第131話 ヒドラとギルレア洞窟
怪物ヒドラ出現です。
第131話 ~ヒドラとギルレア洞窟~
蔵光達の前に現れたのは、巨大なヒドラであった。
体長は50m以上はありそうで、首の数は五つある。
体の色は黒く、表面がヌメヌメしたような感じで光り、その体表は鱗と言うよりも、鮫のような、ややざらつくような肌をしている。
体は一体分で、その背中には検索通り翼がある。
ゼリーが、
「オルビアとヴィスコ、トンキはワイのとこに入っとき!」
と言って、すぐに体内の空間内に入り込む。
そして、その体内では、ヒドラの検証が始まっていた。
「あれは、まだ頭の数が五つしかない、七つの首がある個体が一番恐ろしいとか、いわれていたんだったかな?」
とトンキがマソパッドの検索結果を思い出す。「確か、炎、毒、麻痺、強酸、氷、最後は最悪の石化のブレスを吐く七つ目の頭と言われてたわね。で、六つ目て何かな?」
とヴィスコがそれをマソパッドで確認する。
「ああ、六つ目は、あれ?出てこないな?なんでだろ。」
ヒドラはその頭部をそれぞれ上下左右に振りながら、こちらに近付いてくる。
体の回りには負の魔素が纏わり付くかのように蒸気のごとく漂っている。
「来るぞ!」
ギルガが龍種の攻撃のタイミングを読む。
大抵、龍種のブレス攻撃は首から喉の辺りを通ってくるため、膨らみの移動を見るのが基本であるが、首の数が多いと、そのタイミングを見誤り安い。
先ずは、麻痺と毒の息だった。
麻痺の息は、無色透明の為、到達の状況が分かりにくい為と、一度麻痺状態になるとしばらくは動けないため、彼等の補食動作としては、当然と言えば当然の攻撃である。
また、毒攻撃も、これまた無色である。
どこかの、ファンタジー小説とか漫画とかゲームのように、紫がかった、毒々しいものは吐き出さない。
何故って?
だって、そんな目に見える攻撃なんか避けやすいでしょ。
攻撃というものは見えにくく、そして避けにくいものであり、必ず当たる事を目的としているのであって、避けて下さいとばかりのテレフォン攻撃はいくらなんでも有り得ない。
当然、そんな攻撃ならば、受ける側もそれなりの防御する必要は出来てくる。
既に蔵光の防御魔法がヘルメス達に掛けられていたように、他のメンバーにも防御魔法はかけられていた。
近くを動いていた虫や小動物はすぐに麻痺状態になって動けなくなり、その後、強い毒の作用で死んでしまった。
ヒドラは、その攻撃だけでなく、氷や炎、強酸のブレスを使って全員に間髪入れずに攻撃し、さらに次の狙いを付けるため、五つの首がキョロキョロと動いて周囲を確認しているが、それをじっと見ているような間抜けなメンバーはいない。
全員が散り散りになって攻撃を躱しながら自分の役割を果たす。
ヘルメスとザビエラは当然、洞窟の方へ移動し、濃い負の魔素である『悪魔素』を除去するためにそちらへ向かう。
ゼリーは二人のサポートだ。
蔵光とギルガがヒドラの相手をする。
ギルガは、ヒドラのブレスを素早く躱しながら、今度は人間の姿のまま、自分の口から炎のブレスを吐き出す。
カチカチと奥歯で着火させながら体内の燃焼液体を吐き出す。
高魔力の炎ブレスはヒドラの吐くブレスの比ではない。
青色に近い高温のブレスが直線状のバーナーの炎の様になって全ての頭部を焼き切る。
全ての頭が地面に落ちる。
魔力値が高いゆえの攻撃である。
また蔵光は既に、ヒドラの体内の水分を『魃』で抜き取り、体の力を奪い取っていた。
そのため、第二波の攻撃は出ることもなく、戦闘は一瞬で終わっていた。
強者の戦いとはこういうものである。
どこかの漫画のようにダラダラと無駄な時間をかけて戦うことは、自分の命の危険が晒される時間がそれだけ長くなるということであり、本来は避けなければならない。
