第16話 スラム街ルーケイーストの魔物
いよいよ、本当の害獣駆除の始まりだ!
第16話 ~スラム街ルーケイーストの魔物~
元々はタスパの街区内だけということであったが、駆除の都合上、隣街のルーケイーストという街の中も害獣駆除を行うことになった蔵光達であったが、このルーケイーストで問題にぶち当たってしまった。
蔵光と誠三郎は、ゼリーの後を追って、タスパコラタ川にかかっている橋を渡り、スラム街ルーケイーストに足を踏み入れた。
ここは、廃墟かと思われるくらいに建物が壊れ、まるでゴーストタウンを彷彿させるかのごとく荒れ果てていた。
「街に人の気配はするが、人影はないですな。」
と誠三郎が街を見回しながら周囲の気配を探る。
「何か、外からの侵入者に対して、非常に怖がっているような、そんな感情が伝わってくるんだけど。」
蔵光は小さい頃から、外からの魔力や怪力のほかに、他人の感情を感じ取る力があるらしいが、あまり明確にわかるわけではなく、うっすらと感じ取れる程度のものらしい…
シュッ!
建物の陰から何かが飛んできたが、蔵光はそれを難なく避け、それは地面に落ちた。
大した力もなく地面に落ちたのは小さな石ころであった。
そして、それを避けた蔵光に対して罵声が飛ぶ。
「帰れ!」
子供のものと思われる声が、石ころが投げられた方向から聞こえてくる。
その方向を見てみると、小さな女の子が蔵光達を睨みながら立っていた。
年の頃は5歳くらいで、その姿はスラム街の子供らしく薄着で汚れた服を着ており、その所々が破れ、履いている靴も穴が開いている状態であった。
また、髪の毛はバサバサで、痩せこけていた。
その女の子は蔵光達を睨んでいたが、その目は怯えており、恐怖からなのか手足はガタガタと震えている。
その時だった、
「やめなさい!ロッコ!」
その女の子の後ろから、父親と思われる男がものすごい勢いで飛び出して来て、そのロッコと呼ばれた女の子を抱き抱え、直ぐに蔵光らに向き直った。
この男の服装も薄汚れてボロボロであり、頬はこけ、体も痩せこけていた。
そして、蔵光らに対し、
「何度来てもらっても、もう私共は何もあなた方にお渡しするものはありません。どうかお引き取り下さい。」
「えっ?」
蔵光と誠三郎はこの男の言葉に意表を突かれた。
予想外の言葉に蔵光達が呆然としていると、近くの家々に潜んでいた住人十数名が、一斉に外へ飛び出してきた。
その手には、木の棒や、クワなどの農耕具が握られているが、全員がガリガリに痩せ、またその目が恐怖に揺れていた。
「こっこれは?」
その光景に誠三郎も目を丸くする。
住人達は口々に蔵光らに向かって、
「帰れ!帰れ!お前達のせいで、俺達の生活はメチャクチャだ!」
「そうだそうだ!俺の妻を返せ!」
住民達が叫ぶが、その声にも余り力はなく、蔵光達を恐れているのか、かかってこようとはしない。
「ちょっ、ちょっと待ってください。俺達は決して怪しいものではありません。街の害獣駆除のためにここへ立ち寄った冒険者ギルドの者です。」
と蔵光は慌てて皆に伝える。
「えっ?」
ロッコやその父親、そして街の住民達の反応が一瞬、動揺したものになり、それが次第に安堵へ変わる。
「はあ、奴等じゃなかったのか…」
「もう終わりかと思った」
しばらくして落ち着きを取り戻した住民らは、再び建物の中へ入っていった。
蔵光らはマーピンの家に招かれ、この事態の原因について話を聞くことになった。
マーピンの家のリビングに置かれた粗末なテーブルを挟んで、蔵光と誠三郎、マーピンとロッコがお互いに向き合い格好で椅子に座る。
室内は、何か争った後のように壁などは傷だらけであり、所々に焼けたあとがある。
家具類はほとんどなく、あってもボロボロの状態でおおよそ人の住める場所とは言い難い惨状であった。
「そっ、それでは、あなた方は盗賊集団の『蜂の巣』の奴等ではないのですか?」
「何ですかな、その『蜂の巣』とやらは。」
と誠三郎が聞く。
「はい…実は…」
マーピンはこのルーケイーストの街に起こっている現状について語りだした。
数年前まで、街はこのようなスラム街ではなかった。
貧しくはあったが、言うほど治安も悪くなく、近年の豊作で食糧難や病人の数も少なかった。
しかし、3年くらい前に、この街に一つの盗賊団『蜂の巣』がやってきた。
この盗賊団のやり口は、ルーケイーストのような貧しくて、弱っている街に狙いをつけ、最初、『守り料』と称して、街の食料や金品を差し出させるという手口で街を恐喝り出す。
そして、それを断ると街に害獣を放って疫病を流行らせたり、また、街の外の近くで、強盗や脅迫などの事件を起こし、あたかもその街の者たちが生活困窮で犯罪をおこなっているかのように装い、人を近づけさせないようにして、その街を孤立、困窮させ、街の力を段々と奪っていくという手口であった。
街に力があればこのような輩は跳ね返せていたであろうが、それだけの力がなかった。
街の警備隊も奴等が街の外で犯罪を行っているため、十分な証拠も確保できず、満足な取り締まりも出来ない状態が続いた。
結局、最後には街の住民も蜂の巣どもの嫌がらせに耐えきれず言いなりになってしまい、守り料を支払うようになったという、何とも許しがたいことをやっているらしいのだ。
