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水無月蔵光の冒険譚  作者: 銀龍院 鈴星
第六章 絶対悪との対決
138/164

第138話 誠三郎のスパイ大作戦1

誠三郎がスプレイド領を探る話です。

第138話 誠三郎のスパイ大作戦1

蔵光が、ヘルメスから3000万マスタの件で、問い詰められていた頃、誠三郎とヒダカはスプレイド家の内情を探りにスプレイド領に潜入していた。

かなり、距離はあったのだが、魔力が上昇し、飛翔魔法が扱えるようになった誠三郎は、特に苦労することもなく、現地まで移動することが出来た。

だが、飛んでいるところを人に見られれば大騒ぎになるため、ヒダカが操る雲の中に入っての移動となった。


マッソルについては、ヘルメスから特命を受けて、王都に向かっていた。

ハッサンが例の魔改造馬車にマッソルを乗せているので、誠三郎程の移動速度は無いが、普通の移動手段としてはかなり速い方であり、また、防御魔法も健在のため道中に()したる心配はない。


マッソルの特命というのは、大して隠し立てするものでもないが、王都にいる二人の兄に対するものであった。

それは、スプレイド家の者がヘルメスの命を狙っているとの情報があるため、ヘルメスに関連する者に危害を加えられる恐れが無いとは言えない。念には念を入れてと言う意味でのものであり、二人に注意喚起するために、マッソルが特使となっていたのだ。

また、マッソルについてはこのまま、王都に残留させておく予定であり、彼を王都に置いておくことで、常に王都の情勢を把握し、これから起こりうる様々な状況に素早く対応するために送り込んでいたのであった。

当然ながら連絡手段については『水蓮花』を使って行う予定である。



まあ、まだ、二人が王都に着くにはまだ日にちがあるので、誠三郎達の方に話を戻そう。


誠三郎は、元配下である『雷鳴(らいめい)』と『稲妻(いなづま)』という二人の『忍』と接触した。

二人はジパング王国で、現役の特殊部隊であり諜報機関でもある『忍』の部隊員であり、現在は商人の夫婦として、このスプレイド領に潜入していた。

二人とも年齢が20代後半で、男の方が『雷鳴』、女が『稲妻』で、現在は定期的にスプレイド家の屋敷に出入りし、商品を売る(てい)で内情を探っていた。

彼等の扱う商品は、女性が好むような装身具や化粧品、美容液の様なものを扱い、屋敷の女性の使用人達に中々の人気があった。

これらには、訳があった。


古今東西、とかく女性は噂話が大好きである。

上手く人間関係を築けば、男女関係の話や、家の中の人間関係、当主やその周辺の家族の性格や好み、中にはここ数日の屋敷内の予定や屋敷の造り等、かなり込み入った話も聞ける。

まあ、そんな話も只で入手することは無理なので、時々、新しい商品を『お試し商品』として無料で提供したり、買って貰った商品にオマケを付けたりと、相手に恩を売り、次第に相手に心を開かせていく。

ただ、やってはいけないことは、こちらから情報を無理に引き出そうとしないこと、あくまでも相手の口から勝手に言わせるということが大事だ。

でないと、すぐに怪しまれ、正体がバレてしまう。

あくまで自然、本当の商人になりきるのだ。



ここは、スプレイド領の中央に所在する『グレリオーダ』という街で、ヴェレリアント領に比べ、かなり人口も多く、建物の数も、その大きさも全てがヴェレリアントを上回っていた。

