第122話 誠三郎無双
無双続きます。すみません。
第122話 ~誠三郎無双~
蔵光達が亜空間にいた時に、船を魔族達に取り囲まれ、蔵光の従者として何も出来なかった事に、誠三郎は悔しさを滲ませる。
「若~!面目次第も御座いません。」
誠三郎が半分泣き顔で蔵光の前で土下座する。
それを見た蔵光も少し気の毒な感じがしたので、
「悪かったね、セイさん、じゃあ、彼等の始末をお願いしようかな?」
と言うと、誠三郎は顔を上げ嬉しそうな顔をする。
「本当ですか?!それはありがたい!」
本当であれば蔵光の魔法で、全員の気道に『水恵・膜』を張ったり、『魃』で体の水分を抜く等の攻撃で終わるのだが、それでは余りにも誠三郎のプライドというか、存在価値を失わせてしまいそうなため、お願いすることにしたのだ。
まあ、元々、誠三郎は忍の頭領もしていたため、諜報活動や暗殺など裏の仕事は得意なのだが…流石に、今回の旅では、普通の人間では、かなり無理があるということが良くわかった。
それは、誠三郎自身、普通の龍ならば地上であれば何とかなるだろうが、黒龍には魔力どころか力でも全く歯が立たないことや、『死霊の言霊』等の精神操作系の攻撃に弱いこと、空を飛ぶ魔物や魔族には攻撃が届かず、全然攻撃が出来ないなど、制約が多いことに気付かされる毎日であった。
蔵光は誠三郎の体内の水分に魔力を加えて、魔力操作で浮かせた。
「おお!」
誠三郎に感動の声が上がる。
ここまで、蔵光と一緒に旅をしてきた誠三郎であったが蔵光の魔力操作を受けるのは初めてであった。
「セイさん、とりあえず、ここで少し練習してみようか?」
「練習?」
誠三郎が尋ねると蔵光は、
「うん、今、セイさんの体内に魔力を巡らせているので、恐らくそれの操作を練習することで、空中での移動も、俺に操作される事なく、自分自身で出来るようになるから、空中での戦闘も可能になるよ。」
と蔵光は説明した。
「そ、それは凄いですが、出来るようになりますでしょうか?」
「それは何とも言えないけど、とりあえずやってみようよ。」
「わかりました。やってみます。」
誠三郎は蔵光の言う通りに、練習をした。
魔族達はエスカルディア号の周囲に結界が張ってあるため、今のところ何も出来ないが、結界が解かれれば一斉に攻撃してくるであろう。
誠三郎は最初のうちは、フラフラとしていたが、その内に段々と魔力の操作が出来てきたのか移動速度が速くなってきた。
「そうそう、意識を切らさずに、そう右に、はい、止まる!で、また急旋回で左へ!ハイ急降下!止まって!上昇、はい抜刀、切り付け!」
蔵光の指導の元、誠三郎は恐るべき早さで体内魔力操作を修得していく。
「す、すごい。もうあんな速度で動いている。」
ヘルメスが誠三郎のその修得速度の異常な早さに驚いていた。
ヘルメスだけではない、ヴィスコやトンキ、マッソル、そしてオルビア、普通のグループ連中は全員驚く。
特にオルビアは、プラチナドラゴンズ全体の未来予知をしていたが、誠三郎個人の未来予測をしていなかったため、かなり驚いていた。
「船が魔族に囲まれるのは何となくわかっていましたが、こんなことは予想外でした。」
そして、魔族達も誠三郎が宙に浮いてから空中を自由に動き始めたのを見ると、かなり動揺をし始めた様子で、下位魔族の中には逃げようとした者もいたが、敵前逃亡ということで上位魔族の魔法で打ち落とされていた。
それは、下位魔族が既に追い付けないほどの速度であることを物語っていた。
「もう、いいかな。」
と蔵光がいうと、誠三郎は宙に浮きながら、
「ありがとうございます、これで戦えます。」
と応える。
すると、蔵光の横にいたゼリーが、
「セイノジ、ワイからもプレゼントや!」
と誠三郎の刀『斬鉄丸』に何やら呪文を唱える。
「ぷ、プレゼント?」
「まあ、付与魔法というやつでな、一応『経験値機能』『切れ味増加』『衝撃耐性強化』『損傷自動修復』とかを付けといた。」
「えっ?何だかよくわからんが…?」
「『経験値機能』は剣を使用して物を切る度に剣自体にその経験値が加算されて、剣のレベルが上がっていき、レベル毎に様々なスキルが付いていくというヤツで『切れ味増加』は一回の戦闘中に相手を切る度に切れ味が増加していくというもので、一度切る度に1%の切れ味上昇の補正がかかるようになっている。『衝撃耐性強化』は文字通り少々堅いものに切り付けても、折れる事はないというやつや、まあ、元々龍の鱗も切り裂くセイノジの刀やったらそれは問題ないとは思うけどな。あと最後の『損傷自動修復』っちゅうのは、刃こぼれとかしても現在の刀の状態を記憶しているので、その通りに修復するというやつや、折れても、まあ折れた部分同士を引っ付けといたらくっつくで。」
