第126話 ヴェレリアント領と怪物ヒドラ
ヴェレリアント領の説明です。
第126話 ヴェレリアント領と怪物ヒドラ
蔵光達は、一旦エイダーと離れて、高機動型魔導バス『プラチナスカイドラグナー』に乗り込み、ユブノ砦港を出発し、一路、ヘルメスの実家のあるサリドナという街に向かうことになった。
やはり、出発の時は、ヘルメス人気がものすごく、ユブノ砦港の兵舎の入口から顔を出すと、ヘルメスの出待ちをしていた住民の皆に取り囲まれた。
だが、エイダーの部下の騎士達に警護されながら何とか魔導バスへ乗り込んだ。
最後は、ヘルメスがバスの入口から乗り込む際、皆の方を振り向き、手を挙げて応えると、全員から大きな歓声が上がった。
その光景を見ていたエイダーが、
「この人気、絶対に守らねばな…」
と呟くと、騎士団長のリーザックも、
「全く、そのとおりでございます。」
と応える。
ヴェレリアント領はヴェネシア王国の南東部に位置する田舎の領地で、主な産業は小麦の栽培であり、他にはメトナプトラと同じ様に、牧畜なども盛んに行われている。
領地の東側と南側は広大なサプマック湾が広がり、北部には巨大なサビスラ山脈が見える。
サビスラ山脈の南端からヴェレリアント領の境界となるのだが、そのサビスラ山脈の南側には魔物が住むと言われるグリシュの森が東西約100kmに渡って広がる。
サリドナの街はそのグリシュの森から約35km程南に位置する街で、ヘルメスは、剣の修行と称して、この長い距離を食料などを大量に馬車に積み込んで乗り込み、入口でテントを張って、何日も森の中で、ゴブリンやコボルト等の魔物を狩りまくっていた。
血で汚れた服や防具は、森の中にある池や湖等で洗い、欠けたり折れたりした剣などは、馬車に積んだ予備の剣に交換して使用した。
馬の餌もある程度積んでいたので、馬が食べる草の無い場所でもテントを張っていた。
魔物を狩っては移動を続けていた。
そして、最後、食料が尽きてくれば自宅に帰るという事を繰り返していた。
まあ、そのお陰で、グリシュの森から相当数の魔物が姿を消した。
近くの村々からはかなり、感謝をされ、その年の農作物もあまり荒らされずに豊作となったとかで、税とは別に、結構な量の小麦や野菜がヴェレリアント家に届けられた。
ヴェレリアント領にはサリドナの街の他にもいくつか街があり、小さいながらも平和な暮らしをしている。
過去には激しい戦場となっていたが、ヴェネシア王国がこの地に入ってからは治安が安定した。
そして、ヴェレリアント家がこの地を治める頃には、周辺の国々も次第に安定し始めていた。
このヴェレリアント家、ヴェネシア王国の貴族の中でもかなりの古参の貴族に入る。
現在、財政的にはスプレイド家には劣るものの、その歴史は100年くらいは古く、ヴェネシア王国設立当初からあったらしい。
勇者サウザンドラが現れた200年前には既にヴェレリアント領は存在していた。
勇者の出現以前から、続いている家系であり、言わば由緒ある貴族といえるであろう。
魔導バス『プラチナスカイドラグナー』はサリドナの街へ向けて北へ進んでいた。
公道はある程度舗装はされているが、やはり、辺境というだけあって、かなり舗装状況が悪い。
当然、アスファルト道路などと言う車両専用の近代的な道路は存在しない。
土の道や砂利道、良くて石畳の道だ。
それに、雑草が延び放題の場所などは、前が見通せず、道かどうかも怪しいところもある。
そのため、魔導バスの速度もかなり遅くしないと転倒事故を起こしかねないレベルだ。
「懐かしい感じがするけど、考えたら一年ちょっとしか経ってないんだよね。」
ヴィスコがバスの入口がある近くの椅子に座って窓の外を見ていたが、あることに気付く。
「ヴェレリアント領は相変わらず道が悪いと思ってたけど、これってちょっと酷くなってるよね?」
