第158話 脱獄
牢獄から抜け出します。
第158話 脱獄
ここは、ヴェネシア城の地下牢獄。
ここに蔵光以外の者は所持していた武器を取り上げられて投獄されていたが、蔵光の如意棒だけは小さくして耳の中に入れていたために取り上げられる事はなかった。
まあ、取り上げようとしても誰も持ち上げられはしないだろうが…
ヴェネシア城の牢獄は格納庫よりも更に深い場所に造られた牢獄であり、犯罪者や捕虜など拘留しておく場所である。
当然ながら、逃げられないように穴を掘っただけの牢屋ではない。
牢屋の壁や天井、床は全て魔力で補強されたブロックで造られ、その外側は鋼鉄の板が張られている。
一応、酸欠にならないように、外気を取り込める様な小さな空気穴も開けられているようだが、余程でない限り逃げることは出来ないような構造となっていた。
そのためか、灯りは小さい燭台が牢番部屋の辺りにいくつかあるだけで、非常に暗い。
牢屋内もそこからくる光を取り込むしかないので、牢屋内はうっすらと見えるが、かなり暗い。
「灯火!」
ゼリーの魔法で牢屋内はかなり明るくなった。
ゼリーは皆が拘束される直前、透明化の魔法で姿を隠し、引き立てられる皆に付いてきていた。
透明化を解き、姿を現すと、蔵光を見て笑う。
「クックックッ、主ぃ~大変やなあ。」
何かめっちゃ嬉しそうだ。
ゼリーは面倒事や厄介事が大好きだった。
「すごく嬉しそうだね。」
と蔵光もあまり、投獄されたことを気にしていない様子である。
まあ、こんな牢獄など、蔵光が子供の頃に育てられた部屋に比べればおもちゃみたいなものであり、逆に落ち着いているみたいだ。
落ち着いていないのは、拘束されたことがないワイルドバンドやその妹のゼルフィーナ、三従士の三人、デビッド、ディノ達である。
ゼリーの魔法で室内が明るくなり、かなり驚いていたが、その顔には不安の表情が残っている。
牢屋に入れられる時は一瞬であり、あまりよく見れていなかったので、分からなかったが、明るくなって、落ち着いて見回すと、ようやく部屋の状況がわかった。
そこは大量の捕虜を一時的に収容するための部屋なのか結構広めに造られていて、今回、拘束された全員が入れられていた。
流石に他の囚人と一緒には入れられてはいなかった。
「まあ、こんな所もなんやから、とりあえず移動しよか。」
とゼリーが言うと、そこに空間魔法で開けられた亜空間の入口が円形状に口を開く。
「えっ?」
それを見てワイルドバンド達が驚く。
蔵光がワイルドバンド達に、
「さあ、どうぞ、入って下さい。」
そう言うと、ヘルメスも、
「大丈夫です、さあ。」
と言って、促す。
「じゃあ。」
そう言って最初に入ったのは、ゼルフィーナであった。
それに続けてワイルドバンドや三従士の三人が次々と亜空間に入っていく。
蔵光、ヘルメス、ザビエラ、最後にゼリーがそこに入り、亜空間の入口が閉じた。
牢屋の中には誰もいなくなった。
そして、次第に灯火の明かりが薄暗くなり、やがて消える。
「き、消えちまった…」
それを対面の牢屋に入れられていた囚人達が呆然とその光景を見て呟いていた。
蔵光達が次に現れたのは、魔導バスプラチナスカイドラグナーの中の宴会場型大型リビングであった。94
ゼリーは自分が作って固定していた空間を別の場所から開く事により、それまで難しいと思われていた、次元魔法と時限魔法が組み合わされた『転位魔法』を自然に使っていた。
ワイルドバンド達は一体何が起こったのか全くわからない様子である。
ヘルメスはすぐに魔導バスの中だとわかったため、ワイルドバンドらに説明する。