そして、繁華街の一角にある雑貨屋が、雷鳴と稲妻の二人が住んでいる店舗兼自宅である。

明るい色の壁の木造の建物で、部分的に煉瓦や漆喰が使われている。

屋根はオレンジ色の陶器製の瓦で葺いてあった。

この街の様子は、さすがヴェネシア王国で三本の指に入ると言われている貴族スプレイド家の治めている街である。

領主はトライプの父親である、グラーク・ザイム・スプレイドである。

息子はトライプを含めて五人いて、トライプ以外は領内で、様々な事業に携わっている。

特に次男は父親と同じ、軍事関連の仕事に就いており、中々の切れ者との評判であった。

次期当主との噂もあり、中々の人格者とも言われていた。

逆に、長男は父親の威光を傘に着て、したい放題、プライドも高く、余りいい噂は聞かない。

今回のオルビアの件も、トライプの事は棚に上げ、ヘルメスの事を非難する始末であった。



「お頭、お待ちしておりました。」

雷鳴と稲妻が自宅の2階にある一室で誠三郎に片膝を付き挨拶をする。

誠三郎とヒダカは室内のテーブルと一緒に置かれた粗末な木製の椅子に腰かける。


「久しぶりだな、雷鳴、稲妻。」

「はっ、お頭もお元気そうで何よりでございます。」

雷鳴は、商人にしては少し目付きがキツイと思われたが、頭を上げる次の瞬間には普通の商人の顔になっていた。

それを見てヒダカが驚く。


「お前達に迷惑はかけないつもりだが、知っての通り、スプレイド家の事を探る必要が出来た。早速だか、お前達の知っている事を教えてくれ。」

「何を水臭いことを仰られます。『忍』を抜けられてもお頭はお頭でございます。この雷鳴、お頭の命とあらば炎の中にでも飛び込みましょうぞ。」

雷鳴は少々、自分の中に入り込み安い性格のようだ。

「いや、そこまでは必要ないんだが…とりあえず、奴らの屋敷に入り込みたいのだが?何か良い方法か情報ないか?」

誠三郎は、屋敷内に直接入り込む作戦を立てたがっているようである。

「そうですね。今、スプレイド家の中は結構、派閥と言うか、五人の息子達がそれぞれ継承権を持っているため、当主である父親から気に入られようとお互いが躍起になって、次期当主の座を狙っている状況ですね。」

「成る程、で、今一番有力な人物は誰だ?」

「次男のルセウスですかね、頭脳明晰で、人格者として父親の信頼も厚く、逆に長男のカリウスは屋敷内でもすこぶる評判が悪いですね。」

「なるほど、他の者達は?」

「まあ、あまり力は持っていませんし、、五男のトライプなんかは長男の使いっぱしりみたいなもんですね。ただ、今回のヘルメス様のオルビア様救出事案で、カリウスはかなり文句を言ってたと聞きましたね。『トライプを捕らえさせた田舎貴族の娘』とか、中には『辺境で貧乏な弱小貴族』とさえ言う始末です。」

「で、命を狙っているという話は誰かから出ているのか?」

「良くはわかりませんが、恐らくはカリウスかと…先日、何人かはわかりませんが、ガラの悪い者を雇ってるという噂を聞きましたので、ここ何日かの内に実行するかと…始末しますか?」

「いや、まだ決まった訳ではないからそのままでいい、まあ、そいつらが束になって今のヘルメスに掛かっていったとしても、全員返り討ちだがな。」

「それほどですか?」

「ああ、今は既に、魔力値は魔王の数倍以上だ。」

「えっ!?…」

雷鳴と稲妻は誠三郎からヘルメスの魔力値を聞き、その場に固まる。

「わ、わかりました、では、どうされますか?」

「そうだな、その次男のルセウスという男を見てみたいな。」

「ルセウスですか、彼は…」

そう言うと隣の稲妻が手帳の様なものを出してきた。

そして、誠三郎にルセウスの今後の予定を説明した。

「ルセウスは、明日、家族でスプレイド領の視察に入ります。護衛の数は約150人、何れも手練れの騎士で固めています。」

「ふーむ、刺客対策か…」

「恐らくは…」

雷鳴が誠三郎の推測に頷く。

「かなり狙われているという話は、方々からでていますから…」

稲妻も追加の情報を話す。


「では、どんな奴なのか遠巻きに確認する程度で済ましておくか?」

「わかりました。それでは、明日、視察先の西の森をご案内します。」

雷鳴がそう言うと誠三郎とヒダカが(うなづ)く。


その後、誠三郎は、雷鳴達からスプレイド一族の各屋敷内の説明、グレリオーダの街の情勢や近所の協力者の話、この地の物の相場や方言、街の決まり事など、『忍』として最低は知っておくべき事について説明を受けた。


