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水無月蔵光の冒険譚  作者: 銀龍院 鈴星
第六章 絶対悪との対決
150/164

第150話 七つの邪悪の神の伝説

ちょっと今回の話は長めですが…

第150話 七つの邪悪の神の伝説

シンディーナの家は、子供に読み聞かせる童話に出てくるお菓子のお(うち)の様な華やかな原色に彩られていた。

真っ赤な屋根に、クッキーのようなベージュ色の壁。

壁に埋め込まれているのは赤や青、黄色や緑の石でそれぞれ色鮮やかに光っている。

扉は茶色のチョコレートのようだ。


「これって魔石ですよね?」

とヴィスコが家の壁の石がすべて魔石であることに気付く。

「そうです。これは結界や、蜃気楼(ミラージュ)の魔法を維持するためのもので、この家自体が魔道具の様なものなのです。」

とシンディーナは説明する。


その後、全員がシンディーナの家に入っていった。

入って直ぐの部屋は、リビングのような大きめの部屋で、蔵光らはその部屋に置かれていたテーブル席に案内された。

壁には魔方陣が描かれたタペストリーが掛けられていたり、様々な色の石のタイルが敷き詰められた床にも、所々に平たい魔石が嵌め込まれていた。

また、室内も、外側と同じようにきらびやかな魔石があしらわれた魔石灯や魔法に使うような道具が整然と置かれていたり、薬草や魔法薬品の様な匂いがしている。

その隣の、奥の部屋には魔法書や歴史書など、かなりの蔵書が見え、彼女がかなりの研究者若しくは知識人であることを物語っていた。


最初にそれぞれの自己紹介をしてから本題に入る。

シンディーナは蔵光に、この村に来た目的を聞いてきた。

「で、今日はどういった事を?」

「実は…」

蔵光はこれまでの経緯と、邪悪の神ガロヤスミカンダや黒龍に関する情報を集めていることを簡単に説明した。

ただ、驚いてはいけないので、横にいるザビエラが魔族で勇者であることは伏せていた。


「なるほど、この地や、すぐ隣のタイトバイトスもその昔、黒龍による被害が多かった土地ですので、文献にいくらか残ってはおりますが、最近では龍自体の目撃情報などが減ってきていますし、元々、黒龍に関する情報のやり取りは危険なため、世界中で禁止されていますから、その中で情報を得るのは、なかなか難しいでしょう。あと、今言われた『絶対悪』については、ジパング王国のエージさんが言っておられたという話以上の情報は持ち合わせておりませんが…」

とシンディーナが言うと、奥の部屋に入っていった。


部屋から出てくると、シンディーナは羊皮紙で出来た一冊の本を持ってきた。

それをみんなの座るテーブルの上にドサリと置いた。

かなり大きく古い本で、羊皮紙のためか分厚さもかなりある。


「確か、この本に書いてあったと思ったんだけど…」

と言って、シンディーナはその本のページをペラペラと開きながら、何かを探している。

「あー、っとこれだ!『七つの邪悪の神の伝説』。これに、確かガロヤ何とかという邪悪の化身が出てきたと思います。」

「『七つの邪悪の神の伝説』?」

「ええ、この本は、千年以上も昔に書かれたもので私の師匠から代々受け継がれてきた本で、この本の中には、神様と邪悪の神の戦いが出てきて、最終的には勇者に封印されるところまで記載されています。」

そういうと、シンディーナはそこに書かれている邪悪の神と勇者の戦いの物語を読み始めた。


そこには、途中から、こう書かれていた。


ーーー◇◇◇ーーー

その昔、神同士の争いがあった。

自分達が治める世界をめぐって、様々な神、つまり八百万(やおよろず)の神が争い、そこから一番罪が重いとされた七つの神が地の牢獄に繋がれた。


七つの神は、地の牢獄に漂う黒き糸を糧として、その地に巣喰う悪魔と呼ばれる者達を配下に従え、自分達を地に落とした神を呪い、それを敬う人間を憎んだ。

彼等は人間に備わる負の感情やそれにより引き起こされる全ての負の事象にその黒き糸を細く長く巻き付かせ人間を奈落の底へ引きずり込もうとする。


破壊、殺戮、混乱、汚染、苦痛、腐敗、堕落、混沌、怨恨、恐怖、苦痛、貧困等


それらが七つの邪悪の神の糧となり目となり耳となった。

黒き糸となって…


邪悪の神は強大な魔力を持つが故に、神と同じく、現世において、姿を留められず、魔界からは出ることは出来なかったが、七つの邪悪の神のうち、混沌や混乱などから生まれた邪悪の神が、この地を我が物とするために天界の神の隙を見て、自らの『化身』を世に放った。

