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水無月蔵光の冒険譚  作者: 銀龍院 鈴星
第六章 絶対悪との対決
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第162話 戦いの果て

いよいよ決着が着きます。

第162話 戦いの果て

少し前、ちょうど、王鎧と航夜が水月の指示で、別れた直後の事である。

蔵光と水月は、水覇がガロヤスミカンダに精神を支配されていることに気付き、高速思考で作戦の組み立て直しを始めていた。


水覇は呪いの期間中、精神と肉体を分離され、それぞれ別の亜空間に閉じ込められていたため、その間は魔力を奪われ、力さえも奪われていた。117

当然ながら、魔法は元より、全く体を使うことすら出来なかった。


そして、長い封印の間に水覇の精神はボロボロになっていた。

だが、それでも自分の犯した罪は十分に償ったとは言い切れない。

300年が経とうとも、大虐殺した罪は消えない。


それに、一番に許しを乞わなければならない者がいた。

唯一、彼の心の灯火であったチョッコ・クリムである。

300年前、怒りに我を忘れた水覇は、彼女に何も告げず『カキノタ村』を飛び出し、その挙げ句、魔族を大虐殺するという余りにも自分勝手で理不尽な行動をしてしまい、水神ミズハノメに幽閉されてしまった。


一言彼女に謝りたい。


そこには自分の愛する妻に一目会いたいと願う気持ちもあったが、時は既に300年が経過し、そこに愛しい人はいないとわかっていた。

謝る事さえ許されない。

そんな世界に水覇は未練はなかった。

もう、いつ死んでもいいとさえ思っていた。


その心の隙間をガロヤスミカンダに狙われた。


ガロヤスミカンダは、300年前のあの日、水覇が水神ミズハノメに封印され、亜空間のひとつである精神世界に精神を封じられている事を知った。

この時は、ガロヤ自身が次の自分の化身となる依り代を探していた頃であり、水覇の精神の側に潜みながら300年後の封印解除の機会を虎視眈々と狙っていたのだ。

精神が肉体に戻るとき、その精神に一緒にくっついて彼の肉体に宿った。

この時、水覇から抵抗されるかと思っていたが、全くと言っていい程抵抗なく、肉体と融合した。

水覇の精神はそれほどまでに朽ちていた。

それまでウィルドネスに入っていたのはヘルメスら勇者が、自分の存在をどこまで追跡が出来るかどうか試すためでもあり、ある程度追跡出来るのであれば、『魔海嘯』を発生させた現場に勇者をぶつけてやろうと考えていたのだった。

案の定、彼等は自分の存在を追ってヴェネシア城までやって来た。

彼等にようやく『魔海嘯』の恐ろしさを味あわせる時が来たのだと悟る。


黒龍の利用は、前回の復活の時にもやっていたが、今回は精神を操る事もなく、ラドラ達が積極的に自分の配下に加わってきたので、力を与えそのまま利用することにした。

『魔海嘯』は元々ガロヤスミカンダの計画であり、300年前は化身の依り代を探す事と同時にバゾニアルアジカンを隠密裏に動かし、実験的に魔族を利用してメトナプトラで発生させようとしていた。

