第132話 最終トラップと朽ちた聖剣
そんな、蔵光が! という話です。
第132話 最終トラップと朽ちた聖剣
ここは、ギルレア洞窟の最深部。
暗い洞窟の中で、ゼリーの光魔法が周囲を照らしている。
周りは巨大な鍾乳洞のように、かなりの高さの天井に、大きな岩の柱がいくつも垂れ下がり、下からも剣のように先が尖った無数の岩が突き出ていた。
ヘルメスが『悪魔素』が噴き出している魔素口を見ながら、一つの確信を持つ。
「聖剣ヴォルガナイトはここにある。」
とヘルメスは断言し、話を続けた。
「この場所に眠る聖剣には、簡単に取ることが出来ないように、あらかじめ罠を張ってあった。それは、最初に洞窟の入口に溢れだしていた『悪魔素』、そして次に出てきたのは『怪物ヒドラ』。でも、それは私、ザビエラさんの持つ聖神力の力と蔵光さん達の力で突破した。でも、罠はそれだけではなかった。あのタイジャ・ジークと言う謎の男が最後の敵、最後の罠だったということかしら?でも、私を殺そうとしたけど蔵光さんがいたので手を出せなかったと…」
「うーん、途中までは、そうだとは思うんだけど、まだ何かあるような気がするんだよな。」
と蔵光はあのタイジャが、ヘルメスに一撃も入れずに、姿を消したことに引っ掛かっていた。
ヘルメスには、防御魔法が掛けられていたからという理由はなくもない。
だから、もしタイジャが攻撃をしていたとしても、それは防げたかも知れない。
だが、一撃も入れずに『魔素口』を明け渡して去ることの意味を蔵光は考えていた。
「何故、タイジャはヘルメスを襲わなかったのか、もし、タイジャがこの場所にいなかったとしても、その罠は作動するものと考えると、最後の罠はタイジャではなく、何かどこかに仕掛けられた即死魔法の類いなのか?それとも、本来、ここにいると思っていたヒドラは最大の七つ首のはずなのに、二つ少ない五つ首が出てきた。七つ首の攻撃は…勇者であっても防ぎきれないものなのか?それが、どこかから出てくるのか?」
蔵光も高速思考で考えていた。
奴等はヘルメスをここで確実に始末する方法を持っていたと考えると穏やかではない。
高魔力、聖神力をも無効化する何かの攻撃方法を持っていたのだろうか?
「ゼリー、ヒドラの後二つのブレスって何だろう?」
蔵光がゼリーに尋ねる。
「ああ、主もその答えに辿り着いたんか、その答えが出たんやったら、わかると思うけど、さっきのタイジャとかいう奴は恐らく黒龍やで。」
「やっぱり、そう思うか?」
「まあ、あの次元魔法なら、そう考えてもおかしくはない、それに、『悪魔素』を使っていると言うことは『悪魔落ち』の魔族も絡んどるな。悪魔落ちも次元魔法を使うみたいやけど、あの魔法の展開速度はたぶん黒龍やろ。」
「ややこしくなってきたね。」
「そうやな、で、さっきの答えやけど、ヒドラは六つ目の首で『呪いの声』、七つ目の首で『石化の瞳』を使う。」
「やっぱり知っていたんだね。」
「そら、チョッコ・クリムの生まれ変りやからな。」
「でも、後の二つはブレスじゃないの?」
「まあ、そうやな。ヒドラの七つ首は伊達じゃないということかな。さっきの五つ首なら少し離れていたら全て躱す事が出来るもんばっかりやけど、後の二つは別格や、離れてても対象に効果がある。それにこれは古代魔法に近いんで、高魔力や聖神力なんかで防げるかどうかもわからんしな。」
とゼリーが説明する。
「どうしたら防げるかが問題だ。ゼリーがヒドラのその最後の二つの攻撃を知っているということは、見たことがあるの?チョッコ・クリムの時に?」
「いや、無い。聞いたことがあるだけや。」
「それって誰から?」
「そんなもん水覇に決まっとるやろ!」
「ああ、やっぱりそうなんだね。でも、それだったら水覇様は七つ首のヒドラを見ていただろうし、倒したのだろうけど、どうやって倒したのかな?」
「さあな、そこまでは聞いてない。でも、結構ヤバかったみたいやったな。」
「そんな奴、倒せるのかな?」
と蔵光も倒し方を少し考えている様子であった。
「で、どうやってヒドラが出てくるのかな?」
ギルガがヒドラの召喚方法を考えていた。
「恐らく黒龍が絡んでいるというのなら、転送の魔石がその辺りに置かれているでしょう。」
