第164話 顛末2
とりあえず今回で蔵光の冒険は一応終了です。
第164話 顛末2
【ヴェネシア王国の事】
何とか、無事にウィルドネス王を救出したワイルドバンド達は、王都に戻っていた。
城内ではワイルド達が脱獄したと大騒ぎになっていたが、ウィルドネスが臣下の者達に説明し混乱を鎮めた。
また、国王が倒れたという件については、これについてはウィルドネスが国民を集め、事実は邪悪の神ガロヤスミカンダがこの国に魔海嘯を起こして国を滅ぼそうとしていたことを明かす。
そして、それら国の危機を救ったのが、ワイルドバンド達であり、ワイルドバンド達が、勇者サウザンドラの血を引くヘルメス達と共に押し寄せてくる『魔海嘯』に敢然と立ち向かい、全ての魔物や絶対悪であるガロヤスミカンダを倒したと、ややというかかなり事実を曲げて説明したのであった。
それにより、ワイルドバンド達の人気はうなぎ登りとなり、逆にワイルドバンド達を拘束し、国を我が物としようとしていた、フォルガイムスとシャークライドの二人は、こんな国の一大事にも関わらず跡目争いをして、国を滅亡に追い込もうとしたと国民はもとより、他の貴族連中からも追及され、次期国王などと二度と口に出来ないような状態となってしまった。
当然ながら、貴族であるヘルメスも、今回の功績に加え、エイダーの地道な広報活動によりメトナプトラでの活躍が大衆に周知されることとなり、勇者サウザンドラの再来かと噂されるほどの国民的人気貴族となっていた。
ワイルドバンドに付いていたデビッドとディノの二人も功績が国王に認められ、父親のバジルスと同じ階級の爵位が与えられることとなり、ヘルメスは女性のため爵位ではなく、名誉職としてヴェネシア王国聖騎士団長【極】の肩書きを賜った。
なお、この職についてはヘルメスが冒険者という立場でもあるため、国の危機に際して協力するということ以外は、国の仕事には就かなくても良いというお墨付きをもらっていた。
あと、今回の『魔海嘯』を防いだ功績についてのギルドの報酬は冒険者である蔵光達に支払われることとなるのであったが、その大半を水無月一族で討伐してしまったため、プラチナドラゴンズへはガロヤスミカンダ撃退の分及びゼリーの死霊討伐分の支払いとなったが、そのうちガロヤスミカンダ討伐に対しては、急に値段がつけられないためしばらくはヴェネシア王国で検討の後支払われるとの事であった。
ちなみに水無月一族で倒した分についても桁外れの報酬額となるため、これを支払えば国の財政が傾くのではないかとか、『討伐報酬の魔海嘯』とさえ言われたので、これについても検討事項となった。
【温泉街のその後】
ゼリーの監修による温泉街建設はその後も、着々と進んでいた。
建物もドンドン仕上がり、街に繋がる道路についても、主要な街には全て道路が繋がっていた。
温泉街の宿泊所や土産物店についても、結構な数が出来ていて、ジョリアの元住民やフォドンの住民で入植希望者がそこへ入ることになり、かなりの人間がこちらに移住することとなっていた。
街の名前は洞窟から取って、『ギルレアン』となった。
先日まで露天状態であった作りかけの温泉の上には既に建物が建ち、貧相なパーテーションではなくなっていた。
まあ、所によっては露天温泉となっているところもあるが…
ヘルメス達の中でも、人事的な問題というか、色々と人の異動事があった。
というのも、ギルガもそうであったが、マッソルもその一人であった。
ここギルレアンの温泉街ではマッソルの能力が開花した。
元々、ネーミングセンスがあったマッソルは、何が人に受け入れられるのか、人気が出るのかという事に対して敏感に感じ取れる非常に高いセンスと言うかスキルを持っていた。
そのため、温泉宿の建築構造やまた、周辺の風景との調和を基本とした設計など、ゼリーやエージの指導の下、教養を受け、ドンドン吸収して確実に自分のものとした。
そして、それらノウハウを駆使したスーパー温泉宿『べれり庵』をオープンする。
ここは唯一の露天温泉がある宿として大人気となる。
まあ、他にも魔導バスにも装備されていたようなゼリープロデュースの秘策が随所に取り入れられているのも人気の秘密であった。
ちなみに、ここは、クランズ『プラチナドラゴンズ』の拠点のひとつとなり、マッソルは宿主としてここを管理することとなった。
「マッソル、本当にここの宿主でいいの?」
ヴィスコが『べれり庵』の正面玄関から入って直ぐのところにある客用の待ち合い場所に置かれたソファーに座りながらマッソルに尋ねる。
ヴィスコとマッソルは、蔵光達とパーティーを組むまでは、一緒にクエストをこなしてきた間柄である。