そうヴィスコが言うと、ヘルメスも窓の外を見て、
「確かにそんな感じ、誰も道の管理をしていないと言うか、ここ、最近、あまり人が通っていない感じがするわね。道端の雑草もこんなに延び放題で、誰も刈ったり、抜いたりしていない感じだし…」
とヘルメスも少し不審に感じている様子だ。
魔導バスはユブノ砦港とサリドナの中間にあるジョリアという街に差し掛かろうとしていた。
ジョリアは、サリドナとユブノ砦港をつなぐ中継の街で大体ユブノ砦港から北西へ約25kmのところにある小さな街であり、治安は良いと言っても近くの森にいる魔物が街中へ入ってこれないように、街の周囲はぐるりと石垣と土壁の塀が張り巡らされていた。
「こ、これは!?」
ヘルメスが、街の出入口となる門の近くまで来たとき、それに気付いた。
「どうなってるの?門が壊れてる?」
蔵光もトンキが運転する運転席の横に座っていてそれに気付く。
土壁は所々、壊れて、奥の建物が見えるほど崩れており、両開きの鉄製門扉の片方が外れて、倒れている。
「街の中に人の気配がしないな…」
蔵光が生命体感知を使って、周囲の気配を探るが全く無人の様子であった。
トンキは魔導バス『プラチナスカイドラグナー』を門の前に停めた。
ヘルメスがバスを降りて、門をくぐり抜け、街の中を確認する。
そして、街の現状に驚く。
「どうなってるの、これ?」
ヘルメスが、見た街は既に廃墟と言うほどの状態になっていた。
「火事だな…」
後から、皆も降りてきたが、誠三郎がそのばにしゃがみ込んで、地面に落ちている木材の燃えカスを拾って確認する。
そして、それを裏付けるようにヴィスコがマソパッドによる情報検索の結果をヘルメスに伝えた。
「ジパングルに検索をかけたんだけど、ちょうど私達が、ヴェレリアント領を出てすぐくらい、だから一年とちょっと前くらいかな?そのくらいに、このジョリアで大火事があったらしくて、街全体が燃えてしまい、住民の大半が街を逃げ出してフォドンの街へ避難したみたいらしいよ。」
「えっ?そ、そうなんだ、そんな事があったなんて、全く知らなかった。」
とヘルメスは領主の娘と言う立場で、街を見ているようで、少し残念な、そして悔しいような表情をしている。
「でね、ジパングルの追加情報では、それが、ちょっとおかしな話らしくて、火事の時に街の中へ大量の魔物が入り込んでいたみたいなの。」
とヴィスコがマソパッドを操作しながら説明する。
マソパッドは、水無月航夜が魔力で大気圏外に投げ放ったとされる、通信魔導機『地上位置探査・魔素解析・座標測定型地図作成装置』通称、『G・M・C』とそれと連動して情報の共有ができる『高速情報処理魔導機・流星』によって、古今東西、世界中の情報が手に取るように知ることができる。
「え?魔物が?どうして?このあたりは、魔物はいるけど、そんなに数は多くなかったはずよ?!」
「うん、私もそう思ったんだけど、フォドンに逃げてきていた人の話だとジョリアに魔物がたくさん押し寄せて来ていたという証言があるみたいで、それとは別に、その中にちょっとおかしな記述があって、『火事は、押し寄せた魔物のうち、頭がたくさんある龍の様な魔物がいて、その口から炎を噴き出して、街中を燃え拡がらせた、皆は恐ろしさに我を忘れて街を逃げ出し、街にいた街付きの冒険者はその魔物に飲まれて亡くなってしまった。』って書いてある。」
「首がたくさんある?という事は黒龍ではないとは思うけど、なんなんだろう?それに、その魔物達はここを襲ったあとどこへ行ったのかな?」
ヘルメスが首をかしげる。
ヴィスコがさらにマソパッドを操作し続けている。
「その魔物の特徴からだと、恐らくは亜龍種『ヒドラ』ではないかって書いてある。」
「亜龍種?」
