第129話 バジルス・カース・ヴェレリアント
ヘルメスパパです。元バトルジャンキーでした。
第129話 ~バジルス・カース・ヴェレリアント~
「はっはっはっ、水無月蔵光君か、それはそれは、ようこそヴェレリアントへ!」
バジルスは水無月の名前を聞いた瞬間から、変に機嫌が良くなっていた。
それはヘルメスが良く知っているもうひとつの父親の顔であった。
普段には見せない空気を纏っている。
彼は思っていた。
それは、SSS級冒険者のアサッテしかり、強者であれば必ず思うことであった。
『強い者と戦いたい。』
バジルスも例外ではなかった。
彼は、ヴェレリアント家の家長を引き継ぐまではヴェネシア王国の城内にある親衛隊長として活躍していた。
剣術にかけては国内でも一、二を争うほどの実力者であり、王国内で行われる剣術大会では、幾度も優勝し、彼に敵う者はもういないとまで噂されるくらいであった。
そんな境遇になっていても彼はいつも思っていた。
強者と戦いたい。
そんな気持ちが常に自分を動かしていた。
だから、強い奴がいると聞けば、どんなに遠い土地でも国でも、王国から休暇をもらい、そこまで出向いて戦わせてもらった。
だが、それはいずれも、バジルスの圧勝であり、彼を満足させるものではなかった。
バジルスは強すぎたのだ。
だが、そんな彼にもひとつだけ気になる話を聞いたことがあった。
それは、対戦した強者であれば誰もが口にしていた名前だった。
『水無月一族』
それは、鎖国されているジパング王国に『水無月』という名前の恐ろしく強い人間達がいるというのだ。
それは、龍を狩ることを生業とし、その一撃は、岩をも砕き、硬い龍の鱗さえも切断する技を持つという。
まあ、話半分としてもかなり強いとは聞いているので、機会があれば一度は対戦してみたいとは思っていたが、鎖国されている国であり、親衛隊時代はそれも叶わなかった。
だが、今、まさにその水無月を名乗る者が目の前に現れたのだ。
もう、年は50も半ばを過ぎ、思うようには体は動かないが、それでも自分の領地の誰よりも腕は立っていた。
『ぜひとも、一手、勝負させてもらいたい。』
と思うと、体全体から喜びが溢れだしてくるのだった。
「あ、あの、水無月君、少し尋ねるが、君は何か武の心得があるのかね?」
とバジルスが聞くと、父親の気持ちを察したのかヘルメスが代わりに答える。
「彼は、拳法家です。あと魔法も使えますが、お父様は手合わせしない方がよろしいかと思います。」
早々にヘルメスから釘を刺された感じだ。
「なっ?!ヘルメス、私は何も、彼と戦いたいとか、そういうことは、全く…」
とチラリと蔵光を見る。
「彼は噂に違わない実力者です。いくらお父様が強いと言っても次元が違います。」
「それは、戦わないとわからないだろう?」
バジルスもそれでは納得しない。
まあ、蔵光の本当の力を見れば腰を抜かすであろうが…
すると、ヘルメスはひとつの提案をバジルスに示した。
「では、彼の持つ武器を持つことが出来ればその事がわかるでしょう。」
そう言うとヘルメスは蔵光に、
「蔵光殿、失礼ですが、例の如意棒を…」
「あ、いいけど、大丈夫かな?」
と言いながら蔵光は手に持っていた如意棒を静かに床へ置く。
バジルスは、太さも約2.5~3cm、長さも約150cmくらいの何の変哲もない金属製の棒を見て、
『この武器を持てるかだと、馬鹿にしているのか?』
と思いながら、床に置かれた如意棒を持とうとその場にしゃがむ。
そして、
「ふん、こんな棒など…」
と言いながら、まずは片手で持とうとした。
だが、如意棒はビクともしない。
「あれ?おかしいな、では。」
バジルスは少し焦ったような笑いを浮かべ、今度は両手で持ち上げようとするが、それでも如意棒は微動だにしない。
段々とバジルスも向きになってきたのか、端を掴んでみたり、短剣を下に入れてこじ挙げようとしたりした。
「ふーん!」
顔が真っ赤になってきたが、相変わらず1mmも動かない。
「はあはあはあ」
バジルスの息が切れてきた。