「ここは我々のクランズ『プラチナドラゴンズ』が移動に使用している魔導バス『プラチナスカイドラグナー』の中です。この中で普通に生活も出来ますので、自由にしていて下さい。」
そう説明を受けたワイルドバンド達は部屋の中を見回す。
「し、信じられん?!こんな巨大な…これが魔導車の中なのか?!」
三従士の中の一人がその大きさに唸っている。
「若!お早いお帰りで!」
声を掛けてきたのは誠三郎であった。
既にオルビアが横にいるのを見ると恐らく彼女に帰還を教えてもらったのであろう。
誠三郎はギルガ、ヴィスコ、トンキらと共に、高機動型魔導バス『プラチナスカイドラグナー』に乗ってヴェレリアント領のサリドナを出発し、蔵光達を追いかけている最中であった。
今は、グラフタール領の途中まで来ていた。
グラフタール領はエイダー伯爵の治めている領地であるが、伯爵としては唯一領地を与えられていて、直接接してはいないが、ちょうどヴェレリアント領の北側に位置する。
「若、ちょうどエイダー殿にも現状を説明するために、バスに乗って貰っておりますぞ。」
「え、そうなの?」
誠三郎の言葉に蔵光が応えるが、それに反応したのは蔵光だけではなかった。
「エイダー?エイダーがここにいるのか?!」
ワイルドバンドが驚く。
「ワイルド王子!」
エイダーの声だ。
ワイルドバンドがその声に振り向く。
「エイダー殿には、国王の現状はお伝えしています。」
と誠三郎が付け加える。
「エイダー、よくぞ、よくぞこの場に…」
ワイルドバンドが、エイダーの手を両手で握り再会を喜ぶ。
その目には涙が溜まっていた。
国王が邪悪の神の化身に支配され、弟達には拘束されて投獄されるなど、自分の味方となる者が次々といなくなる中、信頼がおける家臣の一人、それも『救国の英雄』と呼ばれる男、エイダー・ドズ・グラフタールが現れたのだ、こんなに心強いことはない。
「ワイルド王子、ある程度の状況は八鬼殿から聞かされています。私は王子の味方でございますので、どうかご安心を…」
その言葉を聞き、ワイルドバンドは涙を流す。
「すまない。」
しばらくして大型リビングでは、ガロヤスミカンダ討伐計画の会議が行われる事となった。
全員が大型リビングの中にぐるりと置かれた大きな円形状のソファーに座り、向き合う格好となった。
「現在、ヴェネシア城はフォルガイムス王子とシャークライド王子の二人に制圧されています。この現状を回復するには、ガロヤスミカンダに取り込まれた国王を取り戻す他に方法はありません。」
とクランズのリーダーとしてヘルメスが今回の会議の議長となり、現状をもう一度説明する。
そして、更に、自身が考えている今後の計画を明らかにする。
ヘルメスの思考は、魔力の向上と共に思考速度が高速化し、かなり先まで見通していた。
「ですが、現在、ガロヤスミカンダは、ゼリーの言うとおり『魔界』もしくは『亜空間』の中にいると考えられています。この空間、もしくは世界にはゼリーの空間魔法でも、干渉し、入り込むことは不可能であるとゼリーも言っており、現状手詰まりの状況です。なので、何か良い案があれば出して頂きたい。」
ヘルメスがそう言うと、オルビアが手を上げた。
クランズの全員がドキリとした表情となる。
その状況を見たワイルドバンドも、この少女に対するクランズでの恐ろしいほどの発言力があることを悟る。
「すみません、先に謝っておきます。先程のゴーレムのことなんですけど、指一本動かせないって言っちゃって…近接した予知だったもので、ちょっと予知と結果にズレが生じて誤差が出てしまって、こんなことあまり無いんですけどね…。」
とオルビアは先程のゴーレムの件を謝る。
