第15話 指定クエスト
次の話やっとポチれました。
第15話 ~指定クエスト~
指定クエスト…Fランク冒険者のみ受注可能のクエストで、お試し採用期間中であるFランク冒険者が、今後、冒険者として活動ができるかどうかといったものを冒険者ギルドが見極めるために設定された特殊クエストで、これに合格しない限りEランク以上のランクへの昇格はない。又、一度、Eランク以上へランクアップした場合、降格はない。(代わりに資格剥奪、罰金等の措置あり)併せて、指定クエストにはクエストの失敗というものはないので、何度でも挑戦できる常設クエストとなっている(時々内容に変更あり)。……(冒険者ギルド規約から抜粋)
蔵光達が冒険者ギルドの適正検査を受けた次の日の朝、拠点となった『海老の尻尾亭』という宿屋で朝食をとってから、冒険者ギルドタスパ支部へと足を向けた。
ギルドの受付では、既に受付嬢のアロマが営業笑顔で対応をしてくれた。
「おはようございます。水無月様!昨日はお疲れ様でした。本日はF級用の指定クエストをご用意しておりますので、ご覧ください。なお、このクエストは特殊クエストになりますので、もし失敗してもペナルティはありませんし、何回でも挑戦できるようになっています。」
こう言いながら、クエストメニューを出してきた。
クエストは以下の通り。
○Fランク指定クエスト
・タスパ公園のゴミ拾い
・商業ギルドへの商品搬送
・タスパ山のウサギ狩り
・国営農場の草刈り
・孤児院の子守り
・皿洗い(指定飲食店)
・害獣駆除(街区内)
となっていた。
「この中から、2つクリアすればいいみたいだね。」
蔵光は補足を入れる。
「この中には失敗しやすいクエストも混ぜられているんでしょうな。」
と誠三郎が言ったので、蔵光が聞いた。
「失敗しやすいって?」
「ええ、何度でも挑戦できるということは、失敗しやすい、若しくは必ず失敗することを前提とした難易度の高いクエストがあるのではないかと思うのですが。」
「なるほど、となると、ゴミ拾い何かは、『価値のあるもの』をゴミの中に混ぜているとか、商品の搬送なんかは『最初から商品が壊れている』とか?」
「ありえますな。」
誠三郎が指先でアゴヒゲをつまみながら頷く。
「とりあえず、若がクリアできそうなクエストとすれば、『ウサギ狩り』と『害獣駆除』あたりですかな。」
「うーん、これって魔法を使っちゃいけないのかなぁ?」
「私はいいと思いますが、王鎧様の言いつけには背くことになりますな。」
「うーん、よっぽどの事がないと、じいちゃんは許してくれないだろうな。」
今回の武者修行で蔵光は、魔法の使用を祖父の王鎧から制限をかけられているため、滅多なことで使用できないのだ。
無制限に使えるようにしたら下手をすれば街が一個消滅する可能性があるためとのことらしい。
「そんなん簡単やん。」
と横で話を聞いていた。ゼリーが話に割り込む。
「えっ?どういうこと?」
蔵光がゼリーに聞き返す。
「ワイが魔法使うたらええねん。従魔やし、かまへんねんやろ?従魔を使うんわ?」
ゼリーは過去に飲み込んだ魔法使いの知識を引き継いでいるため、多少であるが魔法が使えるのだった。
「そうか、その手があったか!」
蔵光は拳を握りこんでガッツポーズをした。
「では、このクエストを受けましょう。」
こうして、蔵光達は、クリアできそうなウサギ狩りと害獣駆除のクエストを受注した。
蔵光達は、冒険者ギルドでクエストを受注した後は、ギルドの建物から出て、北方向へ移動しながら、受付で渡されたクエストの詳細な内容が書かれた紙を、誠三郎が確認し読み上げた。
