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水無月蔵光の冒険譚  作者: 銀龍院 鈴星
第六章 絶対悪との対決
135/164

第135話 サウザンドラの伝説【前編】

伝説公開。

第135話 ~サウザンドラの伝説【前編】~

蔵光達は、ギルレア洞窟でのヒドラ退治を終えたので、ヘルメスの実家であるヴェレリアント家の屋敷へ一旦戻ることになった。

ザビエラ達も、ギルレア洞窟に来るまでに、別の魔素口で負の魔素の採取を終えていたため、結果全員が戻ることとなった。

なお、今回は蔵光が封印しなければならない程の『魔素口』は無かった様であった。


全員が、ヴェレリアントの屋敷に着くと、屋敷やその付近一帯は騒然となっていた。


それはこんな事があったからであった。


ヘルメスの屋敷は、当然ながらサリドナの街の真ん中に建っている。

そこへ、蔵光達メンバーの内、オルビア、ヴィスコを除く、蔵光、ゼリー、ヘルメス、ギルガ、ザビエラ、トンキらが空を飛んで街中を通って屋敷まで帰ってきてしまったからだった。


オルビアとヴィスコはゼリーの体内空間に収容されていたので飛ぶことはなかったが、体内の映像画面で外の状況はわかるようになっていた。


サリドナの街の者達は『魔族の襲来』ということで、人々が街中を逃げ惑う程の、大騒ぎとなった。

まあ、人間の姿をしているが、確かにメンバーの中には魔族も何人か入っている。

それらの者達が全てヴェレリアントの屋敷の敷地内に降り立ったのだから、それは更なる騒ぎの原因となっていた。


『魔族が、ヴェレリアント家を襲っている。』

『魔族が、ヴェネシア王国に宣戦布告か!?最初に辺境のヴェレリアントを陥落させに来たか!?』

等と、あらぬ噂が飛び交っていた。


「やってしまったな。」

最近のヘルメスは、暇があれば空中移動の練習をしていた。

魔人化してからは、自分自身も戦力の一人である自覚と、『悪魔落ち』等の凶悪な存在を知り、さらに強くなる意識を強くしていた。

だから、ヘルメスにとって『飛ぶ』と言うことは普段から歩くのと同じような感覚となっていた。

普通であれば、人間が飛ぶなど考えもしないのだが、エージから聞いて知った、来るべき『絶対悪』との対決までに、出来る限りの訓練をしておくつもりであった。

だが、今回、それが裏目に出た。

魔族と間違えられるので、人前、特に街中で飛んではいけない。


ヴェレリアントの屋敷の玄関前に蔵光達が着陸した。

屋敷の兵士達も驚いて、間を開け、剣を抜いて構えていたが、その中にヘルメスの姿を見つけると、

「姫様が魔族になられた。」

と口々に言いながら顔を真っ青にして腰を抜かしていた。

まあ、そんな感じだったので、ヘルメスが後で家来達に説明するのに一苦労であった。


ヘルメス達は再びバジルスの部屋に集合した。

今度は大人数だ。

まずは、ヘルメスは父バジルスに報告しなければならないことがあった。

それは、自分の魔力値や、それによって基本的な身体能力が向上し、今は『突発性魔力値増加変異型魔人』、つまり『魔人化』により勇者になってしまったこと、そして、その後、聖剣ヴォルガナイトをギルレア洞窟で入手したこと、現在はクランズを立ち上げているが、メンバーの中に古龍や魔族がいること、雷鳥等を仲間にしたことなどを説明する必要があった。


