第130話 絶対悪の出現の予感
やっぱりか的な話です。
第130話 ~絶対悪の出現の予感~
蔵光はザビエラとトンキには引き続き、魔素口の調査と負の魔素の回収を指示した。
そして、自分達は、ゼリー達と合流するためジョリアの西の森の西端にて待ち合わせをした。
生命体感知の魔法が使えないオルビアでも、『水蓮花 通信+位置探査version 』があれば皆の位置が手に取るようにわかる。
すごい速度で蔵光達は自分達の所に近付いてきていることが、魔法で造られた画面に光点となって表示される。
「速ーい!」
オルビアが驚きの声を上げる。
数十kmという距離を一瞬で飛んでくるのだから恐ろしいと言わざるを得ない。
ザビエラの飛翔魔法でもこれほど速くはない。
風の抵抗にも対応できるように防御魔法も重ねているため、ヘルメス達には風圧は感じられる事はない。
「久しぶりに、空を飛ぶけど、やっぱりスゴいね。」
とヴィスコが嬉しそうにしている。
「あ、見えてきた。」
かなり離れているのだか、蔵光の目にはハッキリとゼリー達が見えていた。
蔵光はゼリー達の上空にやって来ると、静かに降下して行った。
「やあ、お待たせ!」
「いや、そんなに待ってないし。」
とゼリーが突っ込んだ。
「洞窟は?」
ヘルメスも名前だけは聞いたことがあるが、実際に見たことはない。
「あれだ。」
ギルガが指を指した方向にそれはあった。
巨大な岩が重なりあったような岩場に、大きな穴というよりも空洞が空いていた。
そこからは禍禍しい負の魔素が空洞を覆うような感じで大量に溢れ出ている。
それが存在するという事は、その内部に凶悪化した魔物が存在する可能性も非常に高いということであった。
「恐らく龍族に関係する洞窟かも知れない。」
とギルガが言うと、ヴィスコがすぐに気付く。
「あ、ギルガ様の名前の由来と同じ『ギル』の文字が入っているからですね。」
ギルガの名前には元々住んでいた、ギルス火山帯の『ギル』が入っている。69
ここにも『ギル』の文字を含む『ギルレア』という洞窟である。
『龍の墓場』自体が龍が住んでいると言われる地域であり、そこから少し離れているとは言え、それが元々龍の住み処であってもおかしくはない。
だが、ここには普通の龍種が住んでいる可能性は限りなく低かった。
皆がその洞窟を見ていた時、ザビエラ達も現場に飛翔魔法を使ってやって来た。
蔵光の指示通り負の魔素の反応を追ってここまで来たようだったが、そこへたまたま蔵光達が先にやって来ていた格好だ。
「やはり、ここでしたか。」
ザビエラが蔵光達に言うとヘルメスが尋ねる。
「やはりとは?」
「先程の反応の悪い、負の魔素については必ず、どこかに噴出する場所があると考えられたのです。それを探っていたところ、蔵光様の反応が近くにありましたので同じ場所ではないかと…」
「それがここだと?」
「はい、かなりの量ですからマソパッドの反応もここが一番高かったですから。」
「なるほど、ということは、ここからジョリアの近くの森の地下にまで負の魔素が来ていたということか。」
「恐らくは…」
ヘルメスがジョリアの方角を見ながら魔素の拡がりを想像していた。
「魔石で魔素の吸収は?」
蔵光が尋ねる。
「かなり多いですが、何とか持ち合わせている魔石でやってみます。」
そう言うとザビエラはトンキと共に洞窟へ近付いて行く。
この辺りは、火山帯も近いため、人家はなく、ほぼ荒野といった方が良いくらいの土地で、岩と砂と枯れた草地がほとんど部分を占めていた。
