第143話 恐怖の食事会
誠三郎が食事会に乗り込みます。
第143話 恐怖の食事会
食事会は、スプレイド家の本家となる父親の自宅となる
『グラーク家別館』
で行われる。
ルセウス屋敷も凄かったが、父親の屋敷もそれに勝るとも劣らない豪華さであった。
また屋敷の建っている敷地も広く、綺麗に整地された場所に緑色が鮮やかな芝生が張り巡らされ、綺麗に刈り込まれた植樹が規則正しく並んでいた。
その中に屋敷は建っていたが、さすが領主の屋敷と言わんばかりの大きさで、平地に建っているお城という表現が似合いそうな建物であった。
別館というくらいだから、『本館』もあるのだろうが、ここでは割愛する。
ルセウスが屋敷を取り囲む長い金属製の塀の一角に設けられた門を、高級魔導車で潜り抜けて、屋敷の入口前に到着した時、カリウスが驚いていた。
自分が雇った殺し屋に殺されていると思っていたのに生きていたからなのか、その思惑が外れたというような表情である。
「久しぶりだなルセウス。」
屋敷の玄関口の扉前にいたカリウスが声をかける。
その声はやや上擦っていた。
カリウスは身長が180㎝くらいの高身長で、かなりの肥満体であり、やせ形のルセウスとは対照的である。
カリウスもルセウスと同じ様に正装であり、髪の毛は短く刈り込み、整髪用の油でピッタリと髪を撫で付けている。
「兄さんこそ、元気そうだな。」
「かっはっはっ!当たり前だ。こんな日に家で寝ていられるか?」
カリウスの不敵なニヤつきが勘に障る。
「まあ、そうだね。」
ルセウスもニコッと笑い返す。
この二人の短い会話の中に、いくつもの攻防があった。
ルセウスの隣にいた誠三郎を見て、カリウスが尋ねる。
「んー?新しい用心棒か?」
と言いながら、品定めをするように誠三郎の顔の近くに自分の顔を近付ける。
「臭いぞ、豚野郎。」
誠三郎がカリウスをジロリと睨み、ボソリと呟く。
「な、な、何だ貴様は?!俺様を、だ、誰だと思っているのだ!!」
カリウスは顔を真っ赤にして怒っている。
「おい、ルセウス!何だこいつは?!」
「兄さんがさっき言った通り、新しい用心棒ですよ。先程も私を狙ってきていた殺し屋の首を跳ねてましたから、気が立ってますので、気を付けて近付かないと兄さんの首も飛ばされるかも知れませんよ。」
「なななな何を!」
カリウスは自分が雇った殺し屋が誠三郎に殺されたことを知ると逆に恐怖に顔を歪める。
不敬罪を問い詰める前に、今度は自分が殺されるのではないかと思ったのであろうか。
額に汗が滲む。
屋敷の廊下には三男のシグナスや四男のネルギスが立っていたが、ルセウスの言葉を聞き、カリウス同様、青ざめた顔をしている。
恐らくカリウスから、暗殺者グループを雇いルセウスを殺すというような話を聞いていたのであろう。
それであれば、ルセウスにその事を伝えていないので、自分達も共犯者である。
そんなことがバレれば自分達の命もないとでも思っているのであろうか。
彼らの前を通り過ぎるルセウスと誠三郎を目で追う。
その目には明らかに恐怖の色が浮かんでいた。
誠三郎はそれほどの脅威を兄弟達に与えていた。
というのも、噂で西の森で魔物に遭遇し、ルセウスの部隊が壊滅的な状態になった時、それを救った凄腕の冒険者がいたという話が出回っていたからだ。
流石に何十人という騎士や兵士が束になっても敵わなかった魔物に一人や二人の冒険者が敵うわけなど無いと思われたので、その話はデマと思われていた。
しかし、その本人と思われる冒険者風の侍が目の前に現れたから驚いたの何のって、彼等にとっては肝を潰さんばかりの驚きであり、脅威であった。
魔物を倒したというのがデマであったとしても冒険者が用心棒としてルセウスの隣にいるというだけで牽制になる。
それに、ルセウス程の男が雇う冒険者だ、只者でないことはその雰囲気からハッキリと認識できた。
それは、その姿が目には見えるのに何故か陽炎のように朧気で気配が捉えにくい。
それが逆に恐ろしさを強調する。
そして、ルセウスから告げられた、
『殺し屋の首を跳ねた』
という言葉は、ある意味、宣戦布告を受けたという意味にもとれる。
ルセウスの兄弟達にも用心棒はいるが、その護衛の者でさえ、誠三郎の姿は異様であり、プロであるが故にその底知れぬ誠三郎の実力に恐怖を抱く。
