第140話 誠三郎のスパイ大作戦3~用心棒依頼
なんとかスプレイド家に潜入出来そうな感じです。
第140話 誠三郎のスパイ大作戦3~用心棒依頼
その日の夕刻に、誠三郎とヒダカがルセウスの屋敷に訪れた。
確かに貴族の中でも三本指に入ると言われているだけはある。
屋敷の外周を囲む塀だけでも、かなりの金がかかっているのがわかる。
硬い石のブロックを積み上げた塀は、普通の者では容易に飛び越える事が出来ない程の高さであり、その上部には、先の尖った金属の突起物が並べられて取り付けられ、侵入者を拒む。
門も大きく、その内側に門番用の建物が設けられ、常に警戒がなされている事がわかる。
その門番に、ルセウスから呼ばれた事を伝えると、一人の老人の使いがやって来た。
ここの使用人と思われた。
ただ誠三郎は、その物腰から中々、出来る人物と判断する。
その中を案内されながら建物を見る。
塀と同じく、そこには立派な建物があった。
最近流行りのドココ調様式という造りの建物で、こちらで言えばスウェーデンのドロットニングホルム宮殿に似ていると言えば少しはイメージ出来るであろうか。
朝の惨劇の片付けが未だに終わらないようで、屋敷の外ではバタバタとしていた。
誠三郎が、その使用人に訪問の取り次ぎをしてもらいながら際に確認したところ、先程、屋敷の敷地内に、死亡した兵士や騎士達の遺体の搬送が終了し、今はその遺族の者達がルセウスの屋敷に呼ばれて、状況の説明を受けているところだと言う。
遺族に対して、亡くなった兵士達への退職金の代わりとなる遺族報酬の他に、これまで兵士を回りで支えてくれていた家族に対する謝礼金や一時的なものにはなるが遺族補償についても説明がなされるという話であった。
「なるほど、しっかりしておられるな。」
と誠三郎が使用人に言うと、
「ええ、ルセウス様はどなたにも親切でお優しい方ですから…」
とその老使用人は答える。
この様なやりとりからも、ルセウスは人々からかなり人望のある者と思われた。
「八鬼様!八鬼様はおられますか!?」
屋敷の方向から大きな声で誠三郎を呼ぶ声がする。
「こちらにおられるぞ!」
隣にいた老使用人がそれに応える。
すると、誠三郎を呼んでいた、その若い男が駆け足でこちらへやって来た。
「ロッゾ様が八鬼様達をお迎えに上がられたと聞きましたので…こちらへ来ました。」
「どうしたのだ?」
ロッゾと呼ばれた老使用人に聞かれたその若者は、
「ルセウス様が、直ぐにこちらへ連れて来てもらいたいと仰られまして…」
「そうか、わかった。では八鬼様、飛騨神様、こちらの者に付いていってやって下さい。」
とロッゾが若い男に、誠三郎達の案内を引き継いだ。
誠三郎達は、若い使用人に案内され、屋敷内を移動する。
「あのロッゾという使用人は一体何者かね?」
誠三郎がロッゾに対する若者の態度が気になって尋ねた。
「ああ、ロッゾ様はこのルセウス邸の執事長で、我々の上司になります。」
「ああ、なるほど、そういうことか。覚えておくことにしよう。」
そういう人物を、情報源にすることは多々ある。
建物内も豪華な造りで隅々まで清掃も行き届いている。
誠三郎を案内していた若者が一階にある一つの部屋の扉の前で止まる。
音や話し声はしないが、中にかなりの人数がいる気配がする。
『なんだ、ここは?』
誠三郎が、扉を開けた若者の後に従って中へ入る。
「おお、よく来ていただけました。お待ちしておりました。」
扉を入った直ぐのところにある、テーブル席にルセウスが座っていて、誠三郎が部屋に入ってくるのを認めると、立ち上がりながら誠三郎達を招き入れた。
そして、ルセウスに対面する格好で多くの人が椅子に座った状態でこちら側を向いていた。
ちょうど、大きな部屋で事件の記者会見をしているような感じである。
誠三郎は一瞬驚いたが、それが、先程ロッゾから聞いた、遺族達であることを悟る。
「みなさん、ご紹介します。この度、私どもの部隊の危機を救ってくれた、八鬼様と飛騨神様です。」
ルセウスが遺族達に向き直りながら、誠三郎達を紹介した。
助けてやることが出来なかったのに、紹介されてもなと思いながら、軽く会釈する。
すると、遺族の中の一人が立ち上がった。
年配の女性である。
目を真っ赤に泣き腫らした顔をしている。
「あの、私…ロイド、いえ、亡くなった息子の母です。亡くなった事は残念ですが、息子は職務を全うして亡くなったのですから本望だと思います。今回、あなた様方がいなければ、私の息子も含め、全員の遺体も回収できず、全て魔物の餌になって形も残らなかったであろうと聞かされました。息子達は亡くなりましたが、こちらで最後の姿を見る事ができ、非常に感謝しております。ここにいる遺族を代表してお礼を申し上げます。」
とその女性は涙を流しながら頭を下げた。
「八鬼殿、この様な場所に引き出してしまい、悪いことをしました。あなた方の話をしたところ、是非とも会わせてもらいたい、一度礼が言いたいと言われましてね。」
