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水無月蔵光の冒険譚  作者: 銀龍院 鈴星
第五章 甦る正義の血脈
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第120話 総当たり戦

ザビエラが何やら企画しました。

第120話 ~総当たり戦~

「我をそのような理由で捕らえようとは、そんなことで我がお前達の思い通りになると思っているのであれば、思い上がりも(はなは)だしいわ!」

ヒダカが魔族達に怒鳴り付ける。


だが、既に彼等はゼリーの魔法の力で全て白状させられて、かなり精神的にダメージを受けているようであり、そのうなだれ方を見て、ヒダカもそれ以上は責められなかったようである。


「まあ、ひとつだけ、教えておくが、自分達が噂で聞いていたギルガンダだが、ジェノマは隷属はしていない。」

ザビエラが伝える。

「!」

ヴァンガロスの魔族達はそれを聞いて驚きの表情で顔をあげる。

「嘘を言うな!そんなこと、誰が信じるのだ!」

魔族達の中でも、一番魔力値が高そうな、リーダー格の男が叫ぶ。


「あの古龍の力を押さえ込み隷属化させることが出来るという『魔素結晶』という代物をジェノマが完成させたということは、我々がジェノマに放っていた内通者からの報告で分かっているのだ。」

と話を続けた。


蔵光達にヒダカを襲った目的がバレてしまっている以上、彼等にそれ以上の秘密はなく、隠しておく話もなかった。

何故、ギルガンダを隷属させようとしていたことがバレていたのかという謎について、その魔族の口から明らかとなったのだ。

確信的な情報を入手しない限り、ヒダカの様な強力個体を捕らえようとは、普通、魔族でも思わない。

何かしら確実な情報源の存在が必要となるのは間違いなく、その理由が、この魔族により語られた訳だ。


やはり、ジェノマに間者を放っていたのだという事の裏付けが取れた格好だ。

それを聞いたザビエラが『あーなるほど』というような顔をする。

状況を聞く限りでは、魔素結晶を完成させた後の話のようであり、その後のジェノマのドタバタした状況を知らない様子であるため、恐らくは、エルザがデストロに殺される直前くらいの話をしているのであろうと思われた。

ザビエラはしばらく考えた後で、何かを思い付いた様子で口を開く。


「はっはっはっ、それはちょっと話が古いな。」

とザビエラが笑いながら、自分の考えを聞いてもらうために、まず、蔵光に話しかけた。


「蔵光様、この者達はどうなされますか?」

ととりあえず蔵光の意向を確認する。

ザビエラ自身、恐らく蔵光はこの者達を許しはしないだろうということは何となくわかっていた。

「うーん、まあ、このまま帰せはしないけど…何かあるの?」

と蔵光は聞いてきた。

「私に少し考えがあるのですが、彼らの身柄を一旦預からせて頂いてもよろしいでしょうか?」

ザビエラが言うと蔵光は、

「まあ、別に構わないけど、何かするの?」

と尋ねてきた。

「ええ、少し面白い趣向を思い付きまして…」

とザビエラが答えると、近くにいたゼリーにお願いをする。


「ゼリー殿、私と彼等を少しだけ別の空間に入れてもらえませんか?」

とザビエラが言うとゼリーは、ザビエラの考えを見抜いた様子で応える。


「何や、変化(へんげ)を解くんか?」

とゼリーが尋ねるとザビエラは頷き答えた。

「まあ、それの方が早いかなと…」


軍船エスカルディア号の甲板の上で、亜空間を展開すること、その理由はすなわち、『ここの乗組員に見られたくないことである』とか、『戦闘行為により船を破壊させないため』等の限定的な理由しかない。

それらの理由が指し示すのは、『自分の姿を相手に晒したり、そして、その姿を晒した上で、その空間内で戦闘行為を行う』ということに他ならなかった。


ちなみに、この船の船長であるエイダーには自分達の本当の姿を教えているが、船員には伝えてはいない。

下手に船員達に正体をバラすと、後々面倒なことになる恐れもあるからだった。


そのための亜空間の展開依頼だということを、ゼリーは一瞬で見抜いたのだった。

「わかった!じゃあ、ギルガ!お前もこっちに来いや!」

とゼリーがそう言うとギルガもその意味が何となくわかったようで、隣にいたヒダカと一緒に直ぐに近付いて来た。

「何か面白そうなことをするみたいだな?」

とニヤニヤしている。


「よっしゃあー!そしたら行くで!」

ゼリーは何も無かった空間に、小さな亜空間の入り口を作り、その入り口から、捕らえている魔族達5人と、蔵光、ザビエラ、ギルガ、ついでにヒダカとヘルメスを取り込んだ。


一瞬の出来事であった。

先程まで船の甲板の上にいたのに、今は全く別の場所にいる。

ゼリーの作り出した亜空間である。


「な?な?な?何だ?」

魔族達は自分達がいる場所に戸惑う。

周囲は(はて)の無い真っ白な空間が拡がっていた。


「では、蔵光様、彼等の戒めを解いて頂いてもよろしいでしょうか?」

とザビエラが言うと蔵光は軽く頷いて、彼等の水球を解いてやる。


ヴァンガロスの上位魔族達は、蔵光の水球が解かれるとは思っていなかったようで、解けた途端に、逆にソワソワし始めた。

こんな場所では逃げようにも逃げ切れるものではない。

自分達の身に何が起ころうとしているのか、今から何が始まるのかという不安の表情が一人を除いてその顔に現れていた。


「そんなに、心配することはない。我々は冒険者ギルドの冒険者達だ。このままお前達を殺すのは簡単だが、それだけでは少し興ざめなんで、ちょっと面白いことを考えた。私は、お前達と同じで戦うことが好きでな、どうだろうか?ここで一度、我々と対戦をしてみないか?もし、我々に、自分達の誰か一人でも勝つことが出来れば、全員の命を助けてやろう。」

