第155話 登城
みんなでヴェネシア城に行きます。
第155話 登城
ヘルメス、蔵光、オルビア、ザビエラ、ゼリーの5名が、王都にやって来た。
もちろん、オルビア以外は全て空中移動ができるので、蔵光がオルビアの体内の水分を魔力で操り空中を移動させた。
なお、危惧していたオルビアの『先見の乙姫』の能力は魔力操作の影響で消えることはなかった。
また空中移動には他の人に見られないように気配遮断状態で飛び、あと降りた場所は、王都の周囲に設けられた塀に設けられた出入口の門近くにある小高い丘であった。
丘は王都から近いと言っても、やはりそこそこは遠い。
王都は平野のため、その丘から見える王都の街の広がりは太陽の光でキラキラ輝いて、非常に美しく見えた。
また、王都の真ん中には、巨大で美しい白亜のお城が見えていて、その回りの城下街は、王都の周囲に設けられた大きな塀が取り囲み、さらにその周囲は小麦畑やその他、果物などの木が植えられた畑が取り囲んでいた。
ちなみに、誠三郎、ヴィスコ、トンキ、ギルガは魔導バスプラチナスカイドラグナーに乗って追いかけてくる予定である。
まず蔵光達は、王都にあるヴェレリアントの屋敷に寝泊まりしているマッソルと会う事にしていた。
ここは、王都において行事や会合等がある時等、王都にしばらく滞在する必要がある場合のために建てられているヴェレリアント家の屋敷、つまり、別荘である。
現在は、ここにヘルメスの兄のデビッドとディノの二人が住んでいる。
デビッドは既に妻帯者で、妻と共に住んでいた。
ディノは独身であり、彼女募集中らしいが、今はそれどころではない状態だ。
二人にはあらかじめマッソルから『水蓮花』で屋敷に行くと連絡をしていたため、混乱は無かったが、ヘルメスは迎えにやって来たマッソルから、
「お兄さん達は何か面倒なことに出くわしでくわしているみたいな感じなんですよ。」
と小声で耳打ちされる。
ヘルメスはこの時、兄二人がガロヤスミカンダの件に絡んでいるとは全くの予想外であり、最初は彼等にとっても国王の事だけに極秘事項にしていたのだが、ヘルメスの口からガロヤスミカンダの名前が出たため、事の真相が判明したのであった。
ここは、ヴェレリアント家の王都別荘の一室である。
蔵光達が、デビッド達とテーブルを挟んで何やら難しい顔をして話をしている。
デビッドとディノは兄弟なので、どちらもよく似ている。
違うと言えば、ヘルメスと同じ金髪の長さが違う程度で、デビッドは短髪、ディノは首の後ろまで伸びる長髪をしている。
顔立ちは整っていて、瞳はヘルメスと同じく濃いライムグリーンの色をしている。
剣術に秀でている二人は痩せてはいるが引き締まった体をしている。
「つまり、そのガロヤスミカンダという邪悪の神が魔界で甦り、その化身が我々の住むこの世界に現れると言うことか…?そして、黒龍と手を組んでこの世界を破滅に導くと…?」
とデビッドがヘルメスから聞いた話を要約する。
まさか自分の妹が、邪悪の神の化身を追ってここまで来ていたとは夢にも思っていなかった。
ヘルメスとその仲間達には、適当に相手をして帰ってもらうつもりであった。
しかし、ヘルメスの口から、あのガロヤスミカンダの名前が出たことから話の矛先が変わってきたのだった。
デビッドもヘルメスに国王の件を正直に話して協力してもらうことになっていた。
「そうです。既にギルレアに現れた千体以上の悪魔落ちの魔族や数十体の龍は蔵光殿が始末しています。」
「なっ?!悪魔落ちの魔族に龍族だと?それに、せ、千体以上って…それを倒した?まさか?」
デビッドとディノが顔を見合わせる。
普通の人間では絶対に不可能である。
たが、魔法世界マーリックにおいて、魔力値は絶対的価値を持っている。
最初にヘルメスが勇者覚醒したことを説明したが、信じられず二人がヘルメスに屋敷の庭で手合わせをして、子供扱いされて初めてヘルメスの言うことを信じたくらいだった。
それに、父であるバジルスでさえ持ち上げる事が出来なかった如意棒を軽々と扱う蔵光を見て、納得するしかなかった。
蔵光の身分については、水無月一族であることを説明したが、二人は最初、バジルス程には興味を示さなかった。
