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水無月蔵光の冒険譚  作者: 銀龍院 鈴星
第六章 絶対悪との対決
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第139話 誠三郎のスパイ大作戦2~西の森の悲劇

誠三郎強いです。ヒダカも強いです。

第139話 誠三郎のスパイ大作戦2~西の森の悲劇

次の日、誠三郎達はライヤこと雷鳴の案内のもと、ルセウス一家の視察先である『西の森』まで案内を受けた。


『西の森』は文字通り、スプレイド領の西にある大きな森であり、鬱蒼と生い茂る森の木と、暗鬱とした森の雰囲気が、森にやって来る人間を拒むかのようであった。

と言うのもこの森には、恐ろしい魔物が出没すると言われる森であり、森の深部には『マッドベア』と呼ばれる凶暴な魔物の熊や、この森の主とも言われ、巨大なるその体は全長が100mを超えるとも言われる『ギガントスネイク』など、人間の力ではどうすることも出来ないような魔物が生息していた。

そのため、この森は今まで放置されていた。


だが、この森はスプレイド家にとって、金の成る木とも言えた。

それは、最近になって、スプレイド家の生産している武器の性能が良くなったためなのか、ヴェネシア王国の騎士や冒険者ギルドの冒険者がそれらの武器を持って西の森に入り込み、森の浅い場所で討伐された魔物の素材がかなりの値段で取引されるようになってきているらしく、そのためにも、更に魔物を効率よく討伐出来るようにと、森の木などを計画的に伐採して討伐しやすい地形にしていこうという案が出されたのだ。

そういった話から、ルセウスがこの地に視察という形でやって来たという訳であるのだが、視察と言っても、森の手前から浅い場所辺りで確認する程度であり、さすがに森の中程や深部までは入っては行かないというか行けないかった。

それは、ただ、いくら騎士が集まったからとて、この森の魔物が、倒せる訳ではなかったからだった。


だが、この日は少し違った。

森の中の魔物が外にまで溢れてきたのだ。

普段は絶対に無いことである。

というのも、魔物にも自分の縄張りがあり、そこから出ることはないが、たまに縄張り外に出ることがある。

それは、自分より強者であったり、捕食者が自分の縄張り内に侵入してきた場合で、それから逃げるために移動したり、また、縄張り内の食料が無くなった場合などは移動を余儀なくされたりするので、場所を点々とする、だが、今回の『溢れ』は違っていた。

まるで、何者かに操られるかの様に、規則的で、かつ統率のとれた動きを見せていた。


最初は、ルセウス達も、まさか森の入り口付近で、この様な事態に陥るとは思っても見なかった。

森の中を少しだけ進んだときにそれは起こった。

西の森には存在しないはずの『大蔓草(おおつるそう)』と呼ばれる捕食植物が生息していたのである。

それは、その名前の通り、運動会で使うような綱引きの『綱』程の太さのある、巨大な(つる)が、それに触れた者へ強力に巻き付きついて捕らえ、締め付けて殺し、それから栄養分を吸収するという恐ろしい植物であり、ルセウスの部隊が、ある程度森の中に入り込んだ時に、それが反応してしまった。

