第125話 ヴェネシア王国の闇
ヴェネシア王国ってどんな国?
今回は少しだけ出ますが、また、詳しく解説します。
第125話 ~ヴェネシア王国の闇~
トライプ・ザイム・スプレイドは、ヴェネシア王国でも三本の指に入ると言われている有力貴族スプレイド家の子息であり、現在の領主の五男にあたる。
ヘルメスもヴェレリアント辺境伯の三女であり、貴族の地位としてはかなり上の方だが、そこはやはり辺境と言うだけあって、税収が非常に少ない。
そのため、いつもヴェレリアント家の台所事情は火の車だ。
それに比べ、スプレイド家の税収は物凄く多い。
それは、スプレイド家の治める領地が王都に近く、それに伴って、領地内に住む領民の数、つまり税を納める人の数が桁外れに違うからだった。
ヴェレリアント家の税金は殆どが、農家による税収であるのに対し、スプレイド家は、農家の他に、街の中にある豪商などを筆頭とする、数多いる商人からの税収が圧倒的であり、財が財を生むような土地柄であった。
そして、それら領民から納められる税金の量の差に加え、スプレイド家の家業となる『軍事部門』での武器製造や輸出による収入で、王国の財政が回っていると言っても過言ではなかった。
今回は、メトナプトラに騎士の派遣や輸出武器の納品等を受け持っていたスプレイド家のトライプが、オルビア誘拐事件に関わっていたということで、国では大問題となっていた。
そして、さらには、ヴェネシア王国に渡るはずの関税等の収入をピンハネ、つまり横領していたのだから始末に負えない。
その額も相当な額であり、それを賠償する事になったスプレイド家にとっては最大の汚点となった。
当然、誘拐事件に関しては一触即発の状態であり、下手をすればメトナプトラとの戦争は回避不能の事態になりかねなかった。
だが、その状態を救うこととなったのがヘルメス達によるオルビアの救出であった。
自分達の国の貴族による失態を、同じ国の貴族が解決したのは、ヴェネシア王国にとっては、まさに、ラッキーとしか言いようがなかった。
だが、本来、それだけでは許してはもらえない、言わばオルビア救出はヴェネシア王国にとっては『当然の事をしたまで』であり、それだけではオルビアを命の危険に晒した事実が帳消しになることは絶対になく、決して許されるはずもない事であった。
それほどトライプの仕出かしたことはヴェネシア王国にとって、とてつもなく大きな犯罪行為であり、両国家間における非常に重大な問題となっていた。
だが、そんな中、ヴェネシア王国の窮地を救っていたのは、やはりヘルメスであった。
まず、ヘルメスはクランズ『プラチナドラゴンズ』のリーダーとして、オルビア救出だけでなく、ジヨーグ地区だけではなく、結果的に国の重要な案件として報告される事となった、冒険者ギルドが受注していたクライ渓谷のクエストやクワッテ鉱山の件を解決したことが、重要視された。
この件の報告を受けたギルドが、その後、詳細な検証を実施したところ、ヨーグはおろか、メトナプトラ国内全体に発生していたであろう『魔海嘯』と呼ばれる魔物の大量発生による街などへの大襲来を未然に防ぐとともに、それに伴う大量の魔物を未然に討伐していたことが冒険者ギルドの報告で判明したのだ。
それに、これは極秘事項のため表立ってはいないが、メトナプトラ国の中枢には、まさに、『獅子身中の虫』とも言える黒龍モグル・ランカスがいたことも衝撃が大きかった。
彼は、オルビア誘拐事件を裏で操り、先程の『魔海嘯』を引き起こして、メトナプトラの国家転覆及びその後、黒龍や魔物による領土の支配を何年も前から計画していた。
しかし、それが、ヘルメス率いるプラチナドラゴンズの現メンバーであり、最長老から盗賊団『蜂の巣』を討伐した功労により国の最高勲章を受けていた冒険者ギルドの大型新人『水無月蔵光』の手によって葬られたことによりメトナプトラ絶体絶命の危機が回避されたことが、決定的となり、戦争は回避された。