また、その邪悪の神は、その『化身』を助けるための悪魔達を使役した。


土の神ハニヤマヒメは、絶対神ラーの命により、その『化身』に対抗するため勇者に強大な力を与えると、『化身』や邪悪の神が使役する悪魔達との戦いに備えた。


ーー◇◇◇ーーー


水の神ミズハノメは、太古より龍神の血をひく眷族に力を与え、魔界より出でし、漆黒の邪龍を追いかけていた。

漆黒の邪龍は魔界より出でし黒き糸を糧として産み出され、地上の生き物を喰らい尽くし、水の神を信仰する人間を根絶やしにしようとした。

ミズハノメはそれを食い止めるため、ハニヤマヒメの協力を得て、龍神の眷族が漆黒の邪龍を打ち倒し、魔界へと繋がる黒き糸が産み出される地上のひび割れを閉じていった。


だが、この黒き糸の力がさらに強くなる時、漆黒の邪龍も更なる力を魔界から得て、邪悪の神の化身の手助けをするのだった。

また、この時、光に背きし一族の者達の多くも魔界に導かれ、邪神の先兵となる。


邪悪の神は混沌の中から生まれし神であり、光と闇の関係を乱し、地上に混乱と秩序を失わせようとしていた。

だが光と闇は表裏一体、光が無くては闇も存在しない。

そのため、火の神カグツチから生まれし、闇の神クラオカミは光に背きし者達の中に僅かにいた火の心を持つ者に力を与えた。

勇者は、元々が人間であるが故に、神の与える強大な力を全て受け入れる程の『器』がなく、一人では化身に勝つことはできなかった。


勇者は強大な邪悪の神の化身に対抗するため、龍神の眷族と闇から生まれた火の神の眷族の助けを受けることとなる。

その者達は勇者を助け、再び生まれ出でた邪悪の化身と戦い、勝利した。


だが、邪悪の化身はその死に際において、呪いの言葉を発して亡くなる。


『栄枯盛衰、万世は繰り返す。いつの世にか、我が魂を受け入れる者が現れ、我の黒き糸が必ずやその者を探し出し、我の意思を継ぐであろう…それまではお前達にこの地を預けておく…』

と…


この後、水神ミズハノメは、黒き糸の番人として龍神の眷族に現世に姿を留めることができる最大の水神の力を分け与え、土の神は大地の力を、闇の神は名を与えた。


ーーー◇◇◇ーーー


シンディーナが、

「蔵光様達の話と、この本の内容を見て判断する限りでは、今回は七つ存在するとされる邪悪の神のうちの一柱であるガロヤスミカンダという者が再び力を付けたということのようですね。あと、黒き糸が恐らく『負の魔素』や『悪魔素』のことであると思います。そして、『地の牢獄』とは『魔界』を指すのではないでしょうか?」

と説明する。


「これによると、蔵光さんはミズハノメ様とハニヤマヒメ様からそれぞれ力をいただいた龍神の眷族ということでしょうか?」

と話を聞いていたヴィスコが尋ねる。

シンディーナも水無月一族の使命についてはジパングに訪れた際に聞いて知っていたので頷く。

「そうですね、龍神とは、元々、地上に住んでいた龍が善行を積み上げ、水神の元で神となり、その後、人間に生まれ変わったといわれています。ただ、その者は普通の人とは違って強い力を持ち、『神通力(じんつうりき)』というものを持っていたと言われています。」