「………そ、そんなことをしたら…この刀は無敵になるじゃないか!」
「そうやな。せやから、危ないんでセイノジしかその鞘から刀を抜けないように指定呪文を掛けといた。」
誠三郎は自分の刀をジッと見た後、ゼリーを見て、
「かたじけない。恩に着る。」
と一言言うと、斬鉄丸にも一礼をして、そのまま、甲板の上から、船のマストの最上部辺りまで上昇した。
ヴァンガロスの魔族達は結界の外に出てきた『人間』を取り囲んだ。
それぞれが手に武器を持っている。
魔族の戦闘は主に剣等の武器により戦いが行われる。
それは、魔法の攻撃は、彼等の使用する魔法が古代魔法に近く詠唱にはやや時間がかかるためであり、多人数で行われ時間がかかると思われる戦闘や、遠距離攻撃、建物の防衛戦などの場合にはよく、使用されている。
近接戦闘の場合の魔法の使用は、武器による攻撃と魔法攻撃とをそれぞれ担当を分けて戦うことが基本であり、効力はあるが、それは余程、戦い慣れているか、上位魔族のように魔力値が高く、詠唱短縮でも、ある程度の効果がある魔法が唱えられる場合等に限られる。
これは人間についても同じ事が言えるが、人間は、自分達よりも強い者を相手にすることが多いため、担当するパートを決めたパーティー戦闘に長けている。
「うおおおーー!!かかってこいやーー!!」
誠三郎が大声で叫ぶ。
実のところ誠三郎は、魔族との戦闘は過去に何度かある。
それは、ジパングに時々侵入してくる魔族を、蔵光の父親の航夜や祖父の王鎧らとともに討伐するというものであり、誠三郎は魔族との戦闘訓練と言うことで、入って来ていた魔族と戦わされるというものであった。
まだ、その頃はまだ10代だったので、かなりビビっていたが、航夜らにサポートされながら戦闘に慣れさせられた。
そして、20代に入ると魔族に対して怖いという感覚は無くなっていた。
ただ、悲しいかなそれは全て地上戦のみであったが、今回は違う、空中戦も可能になっていた。
空中移動の修得速度を見てもわかるように彼は戦闘に関しては『天才』という部類の人種である。
今から、魔族達はその『戦闘の天才』八鬼誠三郎という人間の恐ろしさを知ることになる。
誠三郎に下位魔族の戦闘員が一斉にかかってくる。
流石に魔族の戦闘員だけあって、攻撃速度が速く、連携も上手い。
だが、その攻撃は誠三郎には届かなかった。
誠三郎は彼等の持っている武器を斬鉄丸で切り落とす。
更に、彼等の胴体や頭、腕、脚、剣の届く範囲を一瞬で切り落としていく。
あっという間に、数十体の下位魔族が絶命する。
だが、下位魔族はまだまだいる。
いつの間にか集まった魔族は総勢百体、その中には当然上位魔族もいる。
だが、誠三郎はこれまでの自分の不甲斐なさを打ち消すかの様に、ドンドンと魔族達を切り裂いていく。
それに加えて刀の切れ味が増していることが切る度にわかる。
「これは凄いな。」
と誠三郎は戦いながら呟く。
"剣のレベルが『1』上がりました。『飛翔斬撃』が使えるようになりました。"
刀から何やら声がする。
「何だ?飛翔?斬撃が飛ぶのか?」
誠三郎はかかってくる魔族を斬り倒しながらも刀の声を聞く余裕があった。
また空中を、地上を走り回るように高速で移動している。
魔族達は、誠三郎一人に次々と殺されていく仲間の姿を見て、段々と恐怖を覚え始め出していた。
だが、逃げれば上位魔族から殺されてしまう。
殺らなければ殺されるという恐怖が彼等を突き動かしていた。
そのため、彼等の動きは、覇気がなく、最初程の力は見られなくなっていた。
それを見て、上位魔族達も動きを見せ始める。
何人かの上位魔族は誠三郎に掛かっていくが、するりと攻撃をかわされ、首や腕を落とされた。
しかし、その中で誠三郎の前に立ちはだかった一人の上位魔族は、彼等、上位魔族や下位魔族中でも一際、大きな体躯を持ち、目立っていた。
身長もザビエラにも負けないくらいだ。
また、所持している武器は大きさが3m以上もの黒色の大剣でかなり名のある物と思われた。
「グレイガン!」
その魔族は名を名乗った。
それは、相手を単なる雑魚ではなく、誠三郎を強者と認め、敬意を示した証拠であった。
「八鬼誠三郎!」
それに応えるように誠三郎も名乗る。
この時、既に誠三郎は魔族のほとんどを斬り倒していた。
残りは上位魔族も含めて数人しか残っていなかった。
恐らくこのグレイガンがこの部隊の最強の者と思われた。
グレイガンの大剣が物凄い速さで繰り出された。
誠三郎はそれを真っ向から受け止める。
ガイイイインンンンーーー!!!