「まずは、手始めに害獣駆除のほうのクエストを先にやろうかなと思うのですが?」
「害獣駆除かあ。」
「はい、今回の駆除対象が『ドブゴキブリ』という昆虫らしいです。」
「ドブゴキブリ?」
「ええ、何でもこのクエストの内容によりますと、『ドブゴキブリは家の排水溝やドブ川の壁等に張り付いて、流されてくる残飯等を食べる昆虫で、最近では、家の中にまで上がり込み食べ物を食い荒らす状態であり、このままドブゴキブリが増え続ければ、疫病が発生して大変なことになるので駆除をお願いします。』と書かれています。」
「厄介だなぁ。」
「ホンマ厄介やな、こんなんワイしかでけへんやん。」
「そうだな、ゼリーお願いします。」
そう言って蔵光はゼリーに手を合わした。
「まかしとき!」
そういって、ゼリーは小さい手を丸めて親指を立てるような仕草をした。
蔵光達は、冒険者ギルド前の道を北へ進み、ドブゴキブリがよく出没するという、『タスパコラタ川』へ向かった。
この川は、あまり大きくないが、それでも大体川幅が約20m位はあり、タスパ地区とルーケイースト地区というスラム街との境を流れていて、川の両岸に建っている家から排出される汚水が、ドブ川を伝って流れ込み、ドブゴキブリもその流れに沿うように繁殖しているということであった。
ゼリーが何故、『ワイしかでけへんやん。』と言っていたのかその理由が、この後、わかることとなる。
「着いたぞ。」
蔵光らが、ギルド前の大通りを通ってタスパコラタ川にかかる橋のところまでやって来た。
川を見ると確かにかなり汚れた川である。
臭いもかなりの悪臭で、害虫もそうであるが、疫病が出てもおかしくないレベルであった。
蔵光が橋から川の方を覗き込む。
「うーん、あまりよくわからないけど、ドブゴキブリいるのかな?」
確かに、パッと見は、ドブゴキブリ一匹の影すら見えない。
「まあまあ、主ぃ、ワイにまかしときって。」
そう言うと、ゼリーは橋の欄干の上に飛び乗った。
そして、呪文を唱える。
『生命体感知』…術者を中心に生き物の位置を正確に捉える魔法。
ゼリーは過去に蔵光に敗北し、従魔となったが、元はエンペラースライムという最強最悪のスライムであり、基本的な魔力値はべらぼうに高く、また以前に飲み込んだ魔法使いの知識と相まって多種多様な魔法が扱えるスーパースライムネコなのだった。
蔵光と戦ったときは、魔力値の差や相性などでゼリーの魔法『霧風』とかは全く蔵光には効かなかったが、本来はそこら辺の魔法使いよりかなり優秀な魔法使いと言っても過言ではないであろう。
なのである意味、蔵光より器用貧乏的でかなり便利である。
「うわっ、おったで、結構おるし、一匹一匹が、かなり大きいな。一匹10㎝以上あるんとちゃうか?」
「10㎝?」
蔵光もその大きさに驚く。
「虫の割にはでかいな。」
誠三郎も目を丸くする。
「半径1kmに約2000匹位いるかな?」
「2000匹?!」
蔵光と誠三郎がその数に驚く。
「ちょっと退治してくるわ。」
こう言うとゼリーは、橋のすぐ下に見えていた排水の排出口の中に飛び込んで行った。
その姿は本来のスライムのようなアメーバー状態であった。
ゼリーは、蔵光から敗北したときに、ネコボディを与えてもらい非常に気に入っていたが、排水溝内では、溝が狭くてネコボディだと通れない場所もあるため、元々のアメーバー姿に戻っていたため、
「あぁー嫌やわぁ、せっかく主からネコの姿に変えてもらったのに、何でわざわざ元の姿にもどらなあかんねんや。」