「神通力?」

「ええ、その名の通り、『神に通じる力』、恐ろしい程の力を持っていたと言われています。」

「ああ、なるほど、それが例の蔵光さんの怪力なのね。」

とヴィスコが蔵光のスキル『超剛力』のことを思い出して納得する。


「この本を読む限りでは、神は地上に降りてこれないのですか?」

とさらにヴィスコは質問する。

「ええ、そうみたいです。神や邪悪の神の様な魔力が高い高次元の存在は地上で姿を維持できないみたいです。」

「だから、代理戦争のような事をさせるのですね。」

「ええ、そうだと思います。」

「自分達が直接ケンカ出来ないもんだから、私達のいる地上や私達を道具に使っているんでしょうかね?」

と蔵光が鋭く突っ込むとシンディーナは焦った様に、

「えっと、そ、そうですね。でも、それは蔵光様は言わない方が良いのでは?この世界を造り上げたのは神ですから、自分達の所有物を守るのは当たり前でしょうし、この世界が無くなると困るのは神ですから。」

とフォローする。

「だったら、自分達で戦えば良いのに。」

と蔵光が言うと、

「それをするためには、地の牢獄にいる邪悪の神達を天界に引き上げなければなりません。ただ、それをすれば、この世界が直ぐにその邪悪の神達に破壊されてしまうのはを目に見えていますからね。」

「じゃあ、その『魔界』より邪悪の神の力が及ばない場所に繋ぐというのはどうなのかな?」

「それも、無理でしょう。黒き糸は人の負の感情そのものですから、どれだけ離れていても、それは無くせないし距離や場所は関係ないのです。ですから、『魔界』が神に対する絶対隔離の場所なんだと思います。」

「うーん、じゃあ絶対神ラーの力で消滅させるのは?」

「蔵光様も中々恐ろしい事を言いますね。それをしたら、他の神々も消し飛んでしまうでしょう。」

「え?どうして?」

「この本にも書かれているとおり、光と闇は表裏一体なのです。闇が無くなれば表も無くなるということですね。」

「うわー面倒くさい話だね。」

蔵光は嫌そうな顔をする。

「だから、彼等、つまり邪悪の神のすることを神は根絶が出来ないのです。」

とシンディーナは話を(しめ)る。


「あの…光に背きし者達というのは?」

今度はザビエラがシンディーナに尋ねる。

「恐らくは魔族のことを言っていると思います。」

「やはり…」

ザビエラも納得する。

まだシンディーナにはザビエラの正体は明かしていない。


「と言うことは、魔族はここにある『闇の神の眷族』ということになるんですかね?」

と蔵光が聞くと、

「ええ、恐らくそうだと思います。その魔族の者の中に火の心、つまり火の神の力を受け継ぐ資格を持っている者がいて、それが『闇の神の眷族』、正しくは『闇の中から生まれた火の神の眷族』と言われているのでしょう。その者が黒き糸を手繰り、彼等、つまり黒龍や悪魔落ちと呼ばれる者達を探してくれるという訳なのでしょう。」

とシンディーナは答えた。

「火の神の力とは?」

「その事ですが、この本では、元々火の神は恐ろしい程の火炎の力を持ち、その力は魔界から来る黒き糸を受け止め、全てを焼き尽くすとも言われていて、それが故に人間の勇者では到底、火の神の力の全てを受け止め、扱うことが出来ないと書かれています。ですが、私の考えでは、魔力値の高い魔族ならば、黒き糸を受け止め、尚且つ火の神の力を受け継ぐ『器』、つまり資格があるのではないかと推測します。私は魔族の事はよくは知りませんが、魔族は蔵光さんが封印しているあの『負の魔素』にも耐性があるとも言われていますので。」

「ああ、だから」

とヴィスコがその話を聞き、ザビエラ達魔族が負の魔素に耐性があることに納得した。


「火の神の力は火の魔法とは違うんでしょうか?」

ヴィスコが尋ねると、

「火の神の力は、古代魔法の火の魔法に近い存在らしいですが、古代魔法の様に長い詠唱を必要としません。炎の力もかなり強く、特別な力と考えられています。」

「そうなんですか。」

と魔法オタクのヴィスコが目を輝かせながら話を聞いている。


「ですが、彼らの中から火の心を持つ火の神の眷族を探すのは至難の技でしょうね。彼らはあの恐ろしい魔の大森林地帯に住んでいますからねぇ。それに、火の心を持っていたとしても火の神の力を受け継ぐ資格を持っているとも限りませんし…」

