第124話 ユブノ砦港
何やらきな臭い事が起こりそうです。
第124話 ~ユブノ砦港~
次の日の昼頃に、軍船エスカルディア号は、ヴェレリアント領のユブノ砦港に到着した。
その日の天候は、ヒダカが雨雲を避けてくれたお陰で快晴であった。
ユブノはヴェレリアント領の最南端に位置する要衝であり、砦港以外はほぼ、断崖絶壁の海岸線が続く。
ここは、砦港と言うだけあって、港は、海岸の外側に張り出した大きな砦の内側にあり、検問は、海上に造られた巨大な砦門に船を入れてから行われる。
門といっても、大きな鎖で吊るされた巨大な鉄格子が砦の石壁に取り付けられていて、それが、上下するというものであり、海と港を仕切る重要な施設であった。
エスカルディア号等のかなり大きい船も通過させるため、門自体もかなり大きなものとなっている。
門だけでも高さが、50m近くもあり、さらに大きな砦の壁は、長さが約1kmくらいに渡って作られている。
この砦はノースヨーグ砦程ではないが、海から攻めてくる者には十分な脅威を与える。
壁面にはいくつもの砲台が設置され、船でやってくる外敵に対し、強力な攻撃を与えられる様になっていた。
門をくぐると、巨大な港が見えてくる。
軍船も大きいものから小さなものまで何十隻も停泊している。
そしてユブノの港に添って街が作られていて、そこには、食料品や雑貨等を売る商店や食堂等があり、武器や防具を売る店、鍛冶屋なども存在する。
ということで、この港には普通に一般の人々が住んでいるが、当然、砦の警備をする騎士や下級兵士等が住んでいる。
特に騎士については任期を定められた者が王都から派遣され、ここで砦の防衛に当たっていた。
エスカルディア号がユブノ砦港に入港する。
自国の軍船であるため、全く検問はない。
プラチナドラゴンズのメンバーはノーチェックでヴェレリアント領に入った。
まあ、どちらにしても、ヴェレリアント家の三女であるヘルメスがリーダーを勤めるクランズのメンバーに入国審査がかかることは無いと思うが…
まずはエイダーが下船する。
そして、出迎えの騎士に何やら伝言をすると、その騎士は慌てて、砦港に併設されている兵舎に猛スピードで走って行く。
蔵光達は、とりあえず、超高機動型魔導バス『プラチナスカイドラグナー』とは別々で船を降りる事になり、魔導バスはトンキが、船内の兵士の誘導で下ろす作業にあたる事になった。
蔵光達は、下船準備をするとの事で一旦、船内の待機用の部屋で待たされていた。
そのため、蔵光達には案内の騎士が付いていた。
「用意が出来たようです。」
連絡係の兵士がドアをノックする。
「どうぞ、ヘルメス様を先頭で船をお降り下さい。」
蔵光達は騎士の言う通り、ヘルメスを先頭にして、待機していた部屋を出る。
港の船着き場側を見ると、船の縁には下船用の階段式のタラップが用意されていた。
ウオオオオオーーー!!!
