第142話 誠三郎のスパイ大作戦5~バレていた
誠さん、バレてますよ。
第142話 誠三郎のスパイ大作戦5~バレていた
ルセウスが誠三郎に話した事は、彼等が一番知りたいことであった。
その内容とはこうであった。
ルセウスは自分の立ち位置をよくわかっていた。
父親から、信頼を得ることにより、今回の食事会では事業運営の利権を譲渡される話が出ることはわかっていたが、それを良く思わない者達がいた。
カリウスら兄弟である。
彼等の利己的な考え方では事業の拡大など望める訳もなく、ただ、食い潰すのみであることは火を見るよりも明らかであり、このまま成長を続けるには兄弟達を事業運営から外さねばならなかった。
そのルセウスの考えは直ぐに兄弟達に伝わる。
彼等はルセウスが自分達の受け持つ事業を奪い取る事に反発した。
ルセウスは、兄弟達に対し、事業で得た収入については、配当金という形で分配すると説明したが、それでは納得しなかった。
ルセウスはそんな中、事業拡大のため、新たな事業として西の森の森林開発に着手しようと考えた。
兄弟に配れる配当金を少しでも増やそうと考えた末の事であった。
西の森の魔物から採取できる素材はかなりいい物であるため、製造する武器を更に改良して効率のいい討伐が出来るようにと、武器の改良研究も進めていた。
そして、その西の森の方についても効率の良い狩りが出来るための改良を加えようと考えた末、先日のような検証を兼ねた視察を行ったのであった。
だが、結果は想定外のものとなってしまった。
恐るべき森の魔物達に自分の所有する部隊が軽々と殲滅されていく。
命の危険さえも感じられた。
『ああ、私はここで死ぬのだな』
と…
そんな時、颯爽と現れ、みるみる内に魔物を倒し、窮地を救ってくれた人物が現れた。
八鬼誠三郎と飛騨神である。
九死に一生を得たような気持ちであった。
大量の部隊員を失った状態であったが、これほどの逸材を目の前から逃がすのは惜しいと思った。
恥も外聞もなかった。
失った部下には悪いとは思ったが、誠三郎には、失った部隊員の代わりに自分の手駒になってもらいと思った。
食事に誘ったのはルセウスの正直な気持ちであった。
だが、誘ってしまったあとに、少しだけおかしい事に気付いた。
ライヤは知らなかったとは言っていたが、恐らく自分のスケジュールを誰か屋敷の者から聞き出して、ここまで来たのだろうと思われたが、普通、商人であれば、薬草の採取とは言え、貴族の視察に被せてここまで来る様なことはしない。
となると自分達の部隊の動きを探りに来たのであろうと考えた。
それに、誠三郎達をおかしいと思ったもうひとつの点としては、食事の時にも突っ込んだ質問なのだが、いくらライヤが雇った人物と言っても、これほどの腕を持つ人物を一介の商人が雇えるはずがないと思ったのも事実であった。
だが、彼等があのまま、自分達を見殺しにしても彼等には何の得にも損にもならない、逆に殺そうとしていたのであれば殺す手間が省けるというもの。
それなのに、危険を顧みず命を救ってくれた。
誠三郎達が、兄弟達が雇った刺客である可能性は低かったが、何か別の目的で接触してきているのであれば大変な事である。
ライヤはこれまでの取引から白だとは思ったが誠三郎達に利用されている可能性がある。
だから、念には念を入れないといけないと思い直し、誠三郎達と食事をした翌日、冒険者ギルドにいる、自分の手の者に調べさせた。
飛騨神については冒険者の登録がなかったため、その素性は判然としなかったが、八鬼誠三郎については、最近、冒険者登録をしており、水無月蔵光という16歳の少年の従者として登録されていることがわかった。
誠三郎達は嘘はついてはいなかった。
確かに冒険者のランクはCランクであり、最近に登録されていた。
だが、ルセウスに黙っていたことがあった。
それは、誠三郎が、現在はヘルメス・カース・ヴェレリアントをリーダーとするプラチナドラゴンズというクランズに所属しているということと、正体不明の少年の従者であるということであった。
