第149話 ギズモワール村の魔法使い
新たな魔法使いが登場します。
第149話 ギズモワール村の魔法使い
ヘルメスや誠三郎らが、温泉街開発や暗殺者対策を講じていた頃、蔵光とザビエラはタイジャ・ジークの情報を入手するため、ヴィスコが操作するマソパッドにより、負の魔素が急激に増加している不審な場所を特定してから、その場所へ確認しに行くという作業を繰り返していた。
それらの現場には、マソパッドの関係もあり、ヴィスコを同行させていたが、ヘルメスの時と同じように、蔵光がヴィスコの体内の水分を魔力操作して浮かせ、空中の移動をさせていた。
ヴィスコはその度に、蔵光の魔力操作を受けたが、やはり、既に魔力詮が開いていたので、あまり魔力値に急激な変化はなかった。
だが、空中移動をする度に感動するらしく、目をキラキラとさせていた。
今回彼等が向かっている先は、ヴェネシア王国の最西側にあるアズミノールという領内のギズモワールという村であった。
アズミノールはスプレイド領の隣にあり、タイトバイトス皇国と隣接している。
ただ、その北側にあるムラムス領にくらべ安定した場所にあり、魔物の出現率も少ないとされていた。
反対にムラムス領は、北西が、あの暗殺者グループの出身地であるグリエイドラという国と大きな山脈を挟んではいるが、国境が接しているため、あまり安定しているとは言えず、常に国境付近は緊張状態にある。
また、西側とはタイトバイトス皇国に隣接しているが、タイトバイトスでも有名な4つの森の内、東の森に近く、そこから漏れ来る魔物にも悩まされていた。
今はどうなっているのか不明だが、昔はそこに巣食う強大な魔物がいたらしく、以前は、それを抑える四大魔女の手により守られていたという。112
ギズモワールはアズミノールの北西にあるので、どちらかと言えばこの東の森にかなり近いが、昔に活躍したセイントマルクという魔法使いの直系魔法使いが住んでいるということで、村はその人物に守られているということであった。
蔵光達は、その東の森やこのギズモワール周辺にかなりの負の魔素の反応があったため、それの調査の前にギズモワールに立ち寄ったという訳なのである。
ここで、その人物から最近のこの辺りの事情を聞こうと言う予定であったのと、東の森は、一応タイトバイトス皇国の領内のため、検閲も無しに勝手に入ることは出来ないため、ここへ一旦立ち寄ったという理由もあった。
まあ、三人ともギルドの指輪を持っているので大した検閲も無いのだが…
蔵光達は空を飛んでいるところを見られて、人が驚かないように村の手前で地上へ降り立ち、歩きで村まで向かう。
この辺りは、スプレイド領の隣にあるとは言え、実際に隣接しているのは反対側のタイトバイトスの森の側であるため、山や森の比率が高く、見える景色も山がほとんどであった。
山道をザビエラが先頭で道を進む。
「ヴィスコ殿、どちらに有りますか?」
「えっと、少し先に出てますね。」
「わかりました。」
ヴィスコが手にしているのはもちろんマソパッドであり、村へ行く途中にある魔素口を探索しながら進んでいるのだ。
当然、村の方向もチェックしているが、この辺りは、負の魔素以外に濃い負の魔素『悪魔素』も噴出しているところがあり、かなり危険な状態となっていた。
蔵光らは、それらを確認しながら前に進んでいる。
「あ、ありました。濃いヤツですね。」
とザビエラが言うと、それに近付き、手に持っていた『聖槍デスフレア』を悪魔素に突き立てる。
すると、悪魔素は弾けるように霧散する。
そして、その悪魔素が吹き出していた魔素口を蔵光が封印する。
悪魔素は聖神力により消滅することがわかっているので、その力を持つ『勇者』となったザビエラに同行してもらっているが、それに加え、その場所から負の魔素が噴き出していても、改造魔石で吸収も出来るため、かなり優秀な人材である。
「これが増えているということは、『悪魔落ち』の魔族がこの近くに出現している可能性が高いんじゃないでしょうか?」
とヴィスコが自分の考えを話すが、
「確かに、彼等は悪魔素を取り込んで『悪魔落ち』になっているのは分かるのだが、魔族は日の光を嫌うから、このような日の当たる場所に出現しているかどうかはよくわからないな。」