船の縁付近にヘルメスが立つと、下から物凄い歓声が上がる。
「ヘルメスお嬢様、よくぞ御無事でお戻りになられました!」
砦港の騎士団長が大きな声で出迎えの挨拶をすると、船着き場のスペースにヘルメス達が歩けるだけの幅を持たせた状態で両脇を挟むように整列していた騎士や兵士が一斉に挨拶をする。
「お帰りなさい!ヘルメス様!」
実のところヘルメスは騎士や兵士からは凄い人気があった。
先程、兵舎に走っていったのはこの出迎えをするためだとわかる。
「ヘルメス様、この度の凱旋、誠におめでとうございます。」
と港の波止場に降り立ったヘルメスに騎士団長のリーザックが再び挨拶をした。
ただ、ヘルメスには凱旋と言われてピンと来なかった。
「凱旋とは、一体どういうことでしょうか?」
ヘルメスはリーザックに尋ねる。
「はっはっはっはっ、ヘルメス様もおとぼけなされて、ちゃんと聞いておりますぞ!メトナプトラでクライ渓谷に住むワイバーンや大カマキリを討伐、クワッテ鉱山では数多くの土竜やビッグワームを退治し、首都のヨーグでは最長老の孫娘誘拐事件を解決したとか、もう、このユブノではヘルメス様の噂で持ちきりですよ!」
「えっ?どういうこと?何故、そんなこと、皆が知っているの?」
ヘルメスはオルビアの誘拐事件を解決した件については、エイダーが交渉に絡んでいるので少しは知っていたとして、皆が何故、クライ渓谷やクワッテ鉱山の話まで知っているのか全くわからなかった。
クライ渓谷やクワッテ鉱山の件の両方を知っているのは当然、冒険者ギルドの人間であるが、こちらに来てまで言いふらす者には心当たりがない。
だが、唯一、自分達の旅に同行してきていた人物で、このヴェレリアント領に関係する人物が一人だけいた事を思い出す。
「あっ!もしかして…」
一人だけ、思い当たる人物がいた。
先に一人だけ、こちらへ帰るように言って帰ってもらった人物、それは……
「ハッサンだ!」
横でヴィスコが口を出す。
「もう!私が言おうとしたのにー!」
ヘルメスがちょっと拗ねたようにヴィスコに言う。
「へへへ、ごめんね。」
ヴィスコがペロッと舌を出して謝る。
ただ、反省の態度は微塵も見られなかった。
しかし、実際にクライ渓谷やクワッテ鉱山の件を解決したのは蔵光であり、ハッキリと言って、ヘルメスはこの当時は全くみんなの役に立っていなかった。
「あ、いや、リーザックさん、ちょっと、こういう事は、あまりしてもらいたくないと言うか、私より他に拍手をしなければならない人がいるんですけど…」
とヘルメスが言うと、
「わかっております。ヘルメス様が気を使われて、他の従者の方の手柄にしてあげようとしていることを…」
「いや、違うって、あの…」
「いやいや、大丈夫ですから、皆もわかっておりますから。はははは」
リーザックは完全にヘルメスの手柄と勘違いしている様子であった、
ヘルメスは説明をするのを諦めた、彼らはどうしてもヘルメスの手柄にしたい様子であった。
それくらい、ヘルメスは以前からヴェレリアント領の人達から凄い人気があり、ファンクラブが出来たり、お祭りなどの時はヘルメスの周囲に出来る黒山の人だかりは凄かった。
『ヴェレリアントの魔物』と言うアダ名も、彼らにすれば、それほどの強者であると言う風に良い意味で捉えていた。
それに乗じたハッサンが、ヴェネシア王国のヴェレリアント領に戻って来た際に、あることないことを吹聴しまくったと思われた。
その結果がこれだった。
「まあ、ある意味ではプラチナドラゴンズの名前が有名になっていたようなので、エエわ。」
とゼリーが魔導バスが船から降りてきたときに起こった歓声を聞き逃さなかった。
それは、ヘルメスがリーダーであるプラチナドラゴンズが皆に知られていると言う証拠だからだ。
それがあったからこそ、ゼリーは文句を言わなかったのだ。
それに、ヘルメスが表立って有名になれば、蔵光がヘルメスの影となり、目立たなくなるからだ。
水無月一族の者は、名前が売れて、依頼のクエストが入るのは結構なのだが、あまり有名になって目立つとそれはそれで、蔵光が嫌がるのもあるが、黒龍にその存在を気付かれても困るからであった。
だが、ヘルメス達による功労を知る人々に対してヘルメスは少し、矛盾を感じていた。
それは、ハッサンがオルビアの事件のことを知るはずがなかったからだ。
エイダーが知っていたとして、短期間で、しかもここまで民衆が盛り上がるほどの話の広がり方はいくらヘルメスに人気があるとしても異常である。
では、誰がオルビア救出の事件を街に広めたのか…何故広める必要があったのか…ヘルメスの思考が深くなっていった。