だが、バジルスは、先程の大飛来行動を見て、家来の兵士の驚きようとあまり変わらない表情でヘルメスを迎える。


「へ、ヘルメス…だよな?」

バジルスが、顔を真っ青にし、実の娘を目の前にしてこの言葉だ。

魔法世界と言えども、人間は魔法を使っても飛ぶことはできないとされていた。

つまり、人間であれば、これは普通ではない。

それほど、空中移動は人間界にとっては異常事態なのである。


「何を言っているんですか、お父様。ヘルメスです。間違いありませんよ。」

「じ、じゃあ、なぜ、魔族と同じ様に空を飛ぶことが出来るのだ?」

バジルスの声は上擦っている。

まあ、当然の反応なのだが、

「それは…」

ヘルメスが何から話せば良いのか迷う。

だが、少しずつ説明をしていった。

「この力は、こちらの蔵光殿から分けてもらいました。」

「どういうことだ?」

確かに蔵光の強さは先程の如意棒の件でわかってはいたが、それと飛ぶことは別であり、バジルスが追及するのは当然と言えば当然である。

空を飛ぶ力を分けてもらうなど、バジルスにとっては全く意味が不明だ。


「実は蔵光殿の一族は皆、怪力と共に恐ろしい程の魔力を持っています。私は一度、その蔵光殿の魔力で私の体の中にある水分を使って魔力操作を受けたことにより、それが勇者覚醒のきっかけとなり、空を飛べるようになりました。」

「な、何?勇者覚醒だと?」

バジルスは勇者と言う言葉に反応した。

しばらく、その話に対して、何かを考えるような態度をとる。

「と言うことはもう手に入れたのか?聖剣を?」

とバジルスはその言葉を口に出す。

「お父様はヴォルガナイトのことを?」

ヘルメスがそう言うとバジルスは成る程と言うような表情となった。

「やはり導かれていたか…」

「やはりとは…?」

バジルスは何か事情を知っている様子である。

自分の身の上話をしている場合ではない、それよりも大事な何かを父親は知っている。

今はそれを聞く方が先だとヘルメスは判断した。


「我がヴェレリアント家にはその昔、この地をヒドラの被害から救った勇者サウザンドラの血が流れていると言われている。」

「……」

ヘルメスは父親の口からサウザンドラの名前が出るとは思わなかった。

「それは、あくまでも伝説の話に過ぎない。本当の話はこのヴェレリアント家だけ…いや、ヴェレリアント家と、悪魔界の者達だけが知っている事実だ。」

「本当の話?悪魔界?」

ヘルメスは、バジルスがサウザンドラの事を知り、何故その様な話をするのかも訳が分からない。

サウザンドラの伝説は、この地では、童謡になっていて、親が子供達に昔話として聞かせるなど、あくまでも寓話のひとつと思われていた。

だから、サウザンドラが実在し、その聖剣の存在及びヴェレリアント家だけに伝えられていた話を知っているという父親の言葉の方に逆に驚かされた。


「ヘルメス、お前が勇者になってしまったと言うのであれば、話しておかなければならないな。私自身、この話を全く、その辺の昔話のひとつと思っていたからな…まさか、本当だったとは…」

そう前置きすると、ヘルメスの父、バジルス・カース・ヴェレリアントはその重い口を開き、ヴェレリアント家の当主に代々語り継がれていたと言う、サウザンドラの本当の伝説を語り始めた。


それは、余りにも、不思議な話であった。

約220年程前、このヴェレリアントの地は、まだ、ヴェレリアント家の領地ではなく、度重(たびかさ)なる戦争のために荒れ地状態となっていて、人間はほとんど住んではいなかった。

