第133話 聖剣ヴォルガナイト
とりあえず第五章終了です。
第133話 聖剣ヴォルガナイト
七つ首のヒドラの最後のあがきに放たれた『石化の瞳』の能力により、我等がヒーロー水無月蔵光が石像になってしまった。
このままでは、黒龍を倒すどころか、この物語が終わってしまうではないか。
だが、そんなことは問屋が卸してくれませんでした。
この様な事態になることは、既にオルビアの『先見の乙姫』という未来予知のスキルで見透されていた。
「よし!」
ヘルメスは魔素口の中で、折れた聖剣の片方を拾い上げると、それをザビエラに投げ寄越した。
ザビエラもそのヘルメスの行動がわかっていたようにそれを受け取る。
そして、ヘルメスはもうひとつの折れた聖剣の片割れを手にする。
二人はそれぞれの自分の武器『ダウスの剣』と『デスフレア』を目の前に出し、それら自分達が持つ武器に、折れた聖剣の片割れを重ねる様に引っ付けた。
すると、それぞれの武器が、勇者覚醒の時と同じように金色に輝き始めたではないか。
「おおー!」
ゼリーもそれを見て驚きの声を挙げる。
それぞれの手にあった聖剣の破片は、二人の武器に融合した。
「うまくいきましたね。」
オルビアがそう言うと、ヘルメスは魔素口から飛びあがり、蔵光の前に立った。
そして、先程、聖剣と融合したダウスの剣を石像となった蔵光の頭部にかざした。
すると、先程と同じような眩しい金色の光が剣から放たれ、蔵光の全身を包み込んだ。
そして、その光が徐々に消えていくと、そこには、石化が解け元通りとなった蔵光の姿があった。
「よっしゃー!」
ゼリーのガッツポーズが出た。
話はこうだった。
オルビアがヒドラの首の位置について未来予知をしたとき、蔵光の石化は確定していた。
蔵光がその攻撃を避けることは容易いが、避ければ魔素口にいるヘルメス達が石化してしまうと予知された。
近未来のため不安定な予知ではあったが、オルビアの話では、そのヒドラの攻撃は避けずに受けるのが正解だと…
そのため、無用な被害を増やさないためにも、蔵光には石化の前にヒドラの首を七つとも全て切断してもらった。
実のところ、折れた聖剣ヴォルガナイトは前回の勇者覚醒の時に役目を終え、次の役目のため、『朽ちた剣』の中に、『聖剣の意志』が入った、ただの入れ物に過ぎなかった。
聖剣とは、剣そのものを指すものではない。
『聖剣の意志』を持つ剣を『聖剣ヴォルガナイト』と呼ぶのだ。
オルビアにはそれさえも予知していた。
だから、その事を伝えられていたヘルメスは聖剣が折れていた時、驚きもしなかった。
それはただの『朽ちた剣』だったからだ。
その意味をオルビアから教えられ、さらに、その聖剣の力により蔵光の石化を解くことが出来ると教えられたときに、ようやくゼリーの立てた作戦が実行されることになったのだった。
割れた聖剣には二つの『聖剣の意志』があることもわかっていた。
それは、偶然にも折れて二つになっていた聖剣が、ヘルメス、ザビエラという二人の勇者にヴォルガナイトの意志をそれぞれに分け与えるかのようであった。
こうして、ここに二つの『聖剣ヴォルガナイト』が生まれた。
まあ、呼び分けるのなら『聖剣ヴォルガナイト』と『聖槍ヴォルガナイト』もしくは『聖槍デスフレア』であろうか。
見た目はあまり変わっていないようであったが、持っている本人達にはその凄さが伝わっているようである。
「オルビアが私に言ったあれは、こう言う事だったのね。」
とヘルメスが言う。
オルビアしか知らない真の理由とはこの事であった。98
「うわーびっくりした。これって相討ちだよね。もう体で覚えたし、今度から気を付けよう。」
蔵光は流石の超速度でも目で追われれば逃げられないことを知る。
それに、自分が囮にならなければ、石化していたのはヘルメスとザビエラだった。
蔵光がその場を動いていれば二人が石化してしまい、永久に石化を解くことが出来なかったであろうからだった。
「まあ、何にしても、まさか、こんなことで目的だった聖剣が手に入るとは思わなかったよ、良かった良かった」
蔵光は笑いながらそう言ったが、ヘルメスは、
「蔵光さん、こんなことと、言わないで下さい。仮にもあなたがいなければ私やザビエラさんは石になっていたし、もし、聖神力に石化を解除する力がなかったら、蔵光さんは死んでいたんですよ!」
と目に涙を溜めながら注意する。
ヘルメスは、蔵光程の強者でありながら、命の危険も顧みず、また何の躊躇いもなく、命を投げ出す蔵光に、恐ろしいほどの危うさを感じていたのだ。
クランズのリーダーとして、メンバーを失うことは辛いことである。
これまで蔵光の横で一緒に旅をしてきて思ったことは、蔵光は計り知れない程の強さを持っているが、無敵ではないということを知った。