とザビエラは否定的な見方をしていた。
魔族ならではの考え方だが、完全に否定している訳でもなかった。
「なるほど、言われてみればそうですよね。」
ヴィスコも頷いて納得する。
「でも、この魔素の噴き出す量の多さは異常だな。何か自然な感じがしない。」
と蔵光が言うとザビエラも、
「私もそこは同感です。ヴィスコの言うとおり『悪魔落ち』の魔族が関係している可能性は否定出来ません。」
「ただ、あのタイジャ・ジークが黒龍であるとして、ギルレア洞窟で、あの『悪魔素』の中で動いていたヒドラを操っていたのを考えるとやはり可能性は高いと思うんだけどな。」
タイジャ・ジークが龍族であることは、デルタの情報でわかったが、黒龍であるというのはまだ推測の段階であり、今のところ特定には至っていないので確証はない。
だが、先日、エージからマソパッドで『救いの神ガロヤ』という者の正体がわかったと連絡が入ったのだ。
エージの話では、
「『救いの神ガロヤ』は、恐らく『邪悪の神ガロヤスミカンダ』だと思われる。奴は、二千年に一度甦る『絶対悪』の一柱と言われていて、魔界に誕生し、悪魔落ちした魔族を使役して、この世を混沌に満ちた世界に導こうとする恐ろしい存在だと言われているんだ。」
と説明があった。
そんな恐ろしい存在が魔界から押し寄せてくるとなれば最大の警戒をしていなければならない。
特に、悪魔素は悪魔落ちした魔族にとっては物凄い力を与えてくれるが、人間や魔素に耐性の無い小動物にとっては、吸えば即死する程の致死性を持つ魔素であり、負の魔素以上に警戒しなければならないものであり、実際、森の中でかなりの動物がこの悪魔素の影響と思われるような状態で死んでいたのだ。
だから、そんなものが、この森の中に普通に噴き出している状況自体がとんでもない状況であることに変わりはないのだった。
蔵光達はその後いくつかの『魔素口』を封印しながら森の中を進んでいった。
当然、凶暴化した動物達もその周辺に何頭かいたが、それは仕方なく退治する。
蔵光達がいた場所は一応、道があるので、村に向かって進んでいるということだけはわかったが、下手をすれば、ヴェレリアント領内より森が深い所があり、馬車すら通るのが難しいのではないかと思われるような所が何ヵ所かあって、マソパッドが無ければ完全に迷子になりそうな箇所もいくつかあった。
だが、蔵光達は、マソパッドと生命体感知を駆使しながら、何とか森の中にある小さな村に到着した。
ギズモワール村は、人口が50人にも満たない小さな村であった。
ここには、現世ではかなり有名だと言われる魔法使いシンディーナという者が住んでいるという話で、これは魔法使いオタクのヴィスコ情報であったが、念のためにマソパッドでも調べたところ間違いなくこの村に住んでいる事が確認されていた。
「やっと着いたですう。」
ヴィスコが村の入り口を見て一瞬ホッとした表情となるが、すぐに暗い表情になる。
それは村が平屋建ての家ばかりであり、それも建物自体がかなり痛んでいて、正直裕福な村とは言えない状態であったからだった。
また高さが高い建築物と言えば、村の周囲を見張るための物見櫓くらいしかなく、村の周辺にも森しかないので、余程の物好きでないとこんな村には観光でも立ち寄らないだろうと思われるくらい貧相な村であった。
ここは、そんな村なので、風呂や水洗トイレなどは皆無と思われた。
あるのは通称『ボットン』と呼ばれる、縦穴式の便所くらいである。
当然ながら、水でお尻を洗ってもらえる機能がある訳でもなく、消臭剤や、爽やかな芳香剤の匂いもない。
あるのは便の悪臭と蝿の群れであろう。
そんな便所は以前までのヴィスコには当たり前であったが、もう昔には戻れない体になっていた。
最近のヴィスコは蔵光達のおかげで裕福というか衛生的な生活をさせてもらっている。
風呂や水洗トイレなど、上流階級の人間でも中々出来ないような生活をしている。
そんなヴィスコの目の前に絶望的な状況が立ちはだかり、ヴィスコの肩がガックリと落ちる。