土地は平坦で、かなり遠くまで見通せ、火山帯の火山が遠くに見え、山頂からいくつも噴煙を上げているのが確認できる。
だが、洞窟へ近付いて行ったザビエラ達がすぐに戻って来た。
「駄目です、あれは濃度が濃すぎて、我々でも手が負えません。あれは我々にも悪影響があるものでして…」
とザビエラが言うと蔵光は、先日のチャルカ村の件で報告を受けていた話を思い出した。。
「もしかして、あの魔素は、魔族が吸収すると『悪魔落ち』すると言われる例の魔素なのか?」
「その通りです。あれを我々の魔石で吸収してしまうと魔石が壊れてしまって使えなくなるのです。」
とザビエラが説明する。
それほどの濃い負の魔素を漂わせている洞窟に対して、どう対応するのか思案のしどころであった。
魔素を吸収や除去をせず、そのまま、蔵光が封印してしまうと魔素の拡がっている範囲が広いため、別の場所から再び亀裂が入るなどして、さらに今回のような大きな出口を失った魔素の塊が凄い勢いで吹き出す可能性があった。
「トンキ、ヴィスコにマソパッドを渡し、ヴィスコはそれで直ぐにエージに連絡を入れてくれ。」
「わかった」
「わかりました。」
トンキがヴィスコにマソパッドを渡すと、ヴィスコは蔵光から言われた通りマソパッドの電話機能ですぐに連絡を入れる。
ルルルルルルーーー
呼び出し音が鳴る。
「はーい、エージです。」
ジパング王国技術開発部の若き天才科学者『花里須磨叡知』である。
「あ、エージ君、ちょっと困っているんだけど、何か良い知恵はないかなって?」
「どうしたの?」
「実は…」
ヴィスコは濃い負の魔素が洞窟に立ち込めていて除去が困難であり、中に入るのが難しい状況を説明した。
「なるほど、蔵光君の封印だと簡単だけど、中に拡がる範囲が広いのと、洞窟内にいるであろうヒドラの討伐も必要だと。うーん、ちょっと考えさせて。」
そう言うとエージは、何やら隣の機械を操作しながらぶつぶつと呟いている。
「魔素の濃度稀釈について…フンフン、聖霊の持つ、ああ、なるほど、勇者の…えっ!?うーん、これは、中々手強いな、無理かな…」
「エージ、どんな感じかな?」
蔵光が尋ねる。
「うーん、ちょっと無理かな。」
「ええ!?そんな!」
ヴィスコがエージの回答に泣き顔になる。
「と言うのも、その濃い負の魔素自体が、負の魔素とは似て非なる、全くの別物だからなんだよ。」
「えっ!?でも、マソパッドに負の魔素の反応があるんだけど?」
「まあ、多少は負の魔素が含まれてはいるけど、それ自体は別に問題ではない。人間の体には影響はあるけどね。でも、その他の成分に問題がある。」
「その他の成分?」
「うん、僕の研究で名付けて、『悪魔素』とか『デーモニウム』と呼んでいるんだけど、負の魔素が圧縮高濃度の環境に置かれて変化したもので、魔族には『悪魔落ち』と呼ばれる変化をもたらし、人間には即死効果のある魔素となる。近付いただけで死んじゃうよ。」
「えっ!?」
ヴィスコやヘルメスが驚いて手で口を塞ぐ。
「はははは、蔵光君の防御魔法で守られているようだから大丈夫だとは思うけど、普通だったらもう死んでるよ。」
「そんなに凄いものなの?」
「ああ、これを除去、若しくは消滅させるには勇者と呼ばれるような『魔人種』が持つと言われている『聖神力』と言うのが必要なんだけど、勇者自体の出現率が低いので、無理かなと…まあ、『悪魔素』の出現率も低いから、そのヒドラが地表に出てくるのを気長に待つことだね。」
とエージが説明した。
「なーんだ、そんなことだったの?もっと難しいのかと思ったわ。」
とヴィスコがホッとした表情になるのを見てエージが慌てる。