相手の実力を見極めて最小限の力で一瞬で倒す。
なので、蔵光の戦いに面白味はない。
首を落としたり、窒息させたり、体内の水分を抜くといった地味な攻撃がほとんどだ。
彼は戦いに面白味を求めてはいない。
狩人とはそんなものである。
「やっぱり、主の攻撃はエグいわ。」
ゼリーがぼそりと呟く。
「ギルガ様もさすがです。」
ヴィスコも、ギルガの戦う姿を見て目をキラキラとさせている。
一方、ヘルメス達だが、体から金色の光を発して『悪魔素』に近付いた。
そして、その『聖光』が触れた途端、周囲の『悪魔素』が弾け飛ぶ。
洞窟の入口周辺に滞留していた大量の『悪魔素』はヘルメスとザビエラが体から放つオーラにより物凄い勢いで消滅していった。
『悪魔素』の影響で真っ黒になっていたギルレア洞窟はようやくその全貌を見せた。
「あの『悪魔素』が無くなったら、洞窟内に生命体感知が通るようになった。」
と蔵光が気付くと、
「あの濃い魔素の影響で魔力による感知が阻害されていたみたいですね。」
とヴィスコが分析する。
だが、まだ、感知が通るのは洞窟の手前周辺くらいしか通らないので、ヘルメスはどんどんと前に進んでいく。
「かなり、長いな。」
洞窟の奥はかなり広く、『悪魔素』もかなりの量が溜まっていた。
それをヘルメスとザビエラの二人が手分けしながら処理していく。
と言っても、ただ、『悪魔素』は二人が近くに近寄るだけで消滅していくのであるが………
『悪魔素』が処理されると、洞窟内の状況が目に見えて来た。
天井はかなりの高さで、奥行きも広い。
当然と言えば当然だが、内部はゴツゴツとした岩ばかりである。
鍾乳洞のイメージでそれの超巨大版を想像してもらえればいいだろう。
「あれは…」
ヘルメスが『悪魔素』を消した瞬間に、前方の気配に気付く。
「あれは『魔素口』だ。」
噴き出している魔素は負の魔素ではなく『悪魔素』であった。
「なるほど、ここが『悪魔素』の出所か!?」
ザビエラも気付く。
「しかし、こんなところに、このような物があればすぐ問題になると思うのだが…」
とヘルメスは不審がる。
「とりあえず、あれを消しましょう。」
ザビエラはそう言うと『魔素口』に近付いた。
「おおっと、それは止めて貰おうかな?」
とヘルメス達の後で声がする。
「誰だ!」
ヘルメスが振り向き様に剣を抜く。
そこには、人間の男の姿をした者が立っていた。
年の頃は30歳くらい、スラッとした痩せ型ではあるが、目付きが鋭く、隙のない顔付きである。
服装はどこかの貴族のような立派な身なりであるが、この洞窟にいるという時点で、既に人間でないことは確定していた。
加えて、かなり強いと言うことも対面したときにハッキリとわかった。
応援を呼ぶにも、蔵光達は、まだ少し後の方にいる。
だが、『水蓮花』によりその声は全員に共有されていた。
「お前は誰だ?」
ヘルメスがさらに尋ねた。
「おっと、これは失礼、私の名前はタイジャ、タイジャ・ジークと言います。貴女はヘルメス・カース・ヴェレリアントさんですよね?」
男はヘルメスの名前を知っていた。
「何故それを?」
「貴女がここへ来るのを待っていたんですよ。」
「何!?」
「だって、貴女、勇者覚醒したんですよね?」
「なっ?!誰だ?お前は?」
「さっき言いましたよね。私の名前はタイジャ・ジーク。貴女達の倒そうとしている相手ですよ。」
「何だって?」
ヘルメスはこのタイジャと名乗る者が、自分の名前を知っていること、自分達が倒そうとしている相手と手の内を晒していることに不気味さを感じた。
「おっと、余り長居をすると殺されちゃいますからね。失礼しますよ。まずは挨拶まで…」