また、多くの魔物が跋扈(ばっこ)すると言われる恐ろしい森や、七つ首のヒドラと言って、人間を石にしてしまう恐ろしい怪物が出没するとも言われていた。

当時のヴェレリアント家は、貴族ではあったが今よりも家の格は低く、領地も無かった。

若き当主アズマエラ・カース・ヴェレリアントは、ヴェネシア王国の命により領土拡大のため、数は少ないが、精鋭で構成された配下の兵士を連れてこの地にやって来ていた。


彼は、王国内でもかなり剣術の腕が立ち、また戦いにおける戦略、つまり、兵士の動かし方が非常に優れていた。

それがここに派遣された理由であるが、この地は余りにも(ひど)すぎた。

戦争により、幾度となく、この地を治める者が変わっていった。


作物も取れぬほど、荒れた地において、彼は人間との戦いよりも、何時(いつ)果てるとも知れない魔物との戦いに身を置いていた。

相当量用意していた食料も底を尽き、撤退を余儀なくされたとき、そいつは現れた。

七つ首のヒドラであった。


ヒドラはその強さにおいて他の魔物とは一線を画した。


ヒドラは、その恐ろしい七つの首から、炎や毒の息等を吐き、どんどんとアズマエラの配下の兵士の命を奪っていった。

だが、ヒドラの一番恐ろしい攻撃は、そんなものではなかった。

六つ目の首から吐き出されたのは『呪いの言葉』であり、それを耳にした兵士達は、お互いを殺し合い始めたのだ。

そして、七つ目の首からは生きている者を全てを石にしてしまう視線が放たれる。

ほぼ全ての兵士達がお互いを剣で突き刺し合いながら石像と化していった。

何という地獄絵図か…


アズマエラ自身も配下の兵士から片足を奪われ、痺れる息で体が動かない状態となってしまっていた。

そして、ヒドラの七つ目の首の視線の餌食となり、石像となってしまったのだった。



「えっ?、ご先祖様ってヒドラに殺されてしまったの?」

父バジルスの話にヘルメスが驚く。

死んでしまえば、今いる自分達は一体、誰の血を受け継いでいるのかという話だ。



だが、話はそれで終わりでは無かった。

アズマエラはベッドの上で気が付いた。

そこは決して綺麗とは言えない、あばら家であった。

彼は片足は失われていたが、石化から元に戻っていた。

彼を助けたのは、ヒドラの縄張りからやや離れた村に住んでいる鍛冶師の娘だった。


名前をサウザンドラと言った。

彼女は、鍛冶の材料となる鉱石を採取するためにヒドラがいない時を狙ってヒドラの縄張りにある鉱山地帯に足を踏み入れた時に石像となっていたアズマエラを発見し、彼の石化を解いた後に彼を自分の住む村に連れ帰っていた。


彼女には昔から不思議な力があった。

それは、この村に人々が住む以前、この地一帯に湧き出していた、普通の人間では数秒も持たないような毒性の強い、黒く濃い霧の様なものを、体から現れた金色に輝く光によって打ち消すことにより人の住める場所にしたり、時に現れる凶悪な魔物を軽く打ち倒すという強力な力を持ち合わせていた。