「一応、お頭とヒダカ()は、現時点では私が雇った『用心棒』という事にしております。あと、お頭はギルドの冒険者登録もされていますので、しばらくはここで寝泊まりをして頂き、この街の様子やこの街のギルドも見ておかれる方が今後とも都合がよろしいかと…」


実のところ、雷鳴はヒダカの正体を聞かされ驚いていた。

と言うのも『雷鳥』は、自分達の一族『神雷一族(じんらいいちぞく)』が(あが)めている神獣であったからだ。

そのためヒダカは彼らにとって崇め奉る存在であり、その名前の下には当然ながら『様』を付けていると言う訳なのだ。

ちなみに、彼ら一族はその名の通り、自分達の名前にもそれぞれ『雷』に由来した名前を付けているのも特徴だ。


「なるほど、それもそうだな。だが、我々がいては迷惑ではないか?」

誠三郎は一度は頷いたが、彼等には迷惑はかけたくない、正体がバレてしまうと彼等は殺されてしまう。

もちろん彼等は任務に命を賭けている。

下手なことをして彼等の命を奪われる様なことをしたくはない。


「何を仰られます。もし、お頭が、八鬼様として、正体がバレてしまったとしても、私達はお助けすることは出来ません。逆に私達もそれくらいの覚悟が出来ていますので御心配には及びません。」

雷鳴は誠三郎に気を使われ、逆に困惑していた。

と言うのも、以前の誠三郎、つまり、『忍』の頭をしていた時は冷酷無比、『忍』は使い捨ての様な扱いをしていたからだ。

だが、彼等はそれを恨んだりはしていない。

それが『忍』の本来の姿なのだから。

だが、誠三郎は変わっていた、それは、蔵光やゼリーらの影響があるのかも知れない。


「わかった、そこまで言うのであれば、有り難く泊まらせて貰おう。ああ、あと、ヒダカは冒険者登録がまだだから、推薦状はヘルメスにでも頼むとするか?」

「その方がよろしいかと…」

「うむ。」


その後、誠三郎は雷鳴のマソパッドを使ってヴィスコに連絡し、ヘルメスの父親の名前でヒダカの推薦状を作って貰えるよう依頼した。


返答は直ぐに返ってきた。

流石に自分の娘が狙われていると言うことを聞いて、その内情を探ろうとしている者の頼みを嫌だと言う者はいないだろう。

すぐに了解の返事があり、数日の内に作成して送付するとの回答であった。

だが、誠三郎が、これを嫌う。


「いや、ヒダカ、これはお前が直接取りに行く方がいい。ここにヴェレリアントの書簡が届くという痕跡を残して、下手にこの家とヴェレリアントが繋がっていることをスプレイドに知られては大事(おおごと)だ。危険だし、避けた方がいい。」

「言われてみれば…では、直ぐにでも戻って、紹介状を受け取ってきます。」

そういうとヒダカはトンボ返りでヴェレリアント領に戻っていった。

いくらか、ヒダカの言葉使いがマシになっていた。

誠三郎と雷鳴達とのやり取りを聞いて修正したのであろう。


「あと、私達の名前ですが、ここではライヤとイヅマという名前を名乗っています。」

「わかった、我々はそのままで良いだろう、冒険者登録のこともあるし、下手に名前を変えるとややこしいことになる。」

「わかりました、それでは、今後、私はお頭方を八鬼(やぎ)様、並びに飛騨神(ひだか)様とお呼びしますので。」

「うむ。それで良いだろう。」

「わかった。よろしく頼む。」


こうして、誠三郎達のスプレイド領での隠密作戦は開始された。






ト「いよいよ潜入作戦の開始ですね。」

マ「私も別行動ですが、忘れないで下さいね。」

ト「わかってますよ。」

ヴ「ところでヒダカさん、ヘルメスの屋敷に紹介状取りに来るの早かったわね。」

ト「確かに、流石『雷鳥』ですね。」

雷の聖獣ですからねえ、神雷一族が崇めているだけはあります。


さあ次回はどんな話になるのやら。

では、またね。⊂(・∀・⊂*)とりゃせ!



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