まあ、魔力を抑えているとは言え、今では魔王以上の魔力を持つ誠三郎である、ここの屋敷にいる全ての者を一瞬で殺せる程の力があるのだから、自然と身体全体がその危機感を感じ、抑えようとしても奥歯がガチガチと鳴り、体もガタガタと震える。
下手な事をして、いつ殺されてもおかしくない、そんな只ならぬ張り詰めた空気が屋敷内に漂っていた。
こうして、父親主催の食事会が開かれた。
ここは、屋敷の一階にある来賓用の部屋であり、室内の装飾も一流の造形師が何人も携わり、何ヵ月もかかって造られたもので、壁に描かれた絵画や柱の装飾は細密かつ鮮やかな色彩で描かれ造られ、天井のシャンデリアも光魔法を付与された魔石を散りばめた高級品であった。
また、調度品はどれも海外の一流品を取り寄せ、使用されているなど、今回の食事会が普通の食事会ではないことを皆に理解させていた。
「食べ物には要注意だ。」
誠三郎が席に着く前のルセウスに助言した。
「わかっています。」
と言いながら小さな透明の魔石をズボンのポケットから出してくる。
「それは?」
「毒を消す魔法が付与されている魔石です。」
ルセウスも毒入りの食事など食べたくはない。
「なるほど。用意がいいな。」
誠三郎が感心する。
しかし、親が招待する食事会に毒消しを持って行かなければならないというのも恐ろしい話である。
全員がテーブルに着席した。
後は父親のグラークを待つばかりである。
誠三郎は先程よりも更に、認識を阻害するような感じで、気配を消しながら部屋の隅に立っている。
気配遮断のスキルであり、それは言われてなおかつ、よく見ないとわからない程であり、部屋の中には、次に出す食事を準備するためのパーティションも立てられているが、それの陰に隠れなくても良いほどの気配の消し方である。
しばらくして、父親のグラークが奥の扉を開けて部屋に入って来た。
「待たせたな。」
そう言いながら、グラークは自分の席にドカリと座る
体格は兄のカリウスくらいの大きさはあるが、決してカリウスのような肥満体ではない。
ガッチリとした体格は、昔、かなり剣術などを
嗜んでいたような感じで、腕回りはかなり太く、身体や顔はやや日焼けした感じの色で、精悍な顔立ちをしている。
目付きは少々きつめで、口回りには立派な髭を生やしている。
グラークが席に着くと、早速、各人がまとめた事業のせいか報告書の読み上げが行われた。
読み上げはグラークの秘書が行うこととなっていた。
「カリウス様の魔石や鉱石の取り扱いについて報告します。まず、カリウス様ですが、前年度との比較は三割ほどですが、入荷及び出荷量が共に減少しています。なお、新規開発、その他の事業への進出との報告はございません。」
とその秘書が報告書の内容を簡潔にグラークへ説明する。
その中にあった『新規開発』とか『その他の事業進出』という言葉にカリウスがピクリと反応する。
「ちょっと聞いてくれよ親父殿!これは、単に領内の鉱石や魔石なんかの産出量が減っているだけなんだ。海外の魔石なんかもトライプに言って取り寄せたりしていて、利益は上げていたんだ。」
カリウスはあれやこれやと言い訳していたが、父親には通用しない。
「で、お前はそれに対して何か努力をしたのか?例えば他の鉱脈を探すとか、あの馬鹿者以外に海外と取引が出来る人間を使ってみるとか?」
「あ、いや、それは…」
カリウスは言葉に詰まる。
カリウスは父親の言葉に何も答えられなかった。
それは何の努力もなく、ただ漠然と父親の仕事を引き継ぎ、下の者にやらせていただけであり、そこに自分の意思はない。
今ある仕事をこなすことも大事であるが、今回、自分の息子達に与えた課題は、『自分の事業を引き継げる者』として成果を出すという事であり、後継者の選別ということでは、当然、スプレイド家の未来を託すための意味でも非常に大切な期間でもあったのだ。
当然ながら、経営者としては成長の無い者に仕事は任せられない。
グラークの言葉にはそういった意味が込められていた。
カリウスはそれがわかっていなかった。
「次にルセウス様の武器製造に関する調査結果ですが、カリウス様の鉱石の産出量の低下にともない下降気味です。ただ、品質については改良をしたものを色々と制作しておられます。また、先日、不幸な件がありましたが、西の森の開発は継続予定との事であると報告されておられます。」
