第146話 運命の人デルタ・グリード
やっと現れましたが、何やら訳ありな感じです。
第146話 運命の人デルタ・グリード
不意に声をかけてきた人物、それはギルガが恋にこがれていた人物、デルタ・グリードであった。67
「あ、あなたは、確か…」
デルタはギルガを見ると、ホッとしたような表情になった。
一方、完全に不意打ちを食らってしまったギルガはカチカチに固まってしまっていた。
ヘルメスもデルタと気付き声をかける。
「デルタさんと言われましたかしら?どうして、ここに?」
「ああ、よく私の名前を…、ありがとうございます。私は家に帰る途中でしたが…ここは一体?」
「家に?そうですか…ここは、開発中の街で、私達はこの仮設建物に寝泊まりしながら、ここで働いているんです。」
「へえ、スゴいですね、街をですか…」
デルタは月明かりが照らす温泉街を見渡す。
まだ、建物すら建っていないのだが…
「ここで立ち話も何ですから、建物に来てください。」
とヘルメスが案内する。
ギルガはようやく動き出すことが出来るようになってきたようである。
ヘルメスはデルタを仮設建物の中に案内し、皆が集まる大部屋に通した。
そして、お茶を入れたコップをデルタに出しながら、
「家に帰る途中と言われてましたけど、どちらに?以前、メトナプトラのクワッテ鉱山でお会いしたときは確か西の方面とか言われてましたけど?」
とヘルメスはデルタに尋ねた。
ただ、ヘルメスにとってここら一帯は地元であり、この辺りの事に非常に詳しいと言っても過言ではない。
何故ヘルメスがデルタの家の事に執着したのかということだが、理由があった。
「この辺りに村や街は無いんですけど、デルタさん、一体どこから来ておられるのですか?」
まあ、ヘルメスが疑うのも無理はない。
素性が不明な人物が自分達の領内でウロウロしているというのはかなり不気味だ。
「ヘルメス、この方は、その…」
ギルガもヘルメスにデルタは怪しい者ではないと言いたかったが、ヘルメスがデルタを追及している不審点に文句がつけられなかったからだ。
ヘルメスがデルタを不審に思った点は、最初に出てきたことも含めて、
・この辺りには村や街はひとつもない事
・暗殺者達がいた森付近から出てきた事
・その時、ヘルメス達に気付かれない程に気配を消していた事
・前回の出会いから考えれば本来ならばまだ、旅の途中であり、メトナプトラ内にいると思われるのに、何故かこちらまで戻ってきている。
・前回も思ったが、旅人にしては荷物が非常に少ない事。
など、敵ではないにしろ、デルタ・グリードには不審な点が多々あるのだ。
そのため、ヘルメスはその点をハッキリとさせるため建物に招いたのだ。
その点をヘルメスは指摘し、デルタに事情を話してもらおうとしたのだ。
当然ながら、自分達が、カリウスのいるスプレイド家から命を狙われていることも話した上での事であった。
「あ、ああ、なるほど、それで、私を…」
とデルタは自分の事を詮索してきた理由を知り、納得したようであった。
そして、しばらく考えたあと、静かに口を開いた。
「皆さん、黒龍という存在を御存知でしょうか?」
「えっ?」
デルタの口から黒龍という言葉が出るとは思わなかったため、そこにいたヘルメス、ゼリー、ギルガ、トンキは驚いた。
「私は、その黒龍を探しているのです。」
「あの…デルタさん、黒龍って龍ですよね?あまりその存在は知られていないと思うんですけど、何でまた、黒龍なんて存在を知っていて、それを追いかけているのですか?」
ヘルメスが尋ねる。
「そ、それは…」
デルタはその理由を言いよどむ。
黒龍を探していると言うことだけで納得してもらえると思っていた。
黒龍を探している理由まで聞かれるとは思わなかった。
何故なら、黒龍に関わること、それは龍族では禁忌とされている事であり、当然、人間界でも地域によっては喋ることすら禁じているところもあるそうである。
だから黒龍のことについて探していると一言言えば終わると思っていたのだ。
「黒龍を追っているという理由だけではここに貴方がいる理由にはならないということです。」
ヘルメスが追及する理由を答え、さらに話を続ける。
「黒龍という存在は、人間界ではあまり知られていません。負の魔素を大量に取り込んだ結果、その姿を変化させた龍の事をいうと、私も最近になってその事を知りました。貴方がその事を知っているという事は、貴方が龍に関係する存在であること、魔力値が1億3000万Mを超える龍種、つまり古龍であるからじゃないですか?」
ヘルメスがとうとう思っていたことをデルタにズバリぶつけた。
ギルガもその言葉を聞き、目を瞑る。
自分の一目惚れした相手が自分と同じ古龍であって欲しいとの思いと、そうでなかった時の、絶望感の狭間で心が揺れる。
ヘルメスの言葉で、一瞬、その場が凍りついたようにシーンとなる。
デルタの魔力値が1億超えであることは、ライズの街でコイバナをしたギルガ、ヘルメス、ヴィスコしか知らない。
なので、ゼリーやトンキには初耳であった。
「おいおい、それはどういうことや?」
「デルタさんが古龍って?」
その二人も驚いている。
だが、それを聞いて一番驚いていたのは当の本人であるデルタであった。
「な、なぜ、それを!?」
デルタはヘルメスから自分の正体を明らかにされて目を大きく開ける。
正体を明かされた緊張から汗が額に滲む。