黒龍の次元魔法に魔力が通らないこと、死霊など、実体を伴わないものには物理攻撃や魔法攻撃が効かないことなど、今回の石化もその一例であった。
そんな蔵光は危険の中に身を投じることに恐れを持たない人種である。
いつ、命を奪われる可能性があるかわからないのだ。
だからこその言葉だった。
「あ、ごめん。心配してくれてありがとう。」
蔵光がヘルメスに謝る。
自分を心配してくれる人間は少ない。
それは、あまりにも強すぎるから。
何が起ころうとも大抵の事はやり過ごす事が出来る程の魔力と腕力を持ち、普通の人間では不可能と言われる龍を討伐する程の実力を持っている。
そんな、自分を心配してくれる人間がここにいる。
素直に嬉しかった。
だからこそ、謝った後に感謝の言葉を言ったのだ。
「あ、いや、私こそ言い過ぎました。」
ヘルメスも謝る。
「まあ、何にしても、全員無事やったのは良かったわ、これもオルビアのおかげや。」
とゼリーが珍しく人を誉める。
自分の主を危機から救ってくれたのだから当然なのだが。
「しかし、ヒドラという魔物はそう何匹もいるものなのだろうか?」
ヘルメスは普通に疑問を口にする。
「確かにそうだ、ヒドラは強い個体である分、繁殖力が弱い。力が弱い分、繁殖力の強いゴブリンとは真逆だな。」
とギルガが龍種の特性を説明した。
「ということは、とりあえずはヒドラの脅威がなくなったと言うことでいいのかな?」
と蔵光が言うと、ゼリーが、
「それは、どうかな?奴等は簡単には済ませてくれんやろうからな。まだヒドラの一匹や二匹くらいは隠してるかも知れんで。」
「それは、面倒だな。」
「ああ、面倒や。それやからおもろい。」
ゼリーはそう言いながらニヤリと笑う。
「ゼリーは本当に面倒なこと好きだね。」
それを見た蔵光はやれやれというような表情をする。
「なんにせよ、これでヘルメスも聖剣が手に入ったんだから、大々的に勇者として売り出せるよね。」
とゼリーの体内空間から出てきていたヴィスコがヘルメスの肩をポンポンと叩きながら言った。
「あのねぇ、ヴィスコ、そんなことをしたら、目茶苦茶目立つし、『絶対悪』の配下の者達からも狙われちゃうじゃない!」
ヘルメスはとんでもないというような表情をする。
「大丈夫だよ、蔵光さんが助けてくれるんだから。」
とヴィスコはつい無責任な言葉を出してしまった。
それを聞いたヘルメスがヴィスコをジロリと睨む。
「こら、ヴィスコ!何のために私達がクランズを作ったと思ってるの!みんなで力を合わせて黒龍を倒すためでしょ!危ない事を全部、蔵光殿に投げてしまったら、それは自分達の責任を放棄してるのと一緒なのよ。わかってるの?」
とヘルメスはヴィスコに注意する。
「わ、わかってるよぉ、ごめんなさい。」
ヴィスコはヘルメスの剣幕にシュンとした表情になる。
冒険者と言ってもヴィスコはまだ15歳、考え方はまだまだ未熟であり、精神的にも子供の部分がある。
「解れば、よろしい。」
ヘルメスは強くて厳しくて優しいお姉さんみたいなものだ。
「まあ、確かにヴィスコの言うことにも一理ある。それは魔力や総合的な力を見れば、今のヘルメスは普通の人間のものではないし、今回、手に入れた『聖剣ヴォルガナイト』は勇者の証でもある。つまり、正式に勇者となった訳だ。」
とギルガもヴィスコの勇者説には賛成のようである。
ただ、大々的に世間に名を広めることについては、賛成という程のものでもないが…
「確かに、実力と証は手に入れましたが、名実ともに勇者となるためには、どこの国でもいいのですが、『太陽神ラー』の前で祝福を受けなければいけなかったはずです。」
とオルビアが言う。
「そっか!勇者として、広く世間に認知されるためには、それが必要ということね。」
とヴィスコが目を輝かせる。
世間に勇者ヘルメスを知らしめることについては、諦めていないようだ。
「いや、それは…、あまり目立つのは良くないかと…」
ヘルメスは『絶対悪』のことを聞かされてから、かなり慎重になっていた。
自分に発現した力が、勇者の力であると言うことは説明を受け理解していたが、まさか、それと時を同じくして巨悪の根源が誕生するという事にまで頭が回っていなかった。
発現した力はその『悪』を倒すために生まれたものであるという、非常に重大、かつ絶対に逃げられない責任感というものがヘルメスにのし掛かっていた。
だが、今回の聖剣入手は、覚醒した二人の真なる勇者としての序章であった。
ようやく聖剣も手に入りようやく真の勇者が甦りました。
今回は、ヴィスコ達のコーナーはお休みです。
新章で、新たな展開があります。
それでは次回まで。
(*・ω・)ノ