第123話 誠三郎の魔人化と新たな黒龍情報
色々な話が出てきますが、とりあえず誠三郎が魔人化してます。
第123話 ~誠三郎の魔人化と新たな黒龍情報~
誠三郎が、エスカルディア号に押し寄せてきた魔族を一蹴し、今までの自分の不甲斐なさを払拭するような活躍をして、ようやく面目躍如といったところであった。
エスカルディア号の乗組員も誠三郎の鬼神のような活躍を見て歓声を上げた。
そして、甲板に降りてきた誠三郎を取り囲み、口々に感謝の言葉と驚きの声を上げる。
「すげえな旦那、あんなスゲエもの初めて見たよ!」
「あんなデカイ魔族にも負けないなんて、いやー、恐れ入ったよ!」
等と口々に話す。
またエイダーも、
「ありがとうございました。いくら結界が張ってあるからと言っても、あれほどの魔族に囲まれれば生きた心地がしませんでしたよ。はははは。」
と誠三郎に礼を言う。
そして、その日は魔族を撃退した記念として酒盛りとなった。
船の中では、船を操縦したり、見張りをしたりする当番を残してほとんどの乗組員が参加する。
甲板の上が宴会場と化した。
酒のアテは、軍船のため、大したものは出なかったが、焼いた魚や貝等の他、干し肉等が振る舞われた。
なので、プラチナドラゴンズからも差し入れとして、ゼリーの空間魔法の中から大量の焼き肉や高級ステーキ肉等が皆の前に出され、なかなか好評であった。
船は順調に行けば明日の昼頃には到着する予定である。
念のために、西の空にあった雨雲は、ヒダカが酒盛りで人の目が少ない時を見計らって、こっそりと雨雲まで戻り、雲を東へ移動させて船の進路を確保した。
酒盛りも粗方終わった頃、プラチナドラゴンズのメンバーは超高機動型魔導バス『プラチナスカイドラグナー』に戻り、『中の間』でメンバーの何人かがくつろいでいた。
「あれ?これって八鬼さんも何か魔力値が上がってないか?」
何気無しにマソパッドを、中の間のソファーに座っていた誠三郎に当て、魔力の測定値を確認していたトンキが急に声を上げる。
マソパッドはそれまでヴィスコしか扱えなかったが操作条件が緩和されたため、ヴィスコの代わりにトンキでも操作できるようになっていた。90
『ヤギセイザブロウ 1.513.257M』
魔王並みの魔力値だ。
「ヤバいっすよ、どうしたらこんな数字がいきなり出るんですか。」
とマッソルも青褪める。
それを聞いた誠三郎もマソパッドの表示を見たが、今まで高い魔力というものを持っていなかった事もあって、少し難しい顔をしている。
「ふーむ、これは維持するものなのか?それとも一時的なものなのか?」
維持継続するのであれば、かなり戦いの幅が拡がるが、魔力が元に戻るとなると、残るのは刀の能力だけだ。
だがトンキは、蔵光の魔力を帯びたヘルメスの時にも同じような現象が起こっているため、今回も同じ事が起こっていると直ぐにわかった。
「恐らくこれは『魔人化』ですよ。でも姉御の時より、最初の数値の跳ね上がりが大きい。」
とトンキが説明する。
「という事は、このままの状態が継続する可能性が高いということか…」
と誠三郎は満更でも無い様子で、何度もウンウンと頷いている。
やはり、空中移動の能力はかなり有り難かったようである。
それに、魔力値が高い方が戦闘では有利だ。
確かにヘルメスの時は最初の計測では52万Mくらいであったが、今回はそれより三倍近く数値が高い。89
ヴィスコの時は余り高くならなかったが、いずれの場合も魔力値が低い者ほど高くなる傾向があるのかも知れなかった。
ザビエラは元々、魔力値が高かったが、ヘルメスに蹴り飛ばされて高くなっている。
この因果関係はまだよくわかっていないが、これも何らかの法則があるのかも知れない。
次に、トンキは側にいたヘルメスにもマソパッドを向けて測定する。
「あっ、525万マーリョック…また、上がってますよ、姉御の魔力値…」
「どこまで、上がるんだろう?」
マッソルも少し心配そうな顔をしている。
「しかし、すごいよな、このマソパッドっていう魔導機、魔力値が測れるだけでなく、魔素口の場所もわかったり、世界中の情報も入って来てるよ。この『勇者情報掲示板』って言うのなんか、各地の勇者伝説が結構載っているし、勇者の隠れ里なんかの情報もあるよ。」