長老院の溜飲が下がったのだ。
エイダーはメトナプトラに対する損害賠償の補償等に関する交渉人としてヴェネシア王国から特命を受け、派遣されていた。
エイダーはメトナプトラに来訪後、それらの交渉をするための事実確認や交渉の材料を確保するため、ある程度の調査を実施した。
そして、その調査の結果、今回の一連の事件の裏側に、戦争回避の要因を作ってくれた、冒険者ギルドのクランズであるプラチナドラゴンズの存在を知ることとなった。
また、そのクランズのリーダーがヴェレリアント家の三女ヘルメス・カース・ヴェレリアントであることに驚かされる。
それに加えて、極秘事項となっていた事実や、最長老がヘルメスに感謝の気持ちを持っていることなどを、最長老本人から聞かされたこともあって、交渉がしやすくなった。
ヘルメスは言わば、メトナプトラの救世主であった。
下手をすればメトナプトラ国自体が滅亡の危機に見舞われていたのだから、ヘルメス達の功績は非常に大きいと言わざるを得ない。
エイダーは正直、メトナプトラに入国する前は、これほど困難な交渉をすることをヴェネシア王国から命令され、非常に困っていた。
損害賠償もさることながら、戦争回避をするための交渉などしたこともなかったし、交渉次第では、下手をすれば自分の命も危ないのは目に見えていた。
だからこそ、ヘルメスに対しては、自分の命も救ってくれた恩人であると、エイダーは感謝していた。
だが、これを快く思わないがいた。
一部のスプレイド家の者達であった。
彼らは、トライプが仕出かしたことが、非常に重大な国際問題であるにも関わらず、そんなことは棚にあげ、『大貴族スプレイド家のひとりであるトライプを犯罪者としてメトナプトラに捕らえさせ、大恥をかかせた、田舎貴族の娘がいる』という、なんとまあとんでもない勘違いというか思い違いをしている者達が、ヘルメスに報復を企んでいるようだとの情報がエイダーに寄せられたのだった。
当然、エイダーとしては、救世主ヘルメスがそんな理不尽な理由で命を狙われる事は絶対に避けなければならない。
エイダーはスプレイド家からヘルメスの命を守るため、まずは、ヘルメスに対する国民の印象を操作する必要があった。
彼女を国の英雄に仕立てあげ、目立たせることにより、スプレイド家に手出しをしにくくさせることにした。
その手段のひとつとして、今回のヘルメス人気にもあるように、プラチナドラゴンズとしての功績を大々的に広報し、民衆の気持ちをヘルメスに傾けさせることであった。
ヘルメスの功績であるクライ渓谷の件やクワッテ鉱山の件をヴェレリアント家のハッサンから聞いていたエイダーは、その話の詳細をハッサンから聞き取り、まず自分の部下達に話し、それを、ヴェレリアント領の領民に広めさせた。
だが、これだけではスプレイド家の追っ手は躱せないと判断したエイダーは、ヘルメスの護衛をすることを計画する。
しかし、ヘルメスは冒険者のため、どこにいるのか見当がつかないため、直ぐに保護することは難しかった。
そのため、ヘルメスの行動パターンをある程度推測してその手前で待ち構える作戦を立てることにした。
エイダーはまず、ヘルメスの今後の行動として、ヴェレリアント領への一時帰国の可能性があることに着目した。
それは、ハッサンを帰国させたことで、一時帰国の可能性があるのではないかと考えられたからだ。
メトナプトラ内でヘルメスの身柄を押さえるのであれば、スプレイド家の手も伸びてこないだろうし、自分の部下達に任せても良かったのだが、もし、ヴェレリアント領の方へ向かっているというのであれば、エイダー自身がヘルメスの身柄を押さえていなければ、国内でヘルメスを守ろうとすれば、自分の部下だけでは、スプレイド家の魔の手からヘルメスを守りきれないと判断した。