また、この守り料が支払われなくなると、今度は街の住人を「外で働かせる」という名目で人質を取り、奴隷として売るか、鉱山で強制労働させる等の手段で街の利益ばかりか、人の生きる力や希望などをとことん搾り取り奪い取っていくのである。
一時は警備隊が蜂の巣を鎮圧しようとしたが、頭目のグリーン・ビーという者を筆頭に恐るべき統率力と武力で反撃をくらい、それ以降は取り締まりもできない状態で、奴等の無法状態が続いていたのだ。
また、この、ルーケイーストの前町長は奴等に見せしめのために殺され、代わりにマーピンがこの街の代表者となっていた。
「ギルドに奴等の討伐依頼はされなかったのですか?」
「何度かしようとしましたが、なかなか上手くいかず、私共が討伐依頼を出したと知った時は死人が出るほどの報復を受けたり、私も妻を拐われたりしまして、それ以降はもう恐ろしくて…」
マーピンは震える手で膝を叩きながら、悔し涙を流す。
側ではロッコが父親の痩せた身体にしがみつきすすり泣いている。
憎むべき奴等に母親を奪われる。
母親の温もりを知らない蔵光には、自分と似た境遇にロッコを重ねたのか、静かに話を聞きながら、家の焦げ跡を見ていた。
恐らくこの家の傷跡もその時に奴等にやられたのであろう。
「若、これは厄介なことに出くわしましたな。」
と誠三郎が険しい顔をして蔵光に目線を送る。
「許せない。」
ぼそりと蔵光が呟いた。
罪もない人々が理由なき暴力に震えている。
このようなもの達を放って置くことはできない。
蔵光のもう一つのスキル『裁定者』が起動した。
その目は怒りに震えている。
そして、
「この街の衰退の原因は全て奴等『蜂の巣』のせいだ。恐らくあのネズミの魔物も奴等が放った従魔だろう。セイさん、力を貸してくれないか?」
「では、若、奴等を…」
「ああ、本当の害獣駆除の始まりだ!」
蔵光が座っていた椅子から立ち上がる。
誠三郎も蔵光の気持ちに賛同する。
「わかりました、我らの力を見せてやりましょう。」
「ということだゼリー、サクッとネズミを、外に出してくれ。」
蔵光が『水蓮花』を使ってゼリーに伝える。
「わかった!まかしとき!しかし、主も面倒事にようブチ当たるなあ。まあワイはその方がおもろいねんけど。」
ゼリーは、ドブネズミの追い込み前にドブゴキブリをすべて駆除し、排水溝もほぼ全て殺菌洗浄し終わった状態で、蔵光の指示を待っていたが、ようやく自分にドブネズミの追い出し命令と併せて、面倒事になる盗賊団討伐が追加となったことで、生き生きとし始めた。
ゼリーは生命体感知を使いながらドブネズミの魔物『メガマウス』の逃げ道を徐々に奪っていった。
その方法は、ゼリーがメガマウスの逃走方向の先に魔力で作った自分の分身を飛ばし、通せんぼをしながら逃走方向を誘導していくというやり方だった。
そして、ルーケイーストの井戸の前には蔵光らが待機していた。
井戸は直径が約3mくらいはあり、その周囲には結構立派な大理石が円形状に配置され、その周囲も平らな大理石が敷き詰められたしっかりしたものであった。
恐らくこの街は以前は活気と人に溢れた街であったのであろうと想像できた。
「来たぞ!」
誠三郎が叫ぶ。
井戸の中からは大きさが1mはありそうなくらいの巨大なネズミが、ゼリーに追い立てられ凄い勢いで飛び出してきた。
「セイさん、ちょっとだけ魔法使うよ。」
「どうぞ、私は何も見ておりませんので。」
「ありがとう、」
だが、蔵光は誠三郎から了解をとる前に既に水魔神拳を発動していた。
『水球・沸!』
メガマウスの体が地面に着地する直前、全体が一瞬にして、水の塊の中に包まれた。
メガマウスは体長が1m以上あったが、大した魔法が使えるわけではなく、主な攻撃も爪と牙での攻撃であるが、水の中ではただ、もがくだけであり、そのような攻撃が蔵光に通用する訳ではなかった。
また、メガマウスの速さがいくらゼリーの速さで捉えきれない速さであったとしても、それは蔵光の前では赤子も同然であり、水魔神拳の敵ですらなかった。
メガマウスを捉えた水球はそのまま空中に停止した状態で沸騰していた。
メガマウスの断末魔も水の中なので何も聞こえない。
シーンとした中で作業をしているようであった。
ゴボゴボゴボゴボ、ゼリーが井戸の中から溢れ出るようにスライム状態で姿を現した。
「主、終わったか?こっちは全部のドブゴキブリの駆除と排水溝の殺菌洗浄が終わったで!あと、井戸の中のゴミなんかも全部掃除しといたで、何か詰まってたみたいやから綺麗にしといたんで、また井戸が使えるようになったわ。」
と蔵光に報告した。
すると、蔵光は、
「ありがとう、ついでにこいつも頼む!」
と言って、水球に包まれているドブネズミ『メガマウス』を指差すと、ゼリーは水球に飛び付き、あっという間に飲みこみ平らげた。
そして、元のスライムネコの状態に戻った。
「よし、とりあえずこちらは片付いた。次は『蜂の巣』だ。」
ああ、深夜の投稿になってしまった件
ゼ「あ~あ、とうとうお前も『件』使うてもうたな。」
えっ?
ゼ「それと、深夜に投稿したら読者がついてこられへんと考えたな…」
はっ?えっ?いや、……目立つの嫌やん。
ゼ「ふっ、本音が出たな。」