「どうですか、お父様?彼はこの武器を使って龍を倒しています。それが彼の仕事であり、宿命でもあります。我がプラチナドラゴンズはその宿命に運命を共にするために誕生しました。」
とヘルメスが説明した。
「龍を倒す宿命…運命を共に…」
バジルスは、息切れで最初、ヘルメスの言葉をぼーっと聞いていた。
だが、ヘルメスの言った言葉を反芻して、呆然とした。
「お、お前!?まさか!彼の妻になろうとしているのか?」
ととんちんかんな方向に考えが向いていた。
まあ、確かに運命を共にすると言えばそう捉えられなくもないが…
「ははは、まさか、違いますよ。」
ヘルメスは、バジルスの勘違いを笑って訂正しながら、蔵光達水無月一族が神に与えられた力と、その力を使って、龍が凶悪化したとされる『黒龍』を退治する事を宿命付けられていること等を説明した。
そして、その宿命に協力しようと、この世界の強者が自分達のクランズ『プラチナドラゴンズ』に集い、今はその目的達成のために勇者サウザンドラの持っていたと言われる『聖剣ヴォルガナイト』を探していると付け加えた。
それを聞くとさすがのバジルスも蔵光とやり合おうとは言わなかった。
クランズには魔族や古龍までいると説明したが、それは流石に冗談だと思われた。
たが、蔵光が先程、バジルスがいくら頑張っても挙げられなかった如意棒を親指と人差し指の二本で持ち上げ、さらに、目の前でクルクルと回してから脇に抱えたときは、目を丸くして驚いていた。
「お、お、お、そんなに重たいものを軽々と操るなんて………」
信じられないことだが信じざるを得ない。
さらにはバジルスがエイダーから報告を受けていたヨーグの件などの詳細をヘルメスは伝えた。
黒龍モグルのことは極秘事項であるためエイダーも詳しく知らなかったが、それについても報告した。
「そ、そんな事があったのか、まさか、伝説と言われた『龍を狩る一族』の話が本当の話だったなんて今でも信じられん…それに、『魔海嘯』の計画とは…その話では、途中でエイダーにも会ったのだな?」
「ええ、ユブノ砦港まで船で送って頂きました。」
「そうか、わかった。」
バジルスはエイダーが王国の特命を受けてメトナプトラへ入った事は知っていたが、まさか自分の娘がその事件に関わっているとは思わなかった。
「それと、お父様、ジョリアの件なのですが…」
ヘルメスはジョリアの事件の話を切り出した。
「ああ、あれか、あの件は、我々としても早期に解決せねばならぬ、喫緊の問題ではあるのだが、あのジョリア周辺の森に現れたヒドラと思われる魔物は、ジョリアを襲った後、忽然と姿を消した。」
「ええ、その話はこちらでも確認しました。何か、手懸かりでも?」
「う~む、あそこには何百という兵士を投入して捜索をしたのだが、全く手懸りどころか、出現の痕跡さえ疑わしい状況だった。」
「と、言いますと?」
蔵光も話に加わる。
「それなんだが、こちらが退治して、死んだはずの魔物の死骸も姿を消していたのだ。」
「死体が?」
「ああ、それに現れたのはヒドラだけではない、ゴブリンやオーク、コボルト等が大量に出現したのにも関わらず、それらの魔物達も、その痕跡と共に消えてしまった。こちらの兵士が倒したはずのそれら弱い魔物の足跡でさえも…」
「そんな、それって…」
ヴィスコが最悪のシナリオを頭に思い描く。
「恐らく、それを可能にするのは空間魔法、そして、それを使えるのは、龍種…たぶん黒龍…」
蔵光もヴィスコが考えている事と同じ答えに辿り着いていた。
「まさか!?」
ヘルメスが信じられないと言うような表情をしている。
「だけど本当の『魔海嘯』には至らないほど小さい規模だとは思う。恐らくはクワッテ鉱山の時と同じように準備段階の小規模な実験みたいなものなんかじゃないのかなって?それで実験が終わった後は全て回収するといった感じかな?」
「街ひとつを壊滅するほどの魔物の大群が小規模だなんて、もし本当の『魔海嘯』が発生していれば、こんなものじゃないの?」
「うん、俺が教えてもらった『魔海嘯』とは国ひとつやふたつを軽く飲み込む程の規模だと聞いている。なので、これは、何かの予兆…周囲には必ず大きな魔素口が存在する。」