この村には、彼女のその力が何であるのかわかる者はいなかった。

だが、アズマエラには、すぐに彼女のその力が、この世を救う力だと確信する。

それに、彼女は、鍛冶師の娘というには美しすぎた。

アズマエラは、彼女を見て一瞬で恋に落ちる。

だが、彼の求愛を彼女は拒否する。

身分違いの恋に幸せは訪れないということを、彼女はわかっていた。


だが、アズマエラは足の療養を理由に彼女の家に滞在し続けた。

その甲斐あってか、サウザンドラの心は真っ直ぐな性格のアズマエラに傾いていった。

しかし、皮肉なことにアズマエラの元に、ヴェネシア王国の使いがやって来た。

サウザンドラの父親が、ここへ商品を購入しにやって来る知り合いの商人を通じてヴェネシア王国へ連絡を入れていたのだった。

アズマエラは自分の家の使いから、アズマエラの両親の伝言を伝えられた。

それは『自分達の『家』と『名前』を失わせるわけにはいかないので、なんとか家に帰ってきて欲しい』という懇願であり、アズマエラは仕方なく帰ることになったのだった。


アズマエラは後ろ髪引かれる思いで、この地を去ることになった。

国王の命を受け、国の威信をかけて出征したが部下達は無惨にヒドラの餌食となり、自分も片足を失う大怪我をし、本来、このまま帰国すれば恥を晒すことになる。

アズマエラにしてもそれは言われなくてもわかっていたからだ。


それに加え、実のところ彼には、許嫁がいた。

ヴェネシア王国の首都ノワイヤにその女性を残していたのだ。

その女性が、アズマエラの帰りを待っていた。

彼が生きていると知ると直ぐにアズマエラの両親に伝え、使いをサウザンドラの家に寄越したのだった。

彼と彼女との婚約は政略的なものであった。

そこに恋愛感情はなかった。

実直な性格のアズマエラには愛してもいない女性を妻にすることは抵抗があった。


この彼女のこともあったため、アズマエラは、自分は死んだものと王国に思わせようと、全く連絡も取らずにいたのだった。


だが、迎えが来てしまった以上は帰らざるを得ない。

仕方なく、彼は迎えの馬車に乗り込みノワイヤに戻っていくことになったのだが、期せずして直ぐに彼はサウザンドラの元に戻ってくることとなった。


それは、右足を失った彼の姿を見た許嫁が、婚約を破棄したのだ。

『こんな足の無い男では、出世も見込めない』

との理由であった。


国王は、自分の失策を認めたくないため、彼の怪我を名誉の負傷として褒め称え、伯爵に陞爵させた。

貴族の社会であれば、彼のように腕の立つ者であれば普通、出世は確定しているようなものであった。

たが、足を失えば、二度と戦場において華々しい戦果をあげることも無い。

伯爵となってはいたが、彼は許嫁に見限られたのだった。


だが、彼にはそれが救いであった。

何故なら愛するサウザンドラの元に向かえるからであった。

彼は『足の療養』という理由で

サウザンドラは足を失っていたアズマエラを受け入れた。

彼女もアズマエラを愛していた。

片足を失っていても愛は失われなかった。


二人はその後しばらくは、その地で幸せに暮らしていた。

だが、恐ろしい話がノワイヤから入ってきた。

あの七つ首のヒドラが、ノワイヤに向かって進んでいるのではないかと…

噂によるとヒドラは、悪魔達の使いとなって、ノワイヤに向けて進んでいるという。

途中にあった街や村はヒドラのために壊滅状態となっていた。

アズマエラは自分を見限った王国に未練は無かったが、自分が生まれ育った街を、ヒドラが襲おうとしている。

そこには、自分を育てた家族や、かけがえない友達、騎士として守るべき人々が住んでいる街がある。

放っておくわけにはいかなかった。

たが、彼の右の足は膝から下を失い、戦士としては使い物にならなかった。

街を人を救いたくも、体の自由が効かないアズマエラは悔しさに涙を流す。

そんなアズマエラにサウザンドラが話しかける。

『私が貴方の代わりにヒドラを退治しましょう。』

サウザンドラはそう言うと、彼の持つ剣を貰い受ける。

剣は彼女の手に渡ると、金色の光を放ち、鍛冶場にあった一つの魔鉱石も、それに呼応するように、光り始めたのだった。

彼女は父親仕込みの鍛冶師の技術で、その剣を溶かして潰し、かたや光る魔鉱石に含まれる金属と混ぜ合わせ、ひとつの合金を作り上げた、その合金は、神の金属とも呼ばれる『オリハルコン』というものに変わっていた。


彼女は、神から与えられたその腕力とその合金を使って、一本の剣を造り上げた。

これが聖剣『ヴォルガナイト』であった。


彼女は、その一本の剣を手に、ヴェネシア王国の首都ノワイヤに向かった。

彼女は、この時、魔族のように空を飛んでいたという。


その頃、七つ首のヒドラは間もなく首都ノワイヤに入ろうとしていた。

ヒドラは、ここへ来るまでに通り過ぎた街や村を壊滅状態にしていた。


ヴ「この後どうなるんでしょうね?」

ト「最後にヒドラ出てきてるし、あまり、いい方向には行ってないですよね?」

マ「ヒドラをやっつけてハッピーエンド!」

ト「それはどうかな?」

はいはい、あまりストーリー展開には踏み込まないように。

次回は議題を与えるのでそれについて、語って貰いますから。

ヴトンマッソ「えーー!」


ではまた次回をよろしく。

(*´∇`*)



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