冒険者から足を洗った訳ではないのだが、ここで働く様になれば、今まで通りに冒険者として働く事はまずないだろう。
「ヴィスコ、心配してくれているんだろうが、大丈夫だよ。元々、俺には冒険者なんて仕事は向いてなかったんだから。なんせ、スキルと言うか職業も『こん棒使い』って意味不明な職業だったし、ここのクランズに入れただけでも有りがたいと思ってるんだよ。」
「そうなんだ。」
ヴィスコも納得する。
「まあ、ここの仕事も開店して間無しだから、まだまだやらなければならない事が山積みだし、不安になっている暇がないよ。ま、八鬼さんから手伝ってくれる人を見つけてもらって助かってるんだけどな。」
とチラリと奥の受付を見る。
そこには、スプレイド領にいた、誠三郎の元配下である『雷鳴』と『稲妻』の二人がいた。
しばらくはここで働くらしい。
「ヴィスコはどうするんだい?」
「うーん、このまま引き続きゼリーちゃん師匠に魔法を教えてもらうつもりなんだけど…」
「だけど?」
「チョッコ様の生まれ変わりだと思っていたのが、ちょっと違ってたので、これからどういう風に付き合っていけばいいのかなと思ったりもして…」
「うーん、別にそこまで気にする必要は無いのかなと思うけどなあ…」
「いやいや、チョッコ様本人だと思ってたのが、別の人だったと言うのと一緒なんだから!そりゃ気にするよ!」
「なるほどなあ、じゃあチョッコ様の弟子の弟子ということでいったらどうかな?」
「弟子の弟子?うーんそれ微妙かも。元はチョッコ様なんだから…それも何だかなー」
「えー、ヴィスコって結構面倒臭い性格なんだな。今さらだけど…」
マッソルが呆れていると、当のゼリーがやって来た。
「誰や?どっかに面倒臭い話があるんか?」
「あ、ゼリーちゃん師匠!今度は氷魔法の氷を巨大にする方法を教えて下さーい!」
ヴィスコはゼリーを見ると、ゼリーの言葉もそっちのけで、魔法のレクチャーをしてもらおうと本人の手を引いて、玄関から『べれり庵』を出ていった。
それを見ながらマッソルは、
「ホント、得な性格してるよな、ヴィスコって。」
と言いながら呆れて笑っていた。
【今後のプラチナドラゴンズの事】
当然ながら、ヘルメスを筆頭とするクランズ『プラチナドラゴンズ』は今後も継続する予定である。
今回の皆の活躍により冒険者ランクが上がることとなった。
王都の冒険者ギルドノワイヤ支部で、ヘルメス達のうちヘルメス、蔵光が特進でSS級、誠三郎、ザビエラがS級、ギルガがA級となった。
ちなみにヴィスコ、トンキ、マッソル、ヒダカ、オルビアは現状維持となったが、まあ、それも時間のうちで、すぐに上がると思われた。
ゼリーは従魔なのでランクアップはない。
その関係でヘルメスは、しばらくヴェレリアント領と王都の往復の連続となったが、ゼリーの転位魔法のおかげで移動には事なきを得ていた。
ギルガとマッソルは前述の通り、龍の墓場行きと温泉宿の宿主としてしばらくは、プラチナドラゴンズを離れる事になる。
他のメンバーも何かあるかと思われたが、何もなかった。
ヘルメスはクランズのリーダーなので当然、引き続き冒険者をする事となる。
蔵光も同じだ。
だが、今回の旅で色々と経験し、少し成長した。
とてつもない力があっても、それだけでは、どうにも出来ないことがあると知った。
誠三郎は今回の旅で、まさかのパワーアップに気を良くしていたし、ヒダカという最強の部下も手に入れた。
当のヒダカもとりあえず、スプレイドの経過観察を終えて合流することとなった。
後で気付いた事だが、ザビエラについては負の魔素が必要ではなくなっていた。
恐らくは、勇者覚醒の影響だと思われ、人間と同じ様に太陽の下で普通に生活が送れるようになっていた。
トンキだが、彼についてもザビエラと同じ現象が起きていた。
負の魔素には相変わらず耐性があるが、負の魔素の供給が必要なくなっていた。
ゼリー曰く、ザビエラの『聖神力』の影響ではないかと言う事であった。
確かに、『聖神力』は濃い負の魔素、つまり『悪魔素』をも打ち消す力があるので、それも有り得るだろうと言うことになった。130
ヴィスコは相変わらず『世界一の魔法使い』を目指し頑張っている。
オルビアは、色々な事が周りで起きていても、いつも部屋のどこかで静かに佇んでいた。
こうなることを知っているかのように…
彼等、彼女達もこのまま蔵光に付いていく意思を示す。
新たな冒険に向けて。
約半年間、お付き合いしてくれました読者の方には大変ありがとうございました。
一応、蔵光の話は第一部終了と相成りました。
また、次回作を出すまで、暫しの別れ、さようならでございます。
(´;ω;`)
第二部は出るのか?それは謎です。