第154話 ラドラの計画
ラドラの考えがちょっとわかります。
第154話 ラドラの計画
ここはとある者の部屋の中、昼だというのに窓の外はどんよりとした天気のためか、室内は暗く、灯りも無いため、その部屋にいる者の顔は余りよく見えない。
時々、遠くで鳴り響くゴロゴロという雷の音と、少しだけ光る稲光の光が室内の様子を教えてくれる。
「何!タイジャから連絡が無いだと?」
その声の主は、若いようなそれでいて、全ての者を平伏させてしまうような恐ろしい妖気が体から溢れ出ていた。
話の様子からデルタの兄ラドラ・マークス・グリードと思われる。146
「はい、何でもギルレア洞窟という所に仕掛けていたヒドラが殺られていたとかで、そのヒドラを殺ったと思われる者の所へ龍族の者と魔界の住人達を引き連れて向かったはずなのですが…」
暗闇の中で、タイジャの話を報告している。
この男もあまり姿がよく見えないがタイジャと、ラドラとの連絡係をしている者と思われた。
「ちっ、魔界の住人だと?奴は確かバゾニアルアジカンとか言う魔界の者と何かを計画していると言っていたようだが…そいつ達も仲間か?」
「いえ、それは何とも…」
「まあ、それはいいとして、何故タイジャがヒドラを殺られたくらいで、その龍族と魔界の者達を必要とするのだ?」
「ええ、何でも、モグル・ランカス様を殺した冒険者達とか言っておられました。で、そやつらがヴェネシア王国のギルレア洞窟にやって来ているのだとか…」
「何!?モグルを殺した冒険者だと?馬鹿な事を言うな、アイツは既に黒龍化しているのだぞ、そう簡単に殺られるとでも思っているのか。」
「いえ、私もそれは間違いだとは思うのですが、何しろ断片的な情報でして、そもそもその話をしたのが、モグル様がおられたヨーグの街に住んでいた者でして、何でも街の噂で聞いたそうで…」
「ふん、噂か、まあ所詮そんなところだろう。で、その者達は?」
「はい、こちらまで戻って来ております、この者達の話によると『ワダツミがやって来たので恐ろしくて街を逃げ出した』と言っておりました。」
「はっ、ワダツミだと?アイツは、『龍の災厄』の時にギルスから逃げ出して、追い掛けた水無月達に殺されているはずだ。それよりも、モグルを殺った奴がいると言うのは本当なのか?モグルに連絡は?」
「出来ておりません。街にいた者達がそのワダツミの件で全員帰って来ておりますので…全く…生きておられるのかどうかさえも…」
「ちっ、あれからダウラも全くこちらに顔をみせんし、どうなっているのだ。」
焦っている事が声の調子でよくわかる。
「先日、こちらからヨーグへ向けて何人か様子を見させに行かせましたが、その者達とも連絡が途絶えています。」
「くそっ、こんなときにタイジャの奴め、しかし、ヒドラを倒した奴らとは一体何者だ?冒険者が倒せる程度なら三つ首くらいか?」
「何でも七つ首だったらしいです。」
「何!?七つ首だと?!あれを倒せる人間がいるのか?まさか水無月の奴らではないのか?」
「それはまだ何とも、ハッキリとはしていません。ただ、」
「ただ?」
「勇者が覚醒していたとかなんとか言っておりましたが…」
「勇者覚醒か…なるほど、それなら話の筋は通る。邪悪の神の復活だな…タイジャめ、俺に黙っていたな…セトは?」
「セト様はタイトバイトスの東の森辺りで魔素を増やしていると聞いています。ただ、開けたはずの魔素の穴が塞がれて封印されていた場所があったとか…」
「そ、それは、水無月達の仕業じゃないのか!?」
「はい、恐らく…」
「危険だな…奴らには絶対に手を出すな…我々とは全く次元の違う奴等だからな、モグルは『大丈夫です』と言ってはいたが…俺はアイツ達に一度会っているが、黒龍化している古龍の仲間が虫けらのように殺されているのを目の前で見ているからな…」
ラドラはその光景を思い出しながら震えている。
「ですので、セト様は大事をとり、こちらへ引き揚げて来ております。」
「それでいい。」
「はい、あ、あと、ヨーグから逃げ出して来た者から、デルタ様を見かけた者がいたと…」
「デルタが?…………」
「如何いたしましょうか?」
「放っておけ、奴は黒龍化も出来ぬ腰抜けだ…」
「わかりました。他のお二人からはまだ連絡はありませんが間もなく入ると思いますので、また後程…」
「うむ。」
連絡係は静かに部屋から出ていった。
ラドラの最初の計画は、こうであった。
自分の配下の龍族に人化魔法『ジギン』を掛け、目ぼしい国に送り込み、モグル・ランカスのように、国の中の重要なポストに配置しつつ、その国の郊外の森や山で負の魔素を大量に発生させ、魔物や動物の凶暴化を促進させたうえ、それを各地で同時に自然発生したように見せかけて一気に『魔海嘯』を発生させる。
魔海嘯により、国の主要都市を襲わせ、国が混乱している時に、国の機能を奪い取るという方法で国を自分の物にし、国内の人間を自分達の食料として確保するというもので、それらの国にはあらかじめ国力を弱体化させたりしてから、実行に移す。
モグルが盗賊団『蜂の巣』を裏で操っていたのにはそういった訳があった。
何故、これほど隠密裏に事を進めていたのかということなのだが、あまり、あからさまに事を起こすと、世界中で水無月一族と繋がっている国は沢山あるため、直ぐに足が付いて、自分達が殺されてしまうため、水面下で何でも事を実行する必要があったのだ。