波止場を抜けても今度は、街の人達が、手を振っている。
誰が伝えたのか、街中の人が出てきているのではないかと思われるくらいの人出である。
「ヘルメス様~!」
女の人達からも、声援が送られている。
「凄い人気だね。」
とヘルメスの横にいた蔵光が言うと、ヴィスコは、
「まあ、女姉妹、三人の中では一番じゃないかな。」
「へぇ、ヘルメスはお姉さんとか、妹がいるの?」
「ヘルメスは三女で末娘よ、お兄様も二人いるわ。」
「五人兄弟なんだ。凄いな、俺は一人っ子だから、兄弟ってどんな感じなのか想像がつかないな。」
そう言いながら蔵光達は、群衆の中を進んで行く。
とりあえずはエイダーが気を使って、兵舎に蔵光達を避難させる。
そして、兵舎の中へ入るとエイダーは団長室の横にある応接室に蔵光らを招き入れる。
「いやぁ、ヘルメス様がこんなに人気があるとは流石に思っても見ませんでした、はははは。」
エイダーは額から出る汗をハンカチで拭きながら笑う。
しかし、ヘルメスは笑ってはいなかった。
「でも、エイダー卿、ヨーグでのオルビア救出の件をヴェレリアント領に広めたのは卿の仕業ですよね?」
とヘルメスが断定的にオルビア救出事件を広めた人物をエイダーと決めつけて話し、、エイダーをジッと見る。
やはりオルビア救出事件に関してはこの人物以外いないとの結論からの言葉であった。
それを聞いたエイダーは、目を丸くしてヘルメスを見る。
「えっ、あっ、はははは。やはりバレましたか?いやぁ、あんな凄い話を皆に聞かせないというのは、私自身、惜しいというか、もったいないと思いましたので…」
エイダーは焦ったような表情で事実を認める。
だが、ヘルメスはその答えだけでは納得しない。
さらに、エイダーを追及する。
「あと、キタルボで、私と会ったのも偶然じゃないでしょう?オルビア救出事件に関してはメトナプトラでも一部の者しか知らない極秘事項となっています。それが、この街で大々的に知られていると言うことは、それらの話を聞かせてもらえる立場にあった人でなくてはならないはずです。ですからそれはメトナプトラに交渉で来ておられたエイダー卿、貴方でなくては出来ないことなのです。恐らくは、事件の処理で私達がヨーグに足止めをされているときに、私達がオルビアの救出事件に関わったという話を聞き知ったと思います。そして、そこで、何か私に関して重大な案件が浮上し、もし、私がヴェネシアに戻りそうであれば、身柄を押さえるつもりで、キタルボの港で張っていた。そして、予想通り、キタルボに現れた私に偶然を装って声をかけた、そんなところかしら?」
ヘルメスは魔力値が向上すると共に、思考能力も向上していた。
かなり、この案件の裏に何か思惑があると深く考察していた。
エイダーの顔から余裕が無くなる。
まさに、図星と言う顔だ。
「は、は、は、はー、さ、流石と言うか、ヘルメス様は恐ろしいくらいに頭が回られますな。」
エイダーは、最初、息が途切れ途切れになるほど声が出せない状態となり、何とか言葉を絞り出す。
「全く、その通りでございます。ですからメトナプトラのオルビア様が船に乗っておられると知ったときは驚きました。私が最長老様に何度も謝罪や今後の補償の事でお屋敷に上がらせてもらっていましたから、その時にヘルメス様の事も知りました。ですからオルビア様に、その事で触れられそうになるのではないかと、ドキドキしましたが…」107
「何故、この様な事を?」
「ヘルメス様の護衛です。」
「護衛?」
ヘルメスは予想外な答えに驚く。
「ええ、トライプの件は少なからずとも、王国に影響を与えております。ですが、その影響には、良い面と悪い面の両面が存在し、良い面とはもちろんオルビア様をヘルメス様が救出したことであり、未然に戦争が回避されたことは、とても良いことなのですが、それと同時に悪い面も引き出してしまったのです。」
「悪い面…?」
「ええ、」
エイダーの表情に緊張が浮き出ている事で、ヘルメスは、今、とんでもない話の引き出しを開けてしまったと感じた。
そして、エイダーはここでヘルメスが予想もしなかった事実を話すのであった。
ヴ「いやー私も何かヘルメスが人気ありすぎかなと思ってました。」
ト「いや、ヴィスコそれウソでしょ?」
ヴ「えっ!?そそそ、そんなことは…」
マ「やはりウソでしたね、ヴィスコは嘘をつくとき鼻の穴が拡がりますからね。」
ヴ「なななな?!」
ト「あ、鼻を押さえた!」
マ「わはははは!」
とりあえず、このコーナーは平和です。
では、次回もよろしくお願いします。
ヽ(*´∀`*)ノ