それを聞くとグラークも、
「うむ、ルセウス、流石だな、西の森の件は残念だったがな。」
「は!ありがとうございます。」
ルセウスはグラークに頭を下げる。
カリウスはその様子を横目で見ながら、苦虫を噛み潰すような顔をしている。
「次に、シグナス様ですが、これもカリウス様の鉱石の入荷量に比例して防具関係の生産量が低下しています。併せてネルギス様についても同様です。お二人も新製品の作成や他の分野、への進出及び新規事業着手等の報告はありません。」
その他に、決算関係の報告などが終わると、他の兄弟達も父親に自分の存在をアピールしようとする。
「父さん、これはカリウス兄さんも言っていたように鉱石の産出量が減っているからなんだよ。そりゃ他の事業にも手を出したいのは山々なんだけど、他の兄さん達の立場もあるし…」
とシグナスも父親に説明するが、
「ふん、兄の立場だと?そんなことではスプレイド家の事業を継承させるのは夢のまた夢の話だな。」
グラークの鋭い言葉が突き刺さる。
目先の利益を求めている訳ではない。
目まぐるしく変化する世の中で、先を見通して自分がどう動くかという事を見るための期間であったことを先程のやり取りでようやく理解したのだ。
全てはもう遅いのだ。
シグナスはガックリと肩を落とす。
ネルギスに至っては青い顔をして言い訳すら出来ないようだ。
「まあ、今夜はお前達の仕事ぶりを確認するために集まってもらったが、前にも説明したように、今回の報告を元にワシの事業を継承出来るかどうかを判断することとする。」
とグラークはカリウスらに説明する。
「ちょっと待ってくれ親父殿!今回はちょっとタイミングが悪かっただけなんだ、次は必ず挽回するから、もう少し時間をくれないか?」
「そうですよ、父さん、鉱石の産出量が増えればいくらでも防具は作れるんだから、頼むよ。」
カリウスやシグナスは必死に食い下がる。
「ふん、そんな妥協案がワシに通用するとでも思っているのか?」
『お前達の言う、『次』とはいつの事を言うのだ?そう何度もチャンスがあると思っているのか?』
グラークの言葉にはそういう意味が込められていた。
グラークが冷淡に二人へ言い放つ。
二人はグラークの気迫に圧され何も言えなくなった。
「まあ、今日はお前達を招いての食事会だ。ワシは今から用があるので席を外すが、しっかりと味わって食べてから帰ってくれ。」
グラークはそう言うと席を立ち、部屋を出ていった。
「それでは、ただ今からお食事の方をご用意させていただきます。」
とグラーク付きの執事が現れ、食事会を仕切り始めた。
このままではルセウスに事業運営の権利が継承されるのは火を見るより明らかである。
カリウスが、物凄い形相でルセウスを見る。
損失を恐れ、何もしなかった者と、痛手を負いながらも前に進んだ者との違いはハッキリしていた。
ルセウスが『父親を信用していない』というのはこういう事を言っていたのだ。
今回の、継承判定期間の事についてはグラークから、最初にほとんど何の説明もなかった。
ただ一言。
『今度の報告の時に、ワシの事業継承をどうするか考える。』
とだけ言っていたのだ。
当然、事業継承であるから、今の仕事をこなして利益を上げるのは当たり前の事なのであるが、現在のスプレイド家の事業は停滞ぎみであった。
次の報告期日までに利益を上げることは出来ない事は誰の目にも明らかであった。
その状況を自分なりにいかに打破し、切り抜ける努力をするのかということをグラークは見たかったのだ。
普通、そんな端的な言葉だけで真意を読み取ることは困難である。
グラークとはそんな男であった。
だから兄や弟達とは別の意味で信用出来ないという訳なのだ。
運良く、食事には毒は入っていなかった。
ト「魔王様以上の魔力って、見当もつかないです。」
ヴ「八鬼さんも、もう人間じゃないですぅ。」
マ「例の魔人化ですか?」
ト「ウチのクランズ『魔人化』してる人が増えてるのですけど?」
マ「魔人化って高い魔力になる人のことですよね?じゃあ蔵光さんは元から魔人化しているんですかねえ?」
ヴト「あっ!」( ̄0 ̄;)
これこれ、こんなとこで何を考察しているのですか?
ではではまた!次回を、よろしくお願いします。
(* ̄▽ ̄)ノ~~ ♪