モグルが表立って、ヨーグの人間を無闇に殺さなかったことにはそういった理由があった訳で、ラドラから厳命されていたのである。
水無月一族は彼等の天敵である。
どんなに抵抗しようが、全く敵うハズもないくらいの実力差があった。
それをラドラは自分の身をもって経験し、知っていた。
だが、その事をモグルやタイジャは知らなかったというか、理解できていなかった。
ラドラから再三、水無月の強さ、恐ろしさを十分というほどに教えられてはいたが、百聞は一見にしかずとは良く言ったもので、蔵光クラスの強さを見たこともない彼等にとって、『所詮は人間風情』との認識が強かった。
つまり、水無月一族の力を舐めていたからだった。
だから、モグルがオルビアなどに固執せずに直ぐに逃げておれば命は助かっていただろう。
また、タイジャも軍勢を率いて、蔵光の前に現れなければ、瞬殺されることはなかったであろう。
彼等は自分達の力を過信し、蔵光の怖さを認識しようとしていなかったのだ。
ラドラは今回の計画で、モグルやタイジャに言っていなかった事があった。
計画の変更である。
彼等黒龍にとって本当に一番の食べ物は、地上に生息するありとあらゆる生物であり、その中でも人間は最上級の糧であった。
其であるがゆえに、最初は人間の社会に配下を溶け込ませ、隙を見て、人間を自分達の餌にしようとしていた。
しかし、人間の住む土地に黒龍化した龍が住み続けるためには、どうやっても負の魔素を継続的に体内に取り込み魔力を維持させる必要があった。
実のところ、彼は人間の住む国において負の魔素を大量発生させた場所で魔物を凶暴化させるだけでなく、魔の大森林地帯に生息している巨木の種を人間の住む土地に蒔き、その木を繁殖させ、その土地一帯を魔の森化するという計画に変更をしていた。
魔の森化はさらなる負の魔素の噴出を促し、維持し、魔の森の巨木をさらに巨大化させ、森の肥大化を促進する。
そして、負の魔素は魔族が生命を維持するためのものだけではなく、龍族や古龍族の黒龍化を促し、その魔力値を向上させる効果を持っていたし、また、魔族の者と同じように、黒龍化すれば生命を維持する事にも利用出来たからだ。
ただ、本来、魔力を引き上げを維持する負の魔素の排出口を確保するには、魔族の様に魔の大森林地帯に住んでいることがベストであり、また人間と同様に、魔族の者達も彼等にとっては食料にもなることから実のところは住んでみたい場所なのである。
だが、魔族はか弱い人間と違い、魔力もある程度強く、集団で攻撃されれば、黒龍と言えども古龍種の黒龍ならどうということはないが、龍種の黒龍にすればかなり厄介な存在であった。
それを避けるためにも、理想は人間の住む土地の付近を魔の森化させて、拡げるのが一番であるのだが、それを実現させるためには、まず人間の住む国の近くに、魔物が生息しているような森等があることと、魔の大森林地帯に生息する巨木の種があることが必須の条件であった。
何故、魔の森の巨木が必要なのかというと、普通の木では負の魔素に触れれば直ぐに枯れてしまうのだが、魔の森の巨木は負の魔素に晒されても枯れることはなく、さらに負の魔素を排出しやすい土壌となっていく。
そうやって人間が住む地域の近くに自分達黒龍の移動可能範囲が広くなれば、捕食行動もしやすくなるというものである。
だが、負の魔素が溢れ過ぎた場所の近くでは人間は生きることが出来ないし、目立ち過ぎれば水無月家に見つかり、たちまち封印されてしまうので静かに目立たず広げていくというなかなか難しい条件もクリアせねばならなかった。
だが、ある時、ラドラは水無月一族が、魔の大森林地帯にある負の魔素の排出している場所だけは封印していないことを知り、決断を迫られる。117
魔の大森林地帯の事については、その理由は知らなかったが、このことは彼にとってとても良い情報であった。
人間のいる場所では負の魔素は封印されてしまい、確保出来ないが、魔の大森林地帯では水無月一族の封印がない、つまり黒龍に対する追跡が無いと思われるのだ。
ラドラは、魔の大森林地帯で隠れ住んでいた。
彼にとって魔族は鬱陶しいが、水無月一族と比べれば大した影響はない。
水無月一族の方がよっぽど質が悪い。
ラドラは新たな安住の地となる場所を模索していた。
比較的、安全な魔の大森林地帯に住むのか、やはり美味い人間の住む世界に近付くのかと…
だが、モグルやタイジャは強硬派ではあるが、ラドラの言い付け通り、無闇な殺戮はせず、何とか命令を守ってはいたが、やはり人間の味から離れられないようで、穏健派のように魔の大森林地帯への移住は頭に無いようであった。
「モグルもタイジャもあまり、目立ち過ぎれば長生きは出来んぞ…」
ラドラが自分の側近の身を案じていたが、この二人が既にこの世にいないことを知る由もなかった。
ト「これって、人間を食うか、魔族を食うかの二択だよね。」
ヴ「近くに住んでもらいたくないなあ…でも食べるんならマッソルは肉が多いから先に食べてもらえるかもね。」
(*´∇`*)
マ「何を言ってるんだよ、そ、そんなの若くて柔らかい肉をしているヴィスコに決まってるじゃないか!」
(;´゜д゜)ゞ
ヴ「いやいや、どうぞどうぞ!」
( ゜∀゜)つ
マ「俺、やだよ!」
(((-д-´。)(。`-д-)))
まあまあ、食べられる前にはちゃんと出番を用意しておきます。
ヴマッソ「やだよ!!」
ではでは⊂(・∀・⊂*)