だが、この時は完全復活したわけでもなく、力が足らないまま水覇に止められ、苦い思いをさせられていた。

また、約200年前の復活も適当な依り代がおらず、中途半端にヒドラ任せにしてしまい、サウザンドラにしてやられた。135 136

そのような事から、今度こそは絶対に成功させようと目論んでいたのだ。


だが、懸念材料があった。

それはモグルとタイジャが殺されている事を途中で知ったことだ。

本人や彼等の配下の者達から直接的な連絡はなかった。

だが、ガロヤスミカンダが彼等に少しだけだが自分の力を分け与えていたことで、彼等の死亡がその力を失うことにより、その死がわかったというものだった。

誰かはわからないが黒龍を死に追いやる程の実力を持った存在が自分に近付いてきていると感じた。

推測であるが、それが可能であるのは水無月一族くらいしか思い当たらなかった。

そのため、ガロヤスミカンダは『魔海嘯計画』の実行を急いだのだった。

俗に言う『虫の知らせ』というようなものだろうか。


それだけに、今回は、『魔海嘯』を発生させる日や場所は誰にも漏らさず、自分が直前に決めて実行したはずなのだが、それすらも何故か、彼等にバレていた。

あれだけ掻き集めた魔物達を一瞬にして水無月一族らの手で殺されてしまった。


『また奴等か…』


ガロヤスミカンダの怒りが頂点に達した。


これまでも事如く自分の計画を壊してきた勇者達、それと一緒に邪魔をし続けてきた水無月一族に対する復讐心にガロヤスミカンダは燃えていた。


必ず殺してやると…

そのために、姿を現したのだ。


何故、出てきたのか、それは、水無月一族という最強の肉体を手に入れたからであった。

水覇の精神が肉体に戻ると同時に、水覇がミズハノメから奪われていた『魔力』と『超剛力』は、元に戻った。

と言うよりも、元々、水覇は精神と肉体が分離されていただけであり、当時の『魔力』と『力』が備わったままの肉体に精神が元に帰ってきただけというだけであった。


肉体に一度与えたものは神といえども、理由が無ければ中々奪えないものであり、今回は水覇がミズハノメの呪いという罰を受け終わり、一応の処分が終了しているということもあって、彼の肉体から『魔力』と『超剛力』を奪う理由もないため、取り上げることが出来なかった。

それにガロヤスミカンダが肉体を手に入れたとき、その魔力や剛力をミズハノメから奪われることを防ぐための防御策をガロヤスミカンダが講じていたことも、奪えなかった理由となっていた。


精神を支配するときに、ガロヤスミカンダはその者の記憶や知識も手に入れる。

当然ながら水魔神拳も彼に習得されてしまった。

水無月一族最強と言われた男の力は半端なかった。


蔵光と水月の攻撃を難なく(かわ)し、さらにそこから反撃に転じる。

水覇は蔵光より魔力値が高いためか、蔵光の魔法攻撃はあまり通じていない様子で、相手に干渉出来ていないようであった。

辛うじて水月の魔力値がやや高いためか、水覇は水月の魔法を躱そうとしたり、防御魔法を展開していた。


だが、どちらも超ド級の魔力値を持っているため、空中戦であるが、周囲の森や少し離れた山等がその攻撃の余波を受けてズタボロになっていた。


「ガロヤ!お前さんの目的は一体何なのだ?」

水月が戦いながら尋ねる。

「はっはー!そんな事を聞いてどうする。お前達には理解は出来んぞ!」

とガロヤスミカンダが言った後にも、さらに話を続け、答えにならない答えを語る。

それは、邪悪の神ならではの答えであった。


「強いて言うなら『混沌』だな。」

「混沌?」

「まとまりのない世界を作るのが(われ)の仕事よ!これは我流(われりゅう)の自然の摂理だな、まあラーの摂理であれば、この世は光と影のある世界であり、表があれば裏もある。だが、我はその表裏を無くし、光と影、陰と陽、正義と悪の境界を曖昧にし、常にこの世をグチヤグチャにかき混ぜておきたいのよ!」

「意味がわからんわ!」

と水月が怒鳴りながら、『(しずく)』を放つ。

無数の水滴がマシンガンの様に水覇を打つ。

水月の『滴』は厚さ100cmの鋼鉄の板でも貫通する程の威力だ。

だが、水覇は『水盾』を展開し、『滴』の威力を無効化する。


今は消耗戦だ。


必ず、倒せる糸口があるはずであるが、なかなか見つからない。

そのために戦いが膠着し、続いていた。

オルビアも、戦いの結果の明言を避けていた。

それは、あまりにも強大な力が戦うとき、結果の予知は二分されてしまう。

つまり未来は、その力に委ねられるのだ。


今がその時であった。


水覇の体を支配したガロヤスミカンダの前に、陽炎の様な揺らぎが生じる。


水魔神拳の『水鏡(みずかがみ)写世水(うつせみ)』という技である。

これは、いわゆる水で出来た画面の様なもので実体は無いが、実際に目の前に3D映像のように現れるもので、相手を惑わす目的のために、術者の分身を作って、使ったりするものであった。

だが、今回は術者本人である蔵光や、水月らの分身ではなかった。


水覇の前に女性が立っていた。


「ふん、写世水ではないか、それもお前達の分身ではな、い…っ、こ、これは!?」

ガロヤスミカンダがその姿を見て驚く。


ガロヤスミカンダは水覇の記憶を共有している。

だからこそ、水覇に一番、見せてはいけないものが何であるかもわかっていた。


「まさか、まさか、そんな事…お前達にコイツの事がわかるわけが無いはず…」


そう、ガロヤスミカンダが一番水覇に見せたくなかったもの、会わせたくなかったもの、それは水覇が一番会いたかった人物であった。


そうチョッコ・クリムが水覇の前に現れたのである。


ガロヤスミカンダが精神を支配しているとはいえ、目や耳から入る情報は制限出来ない。

ましてや、元々精神力が強い水覇の精神が抑えられたのは、水覇自身の生き甲斐であり、心の支え、水覇の精神を現世に留めておく唯一の存在であるチョッコ・クリムが既にこの世にいなかったからであり、この時代にチョッコ・クリムを知っている者がいないと(たか)(くく)っていたガロヤスミカンダにとって、それは眠っていた水覇の精神を呼び覚ます、強力な引き金、恐ろしい呼水となっていたのだ。


ドクン!