そのため、エイダー自身はヴェレリアント領に戻る最短の通路として、考えられるコースがキタルボ港であったため、もしそこにヘルメスが現れれば、エイダー自身が、ヘルメスの身柄を押さえて保護しようと、そこで張りをかけ、ヘルメスを待ち構えていた。
また、ヘルメスには心配をかけさせないためにも極自然に接触しておきたかったエイダーは、偶然にヘルメスと出会ったように装って接近することにした。
そして、うまくヘルメスに話しかけることに成功し、その身柄を船に乗せたのだったが、クランズにはオルビアも同行していたり、そのクランズ『プラチナドラゴンズ』のメンバーは予想外な面々で構成されていて、自分達の戦力よりも遥かに強力であるなど、想定外な状況であった。
そして、最終的には、ユブノ砦港でヘルメスに不審がられてしまい、結局この件の裏事情を嗅ぎ付けられてしまったのであった。
「はあー、そういうことだったのですね。何かおかしいとは思っていましたけど、私を守るためだったとは思いもよりませんでした。気を使っていただいて、ありがとうございます。」
とヘルメスはエイダーに感謝の気持ちを伝える。
「いえ、こちらこそ、黙っていて申し訳ありませんでした、ヘルメス様には変に心配事を増やしてはいけないと思いましたので…ですが、今のヘルメス様には私共の護衛など全くの無意味かなと思うのですが…ははは」
と言ってエイダーは少し笑顔を見せる。
確かに、今のヘルメスは上位魔族でさえ手玉に取るほどの身体能力と魔力を手に入れている。
一国の貴族程度がいくら優秀な殺し屋を雇ったとしても、恐らく何の成果も期待できないであろう。
ヘルメスは、魔力の増加に伴い、身体能力の向上だけでなく、様々な能力が開花していた。
魔力と聖霊力との力の両方の特性を有する『聖神力』を有していることはわかっている。102
その他としては、『生命体感知』が使えるようになっていた。
そのため、今まで感じなかった人の気配が、かなり感じられるようになり、遠くにいる人や動物、魔物など、生命力を持つ者の気配が感じられるようになっていた。
また、今まで持っていたスキルが全て上位のスキルに変化していて、攻撃や防御なども高速の技が使えるようになっていた。
そして、それに加えて、蔵光、誠三郎、ギルガ、ザビエラ、そして新しく加入したヒダカなど、人外的な存在の者達が何人もいる。
なので、そんなヘルメスを、どうこうしようなどと考える方が頭がおかしいと言われてしまうだろう。
だが、スプレイド家の者達は、その事実を知らないため、恐らくはこのヴェネシア王国内において、蔵光達に対し刺客を放ってくるだろうとは思われるが、逆にその刺客達に憐れみさえ覚えてしまう。
「ヘルメス様はこれから、実家に戻られるということでよろしいでしょうか?」
エイダーが確認をする。
「ええ、私が狙われるということは実家にも被害が及ぶ恐れもありますし、心配なので顔を出します。」
「そうですか、まあ、バジルス辺境伯もお喜びになりますでしょうし、私からもぜひ、里帰りをお勧めします。一応、スプレイド家の件は辺境伯にもお伝えしておりますが、あまり、心配はなされなくても、あのお方は御強いですから…」
「まあ、確かに、お父様に敵う方というと、ヴェレリアント領というよりもヴェネシア王国の中でも数える程しかおりませんから…」
とヘルメスがお世辞抜きで自分の父親を評価する。
「まあ、あの方の屋敷を襲うくらいなら、事情を知らない者達からすれば、まだ、ヘルメス様を狙う方が楽だと思うでしょうな。」
とエイダーが言うと、隣にいたヴィスコがボソリと、
「でも今のヘルメスは、怪物級ですから…」
と言う。
「ヴィスコ、ちょっと、今それを言っちゃうかな?それはかなりトゲがあるわよ!」