とトンキが言うと、ヘルメスが反応する。
「隠れ里というと、勇者が国に追われて隠れ住んだと言われている場所だろ?」
「ええ、そうですね、ここから一番近いところで言うと、ああ、やっぱりヴェネシア王国の話ですね。約200年前に現れた勇者サウザンドラがヴェレリアント領に出現した巨大な魔物ヒドラを退治したという伝説です。でも、これは勇者のその後の情報が曖昧だな。」96
とトンキがマソパッドを操作して確認しながら言うと、ヘルメスは、
「幽閉されたとか、結婚したとか言う話だろ?」
と言う。
「ええ、そうなんですよね、でもこの間の、チャルカ村のカルト教団の教祖だったバゾニアルアジカンに姉御が言われたという言葉…」
「ああ、あれか、『ヴェレリアント家の眷属』だろ?」
「そうです、あの言葉が本当なら、勇者は結婚していたか、若しくは、していなくとも子供は残していたと考えたほうが良いのかと思います。で、その子孫がヴェレリアント家の血筋に関係していると…」
「あいつ、何か秘密を知っていたんだろうな、でないとそんなことを言うはず無いし…あの時は私も結構、色々とあったから、アイツからヴェレリアントの名前を出されて、つい、そうだと答えたんだが、今から考えると、勇者の事を言っていたのかも知れないな…」
とヘルメスも考え込む。
「恐らく、姉御の家に何かを暗示するものか、ヒントの様なものがあるかも知れませんね。」
「だといいんだが。」
と言うとヘルメスはソファーに体を投げ出して伸びをする。
「あっ、『黒龍掲示板』が更新されてる。」
再びマソパッドを見たトンキはまた声を上げる。
『黒龍掲示板』とは、『勇者情報掲示板』と同じくジパング王国にある『高速情報処理魔導機・流星』に集積された情報掲示板のひとつで、そこに集められた情報は大気圏外に設置されたと言うか投げ上げられた特殊な通信魔導機『地上位置探査・魔素解析・座標測定型地図作成装置』略して『G.M.C』により、世界に散らばる『忍』等が所持しているマソパッドに配信されているのだ。
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「えーっと、何々、えー!?ノワイヤとラブカードに黒龍の情報あり。ってよくわからないんだけど?」
とトンキが言うと、横にいたヘルメスが答える。
「ノワイヤはヴェネシア王国の首都の名前よ。そして、ラブカードはヴェネシアの北に隣接しているエウロパニアという国の首都になるわ。」
「ヴェネシアとエウロパニアの首都…」
「多分、ジパング王国の『忍』がその街にいるんだろうって事じゃないかな?で、何て書いてあるの?」
「えーっとですね、最初のノワイヤの情報は、『ヴェネシア王国とタイトバイトス皇国との国境近くの村ギズモワール付近で、巨大な龍の姿が目撃されたようであるが黒龍か否かは判然としないため、この情報については参考とされたい。』って書いてますね…あとラブカードについては『ガルガード帝国の船が黒龍と思われる龍に襲われ沈んだ模様、なお、それの事実についてはガルガード帝国は否定している。』とありますね?」
「まあ、本当の話だろうな」
ヘルメスはその情報を肯定した。
「となると、ガルガードは嘘を?」
「あの国は元々秘密主義だし、以前から色々と問題がある国だからなあ。それと、この間トンキから聞いた件の事もあるしな。」61
「そうですね。」
「しかし、結構、身近に黒龍の情報があるもんだな。」
「まあ、黒龍でしたら魔族の住む魔の大森林地帯が一番隠れやすいでしょうけどね。」
「えっ、どうして?」
「どうしてって、例の水無月水覇様の件で、魔族の住む地域の魔素口は余程の事がない限り封印しないことになっていますからねぇ。」
「あ、そうか!となると、魔の大森林地帯のどこかに隠れている可能性が高いということか。」
「はい、だから、この間のクライ渓谷の件で、蔵光さんの曾祖父の水月様がジェノマ、つまり魔の大森林地帯に入り込んでいるって話もそれが関係しているんじゃないですか?」
「なるほど、それなら辻褄が合うな。水無月家とその配下の忍の軍団が世界各国に入り込んで黒龍の情報を取ってきているんだ、魔の大森林地帯にも入り込んでいてもおかしくはない。」