普通の刀であれば折れ曲がっている。
それに、普段の誠三郎であればこの時点でグレイガンの力で吹っ飛んでいる。
何故、吹っ飛ばなかったのかというと、それは蔵光が誠三郎の体に与えた『魔力』が影響していた。
魔法世界マーリックにおいて『魔力値』は高い方が強いという法則は例外を除いて、絶対的な法則である。
魔法の干渉はもちろんの事、身体に及ぼす影響も強い。
ヘルメスにも見られるように、魔力値の向上と共に、筋力や骨格、反射神経、思考速度等の質や能力が飛躍的に上昇する。
「うおりゃー!」
グレイガンとの鍔迫合いから、誠三郎は大剣を上に跳ね上げた。
誠三郎の魔力値は今、上位魔族の攻撃を受け止め跳ね返すほどの値を持っていた。
そして、上に大剣を跳ね上げられたグレイガンの胴がガラ空きとなる。
そこに、誠三郎は『飛翔斬撃』を放った。
グレイガンの胴に大きな斬撃の跡が付いたと思った瞬間、大量の血飛沫が周囲に飛び散る。
「ぐあああ!」
グレイガンが断末魔の叫びを上げて海面に落ちていった。
「引けー!引くんだー!!」
残っていた上位魔族の誰かが叫ぶと、魔族達は誠三郎から凄い速さで離れていく。
蔵光は逃亡しようとする魔族に『裁定者』のスキルを使用して☓判定が出た者だけを『水恵・膜』で息の根を止める。
数名の魔族だけが残り、逃げて行った。
誠三郎が戦いを終えて、甲板に戻って来た。
海面上には誠三郎の倒した魔族達の死体で一杯になっていた。
「す、凄すぎます。」
ヘルメスが誠三郎を見て目を輝かせている。
誠三郎の戦いを見て、自分の剣ではまだまだ誠三郎の域には到達していない事を実感したのだ。
ザビエラも誠三郎の強さを見て驚くと共に、以前していた手合わせの約束を思い出していた。
また、ヒダカもヘルメスに続き、魔族に全く恐れる事なく倒してしまう人物がいることに驚く。
「ギルガ様、このプラチナドラゴンズという群れは一体何なのですか?」
「群れではない、クランズだ。」
「クランズ?!」
「そうだ、冒険者ギルド最強のチームだ。」
ギルガはそう言いながら、誠三郎を囲んで騒いでいる自分のクランズのメンバー達を見ていた。
マ「すっげーっす。」
ト「やっぱり目茶苦茶強かったですね。八鬼さんは。」
ヴ「魔力操作の修得速度が異常ですぅ。あんな短時間で空中を自由に飛べるなんて、ズルいですぅ!」
ト「ま、蔵光さんの従者をやってるくらいだから、あの人も天才なんでしょ。」
その通り!よく気付いてくれました。
彼は蔵光とは少しタイプは違いますが、稀代の天才ですから、あれくらいは簡単にマスターしてしまうのです。
ちょっと、天才肌を出すのが遅かったかなぁ?
では次回もよろしくですぅ。
⊂(・∀・⊂*)どやさー!