「うん、何でもジパングでは、ワイバーンとかヒドラ、土竜なんかは龍種とは呼ばず、『亜龍種』と呼んでいるみたいなの。」
「ふうーん、亜龍種ねえ。で、そのヒドラって言うのはたくさんの首があるの?」
「ちょっと待ってね、えーっと、『ヒドラは、約200年前に、このヴェレリアント領に出現した記録があって、勇者サウザンドラという女性が討伐したとなっている。』って、あーあのサウザンドラの時に出たのも、確かにヒドラとか言っていたわね。」
とヴィスコが『聖剣ヴォルガナイト』の情報入手の時に耳にした魔物がヒドラであったことを思い出す。
「えっと、『ヒドラは、成長に伴い、頭がいくつも枝分かれする特殊な個体で、生まれたときは三股の首に3つの龍の様な頭があると言われている。それぞれの口からは炎と毒と麻痺の性質を持つ息を吐くと言われ、頭の数が増える度に、強酸の息や、氷の息等を吐く頭が出現すると言われている。そして、背中には、龍種の様な翼を持ち、尻尾は頭の数に比例している。腕や足は一体分しかなく、体は強靭な鱗で覆われていると言われている。ただ、一番恐ろしい頭は石化の息を吐くと言われる七番目の頭は要注意らしい。』って書いてある。」
とヴィスコがマソパッドの検索結果を説明したが、ヘルメスは懐疑的だ。
「それって、誰か見たことがあるのかな?あまりにも見てきたような書き方じゃない?ヒドラなんて危ない怪物を観察して、詳述するなんて普通は狂気の沙汰だわ。」
確かに魔物の生態の説明としてはかなり詳しく説明されている。
石化が危険だなどという下りなどは、経験しないと言えない言葉だ。
ヴィスコもそれについては少し疑問が残る。
「いやぁ、それは…ちょっと確認する。」
そう言うと、ヴィスコはマソパッドを使って通信を始める。
ルルルルルル、
電話の呼び出し音よような音が鳴る。
「はい、もしもし?あっ、ヴィスコ?どうしたの?」
マソパッドから空中に映像が投射される。
映像はエージこと、花里須磨叡知である。
「あ、エージ君、ちょっと聞きたいんですけど、さっきヒドラの事を検索したら、すごく詳しく特徴とかが出ていてビックリしたんだけど、あれだけの情報の出所って誰なの?もしかして想像かな?」
とヴィスコが質問する。
すると、エージがすぐに反応して答える。
「ああ、あれね、あれは今まで、水無月一族の人達が退治した魔物の特徴を体系化して、書面に記録し保管していたものを、情報検索用に『流星』に入力していたものなんだよ。歴代の伝承者の中には、魔物を育てて観察していた人もいたらしくて、その人の観察した記録が、これがまた、解説の絵なんかも付いてて結構すごいんだよ。」
とエージが興奮しながら説明する。
「と言うことは、あの情報は?」
「かなり正確な情報だと思うよ。」
「そ、そうなんだ、ありがとう。」
「マソパッドの使い方なんかでわからないことがあればまた、聞いてね。」
「わ、わかった、ありがとう。」
ヴィスコが、礼を言って通話を切る。
「ということは、今回のこのジョリアに出現した怪物はヒドラの確率が高いということだな。」
と蔵光が先程のエージの説明に納得する。
「でも、それからはヒドラらしき怪物の出現は確認されていないみたいなのよね…どこに行っちゃったんだろ?」
とヴィスコが、その後のヒドラの目撃情報を検索するが、見当たらなかったようだ。
ヒドラはジョリアを襲った後、忽然とその姿を眩ませてしまったのだ。
一体、ヒドラはどこへ行ったのであろうか?
ヴ「ヒドラはヤヴァそうです。」
ト「石化のブレスって、ゴルゴンですか!」
マ「ゴルゴンってゴーゴンとかメデューサとかいう魔物ですよね。」
まあ、石化の代名詞みたいな魔物だからね。
でも、メデューサは確か、神様か何かだったような?大地母神?まあ、すごい力ですよね。
でわでわ、また次回まで、さよなら~!
(*・ω・)ノ