トンキはザビエラから、デストロによるジェノマのクーデター計画の事を聞いた時に、水月の事も聞いていた。
恐らくは、魔の大森林地帯にいるかも知れない黒龍の情報を入手するために、魔族の土地に入り込んでいるのであろうと思われたが、魔族の土地であるため、忍だけでは荷が重いため、水月が入っていたのであろう。
「この近くの情報の分については蔵光さんに確認をお願いすることになるんですかね?」
「まあ、そうだろうな、黒龍の情報があれば教えて欲しいと言われているんだろ?」
「ええ、そうです。なので後で伝えておきます。」
「わかった。」
ヘルメスとトンキの話が終わる頃、『小の間』で話していたヒダカとギルガの話も終わろうとしていた。
ギルガのこれまでの旅の話を聞いて、ヒダカは号泣していた。
「いやー、ギルガ様、本当に良かったですね。私、感動して涙が止まりませんよ。私と別れてからそんなことがあったなんて、でも、お父様と再開できて本当に良かったですね。」
「ああ、蔵光さんと会えて本当に良かった、会っていなければ、お父様とは会えなかったからな。」
とギルガもその時の事を思い出して目に涙を溜めている。
このギルガとヒダカは、以前、と言っても何百年も前の事だが、一度行動を共にしていたことがあった。
それは、ギルガが水無月家から必死で逃げていた時の事であり、心身共に疲れていたそんなギルガの前にヒダカは騒々しく現れた。
そして、ギルガの身の上に同情したヒダカが、しばらくの間であったが、逃亡の『協力者』としてギルガに同行していたのだった。
なので、ギルガの身の上もよく知っていたため、先程の号泣となったのだ。
「もう一度聞くが、ヒダカ、本当にあたしらの仲間になっても良かったのか?」
ギルガは思い付きとはいえヒダカを仲間に引き入れてしまったことを気にしていた。
というのも、プラチナドラゴンズの目的は、世界に生息している黒龍の殲滅であり、それは命を懸けて臨まなければならない事だからだ。
一応、ヒダカにはその事は説明し、亜空間から戻った時に再度、確認はしたが、本人はクランズを抜けるとは言わなかった。
「当たり前ですよ、男が一度口にしたことは死んでも守らないと…それに私よりも弱いと思っていた人間が、あのように強く、高い志を持って生きているのを見て、心が動かない奴は死んでいるのと同じですよ。」
「ふ、大袈裟だなお前は。」
「そんなこと無いですよ、本当の事です。」
ヒダカは最初、隙あらば蔵光達から抜け出そうと思っていた。
たかが冒険者風情が、と思っていた。
『冒険者ごっこ』に付き合うつもりは毛頭無かったのだ。
だが、ギルガ達の真の目的を聞かされ、クランズを抜けるどころか逆に、その話に血を滾らせた。
彼も黒龍の被害者であったが、一人では何も出来ず、ただ、雨雲の中に逃げ込み、風の吹くまま気の向くままといった生活を続けていた。
何の刺激もない日常、だが、そこから抜け出る事も出来なかった。
黒龍を倒すための知恵もなければ、力も中途半端、出来ることと言えば、縄張りに入ってきた人間や魔族を脅して追い散らす事くらいだった。
そんな何か煮え切らない気持ちだけが彼を苛立たせていた。
だが、そこに舞い込んだ思いもよらない話に心が体が打ち震えた。
長い寿命を持つ雷鳥にとって、命の尽きる時は価値のあるものでなければならないと常々思っていた。
それは自分の生きてきた道を、いかに誇れるかに尽きる。
『これこそ誇り高き道、自分の命を掛けるだけの価値がある。』
そう思った。
ギルガからは、無理はしなくてもいい、抜けたくば、抜けても良いと言われた。
だが、そんな事は微塵も思わなかった。
「見ていて下さいよ、ギルガ様、今度こそ、私もあの憎っくき黒龍をぶちのめしますよ!」
とヒダカは豪語する。
そんなヒダカをギルガは弟を見るような目で見ていた。
ト「八鬼さんは、まさかというよりか、やっぱりとか、当然といった結果ですね。」
マ「ちなみにヴィスコはどのくらい魔力値が上がったの?」
ヴ「ふふふ、それはまた今度、本編で紹介します。」
ではまた次回もよろしくお願いします。
(* ̄∇ ̄)ノ