これは、冒険者ギルドに転送されてきた最新情報で判明していた。
プラチナドラゴンズと言えば、確か弟のトライプがメトナプトラで最長老の孫娘を誘拐しようとして失敗した時に活躍したと言われるクランズだったということを思い出すとともに、それを逆恨みした兄カリウスが、そのクランズのリーダーであるヘルメス嬢の命を狙うために暗殺者のグループを雇っているという話も最近になって聞いていた。
「ちょっと待ってくれ!それは本当の事か?」
誠三郎がルセウスの話に待ったをかける。
普通に話を聞いていて、途中で核心的な話が混ざっていたのだ。
『ヘルメス嬢の命を狙うためにカリウスが暗殺者のグループを雇った』
という話が出た。
一番知りたかった情報である。
「本当の話のようです。兄は、弟のトライプを非常に可愛がっており、その弟を逮捕に追いやったヘルメス嬢を非常に憎んでいたのと、それに合わせて武器などの輸出入も滞っていたため、クランズ自体にも恨みを持っていました。
ですから、そのリーダーであるヘルメス嬢の命を奪うために暗殺者のグループを雇ったのです。
その暗殺者のグループには、ついでに私の命も狙うように言っているようです。」
「何てこった。」
誠三郎は完全に当てが外れたなと感じた。
ルセウスも刺客を雇った側の人間だと思っていた。
表面的に良い人面をする人間はいくらもいるからだ。
だが、ルセウスは自分の命を賭けて話している。
そうでないと、ヘルメスの話など誠三郎の前で出すことはない。
それは誠三郎にもわかっていた。
ルセウスは少しだけ話を続けた。
ルセウスは、そんな経緯で誠三郎の正体を知ったときに悟った。
誠三郎達が何らかの形でスプレイド家の誰かがヘルメスの命を狙っているという話を聞き、その事実を確認するため、まず自分から情報を入手しようと、ライヤの護衛の冒険者として潜入してきたのだと推測できた。
殺し屋であるならば隙を見て殺してくる可能性はあるが誠三郎の腕ならば既に殺されていても不思議ではない。
殺さないということは、自分からその『暗殺者』の情報を入手するためであり、よく考えればルセウスと誠三郎達の利害は一致していた。
ルセウスは、命を狙う兄達の放つ刺客から身を守らなければならない、誠三郎もルセウスから情報を得るためにはルセウスを生かしておかなければならないと…
それに気付いたルセウスが、腹を割って話をするためにヘルメスの事を口にしたのだった。
「そういう事だったのか。あーあ、久しぶりの任務で感覚が鈍ってたのかな?」
誠三郎が素に戻るとともに、雷鳴と稲妻の事が脳裏に走る。
「あの、ライヤとかは関係ないんで…」
と誠三郎がライヤを守るために防御線を張る。
「彼等は何も知らないんでしょ?」
とルセウスもニコッと笑って応える。
『あーこいつ、わかってるな。』
その受け答えを見て、誠三郎はそう感じるとともに、
『まあ、雷鳴達には悪いがこの街を出ていってもらわなければなるまい。』
と思った。
正体を知られたまま、諜報活動は出来ない。
そんなことをしていたら殺されてしまう。
その時、誠三郎の耳に貼り付けていた『水蓮花』から声がしてきた。
『八鬼様、オルビアです。そのままでお聞き下さい。刺客の件は『水蓮花』で、全員が了解しています。ルセウス様の話には嘘は無いと感じられました。そのまま護衛に付かれた方が良いかと思われます。あと、出来れば暗殺者のグループもそのままそちらで処理していただければ結構かと思います。』
と言ってきた。
誠三郎はオルビアが最後の不安を消してくれたため、意を決することができた。
今までの話が全てでたらめで、兄達を殺すために、自分が狙われていると自作自演をしていた場合、全てが引っくり返る恐れがあったからだ。
「ああ、あの八鬼殿、以上が私の話です。」
誠三郎が一瞬だけ『水蓮花』のため、ルセウスの話から、気を逸らせていた。
ルセウスも誠三郎が何かに気をとられていたのか、こちらへの集中力が途切れていたので話しかけるタイミングを失い一瞬だけだが、躊躇する。