人や馬等、動くものに反応し、たちまち大半の部隊員が失われていく。

普通は、森へ入り始めた時に触れれば回避出来た筈であるのに、部隊が全て森の中に移動してから、それは動き出していた。

まるで、何者かに操られた罠のように…


だが、ルセウス達を襲った悲劇はこれだけではなかった。

さらに、先程も述べたが、森の深部にいるはずの『マッドベア』が現れたのだ。

この魔物の熊は、普通の熊とは違う。


『魔物』である。


体長は約15~20mで、立ち上がれば3~4階の建物くらいの高さはある。

漆黒の毛で覆われたその体は、並みの剣士では全く剣が通らない程、体の硬さが硬い。

力も強く、腕の一振りで人間などは軽く5~6人は吹き飛ばされる。

年数の経過した個体によっては魔法も使えると言われている。


当然ながら、マッドベアは森の中でも強者の部類に入るため、普段は食料となる動植物が豊富な、森の深部に生息している。

だかり、普通、この様な場所に現れるはずがないのだ。

そんな個体が突然現れたのだ。


「退避!退避!」

部隊長の声が森の中に響くが、既に部隊は混乱状態であり、部隊員の悲鳴や叫び声で森の中は覆われていた。

ルセウスもまさか、森の入り口付近でこの様な目に遭うとは思っても見なかったし、家族、妻と娘を連れてきていたことを非常に後悔していた。

『こんな(はず)ではなかった…』


目の前に繰り広げられる、世にも恐ろしい光景が、現実のものとは思えなかった。

夢であって欲しいと願うが、これは夢ではない、本当の事なのである。

『もう、終わりか…』

と思った瞬間、それは現れた。


二人の男が自分達の前に突如、飛び込んできた。

一人は、魔法使いの様に雷の魔法を操り、部隊員の体に巻き付いていた全ての大蔓草を雷の電撃で撃ち抜き、その本体も雷の一撃で動きを止めた。

もう一人は、マッドベアの前に立ちはだかるや、あの硬くて巨大な体を、まるでパンかチーズを切るかのように真っ二つにしてしまったのだ。


「こ、これは!?」

ルセウスは今度こそ夢だと思った。

だが、それも現実であった。

彼等は救われたのだ。

その事実が理解できると、部隊員の大きな歓声が森の中に響き渡った。

だが、彼等の被害は甚大であり、150人はいた騎士達も60人程が残り、あとはこの地の魔物に殺られてしまったのである。



森の中で、負傷者や亡くなった者達を運ぶ騎士達の姿を見て、呆然と立ち尽くしていたルセウスに声をかけた者がいた。


「ルセウス様ではありませんか?」

不意に声を掛けられたルセウスが、ハッとした表情となり、その声のする方向を向く。


知っている顔であった。


「ライヤか?!」

ルセウスは、その姿を見て驚く。

街の商人ではあるが、屋敷の者達の評判もよく、また、扱う商品も人気があるとかで何度か、ルセウス本人やその家族がライヤと顔を合わせた事があったので覚えていた。


「どうしてここに?」

ルセウスは、ライヤがこの危険な森の中にいることを不思議に思い尋ねた。

この場所は、特に街の者に入ることを禁じた場所ではないのだが、魔物も生息していることなどから、一介の商人がおいそれと入れる場所ではなかったからだ。


「はい、ここへは時々、私共が扱っている化粧品の材料となります薬草などを取りに来ていたのでございます。」

「なるほど、薬草ですか。」

「はい、危険ですので知り合いの冒険者ギルドの方に護衛をしてもらいながら、ここにやって来た訳なのですが、こんな事態になっているとは思っても見ませんでした。」

「冒険者ギルド?この者達が?」


ルセウスが誠三郎とヒダカを見た。

恐ろしく腕が立つ者達であることは、先程見せてもらったのでよく分かっている。

まさか自分達の部隊が助けられるとは思わなかった。



「八鬼誠三郎様と飛騨神様でございます。」

そうライヤが紹介し、誠三郎達にはルセウスをスプレイド家の当主の次男であると紹介した。

すると、ルセウスは、

「家族共々危ないところを助けてもらい、本当に助かりました。礼を言います。」

とルセウスがそばに立っていた妻や娘達とともに頭を下げる。

ルセウスの言葉遣いは丁寧で、本当の紳士であることはよくわかった。


「いや、礼には及ばない。あの魔物を倒さなければライヤの命も危なかったのでな。」

「確かに…、だが、我々が救われたのも事実。何か形のある礼をしたいのですが…?」

「うーん、困ったな。礼をと言われてもな。」

と誠三郎はわざとらしく困った顔をする。

その様子を見てライヤが間に立つ。


「ルセウス様、八鬼様達とお食事などはいかがでしょうか?」

「食事か…おお、それがいい。八鬼殿、飛騨神殿、今度、いや、今晩にでも私の屋敷に来てはもらえませんか?」

「今晩ですか…」

誠三郎は少し考えるフリをして答える。


「わかりました。それでは夕刻にそちらに向かわせて頂きます。」

誠三郎はそう言いながら、軽く会釈した。


騎士達もある程度、引き上げの準備が出来たようであり、ルセウスに報告が入った。


「引き上げの準備が出来ました。なお亡くなった者達につきましては、搬送が困難なため、とりあえず森の外へ運び出しましたので、後程、部隊を再編成して回収させて貰います。」

と生き残った部隊員の一人が泣きながら報告する。

ほぼ、何も出来ずに、大半の者を殺されたのだ、悔しさと恐ろしさで一杯なのでであろう。


「よし、引き上げだ!」

部隊長の号令で騎士達はゾロゾロと街の方角へ引き上げて行った。


それを見送った誠三郎達。

「何とか、第一段は成功だな。まさか、こんな事態に遭遇するとは、思っても見なかったがな。」

と誠三郎は言いながら、マッドベアの死体を見ていた。

すると、あることに気が付く。

切断された体から何かが出てきていた。


「魔石?」

まさに、どう見ても魔石であった。

魔物体内から普通出てくることはまずない。


誤って飲み込んだのであれば、胃の中から出てくるはずだが、これは頭部から出てきていた。


「どういうことだ…?」

「恐らくは隷属化させるための魔法が入った魔石ではないでしょうか?」

誠三郎が考えているとライヤこと雷鳴が誠三郎に言う。

「隷属化?」

「はい、何者かがこのマッドベアの頭に隷属化魔法を施した魔石を埋め込んだのではないかと?」

「そんな危険な行為をするとなると、その者はかなりの実力を持っているな。すると、この近くにその主となる者が潜んでいる可能性も高いと言うことか?」

「恐らくは…見ているだろう。」

ヒダカも回りを警戒しながら言う。


森の静寂さが恐ろしさを増す。

たが、気配は捉えられなかった。

既に立ち去ってしまっていたのかも知れなかった。



マ「流石ですね。」

ト「魔力値も上がって、凄いですからね。」

ところで、温泉の話はどうなってる?

ヴ「まだ、会議とかで色々と話を決めているみたいですね。」

ト「まだまだ温泉に入れそうもない様子ですね。」

それは残念ですね。


それでは次回もよろしくね。

(;´д`)



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