とシンディーナが言うと、蔵光とヴィスコは笑いを堪えるような顔になる。


「どうしました?私、何か面白いことでも言いましたでしょうか?」

「あ、いや、そうではないんです。運命とは凄い事なんだなと思いまして。」

「?」

シンディーナが不思議そうな顔をする。


「その、火の神の力はどうすれば使えるとかはわかるのですか?」

とザビエラがシンディーナに尋ねるとシンディーナは、首を振りながら、

「先程も言いましたけど、残念ながら人間には使えません。」

「あ、いや使える使えないではなく、使い方です。」

「え?使い方ですか?えっと、それは…」

と言いながら、先程の本のページをさらにめくる。

「うーん、先程話が出ていた勇者が持っている武器ですかねぇ…あ、これだ。」

と言ってページを(めく)る手を止める。


「えっと、『~勇者は、闇の神クラオカミが火の神カグツチの助けを借りて造り上げた火の神の力を宿した武器を掲げた。すると、そこから数多の光が溢れやがて一つの道を指し示した。それは邪悪の化身の居場所を暴き、逃げ道を失わせた。~』って書いてあるけど…この記述は間違いですね。」

と言ってシンディーナは眉を寄せて頭を傾ける。

「間違いって?」

ヴィスコはその記述で大体、答えがわかっていたが、シンディーナの見解だけは聞いておきたかったのだ。


「勇者が持っている聖剣には、火の神の力は宿してはいない…というか、ここに書かれている武器というのは『闇の中から生まれた火の神の眷族』が使う武器の事ですから、この『勇者が武器を掲げる』という記述には矛盾があるという事なんです…」

「ああ、そういう事なんですね。」


つまり、『闇の眷族』たるザビエラが勇者でないと、この記述は成立しないという事であり、シンディーナはザビエラが聖神力を持った闇の眷族から生まれた勇者であることを知らないため、この記述が矛盾していると言っていたのだった。


だが、ガロヤスミカンダが自分の化身をこの世に解き放っているであろうということや、ザビエラの武器が彼等を探すことができるものであるという事等がわかっただけでもここへ来た甲斐があったというものである。


「ありがとう、シンディーナさん、とても助かりました。」

「えっと、私は特に何も皆さんにお役に立てるような事はできなかったですけど…」

とシンディーナは不思議そうな顔をした。


「いえ、十分です。これで奴等を追い詰められます。」

ザビエラが手に持っていた『聖槍デスフレア』をシンディーナの目の前に持っていき、それを見せる。

その先端には小さな炎がゆらゆらと灯っていた。

「え?それって…も、もしかして、あなた…」

ザビエラの顔とデスフレアを交互に見ると、シンディーナの表情に一瞬動揺が走る。

だが、すぐに全てを悟るかの様な顔になり、


「なるほど、わかりました。確かにあの記述は間違いではなかったということですね。私も運命とは凄いと初めて思いました。」

と頷いた。


蔵光達はシンディーナに礼を言って、村を後にした。

そして、これから始まる邪悪の化身との決戦を前に一度、ギルレアへ帰ることにしたのであった。





ト「へぇー私達って『闇の眷族』だったんですね。」

マ「ヴィスコも色々、話が聞けて良かったね。」

ヴ「まあ、それよりもシンディーナさんの家に、水洗トイレがあったことに救われたわー。」

ト「え?あの家にあったの?」

ヴ「盗賊とかに狙われないように、あのように魔法で村を貧しい村に擬態化してただけで、実際はもっとちゃんとしてて、シンディーナさんの家には水洗トイレだけでなくジパングの魔導機械が結構入ってた。」

マ「すげえッス、さすが有名魔法使い。」

ヴ「まあ、あの後、色々と蔵書とかも見せてもらったし、また来てねって言われた。」

良かったねーそれはここで言わなくても、本編で言っても良いのでは?


ではまた次回まで(*・ω・)ノ



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