「あ、悪かった。」
それに気付いた誠三郎が謝ると、ルセウスは、
「いえ、私の方こそ、で、ここで本当の相談なんですが、再度お願いします。しばらく私の身辺警護をしてもらえませんか?」
実のところ、これがルセウスが本当に言いたかったことであった。
これはルセウスの賭けであった。
可能性は低いがもし、誠三郎が自分を殺すために兄達から雇われた暗殺者のグループのメンバーの1人であれば、ここで殺されても仕方がない。
ただ、ここまで自分の身分を明らかにした暗殺者というのも、今まで聞いたことが無いのも事実であった。
だから、考えようによっては、カリウスがプラチナドラゴンズのメンバーである八鬼誠三郎という人物にルセウス暗殺の濡れ衣を着せるため、暗殺者達に大々的に八鬼誠三郎の名前を騙らせた可能性もあるのだ。
それは、水無月蔵光という少年の従者であるというのにその少年がいないことや、逆に全く冒険者の登録の無いヒダカという人物がいることからも本人に間違いないとはいえなかった。
人間はいつか死ぬ。
何の対策もしないまま食事会に行けば、確実に殺されてしまうだろう。
だが、そうやって何もせず殺されてしまうくらいならば、賭けに出てみるのも悪くはないかと思った。
だから、自分の思っていること知っていることを洗いざらい誠三郎に話したのである。
ルセウスの表情は青ざめていた。
殺されてしまうかも知れないと思っていた。
「はははは、ルセウス様の気持ちはよく分かりましたよ。私がルセウスの雇った暗殺者かも知れないと…」
誠三郎はそう言うと、腰の刀を抜いた。
それを見てルセウスは後ずさりをする。
「そんな…」
ルセウスの顔に恐怖の表情が浮かび上がる。
賭けが外れたと思った瞬間であった。
誠三郎は、目にも止まらぬ速さで、そのままルセウスの横を通り過ぎ、その背後にいた者、カリウスが雇ったと思われる本当の暗殺者の首を跳ねた。
「あ、あ、あ、…」
ルセウスはピクリとも動けなかった。
少し間を置いてからルセウスは後ろを振り向いた。
そして、その暗殺者の手に握られていた鈍く輝く鋭い短剣を見る。
それを見た瞬間、本当に殺されるかもという恐怖や危機感が現実となってルセウスを襲うと、驚きで腰が抜け、その場に座り込む。
噂ではカリウスはかなりの手練れの暗殺者を雇っていると聞かされていた。
いつ部屋の中へ入り込んできていたのだろうか、全く気配に気付いていなかった。
相当の腕前であったのであろう。
だが、それも誠三郎の前では、全く意味を成さなかった。
それに、これで、ひとつだけ確実なことがわかった。
暗殺者のグループは間違いなくカリウス達に雇われているということが…
「確かに、身辺警護の依頼承った。」
誠三郎が懐紙で刀の血を拭きながら先程の依頼に対する答えを返す。
座り込み呆然としていたルセウスはハッとして誠三郎を見る。
「そ、それでは…」
誠三郎は座り込んでいるルセウスに手を伸ばし、ルセウスの手を引いて立たせる。
命を殺し屋に狙われて怖くないはずがない。
だが、命を救われ、恐怖から解放された時、素直な気持ちが言葉となり、口をつく。
「ありがとうございます。」
自然と涙がこぼれ出た。
そこに貴族としてのプライドとか威厳は、存在しなかった。
だが、今のルセウスには、八鬼誠三郎という、自分の命を守ってくれる存在ができたことで、過酷な運営権争いに立ち向かう勇気を与えられていた。
ヴ「隠し事が人にバレるのって怖いですよね。」
ト「そうですね。私なんかザビエラ様に見つかったとき死を覚悟しましたから。」59
マ「あの、時々気になってたんですけど、トンキの言葉の後の数字って何なんですか?時々見るんですけど?」
あーこれね。これは『第○話参照』というのを書くのが面倒臭いので数字だけ打ってるということです。
わかる人は直ぐにわかっていたと思うけど。
ヴ「あーなるほど。」
ということです。
では、次回まで。⊂(・∀・⊂*)