と言うのも、あの伝説の『龍を狩る一族』が実在するということには否定的と言うか、荒唐無稽過ぎて、半分以上と言うかほぼ嘘だろうと思っていたからだった。
ヘルメスの力でさえも最初は、昔話の延長だと信じていなかったぐらいだから、それもしょうがないが、力を見せつけられた今では信じざるを得なかった。
「ヘルメスの力で何とか国王の、いや、国王に乗り移っているガロヤスミカンダの居場所は分からないのか?」
とディノが心配そうに尋ねる。
兄のデビッドが国中に部下を走らせ、捜索しているが皆目、その行方は分からないままであり、今は、国王の無事を祈るばかりの状態だったのである。
しかし、そこへ、ガロヤスミカンダが乗り移っている化身を倒すためにやって来たという妹のヘルメスが二人の唯一の頼みの綱となっていた。
「それは、私よりもザビエラ殿が…」
と言うと、ザビエラが手にした『聖槍デスフレア 人間version』を出してきた。
「それは?」
デビッドとディノが不思議そうな顔をする。
蔵光達でさえ、最初、この槍がその様な能力を秘めているとは知らなかったから無理もない。
今では、デスフレアを持って、少しだけ念じるだけで場所を指すようになっていた。
また、それも室内であれば屋外と違って、上部の炎が小さく伸びてコンパスの様にその方向を指す。
「では…」
ザビエラが少しだけデスフレアを上に持ち上げた。
すると、デスフレアの上部に瞬いている、蝋燭の炎のような火が、クルクルと動き、ある方向を示して止まる。
「こ、これは?」
炎はU字を逆にして、少しだけ開いたような形を示して、その先端を矢印の様に尖らせている。
「真下?地下なのか?」
ディノがその形を見てそう言うと、デビッドが、
「この向き…ヴェネシア城の下か!?」
と叫ぶ。
「いや、まさか…兄さん、」
「うーむ、私もまさかとは思うが…」
デビッドとディノの二人が地下という言葉に異常な反応を示している。
「城の下には何が?!」
ヘルメスがデビッドに尋ねるとデビッドが、緊張した面持ちで口を開く。
「そこには、我が国の最強兵器のひとつ、5体の魔装ゴーレム『火焔の王アルカディア』『絶対零度カメリオーラ』『ミスリルの魔鋼騎士ラダマンティス』『真空の風神グリフキング』『天光神プルトニューダス』が安置してあります。」
「何か、名前を聞くだけて凄いな。」
と蔵光が言うと、ゼリーが、
「そらそうや、全部、聖霊王の名前やからな。そらマズイて。」
「えっ?聖霊王?マズイって?」
「確かに、いずれのゴーレムも過去に我が国にいた高名な聖魔導士が聖霊王と契約し、ゴーレムに魔力と聖霊力を込めて造り上げました。過去には世界魔法大戦にも使用され、国を守ったと言われています。」
とディノが追加説明をする。
「多分、アイツらの弱点の聖霊力を宿したゴーレムやで、それを逆に利用されたら、こっちの力が相殺されてまうし、相殺された上に、アイツらの力を上乗せされたら、アカンやろ?」
「あっ、確かに…でもどうするの?」
と蔵光が言うとオルビアが口を開く。
「大丈夫ですよ。」
「えっ?」
部屋にいた全員がオルビアを見る。
「肉体は国王でしょうが、精神はガロヤスミカンダです。指一本動かすことも出来ていませんよ。それに、ここのゴーレムは自律式ではない様子ですし…」
「それは、どういう?」
「ここのゴーレムは国王が許可した者しか動かすことが出来ないようになっているらしいですよ。」
「はーなるほど、そうかーそれは良かった。」
蔵光が息を吐く。
蔵光の力なら、いくら凄いゴーレムだとて、それらゴーレムを如意棒で破壊してしまうかもしれない。
だが、今後もヴェネシア王国を守るための兵器を破壊してしまったら、申し訳ないことこの上ない。
それが防げたという、そんな感じのため息だ。
蔵光はそれで良かったが、それを聞いたデビッドとディノだ。
オルビアはヘルメスのクランズの仲間というだけで身分や能力は隠しているので、オルビアの説明する言葉にすぐに納得している蔵光を見たデビッドとディノはその意味がわからず変な顔をする。
だが、彼女を『占術師』か何かだと思ったのか、少しだけ納得してその場をやり過ごそうとするが、やはり、ゴーレムが気になっていた。