村の周囲には、魔物避けとして申し訳程度の木製の柵が取り付けられていたが、スプレイド領の西の森に出現するような『マッドベア』等が出てくれば一貫の終わりと思われるような貧弱な柵である。
よく、こんな状態で村が維持されているなと驚きつつも、村に入っていく。
「あっ、結界!」
柵のさらに外側に防御結界魔法が張り巡らされていることに蔵光が気付く。
敵意がなければ結界は自分達を受け入れてくれるはずだ。
そう思い、とりあえず、防御結界魔法に触れる。
案の定、結界は蔵光達を弾く事なく、受け入れてくれた。
それは、不思議な光景であった。
村に入ったと思った瞬間、目の前にあった村の光景が、カーテンのように揺らぎながらまるでスクリーンに映されていた映像の様になる。
そして、そのカーテンの様な空間の揺らぎを抜けると、そこに美しい村の姿が現れたのだ。
外から見ると薄汚れた村であったが、結界の中に入り、よく見ればそれは先程までの古ぼけた様な村ではなく、まるで昨日、建てたばかりかと見間違うような建物ばかりが並んでいた。
村には花が咲き乱れ、村の者達が、畑で野良仕事をしている。
その顔には笑顔が溢れ、この村が良い村であることを物語っていた。
そこに声を掛けてきた者がいた。
「ようこそ、ギズモワールへ。」
声の主は美しい女性であった。
年の頃は20代に見えるが、よくわからない。
小柄だが、金色の長い髪に、整った顔立ち、スカイブルーの大きな瞳。
裾の長い白のドレスに、首には大きなルビーのネックレスを付けている。
「やあ、久しぶりだね。シンディーナさん」
と蔵光が口を開く。
それに驚いたのはその女性ではなく、ザビエラとヴィスコであった。
「えっ?もしかして蔵光さん、この村の事知っていたの?」
ヴィスコが両目を大きく見開きながら聞く。
ヴィスコは驚くと目を大きく見開く癖がある。
「いや、知らなかったけど、シンディーナさんは何度かジパング王国にやって来ていたから…」
「えっと、と言うことは?」
と言いながら、ヴィスコは目線をシンディーナに移す。
「ええ、蔵光様の事はよく存じていますよ。」
とシンディーナもヴィスコに両目を一回閉じて応える。
「蔵光様、ゼリー様は?」
シンディーナの方も蔵光だけでなく、ゼリーの事も知っていた。
「ああ、今はギルレア洞窟の近くで温泉街を作っているよ。」
「ふふふ、ゼリー様らしいですね。」
「えっ?ゼリーちゃんも知っているんですか?」
「ええ、ゼリー様は魔法の天才ですから、私も色々と勉強させていただきました。あれは確か、ジパングへ最後に立ち寄ったのは2年前くらいですから、私もその後に、ここへ定住しましたが、見ての通りのド田舎ですので、中々新しい情報も入らず、世間の話には疎くなってしまって…」
と話していたが、ここに住んでいるという情報をヴィスコが知っていた事に驚かされる。
「そうですか。でも元気そうで良かったです。」
「蔵光様もお元気そうで何よりです。でも、ようやく、外に出られるようになったのですね?」
「ええ、お陰さまで、念願の冒険者になれましたから。」
そう言いながら蔵光は左手の人差し指にはめているギルドの指輪を見せた。
「それはおめでとうございます。立ち話も何ですから私の家にお越しください。」
シンディーナはニッコリと笑いながら、蔵光達を自分の家に招いた。
家に着くまでの道々、美しい花だけではなく、道端の木々には綺麗な小鳥がとまり、美しい鳴き声を奏でていた。
そして、その最後には、物語に出てくるお菓子の家の様なカラフルな家が蔵光達を出迎えた。
それがシンディーナの家であった。
マ「ゼリーさんの知り合いでしたか。」
ト「と言うことは、シンディーナさんはチームゼリーの初代メンバーということですか?」
まあ、セイントマルクの直系だからね。
魔法使いの中から見れば身内みたいなもんかな?
ヴ「身内…つまりゼリーちゃんはマグローシャさんの弟子で、セイントマルクさんは弟子の弟子、私はマグローシャさんの孫弟子だからセイントマルクさんとは同格ですよね?」
ト「同格でも、多分資質が違うと思う。」
(・-・ )
マ「確かに。セイントマルクさんは天才だと聞いてます。」
ヴ「キー!悔しい!」
じゃ次回もよろしく!
(*・ω・)ノ