ガロヤスミカンダの心臓が大きく波打つ。

だが、それはガロヤスミカンダのものではなく、チョッコ・クリムの姿に反応した水覇の鼓動であった。


「ま、まさか、そんな!?」

ガロヤスミカンダの精神が水覇の精神力の圧力に押されていくのがわかる。

体が動かない。

水覇に体の動きを抑えられ、魔力を取り戻されていく。


その時であった。


『何しとるんや!はよ、戻ってこい!』

チョッコ・クリムが水覇に叫んだ。


普通、『写世水(うつせみ)』は姿だけは作ることは出来るが、声までは再生出来ない。

だが、その声を聞いた水覇の目が大きく見開かれる。


「うおおおおおおおーー!!」

水覇の声が戻ってきていた。

そして、それと、同時にチョッコ・クリムの映像の奥から、もの凄い勢いで飛び出してきた者がいた。


ヘルメスと蔵光であった。


蔵光は動けない状態となっている水覇の両腕を掴み、体をさらに押さえつけ、ガロヤスミカンダの動きを完全に制止させようとした。


だが、流石、邪悪の神である。

恐ろしい程の力で水覇の力を抑え込み、さらに蔵光の抑える力を跳ね返そうとし始める。


「そんなことはさせんぞ、そんなことは!」

ガロヤスミカンダと水覇の声が混じった様な声がする。


「ぐあああいいいい!」

蔵光の『超剛力』でも、何とか抑えているが、それもギリギリの状態だ。

蔵光が歯を食い縛る顔などめったに見られない。


ヘルメスは蔵光が必死で水覇を抑えている、その一瞬の隙を使って、水覇の頭に『聖剣ヴォルガナイト』を叩き付けた。


目も眩むような激しい金色の光が水覇の体を包む。

「ググガアアアアアア………!!」

ガロヤスミカンダの断末魔が周囲に響き渡る。


そして、さらには巨大な一条の光が天から落ちて来て、水覇の体を突き抜け、地上に突き刺さる。

「ゴアアアアァァァ……」

それはまるで、ガロヤスミカンダの精神体を天の神が光の矢で貫き、再び魔界へ封じようとしているかのように思われた。


天空全体が光を放ち、一瞬、目も眩む程の明るさとなり、その後は次第に光は薄れていった。


遠くから見ていた、他のメンバーやヴェネシアチーム達、全員がその不思議な光景を目の当たりにし、呆然となっていたが、ようやく我に返り、気付いた時には、蔵光が気を失った水覇を両手で抱えていた。


蔵光はそのまま空中から静かに地上へ降りてきた。


地上に降りてきた蔵光とヘルメスの前に、水月、王鎧、航夜らもやって来た。

そして、最後にゼリーが透明化の魔法を解き、姿を現した。


「うっ、うう…」

気を失っていた水覇が目を覚ました。

周辺を見回した後で、自分の周りにいる者達を見回す。


「こ、ここは?」

水覇は長い夢を見ていたようなそんな感覚になっていた。

「よう帰ってきたな。水覇。」

その口調に水覇はビクッとなり、声のする方にゆっくりと目線を向ける。

だが、そこには自分の会いたかったチョッコ・クリムはおらず、奇妙な生き物が立っていた。


「えっ?」

まあ、そういう反応になることはわかっていたが…


蔵光の『水鏡・写世水』でチョッコ・クリムの姿を再現したのはゼリーであった。

ゼリーはガロヤスミカンダの精神の中に水覇がいる事に着目、新たな作戦を練っている蔵光にこの作戦を提案した。

もし、少しでも水覇の意識が残っていたならば必ずや反応するであろうという、半分賭けのような作戦であった。

だが、その賭けは当たりだった。

チョッコの姿を見せることにより、覚醒した水覇はガロヤスミカンダの肉体の動きを一時的に止め、その一瞬の隙を、蔵光とヘルメスが生かしたという訳であった。


「まあ、事情は後で説明したるわ。」

とゼリーは水覇の肩をポンポンと叩いた。





ト「こんな結末だったとは…」(;゜Д゜)

マ「結局、魔装ゴーレム使いませんでしたねえ。」( ´△`)

それを言わないでくれ。使いたかったが水無月一族が強すぎた。

ヴ「ううぅ、水覇さんの愛が感じられますう。」

・゜・(つД`)・゜・

ようやく決着が着いたんで、私もホッとしてますわ。

それではまた次回まで( ゜∀゜)ノシ


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