ザビエラは、クワッテ鉱山の時にダウスが使っていた転送魔石を思い出していた。
ヘルメスは目の前で、『悪魔素』が、表面を水溜まりのようにユラユラとさせている魔素口を見ながら、
「ああ、もしかして、あれにヒドラを召喚する魔石を…『魔素口』に手を触れたり、何か衝撃を与えたりしたらそれが発動する仕掛けをしているのかも……それじゃこのまま『魔素口』として封印をしてしまえば発動はしないけど、そのかわり、それでは聖剣は手に入らないし、逆に封印前に『魔素口』へ手を触れたりして聖剣を手に入れようとすれば、罠が作動し、私達が、やられてしまうという事か。上手いことを考えたものね。そして、ここに来れるのも『悪魔素』を除去出来る勇者だけだし、完全に勇者殺しのためのトラップだわね。」
ヘルメスがこの罠の事を完全に理解した。
「で、この罠をどう攻略するかだけど、そもそも、その六つ目の首の『呪いの声』と七つ目の首の『石化の瞳』ってどんな能力なんだろうね?わかれば、何とか対処出来るんだけどなあ。」
と蔵光がゼリーに尋ねる。
「それは、ワイにもわからんな、古代魔法に近いと言うたんは、このヒドラが昔話や伝説なんかで、しょっちゅう出てきとるから、そう言うたんや。それこそ、チョッコ・クリムが生きていた時代より、もっと昔の時代からな。」
「ふーん、そうなんだ。」
蔵光はゼリーの説明に納得するが、根本的な問題の解決にはなっていなかった。
「とりあえず、その能力の名前から、どんな能力なのか想像してみたらどうかしら?」
ヴィスコが蔵光に提案する。
「それも、そうだな、例えば『呪いの声』って言ったらやっぱり、『死霊の言霊』みたいなものかな?」
「あ、あの精神操作をする感じのやつね。」
『死霊の言霊』とは、上位の死霊が、精神に作用する『ゴーストボイス』と呼ばれる声や音波を発して、人を発狂させたり、人心を操ったりするもので、その力を総称した能力を言うのだが、これは『聖霊力』と呼ばれるものを持っていればそれは、防ぐことが出来る。100 101
当然、ヘルメスの持つ『聖神力』も防ぐことが出来る。
「でも、それは、ヘルメスには効かなかったんだよね?」
と蔵光はヘルメスに確認する。
「ええ、あの時は…でも、今回は、それが通用するかどうか…」
「そうだよねえー、『死霊の言霊』には魔力の干渉も出来ないし、でも、奴等はヒドラを魔石に封じ込める事に成功しているしな……って、あっ!ゼリー!」
「あ、主ぃ、ワイもたぶん同じ事を思い付いたと思う。」
二人は顔を見合わせて頷く。
「えっ?ど、どうするの?」
「ヒドラが封じ込められていると思われる魔石自体を空間魔法で隔離する。」
「ええ?!魔石を隔離?」
「そうや、アイツ等と同じことをしたら、エエんや。恐らく、奴等はヒドラを封じ込めた魔石はここまで運び込むときに、絶対に空間魔法のうち『次元魔法』を使うとるはずや。そうすれば、魔石に衝撃を与えずに運ぶことも出来るし、設置も、魔素口のところで空間解除すれば安全や、ということは、ワイも同じようにその『次元魔法』を使って魔石を回収して、隔離すれば罠は回避できるっちゅうことや!」
「ああ!なるほど!」
「ちゅうことやから、ちょっと待っとれよ。」
ゼリーが魔素口の付近に探索魔法をかける。
探索魔法とは、生命体感知ではなく、魔石等の鉱物、金属等の捜索や、目的物を指定すれば、書類や書物の類いまで探すことが出来るという優れものだ。
「あったで。案の定『魔素口』の中や。」
とゼリーが探索結果を報告する。
「じゃあ早く回収を…」
「アカン、無理や。」
「えっ?どういうこと?」
「魔石と聖剣が引っ付いてしもうとる。ヘタに空間魔法使うたら、聖剣を破壊してしまうで。」
「じゃあどうしたらいい?」
ヘルメスも不安な表情になる。
「主の力を借りる。」
「えっ?俺の?」
「ああ、最後の手段や、魔石からヒドラを出す。」
「ええー!?ウソ?」
ヴィスコやトンキはその提案に驚いている。
「そこでや、オルビア、お前さんの力が借りたい。」
とゼリーは体内の空間に避難しているオルビアに話しかける。
「そう言うと思ってました。」
