魔法も追加していたが、全員、結界があるためか、安心しきっている様子であり、気付く様子は皆無に近かった。
ゼ「どや?ワイ、大活躍やろ?」
ほんまや。すごいな。
ゼ「もっと、誉めてもええねんで。」
すごいすごい。
ゼ「なんか、違うし。」
すごいすごいすごいすごいすごいすごいすごい…
ゼ「もうエエわ…」