「やはりそうでしたか…」
ヘルメスが納得する。
「貴方もジギンを?」
とギルガがデルタに言うと、デルタは座っていた椅子から飛び上がるように立ち上がった。
その顔には、驚きとともに得も言えぬような表情となる。
「や…やはりとは…?あなた達は一体?」
デルタはギルガから古龍の秘術である人化魔法『ジギン』の名前をギルガから出されたため、心臓を鷲掴みにされるような気持ちになった。
人間界では龍の存在は神のごとき存在と聞いていた。
だが、その体の素材を求め、それを捕らえるような輩もいると聞いていた。
まさか、彼女達がそうなのかと一瞬思ったのだ。
そうなれば、この建物自体が自分を捕らえるための罠ではないのかとさえ思えたのだ。
だが、それは直ぐに自分の思い過ごしだと気付き、再び席に戻る。
ヘルメスはデルタに、ギルガを示しながら、
「彼女の名は、ギルガンダ…今はギルガと呼んでいますが、貴方と同じ古龍です。」
と紹介した。
「ぎ、ギルガンダ?…も、もしやあの龍王ワダツミ様の?生きておられたのか?」
デルタはギルガの正体を聞き、また驚く。
あの水無月一族から逃れるためワダツミ達がギルス火山帯から移動をしたことは噂で聞いていた。
だが、それからの消息は途絶え、ワダツミ達は殺されてしまったのではないかと言われていた。
自分達の一族も最初の頃は事情も分からず、ただ、水無月一族を恐れ逃げ出していたため、その後の事は詳しくは知らなかったし、調べようもなかったのだ。
「貴方は、もしかして、マークス家の?」
とギルガが尋ねるとデルタは頷いた。
「はい、私の名はデルタ・マークス・グリードというのが本当の名前です。」
「マークス家?」
ヘルメスがギルガに聞く。
「あたしの父親が古龍の王族の頂点で、マークス家はそれに連なる王族の血筋になるのだ。」
「古龍の王族…」
「はい、私の父はシグマ、古龍の王の一人です。」
デルタがそう言うと、ギルガも頷きながら、
「お父様からよく聞かされていた。私達古龍にはいくつかの王族がいて、ギルス火山帯に住んでいたと…そして、そのうちのひとつにマークス家という家系があったと。」
と話した。
「ええ、そうです。そして、私達もギルガンダ、いえ、ギルガ様と同じように、水無月一族から逃れるために各地を転々としておりました。」
「なるほど、と言うことは家族の方は健在で?」
とヘルメスが尋ねるとデルタは、
「はい、何とか今のところは…今は龍の墓場と呼ばれる火山地帯に母と隠れ住んでいます。」
と答える。
「あーなるほど、確かに龍の墓場は、この近くだ。」
とヘルメスは、デルタが家に戻る途中であると言っていた言葉が本当であったと納得する。
「何故、黒龍を?」
ギルガがデルタに尋ねた。
一番の謎がそこにある。
黒龍でないものが黒龍を追う理由。
デルタが言い辛そうに唇を固く閉じる。
だが、意を決したように話し始めた。
「…実は、私が探している黒龍とは、ラドラ・マークス・グリード、私の実の兄です。」
「な、何やて!?兄貴やて?」
ゼリーもこれには驚く。
「私達がギルス火山帯に住んでいた頃の事です。ある日、突如として、負の魔素が火山帯の各地に吹き出し始めました…」
こうしてデルタから語られる話は、水無月一族の誕生に深く関わる話であり、ヘルメスには初めて聞かされる話であった。
それは、世にも恐ろしい黒龍の伝説であった。
所謂、『龍の災厄』と呼ばれる言い伝えである。
約2000年前、ギルス火山帯には数多くの龍族や古龍族が暮らしていた。
ワダツミやギルガ等が住んでいた火山とデルタ達が住んでいた火山は別であったが、負の魔素は特にデルタ達の住む火山付近に多く噴出していた。
負の魔素は以前から知られていて、少し程度なら身体に大した影響もなかったし、しばらく時間が経てば、噴出が収まるので、そのままにされていた。
だが、この時の噴出は全く止まることなく、負の魔素は吹き出し続けた。
すると、デルタの父、シグマの様子がおかしくなってきたのだ。
体が段々と黒っぽくなり、性格も荒々しくなっていった。
そして、ある日、シグマはギルス火山帯を飛び出して行ったまま、帰ってくることはなかった。
デルタが後で聞いた話では、シグマはギルス火山帯を飛び出した後、人間のいる街へ降り立ち、そこにいた多くの人間を食べていたという。
そして、最後には水無月一族と呼ばれる者達がシグマの目の前にやって来て父親を殺したと聞かされた。
当時、シグマが寝ていた場所付近に多量の負の魔素が噴出している事が分かり、デルタはそれがシグマを狂わせた原因である事を知る。
それは、自分の実の兄ラドラにも及ぶ。
ラドラも父親と同じ様に体が黒色に変化し、温厚だった性格が、凶暴化の兆候を見せ始めていた。
そんな頃だった。
水無月一族が自分達の住むギルス火山帯にやって来たのだった。
ヴ「ヒャーΣ(゜∀゜)キタヨ!キタヨ!」
マ「何かヴィスコがおかしくなってきてるんですけど?」(; ̄ー ̄A
ト「それは、ギルガさんの内心を表現しているらしい。」(ー_ー;)
マ「えっ?マジで?」( ̄▽ ̄;)
ヴ「(≧▽≦)キャー!」
このコーナーの顔文字にはまってしまった。
これは表情を言葉で表現出来ない自分の未熟さを証明しているようなものです。
では、次回はノー顔文字で頑張りたいと思います。
ではまた。⊂(・∀・⊂*)あっ!やってもうた。