第161話 対決(後半戦)
何かギリギリなんですけど。
という感じです。
第161話 対決(後半戦)
水無月一族の攻撃が一通り終わった後に残っていたのは、ゴースト等の実態を伴わない霊体やスケルトン、ゴーレムなどの無機質の魔物であった。
『聖霊の言霊』
それは、聖霊と契約した者が使える術であり、ここではゼリーである。
「拡声魔法『ラウドスピーカー』&『聖霊の言霊』!」
ゼリーは体を変形させ、巨大な拡声器の様な形に変わる。
そして、そこから『聖霊の言霊』の呪文が唱えられる。
死霊達がみるみるうちに砕け、スケルトンやゴーレムも形を保てなくなり崩れていく。
蔵光は、この間にも魔透視で周囲を見ていた。
出撃の前にオルビアからこんなことを言われていた。
『預言の様な例えになりますが、私もよくわかりません。私の頭の中で現れましたのでお伝えします。かなり難しかったのですが、なるべく解りやすいところまで翻訳しましたけど、…『それは贖罪が、時を満たし、神の赦し賜う時、獄界の門が開き、許されざる彼の者、永き時を経て顕現する。漆黒の神と龍が彼の者を待ち、化の者となる。許す者が全てを握り、世が翻り、神と神の諍いが終焉す。』というものなんですけど、大丈夫でしょうか?』
蔵光にはさっぱりわからなかった。
横で聞いていたゼリーは難しい顔をしていたが。
だが、ここにおいて決着が付くということだけは蔵光は理解していた。
「来た!」
蔵光が一点を凝視している。
空中に、亜空間の歪みが見える。
そこに、二人の姿が見えた。
どちらも人間の姿をしている。
一方は黒髪に、瞳が金色で針のような尖った瞳孔が見える。
着ているのは黒い軍服のようなもので、体からは黒い霧のようなものが溢れ出している。
どうやらこいつがラドラ・マークス・グリードであろう。
もう一人は、誰も見覚えがない若い男であった。
年は20代くらい、シルバーの髪に、深い緑の瞳。
だが、どこかで見たようなそんな気がする男であった。
「あ、あ、…」
その男を見て、反応した者が一人だけいた。
ゼリーだった。
「水覇…なんで…」
そこにいたのは300年の水神ミズハノメの呪いが解けて現世に戻ってきた第56代水魔神拳伝承者水無月水覇であった。
「『魃』!」
蔵光が速攻で水魔神拳を水覇に展開した。
だが、亜空間の外にいるはずなのに相手に魔法が通用しなかった。
「な?!そんな!」
蔵光の高魔力が相手に干渉しないことはまず、あり得ない。
もし、あるとすれば、それは自分より魔力値が高い場合だけだった。
「『水化月』!」
水覇が水魔神拳を唱える。
かなり大きめの水の刃が蔵光を襲う。
蔵光は慌ててそれを避ける。
水化月は遠くにある森の中に飛んでいき、そこで水蒸気爆発のような巨大な音と水煙を上げる。
「厄介なことになったで…」
ゼリーが呟く。
まさか、水無月一族同士の対決になるとは思っても見なかったからだった。
さらに水覇の攻撃は続く、
『水化月・無限斬!』100
無数の水の刃が蔵光、ヘルメス、ゼリーを襲う。
蔵光がヘルメスの横に移動し、全ての攻撃を超高速で如意棒により弾き返す。
弾かれた『水化月』はその場で破壊される。
如意棒に付いている破魔の効果だ。
ゼリーは全ての水の刃を飲み込む。
『魃』以外の水系統の魔法はゼリーには無効だ。
全ての魔法攻撃は吸収、再生で元通りになるからだ。
「あっ、アカン…」
ゼリーの体が凹む。
「『魃』か?!」
蔵光が気付くと同時に、再びゼリーの体が元に戻る。
「なっ?!」
ゼリーが驚いていると近くに水月がいた。
「じいさん。すまない。」
水月はゼリーに『魃』が展開された瞬間に、水覇に攻撃を加え、魔法を無効化した。
「ふぉふぉふぉ、水魔神拳は『魃』のような継続して行う術式は途中で攻撃を入れられると止めざるを得んからな…」
と言いながら水覇に水魔神拳を繰り出す。
水のカーテンの様なものが水覇と蔵光達の間に張られ、水覇側にだけカーテンからマシンガンの様な水の弾が飛び出し、連射が続いている。
「蔵光よ、あれは水無月の亡霊じゃ、300年前にミズハノメ様に封印されたワシらの御先祖様じゃ、あれを倒すのはお前さんの仕事じゃからな。」
水月は残心を残しながら、水覇を見ている。
「うん、わかった。」
「王鎧!航夜!黒龍を頼む!」
水月が二人にラドラの始末を依頼する。
「わかりました。」
「了解した!」
二人は超高速で移動し、ラドラの前に立ちはだかった。
「ふっ、水無月の奴か?俺をそこらの黒龍と思うなよ!」
ラドラが不敵な笑いを見せる。
「『魃』!」
「『零座』!」
王鎧と航夜の水魔神拳が展開された。
だが、全く影響されていないのか、全くラドラの表情に変化が見られない。
目に見える航夜の攻撃でさえラドラの体の表面で弾かれているようだ。