とボヤきながら、排水溝を進んでいく。
すると、ゼリーの目の前にドブゴキブリが何匹か動いているのが確認できた。
「いたでぇ…」
ゼリーがドブゴキブリの姿を確認した瞬間、ドブゴキブリの姿が消えた。
「あんまり、美味くないのぉ。」
ゼリーは体の一部を触手のような伸ばしてドブゴキブリを捉えて、一瞬にしてドブゴキブリを体内に飲み込み捕食、消化していたのだった。
また、それに加えて、排水溝内に貼り付いた食べ物のカスや、排水溝内の汚物、汚泥等々を移動しながら削り取っては吸収し、さらに、体内の強酸を使って排水溝内を高密度で殺菌洗浄し、新品とまではいかないものの、かなりのレベルで綺麗にしていった。
一家に一台、いや一匹欲しいものである。
これが、蔵光には出来ない、ゼリーだけしか出来ないという理由であった。
ゼリーは蔵光に敗北したときは、体内の水分の抜き取りに併せて、体を無害な中性に変化させられ、実は魔法使用の能力も奪われていた。
だが、従魔になったとき、体を元の強酸の体に戻してもらい、魔法については最近まで蔵光が制限をかけていたが、その後、蔵光の許可があれば自由に使えるように制限も緩和してもらっていたので、今回のように、姿の変化や生命体感知等の魔法が使えたのだった。
ゼリーの力で、蔵光らが立っていた橋の下あたりの排水溝では、ドブゴキブリがみるみるうちにいなくなり、排水溝自体も完全に殺菌洗浄され、疫病の恐れも回避された。
ゼリーはさらに、場所を変えドンドンと付近一体のドブゴキブリを駆除、排水溝の殺菌洗浄をしていく。
しかし、ここでトラブルが発生した。
場所はルーケイーストのスラム街で、本来はタスパの街区内のみでの駆除というクエストであったが、今後の事を勘案して、スラム街の方のドブゴキブリ駆除等もしてしまおうということにしたのだったが…
ここはスラムというだけあって、人々の生活レベルは低く、病人や孤児も溢れ、併せて殺人、強盗、窃盗などの犯罪も頻繁に発生し、中流生活の人間はまず近寄らない。
そして、そんな状態の街だからこそ、衛生状態も非常に悪く、街の中心にある共同の井戸はもう何年も前から雑菌で汚染されて使用できない状態であり、街の者は遠方の山や森の方へ行き水を汲みに行くか、橋を渡ってタスパの街の井戸まで水をもらいに行くといった具合であった。
そして街中は、仕事にあぶれたものや老人が生きる力を無くして路上に座り込み物乞いをするなど、街には全く活気は見られず、路地には人影もなく恐ろしく寂れた印象を与えていた。
「主ぃ~面倒なことが起こったでぇ」
ゼリーが蔵光に水魔法の一種である『水蓮花』という通信の魔法を使って連絡してきた。
この魔法は、ゼリーの体の一部を蔵光の体に引っ付け、糸状に伸ばした状態のものに思念や声を伝わらせて会話をするというゼリーの体の特性を利用したオリジナル魔法である。
元々がゼリーの体の一部であり頑丈かつ、伸縮性に優れているため、距離も大体1kmは延長することが可能で、それ以上になると、音声の質はやや悪くなるが、ゼリーの身体の一部が自然と分離して相手方に通信端末(子機)として残るという優れものである。
現在の状態はまだ糸が繋がっている状態で音声はクリアであり、ゼリーの言葉がハッキリと聞こえた。
「ゼリーどうしたの?」
「ドでかいネズミや。」
ゼリーの声が糸を伝わって聞こえてくる。
「ネズミ?」
普通のネズミであれば大したことはないが、ゼリーの口調に緊迫感があったので、蔵光が聞き返す。
「そうや、しかもコイツ魔物やで。」
「えっ、魔物?」