「力が巨大になればなるほど、その結果が不透明になるというやつやな。」
とゼリーがフォローする。
「予知って…、この少女は未来予知が出来るのか?!」
ワイルドバンドが驚く。
蔵光と言い、先程のゼリーの転位魔法といい驚きの連続であるのに更に、未来予知とは、とんでもないクランズだと脅威を感じていた。
「はい、でもガロヤスミカンダはどうも、まだこの世界にいるようですね。」
とオルビアはゼリーの説を否定する。
「何だって!そんな…デスフレアが反応しなかったのに…」
ザビエラも、その言葉に驚く。
確かに、ガロヤスミカンダを探すには『聖槍デスフレア』の追跡能力が必要不可欠だ。
だが、その機能が全く機能していない。
ゼリーの言うとおり『魔界』もしくは『亜空間』等の別世界にいる可能性が高いと推測するのは当然の事なのだが…
「彼は、元々思念体です。ですが、国王の肉体は普通の人間です。そのため、その体のままで『悪魔素』が立ち込める『魔界』で生存する事はまず不可能です。それに、亜空間の中だと、安全性は確保出来るでしょうが、この世界には全く干渉出来ず、何も出来ません。恐らく私達がヴェネシア城にやって来たことで、追跡されていることを知ったのか、一時的に避難したのでしょう。彼は必ず、この世界にいます。」
「なるほど、それはもっともな意見だ。」
誠三郎がオルビア説に頷く。
「では、奴はどこに?」
「彼は、自身の思念体の気配を薄くしていますので、現在のところ、ザビエラさんのデスフレアにも反応しないのだと思います。ですが、私の予知ではこの後、十中八九、再びこちらに現れます。」
「こちらにと言うと…」
とデビッドが尋ねる。
「このヴェネシア王国の東側にある、第二直轄領内に現れます。」
「第二直轄領…」
みんなの注目がオルビアに向けられる中、オルビアは両目を瞑り、更に未来を視る。
「はい、そこで、あ、ああ、何て事…」
オルビアの顔が歪む。
「どうしたの?!」
ヘルメスがソファーから立ちあがり、慌ててオルビアの側に駆け寄る。
「これは…恐らく、魔海嘯です。」
オルビアの口から恐れていた言葉が飛び出した。
「な、何だって?!」
全員が驚きで立ち上がる。
「ああ、恐ろしいほどの数の魔物、黒いドラゴン、悪魔落ちした魔族たち、それらが一斉に街に向かって攻めて来ます。」
オルビアは目を瞑りながら未来の情景を説明する。
「そ、そんな、こんなときに魔海嘯なんて…」
ゼルフィーナが手で口を押さえる。
流石にヴェネシア王国の者達も魔海嘯の事は聞いたことがあるようであり、焦りと不安の表情が滲み出ていた。
「その魔物の群れの中のどこかに、ウィルドネス王が紛れ込まされています。」
「そ、それじゃあ…」
「全体攻撃が出来ない。」
「下手に大きな攻撃を出すと国王まで巻き添えになってしまうぞ!」
ヘルメス、蔵光、誠三郎その言葉に唸る。
バスの窓から真っ黒な雲が立ち込める空が見え、遠くで小さく雷鳴が聞こえる。
これから始まる凄絶な戦いを象徴しているようであった。
ヴ「とうとう、ゼリーちゃん師匠がやりました。」゜+.ヽ(≧▽≦)ノ.+゜
ト「ということは、あらゆるところに移動できるという事ですね。」
ゼ「いや、まだガロヤの奴みたいにはいかへん。別の場所に魔石とか、今回みたいにバスの中とか固定した空間を作っておいて、そこへ移動することは出来るけどな。」
マ「なるほど!魔界からやって来る奴らほど精度はないと?」
ゼ「そう言うこっちゃ。ワイもまだ次元認識が弱いからやろな。」
ヴ「そんなものなんですか?」(゜.゜)
ゼ「そんなもんや。」( ̄^ ̄)
うわーやりやがったなゼリー!そんな重要なことは本編で言えよー!
( ´△`)