「でも、気になりますね。一度ワイルドバンド様に申し上げて確認をさせてもらいましょう。」
とデビッドが言うと全員が頷く。
そして、全員で登城することとなった。
登城にはデビッドとディノの二人がいたので、城の敷地内にはすんなりと入れたが、城内でちょっとしたトラブルに遭う。
それは、シャークライドの配下の者達が蔵光を見て因縁をつけてきたのだ。
「なんだ、デビッド、こんな大変な時に関係者以外の者を城内に引き入れるとは!それに、何だ?!こんな子供まで!」
そう言ってきたのはシャークライドの配下の騎士であるドンクーシャであった。
回りに取り巻きの騎士を何人か連れている。
こいつも一応貴族騎士であり、シャークライドが王になれば良い席をもらおうと思っている一人であった。
お坊っちゃん風の蔵光を見てそう思ったのだろう。
「それに女連れとは、いいご身分だな。」
とヘルメスとオルビアを見て言う。
相手の身分も確認せず、連れの人間の悪口を言うという完全に頭の悪い奴の典型である。
だが、その言葉に反応したのがヘルメスだった。
「私は、ヘルメス・カース・ヴェレリアント、兄に対する無礼な言動、許しませんよ!」
とヘルメスが注意をすると、ドンクーシャは、
「おー、そうかお前、よく見るとヘルメスか!何年か前に城の催しで会ったきりだったが、よく見たら良い女になってきたじゃないか?!なんなら俺の妾にならせてやってもいいぞ!確か冒険者になったと聞いたがそれより給金ははずむぞ!わはははは!」
と下卑た笑いをする。
「ゲスが!給金だと?我々の報酬はお前たちのような者達が払えるような額ではないわ!」
とヘルメスが言うと、
「何だとこのクソガキが!お前らのような田舎貴族と我がムラムス家と一緒にするな!」
とヘルメスに怒鳴る。
流石に城内であり手を挙げることはなかったが、外なら剣を抜いていたかもしれない。
「まあまあ、ヘルメス、そんなことくらいでケンカをする事ないよ。」
と蔵光が間に入る。
「だって…」
ヘルメスは自分の事ではなく、自分の兄達や蔵光らが馬鹿にされたことに腹を立てていたので、なかなか腹の虫が治まらない様子だ。
「まあまあ、この人も体調が悪そうだし、気にしない方がいいよ。ねっ。」
と言いながら蔵光がドンクーシャを見る。
「何だとこのガキ、俺様のどこを見て体調が悪いだと…」
ドンクーシャはそう言うなり、目の焦点が合わなくなり、フラフラとその場に座り込む。
「ドンクーシャ様!」
ドンクーシャの取り巻きの騎士達が慌ててドンクーシャを担ぎ上げる。
「寒い。」
ドンクーシャがうわ言のように呟く。
「あっ、これは凄い熱だ!早く医者を!急げ!」
騎士達は急いでドンクーシャを運んでいった。
その様子を見てヘルメスが蔵光を見る。
「まさか蔵光殿?!ドンクーシャに何か?」
「別に何も…」
と言いながら蔵光はそっぽを向いて口先を尖らせる。
「クックックッ、あーはっはっはっ!」
ヘルメスはその仕草を見て全てを悟り、大笑いする。
ヘルメスの想像のとおり、蔵光はドンクーシャの体温を数度上昇させていた。
人間なんぞは体温が50度になれば即死である。そうならないまでも、体温が40度近くになれば体の機能が著しく低下する。
今回は、体の水分を魔力操作し、『沸』という水の温度を上昇させる魔法を使ってちょっとだけ体温を上げただけである。
他人から見れば病気で高熱を出したとしか見えない。
「水魔神拳には、そんな使い方もあるのだな。」
とヘルメスが感心する。
「まあ、ちょっと俺も馬鹿にされたからね。」
と蔵光が言う。
まあ、殺してしまえば駄目だろうが、この程度の魔法の使用ならば、水神ミズハノメも大目に見てくれるだろう。
蔵光達はワイルドバンドの居室までやって来た。
先に面会をしてもらえるか確認をするため、デビッドとディノが部屋に入る。
いよいよ、王家の者との対面である。
ヘルメスは緊張した表情でその時を待っていた。
ト「ザビエラ様、やはり凄いです!」
マ「いやーゴーレムの名前のネーミングセンス最高ッス!」
ヴ「ドンクーシャ最低!蔵光さんあんな奴、貴族の恥さらしだわ!コテンパンにやっつけてやったらいいのよ!」
まあ、あれくらいでいいんじゃないかな。
でわ、また(* ̄▽ ̄)ノ~~ ♪