とヘルメスが言うと、
「だって、ザビエラさんを蹴り上げるなんて、普通は魔族の人でも出来ませんから。」
と返す。
「まあ、そうなんだけど、口に出して言われるとやっぱり、堪えるわあ。」
とヘルメスはガックリと顔を下げる。
そんなリアクションの理由については、ヘルメス自身、自分を未だ『普通の女の子』という認識を捨てていないからであり、確かに、急に魔力値や身体能力が上がって、魔人化したと言われても、精神的には未だに18歳の乙女であるからだった。
「でも、魔力や身体能力が変わっても、性格は元のヘルメスだから、私はヘルメスの事は変わらず大好きだよ。」
と言いながらニッコリと笑う。
ヴィスコは、先程はヘルメスをけなしたかと思うと、今度は持ち上げてくる。
性格は悪くはないのだが、時々このように、とらえどころがない事を言う時があり、よくわからない事が多々ある。
昔からヴィスコはこんな感じだ。
「ああ、わかった、ありがとう。」
とりあえず、ヘルメスはヴィスコに礼を言う。
「あと、ヘルメス様に、もうひとつだけ、御忠告を……」
エイダーが再び話し始める。
「何でしょう?」
「ヘルメス様も御存知だとは思いますが、スプレイド家の影響は王家にも大きく波及しています、ですから下手にスプレイド家を刺激すると、王家も表に出てくる可能性がありますし、今後のヴェレリアント家にも影響が出てくるかも知れませんので十分気を付けてください。」
「そうですね、ありがとうございます。気を付けます。」
ヘルメスは再度エイダーに礼を言う。
エイダーが懸念しているのはスプレイド家のバックには王家が控えているということにある。
スプレイド家は昔から王家に自分達の身内を嫁がせたりして王族と婚姻関係を結ぶなど、自分達の勢力拡大に力を入れていた。
そして、その結果、ヴェネシア王国の王族と密接な関係を築いていた。
過去には、王の正室となる女性を輩出するなど、栄華を極めた時期もあり、そういった事から王族の中にはスプレイド家の親戚筋の者も多数いる。
もしスプレイド家の当主自身が、今回のヘルメスの命を狙うような話を出しているのであれば、ヴェレリアント家も黙ってはいないだろうから、国内間において血で血を洗うようなドロドロの紛争になることは間違いない。
だが、そうなれば、先程も説明したとおり、王族にはスプレイド家の親族も多いため、王族はスプレイド家の方へ味方をする可能性が非常に高く、下手をすれば、ヘルメスどころかヴェレリアント家までもが逆賊としてヴェネシア王国から追い詰められる立場となる恐れがあるのだ。
こうした、ヴェネシア王国には裏の顔とも言うべき側面があり、スプレイド家だけではなく、王族の一部からも狙われている可能性が、ヘルメスの身に危険を生じさせていた。
エイダーは、それら諸々の理由もあって、ヘルメスの命を守るため、ヘルメスの身柄を絶対に確保し、安全なところへ避難させる必要があったのと、さらにはヘルメスの人気を高めて、命を狙いにくくするという目的と併せて、世論を味方につけ、ヴェレリアント家の正当性をアピールし、国民をヴェレリアント家の味方側にして、できるだけ、ヴェネシア王国を中立の立場にしておきたいとエイダーは考えていた。
そういった様な事情もあり、オルビア救出事件の事や、クライ渓谷の件、クワッテ鉱山の件は、それらヘルメス人気の向上の材料に非常に適していたため、エイダーが利用したという訳だったのだ。
ヴ「スプレイド家はヤヴァイ貴族ですぅ。」
ト「そんなに?」
マ「武器商人だしね。」
ヴ「彼らに逆らったら命は無いって!ヘルメス大丈夫かな?」
ト「まあ、たぶん蔵光さん達がいるから大丈夫でしょ。」
ヴ「だよね。」
でも、数でこられたら困るよね、ノースヨーグ砦の時みたいに…
ヴトンマッソ「ヒーー!!」
次回もよろしくです。(*´∇`*)