「いやいや、勇者自体を探すのも大変なんだよ、何百年かに一人とか二人とかの確率だし、場所もわからないんじゃ、手の出しようが無いじゃないか!」
「あははは、エージ君、その問題はもうクリアしてるのよ。」
とヘルメスも笑いながら答える。
「え?蔵光君、これってどういうこと?」
「え、あ、ああ、実は…」
ヴェレリアント領に着く前に、ヘルメスが覚醒し、その後、ザビエラも勇者覚醒したことを話す。
「そ、そんなことって…それは、ヤバいな、大変なことですよ!」
エージがそれを聞いて慌て始めた。
「大変って、どういうこと?」
ヘルメスが、あまりのエージの慌てように尋ねる。
「勇者覚醒、つまり、勇者の出現は、この世に出現する『絶対悪』に対する表裏一体の存在として出現するのです。ですから、勇者が誕生したと言うことは、必ず『絶対悪』の誕生、出現が確定するのです。」
「そ、そんな…」
ヘルメスが、恐ろしい現実を突き付けられた。
今までは、大きな力を手に入れたと喜んで有頂天になっていたが、そういう事だったのかと初めて気付く。
「そう言えば、チャルカ村でバゾニアルアジカンと言う悪魔落ちが、世界の預言ではどうだとか、正に勇者ここに顕るとか、由々しき事態だとか言っていたような…」102
とヘルメスが思い出したように言うと、エージが、
「いや、それ目茶苦茶、重要なんですけど!そもそも『悪魔落ち』になった魔族の者は、その『絶対悪』の尖兵として誕生するのです。その誕生にはこの『悪魔素』が必要になるのです。悪魔素は、『絶対悪』の力の根元です。ですが、その弱点は勇者の力の源となる『聖神力』なのです。」
「な、なるほど、だから、バゾニアルアジカンは、私と戦うことよりも、その『絶対悪』へ報告するために魔界へ戻ったと言う訳なのね。」
「多分、そう言う事だと思うけど、他にそのバゾニアルアジカンと言う悪魔落ちは何か言っていたかな?」
とエージが質問してきた。
「うーん、確か、あの教団『七つの棺』の神というのが『救いの神ガロヤ』とか言っていたな。」
「『救いの神ガロヤ』…」
エージが難しい顔をしている。
「わかった、ありがとう、ちょっと『ガロヤ』について調べてみるよ。洞窟のことはくれぐれも気を付けてね。」
「ありがとう。」
ヘルメスとヴィスコはエージに礼を言ってマソパッドの通話を切る。
「しかし、黒龍の問題だけでなく、『絶対悪』の問題も出てくるとは…」
とザビエラが自分に現れた勇者の力『聖神力』が『絶対悪』に対抗するために出現した力と知り、精神的にかなり動揺していた。
と言うのも、これまで、ほとんどの『絶対悪』と言われる存在は魔族から生まれていたからだ。
だからこそ、魔族は太陽に嫌われた種族とまで言われ、世界中から忌み嫌われる存在となっていたのである。
それにも関わらず、魔族の自分が勇者等とは、信じがたい事だったのだ。
「とりあえず、この『悪魔素』を無くしてしまおう。」
蔵光はザビエラに指示する。
「わかりました。」
ザビエラとヘルメスは洞窟の方へ足を進める。
すると、洞窟の方の様子が少しおかしくなってきていた。
さらに大量の『悪魔素』が洞窟内から溢れ始めたのだ。
「なんだ、あれは!」
それは、悪魔の化身ともいうべき怪物ヒドラであった。
ヴ「やっぱりね、おかしいと思ったわ。」
ト「罠ですな、持ち上げておいて、落とす。」
マ「確かに姉御は『オラオラ』状態でしたから…」
現実はいつでも厳しいものです。
恐ろしい存在との対決を決定付けられました。
ではまた、次回まで。
⊂(・∀・⊂*)ダーッ