「親父殿!これはまさか?」
「そうじゃのう、空間魔法で全身を覆っているようじゃのう。」
直ぐに王鎧がそれに気付く。
「ふあっはっはっはっ!お前達の攻撃なんぞ、全く効かんぞ!」
とラドラが高笑いをする。
「じゃが、お前さんの攻撃もこちらに届かんのう。」
と王鎧が言うと、ラドラの顔に醜悪な笑顔が浮かんだ。
「そんな事もあろうかと、俺様が考えた技を見るがいい。」
ラドラがそう言うと、ラドラの周囲に小さな亜空間の出入口が2つ発生した。
「これは、ガロヤスミカンダ様から頂いた能力だ!」
と言うとラドラの作った亜空間から奇妙な声が聞こえてくる。
「『死霊の言霊』か!?」
航夜がそれに気付いて、耳を塞ぐ。
だが、王鎧に言霊が届いてしまったようだ。
王鎧が航夜に『水化月』を繰り出す。
「親父殿!!」
航夜は直ぐに『水盾』を展開し防御する。
「はーっはっはっはっ!ざまあみやがれ!今こそ、我ら龍族を殺してきた報いを受けろ!」
ラドラの顔がさらに醜く歪む。
「ついでにこれも喰らえ!」
もう1つの亜空間からは奇妙な目が現れる。
「いかん!石化か?!」
航夜はそれを見て直ぐにその場を離れる。
だが、少しだけ、その影響を受けてしまう。
「くっ!」
航夜の手と足が石に変化する。
空中移動しているため、さほど影響はないと思われるが、やはりこれはまずい状況に違いはない。
王鎧等は、完全に石に変わっていた。
「親父殿…」
航夜の体も段々と全体が石化していく。
落下を防ぐため王鎧の体内にある残り少ない水分を操作して浮かせているが完全に石になれば落下して粉々になってしまう。
まさかこんな展開になると誰が予測していたであろうか。
「そろそろだな。」
そう言うとラドラは、蔵光達の方を見て、水覇と交戦中であるのを確認してから、自分の亜空間から出てきた。
「止めだけは、俺の手で直接やりたいからな…」
そう言うとラドラは手に高熱の光球を作り始めた。
古龍の奥義のひとつである。
「死ねい!」
ラドラが叫び、石化し、宙に浮かんでいる二人の水無月一族を破壊しようとした。
だが、一瞬であったが、それにジャマが入る。
ゴッー!
物凄い速度でラドラに近付いてくる者がいた。
それがラドラに体当たりをしてきたのだ。
デルタであった。
魔力値に差があったとしても、物理攻撃は相手に通じる。
それがラドラの体に衝撃を与える。
だが、魔力値の差は身体能力にも影響を与える。
ラドラの体は少しだけ動いた程度で、全く影響を与えることは出来なかった。
「兄さん、もうやめてくれ!」
デルタが懇願する。
「デルタか、邪魔しやがって!」
ラドラは弟であるデルタごと、吹き飛ばそうと光球を再度掲げた。
しかし、ラドラの攻撃は放たれる事はなかった。
「ガッ!」
ラドラの口から血が吹き出す。
「兄さん!?」
デルタが視線を落とすと、ラドラの体に大きな穴が空いていた。
「ア、ガ、ガガ…ゴボァ」
ラドラの目が大きく見開かれ、さらに口からの出血は多くなる。
ラドラのその視線の先には航夜がいた。
「そ、そん…な…」
航夜は特大の『水激・零座』を拳から繰り出していた。
その横には透明化を解除中のザビエラがいた。
蔵光達は、今回の作戦会議で、必ずガロヤスミカンダかラドラはヒドラの能力を繰り出してくると読んでいた。
そのため、彼等に止めを刺すためには、一計を案じ、『死霊の言霊』や『石化』にかかったふりをして、彼等の油断を誘ったうえで、相手を亜空間の中から引きずり出さなければならないと判断していたのだ。
案の定、ラドラは石化した王鎧や航夜の様子を見て、安心しきって亜空間から出てきたものであり、デルタのイレギュラーも、良い意味で目線を逸らせる事にもなった。
そこで隙を見て透明化していたザビエラが『聖神力』で航夜の石化を解き、航夜が最後に水魔神拳でラドラを仕留めたという訳である。
「兄さん、どうして…?」
デルタがラドラを抱き抱え尋ねた。
「どう…して…って…ハアハア、それは…お…」
ラドラは、そのまま、白目を剥き、弟の問いに応える前に絶命した。
「何とか倒せたな、ありがとうよ、魔族の兄さん。」
航夜がザビエラに礼を言うとザビエラも、
「あ、いえ、こちらこそ、あんな奴、私では到底倒せませんので…」
と礼を返す。
ザビエラはその後、王鎧の石化も解く。
「うーん、石化とは厄介な技だな航夜?」
と背伸びをしながらまるで起き抜けのような、セリフを王鎧は口にする。
「そうですな。」
と二人は蔵光達の方を見ていた。
彼等の戦いもようやく終わろうとしていた。
ヴ「あれが芝居だったんですか?ヤヴァいでしょ。」
((( ;゜Д゜)))ガクガクブルブル
ト「ザビエラ様、流石です。」(σ´∀`)σ
マ「ガロヤはどうなるんでしょうかね?」
(´・ω・`)?
それは次回を待て!
⊂(・∀・⊂*)