「そうか、じゃあ話は早いな。そしたら、ワイの作戦を話すわ。まずは、ヒドラやけど、アイツも一応は生き物やから出現と同時に、その能力を展開すると言うことには、かなり無理があると思うんや。能力を展開するんは出現した後、ワイらを目で見て認識した後に、その能力を展開するんやと思う。せやから、その間の時間、つまり出現から認識までは、大体数秒間はあると思う。なので、オルビアにはヒドラが出現する時の、六つ目と七つ目の首の位置をある程度、絞って予知して欲しい。出現場所は恐らくそんなに魔素口から遠くはないと思うけどな。」
「わかりました。」
「で、その首の位置を聞いた主はそこに『水化月』を待機させておき、出現と同時に首を切断という感じや。」
「ふえーゼリーちゃんスゴすぎます。」
ヴィスコが作戦を聞いて驚く。
失敗すれば全員石像になるのだから、より確実な討伐方法を選択しなければならない。
「じゃあ、オルビア、頼む。」
蔵光はオルビアから、詳細な位置を聞いて大きな『水化月』を用意する。
普段使っている分の三倍の大きさはしている。
ザビエラとヘルメスは、『魔素口』に溢れ出ている『悪魔素』の除去を準備する。
恐らく、除去自体では魔石は作動しない。
聖剣を動かした途端に、聖剣に引っ付いている魔石がその衝撃を感知してヒドラが、出現するものと判断された。
「行くで!ヘルメス、ザビエラ!『悪魔素』除去や!」
「おう!」
「はい!」
二人は金色のオーラを体から発して、大きな魔素口に近付く。
「主!準備は?」
「出来てる!」
蔵光も身構える。
「作成開始や!」
ゼリーの号令でまず、ヘルメス、ザビエラ両名による『悪魔素』除去が行われた。
そして、蔵光が小さな水滴の魔法で魔石に衝撃を与える。
オルビアの予知したヒドラの出現場所は予想外にも、魔素口から少し離れた場所であり、洞窟の通路の出口付近方向となっていた。
恐らくは、勇者、つまり、ヘルメスをここから逃がさないために逃げ道を塞ぐような位置にヒドラを出現させようとようとしていたようだ。
ヒドラは魔石が受けた衝撃により、出現した。
オルビアの予知した場所だった。
大きさは先程、洞窟の入り口で出現したヒドラの倍以上はある。
黒光りする体表には黒く濃い魔素が纏わりついて漂う。
「主!今や!」
ゼリーの声に瞬時に反応した蔵光の『水化月』がヒドラの首を狙う。
バチーン!バチーン!バチーン!
大きな音がして、ヒドラの首が次々と切断される。
物凄い速度で切り落とされたのは二つの首だけでなく全ての首が切り落とされた。
「ヘルメス!聖剣を!」
蔵光が叫ぶ。
「わかった!」
ヘルメスは『悪魔素』が除去された後の魔素口の中に飛び込んだ。
魔素口は直径が10m程の大きさのすり鉢状のもので、その一番底の部分に聖剣は置かれていた。
だが、その聖剣は魔石からヒドラが出現する時の威力で真っ二つに折れていた。
原因としては剣自体が錆びて朽ち果てていたからだった。
さらに、運の悪いことに切断した七つ目の首から発した、石化の能力がヒドラの目の前にいた蔵光を捉え、蔵光を石像にしてしまったのだ。
さすがの蔵光の高い魔力値でもこの能力は防ぐことが出来なかった。
石化を解除するには古代魔法の解除呪文が必要だろう。
だが、そんな便利な呪文を知っているのなら最初から誰かが申し出ている。
つまり、誰も石化を解除出来ないのだ。
主人公が石像になってしまったら、この物語はもうこれで一貫の終わりです。
どうしましょう。
マ「どうなっちゃうんですか?!これで終わってしまったら、約束してもらった私の出番が無くなるんじゃないんですか?」
ト「残念だなマッソル。」
ヴ「大丈夫だ!マッソル、心配するな。次回からは『ギルガ様の冒険譚』が始まるから。」
マ「ええー!?マジですか?」
そんなものは、始まりません。何を勝手に言っているんですか。
この世に悪が有る限り、正義はいつも立ち上がる。
蔵光は多分大丈夫だと思うので、心配はしなくてもいいと思うよ、多分、恐らく。
それでは、神に祈って次回を待ちましょう。
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