「ああ、それもワイと同じ臭いのする奴ちゃで。」
「えっ?」
「コイツ、相当体に悪いモン溜め込んどるみたいやで!」
「悪いモンって?」
「まぁ、恐らくやけど病原菌みたいなもんやろな。」
「病原菌?」
「ああ、主はあんまり知らんやろうけど、疫病とかはな、目に見えん小さな菌と呼ばれる生き物から発生するんや。これは人に感染ちゅうて、人の体に取りついては死に追いやり、そしてさらには人に次々と伝染していくという厄介な奴や!」
「えっ?そうなの?」
蔵光の表情が曇る。
この世界では、疫病は『呪いとか祟り』といったものによるものが原因と解され、ドブゴキブリ等は『呪いの結晶、死の使い魔』、排水溝の汚れは、『恨みや怨念など負の感情等による穢れ』によって汚れていくと考えられているため、ゼリーの言葉は非常に斬新かつ、衝撃的であった。
そしてゼリーはさらに話を続ける。
「そうや、この話はワイの体の中で亡くなった魔法使いの知識の一つで彼女はその手の研究もしてたみたいなんや。それに、その防止方法とかもな。」
「それは凄いって言うか、その魔法使いって女の人だったの?」
「そうやけど、ワイ、男って言うたか?」
「いや、言ってないけど…」
口の悪いのは前からだが、ゼリーの主を主とも思わないような辛辣な言葉に蔵光が口ごもる。
ただ、ゼリーはそんな話よりも目の前の面倒事に思考が集中しているのもあって、この様なキツめの言葉になってしまっていたのだ。
「まあええわ。それよりも、どないする主?生き物っちゅうか、病原菌を無視して魔物倒してもエエんか?」
蔵光も直ぐに気を取り直してゼリーの問いに答える。
「まあ、魔物だったら駆除しても大丈夫だとは思うけど倒した後に、その病原菌とかが周りに広がったら問題だな。防止方法とかを研究してたって言ってたけど、どうすればいいんだ?」
「それなんやけど、奴の体全体を包み込んでから高熱か強い酸か何かで完全に奴の体ごとその病原菌を死滅させれば大丈夫なんやけど、実はそこが問題なんや!奴の動きはかなり素早いんで、魔法とかで何とか動きを止めたいところなんやけど、ここは狭いし、魔物のクセにワイのこと見て直ぐに逃げよったから、多分、自分より強いって本能的にわかったんやろな。せやから奴を魔法とかでも捉えるのは少々難儀やな。」
ゼリーと言えども狭い排水溝で魔物を駆除するために魔法とかを使ったら排水溝は大破し、ネズミの体内の病原菌も周囲に飛散し、スラム街を中心に疫病が拡がり大惨事になることは間違いない。
「うーん、それだったらゼリーだけにそいつを任せられないな。」
「主は魔物やったら魔法使ってもエエんやろ?」
「うん、じゃあ作戦変更で、ゼリーはそのネズミの位置を探知してもらって、どうにかして外に出すことはできないかな?」
「せやな、今おる場所がスラム街の真ん中の井戸の辺りやから、ワイが奴を追いたてて、そこから外へ追い出すわ。そこで挟み撃ちにして、サクッとやっつけたってえな。」
「井戸から?大丈夫かな?」
「ああ、そうや井戸っていっても、もう何年も使ってなさそうな井戸みたいやで、ゴミが溜まってるし、水もほとんど無いんで、横穴から出せると思うわ。」
「わかった、じゃあ頼む、俺とセイさんはスラム街の方へ移動するから。」
こうして、蔵光と誠三郎はゼリーの後を追ってスラム街ルーケイーストの中へ足を踏み入れることとなった。
ちょっと投稿に時間がかかったわ。
ゼ「遅いわ!せっかくワイの活躍が見せ場やのに。」
ゴキブリバスターやな
ゼ「うっわー、なにそれ、何かひっかかるわ~。ワイ、めっちゃ傷つくし~。」