そう言うとタイジャ・ジークの姿はおぼろげな揺らめきの中に消えていった。
「あれは?!」
その声にヘルメスが隣を見ると、蔵光は既にヘルメスの隣に来ていた。
だが、蔵光はタイジャ・ジークに攻撃はしていなかった。
「悪意が全く感じられなかった。」
それが一番の理由だった。
蔵光がタイジャ・ジークを見た瞬間にすぐ『裁定者』のスキルを使ったが、結果は☓判定だった。
普通、スキルの結果が☓判定ならば、すぐに討伐するのだが、全く悪意が感知出来なかったため、殺すことに躊躇してしまったのだ。
ヘルメスに対して悪意がない者が近付いた訳なのだが、タイジャは自分の事を、ヘルメスの
敵だと言う。
「先程の者は一体何者でしょうか?」
「わからない、ただ、☓判定だから、殺してもいいんだろうが…あれは黒龍なのだろうか?」
ヘルメスは、目の前にある『悪魔素』の魔素口に近付いた。
そして、『聖神力』を使って悪魔素を除去しようと手を伸ばす。
だが、それに待ったをかける者がいた。
「ちょっと待ってくれないか。」
「えっ?」
そういったのは蔵光だった。
「何か罠があるんじゃ?」
蔵光がそう言うとゼリーも、
「ワイもそう思う。ヘルメスの名前を知っていたのも気になる。待ち構えていたとは思うが、主がいたので手を出せなかったと言うところやろな。」
「と言うと?」
「ここに、何かしらヘルメスに見られたくない、もしくは触られたくない何かがあるのかも知れない。だから、あの『悪魔素』を洞窟内に充満させていた。」
とギルガも何かに気付く。
「だが、ヘルメスとザビエラがそれを除去してしまうことによって、近付けたくないものに近付いてしまった。」
蔵光もそれに気付く。
「恐らく、かなり前からヘルメス殿の事を待ち構えていたのだと思う。それは、ジョリアの街に魔物が現れた頃から…」
ザビエラも皆の話から仮説を立てたようだ。
「それって、」
ヘルメスもようやく話の筋が見えて来たようだ。
「話をまとめてみよう。まず、私が『勇者覚醒』をする前に『絶対悪』が生まれた。だがその後、ヴェレリアントの眷属である私が、もし、勇者になれば、その『絶対悪』には大きな脅威となる。そのためには、覚醒前の私を闇に葬るのが一番と考えた。だが、私は既に冒険者となり、この地を離れていた。でも『絶対悪』という存在が誕生すれば、必ず勇者も覚醒する。だからこそ、私をこのギルレア洞窟に誘きだして殺すことを計画した。私を焚き付け、必ずここに来させる必要があった。だから、罠を張るためにジョリアを襲った。それも一年以上も前にだ。何故、この洞窟なのか、それは、私が勇者となった時に必ず必要とする物がここにあるから…だが、彼等には手が届かないと言うか、触れる事さえ出来ない物がここにあるから…」
ヘルメスの高速思考がフル回転していた。
「それって…」
ヴィスコもここまで言われてわからない訳がなかった。
例の物がここに眠っている可能性が高くなっていた。
ヴ「もしかして?ですよね。」
ト「もしかして、いつものご都合主義ですか?」
ご都合主義言うな!
偶然ではない、必然だ!『剣と勇者は引かれ合う!それが運命!』
マ「なんか、超カッコいいんですけど。」
なかなか君はわかっているねマッソル君、君には必ずやいい出番を用意したい。
マ「マジっすか?超うれしいです。」
ヴ「私もなんかカッコいいななんて思ってました。」
そうか!じゃあヴィスコ君も考えとこうかな。
ヴ「あーざーす!」
ト「いやあ、私も何かいいなあなんて…」
そうか、では、君には古代死語魔法を与えてやろう!
ト「怖すぎます。すみませんでした。」
では、次回までさようならー!
⊂(・∀・⊂*)シャー