蔵光は思考を加速させる。
このヴェレリアントの地域において、一番魔素口が発生しやすい場所に、その元凶となるものが存在するはず。
「ザビエラ!」
蔵光は『水蓮花』でザビエラに連絡を取る。
「何でしょうか?」
「先程の話を聞いていたかな?」
「はい、それに関してはトンキに魔素口の確認を急がせていますが、反応が悪いというか、低いというか…どうも、よくわからないのです。」
「よくわからない?」
「ええ、恐らくは地下に何かあるのかも知れません。」
「地下に?」
バジルスはいきなり蔵光が喋り始めたので、一瞬、気が触れたのかと思った。
だが、誰かと話をしているような感じであり、ヘルメスもヴィスコも何かに気をとられている様子であったため、とりあえず黙って三人の様子を見ていた。
「主ぃー、オルビアがやりおったで!」
とゼリーも話に加わってきた。
「何かわかったのか?」
「わかったの、なんのって、ヒドラの居場所がわかったで!」
「えっ!?ヒドラの居場所?」
バジルスの部屋にいた三人が同じ様に叫ぶ。
バジルスもその言葉にハッとする。
「そうや、場所は、ジョリアから南西にある『龍の墓場』っちゅう火山の麓辺りにある洞窟の中や!」
「『龍の墓場』?それって…」
「『龍の墓場』はここから南西へ行ったところにある巨大な火山地帯の事で、そこには昔から龍の住み処があると言われています。」
とヘルメスが説明すると、ヴィスコも何かを思い出したように、
「その麓の辺りの洞窟か…もしかしたら、『ギルレア洞窟』かも。」
「そうね、恐らくはその事をオルビアは言っていると思うわ。」
「じゃあ、すぐに用意をしよう。もしかしたら、今回のヒドラの件は、裏で黒龍の一体が絡んでいるのかも知れない。」
「恐らくは…」
ヘルメスもその意見には賛成の様子であった。
「お父様、ちょっと用事が出来ましたので、それが済みましたら、またここへ戻ってきますので…」
とヘルメスはバジルスに言うと、バジルスはヒドラの事で蔵光達が動いているのはわかるのだか、『水蓮花』の会話が聞こえず、話が全く見えていないために、かなり困惑していた。
「ヘルメス、お前達は一体、誰と話をしているのだ?それと、ヒドラの居場所がどうとか?」
「ええ、ヒドラの居場所がわかりました。場所は『龍の墓場』の麓の近くにある『ギルレア洞窟』と思われます。今から私達はそちらの方へ向かいますので、その結果は後程報告します。」
「えっ!?ヒドラの居場所がわかった?」
それを聞いて、驚いたのはバジルスだ。
あれだけの人数の兵士を投入して、全く分からなかった、そのヒドラの居場所を立ち所に割り出すなど神業もいいところである。
「そんな、君達は一体…」
バジルスの詮索も、既に出来ない状態となっていた。
何故なら、蔵光達はバジルスの部屋の窓を開けていた。
そして、
「ちょっと行儀が悪いですが、窓をお借りします。」
蔵光がそう言うと、蔵光、ヘルメス、ヴィスコの三人は部屋の中で空中に浮かぶ。
「なあ~!!?」
バジルスが驚くのも無理はない。
空を飛べるのは魔族の中でも特に魔力値が高い上位の魔族と決まっている。
それに、いくら魔力値が高いと言っても普通、人間の魔法使いには出来ない芸当だからだ。
蔵光達は、バジルスの部屋の窓をするりと抜けて、外に飛び出す。
そして、ものすごい勢いで、みるみるうちに遥か上空に上がってしまった。
「ちょっと、行ってきまーす!」
空からバジルスに向かってヘルメスが叫ぶ。
バジルスはその場にヘナヘナと座り込む。
そして、『龍の墓場』の方向へ向け、飛び去っていく蔵光達を見送る。
「一体、ヘルメスに何があったのだ…」
今のバジルスには全く理解不能であり、これが現実かどうかもハッキリとしないほど動揺していた。
ト「まあ、そりゃ姉御のパパも驚くよ。」
マ「娘が飛行に走ったとか?」
あーあ、多分誰かが言うやろなとは思っていたけど、まさか君がそれを言うとは…
ト「やってしまいましたね。」
マ「えっ?えっ?えっ?ええーーー!???」
それでは次回もよろしくね。
⊂(・∀・⊂*)ダーッ