とルセウスが、ここに誠三郎達を呼んだ訳を説明した。
「そういう事でしたか。わかりました。」
誠三郎が、ルセウスの説明に納得した。
その後、程なくして遺族に対する説明会が終わり、ルセウスが、誠三郎達が待たされていた部屋にやって来た。
そこは、来賓用の部屋であり、客と食事をすることも可能である。
「お待たせしました。早速、食事にしましょう。」
ルセウスが執事長のロッゾと部屋に入って来るなり、そう言う。
「もう、いいのですか?」
「大丈夫です。全ての兵士には入隊時に誓約書を書かせています。『死亡したとしてもそれは自己責任であり、一切の責任は問いません。』と…」
「なるほど、だが、あなたはそれでも謝礼金や補償はすると…」
「そうですね、そうでないと、彼等も報われないですし、遺族も、家族の中で一番の稼ぎ手が失われるほど辛いものはありませんから。」
とルセウスは答える。
今の現代社会なら大問題だが、常に命の危険がある仕事ならば補償とか言っている場合ではないのであろう。
だが、このルセウスはそんな中でも遺族に対して気を使っていた。
だからこそ、スプレイド家はここまでのし上がってこられたと言えるであろう。
一部の不心得者を除いてはだが。
「ところで、八鬼殿は冒険者ギルドの冒険者と聞きましたが、貴方様ほどの腕前をお持ちの方を、あの商人のライヤが護衛の依頼をしてきたのですか?」
食事が始まり、ルセウスが誠三郎達に質問をしてきた。
「ええ、そうですが、何か?」
「いえ、あれほどの腕前であれば、さぞや冒険者としてのランクも高いことでしょうし、それに伴い依頼料も高いはず…、それなのにライヤの様な商人が何故雇えたのかと思いまして。」
確かに一介の商人が凄腕の剣士を二人も雇うなど、お金がかかり、普通はしないと言うか出来ない。
だからルセウスも不思議に思っていたのだ。
「はははは、そう言うことですか、それなら話は簡単、私は冒険者に成りたてで、Cランクですし、こちらの飛騨神はまだ見習いですから。あ、もうすぐ彼も登録はしますがね。」
「そうでしたか。納得しました。では、紹介状はお持ちなのですね?」
とうとう聞いてきた。
一番恐れていたことである。
紹介状はヴェレリアントから発行されている。
持っていないと言っても後で調べられればバレるに決まっている。
もし、ヘルメス暗殺の指示がルセウスから出ているのであれば、スプレイドに探りを入れてきたと思われかねない。
「ええ、持っております。」
飛騨神が正直に答えた。
もし聞かれた場合の事を想定して、その場合は正直に話すように決めていた。
「そうですか。無ければ私が作らせて頂こうかなと思いまして。」
「ああ、そうでしたか。気を使って頂きありがとうございます。」
誠三郎が礼を言ったが、それと同時に、ルセウスから、どこから発行された紹介状なのか聞かれなかったので内心ホッとする。
そして、ルセウスはさらに質問をしてきた。
「もし…」
ルセウスが言葉を切る。
「はい?」
「もし、嫌でなければ、しばらくの間、その八鬼殿と飛騨神殿の力を私共に御貸し願えませんか?」
ルセウスが真剣な表情で誠三郎に話す。
誠三郎も突然の話に、ヒダカと顔を見合せ驚く。
「と言いますと?」
「見ても御解りの通り、本日、私の私兵であった多くの騎士や兵士が亡くなりました。今の私には、遺族に支払うお金でかなりの痛手となり、新たに兵士を雇うなど、かなり難しい状態なのです。ですから、何卒新たな体制が整うまで、その力を御貸し願えればと…」
そう言ってルセウスが頭を下げる。
余程の事が無い限り貴族が頭を下げる事などないのだが、それは彼の人柄からくるものであろう。
また、この話は誠三郎達としても、願ってもない話であった。
屋敷へ潜入するのに、相手から逆に来て貰いたいとお願いされてしまったのだからラッキーとしか言いようがない。
「わかりました。私で良ければ…」
「おお、受けて下さるのか!?有難い、恩に着ますぞ!」
「では、明日でも結構です。この街の冒険者ギルドに指名依頼をしておいて下さい。」
誠三郎が返事をする。
「本当に、本当にありがとう。」
ルセウスが立ち上がりながら何度も礼を言う。
それは、本当に心の底から感謝しているようであった。
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気になる方、気にならない方も見てください。
ジャンルはどちらかというとミステリーかな?
いやコントかな?
今さらですが、ゼリーの前前世の話です。
あれ?と言うことは水無月蔵光の冒険譚は転生モノだったの? と今さら気付かれた人で、見てない人は是非見てくださいね。
ヴ「ゼリーちゃん師匠の前世の話ですか…見てみたいです。ツッコミの奥義を見てみたいです。」
それなら、ぜひ見て欲しいですね。
今からでも全然遅くないです。
では、また次回もよろしくヾ(´▽`*)ゝ