とザビエラが言うと、蔵光もそれを聞いて『なるほど』という表情となり、ウンウンと頷く。


そして、ザビエラの提案に、先程のリーダー格の魔族の男が答えた。

戦って勝てば命を助けると言われて、少し余裕が出来たのか、落ち着いた口調で話始める。


「人間に変化したその雷鳥と、そこの人間のガキらは危険だとは思ったが、俺達がお前やその女共に負けるとでも思っているのか?」

と不敵な笑いを浮かべる。

一勝するということは、蔵光らに勝てなくても、ヘルメス等の他の者に勝てれば、命が助かると考えたのだろう。


恐らく人の姿に変化しているザビエラはもちろんのこと、ヘルメスも普通の人間だろうから楽勝だとでも思っているのであろう。

ただ、人間の姿をしているギルガについては、人間の姿になったヒダカがさっきから『ギルガンダ様』と呼んでいるので『もしかして本物?』とやや警戒はしている様子であった。


「まあ、やってみればわかるだろう。」

とザビエラが余裕の態度を見せる。


魔族達も、さすがに蔵光とヒダカには警戒をしている様子であり、ザビエラらに急に飛び掛かるようなことはしなかった。

ここは相手の言うことに素直に従う。

下手に蔵光らを刺激してしまうと自分達も殺されかねないからだ。



「という事で、対戦の方法は5対5の総当たり戦で、私が先鋒をつとめるので、ヘルメス殿は次鋒をお願いします。」

とザビエラがヘルメスを指名する。


「えっ?わ、私ですか?!」

いきなり亜空間に入れられ、更に魔族と戦えと言われれば誰だって驚く。

ヘルメスは流石にゼリー程頭が回っていなかった。

それに、ヒダカも入れると全員で6名だったので自分は関係ないと思っていたのだ。


「じゃあ、あたしが中堅だな。」

とギルガが言うと、ゼリーが、

「ワイもええか?」

と参加を表明する。

そして最後は蔵光が、

「じゃあ、最後は俺で。」

と言うとヒダカが、

「ちょ、ちょっと待ってくれないか!我にも戦わせて貰えないか?」

と参加を希望する。

しかし、この申し出には蔵光が難色を示した。


「いやあ、これはヴァンガロスの上位魔族さん達と俺達プラチナドラゴンズとの戦いだからなあ。部外者の方にはちょっとなあ…」

と蔵光が言う。

まあ、確かに、蔵光の言うとおり、構図的にはそういう風になる。

そうなるとヒダカがメンバーに入らないのは当然だ。


「あ、イヤイヤイヤ、彼等は最初、我にも攻撃をしてきたのだから、我にも奴らと戦う権利があると思うのだが…」

とヒダカは懸命に蔵光を説得する。

流石に蔵光に対して、暴言は吐けない。

かなり下手に出ている。


「あーでも、奴らがヒダカに攻撃を仕掛けた後、ここまで逃げてきたんだから、その時に既に勝負は決まっていたんだし、別に戦わなくてもいいんじゃないの?」

「あ、いや、しかし…」

確かに魔族が敗走しているのであれば、ヒダカと魔族との勝負は決していると言えるだろう。

蔵光に論破され、ヒダカは黙り込んでしまった。


「それだったら、あたしらの仲間になればいいんじゃないのか?」

とギルガが言う。

ヒダカは、その言葉を聞くと、しばらく考えた後で、

「仲間になれば、戦わせてもらえるのか?」

と聞いてきた。

その姿は真剣そのものだ。


「まあ、仲間になればの話だけど…」

と蔵光が言うと、ヒダカは意を決したように言葉を絞り出した。

「わ、わかった。我はお前達の仲間になってやろう。」

とヒダカが言うと、すかさずギルガが、

「やっぱりダメだ!」

と答えた。


「えっ?は?イヤイヤイヤイヤイヤ、あの、ギルガンダ様?さっき『仲間になれば?』とか言いましたよね?」

ヒダカはいきなりのギルガのダメ出しに(あせ)る。

「ああ、確かに言った。」

「だったら何で、ダメだって言うんですか?」

「お前は何か勘違いをしているぞ。仲間になってやろうではなく、仲間に()()()()()()()だろう?お前のその上から目線の態度が気に入らないからダメだと言ったのだ!」

「えっ?!そ、それは、でも、その言い方だと人間の下に付くみたいで何か、ちょっと(いや)っていうか、何というか…」

「じゃあ、仲間になるのをやめろ!」

「いや、それは…」

ヒダカはギルガに詰められ、困惑状態になっていた。

まさか、魔族を追ってここまで来て、こんな事態になるとは思いもよらなかったからだ。


「蔵光さんは我々よりも遥かに強い存在だからな。」

とギルガがヒダカに言うとヒダカも、何かその事で聞きたいことがあるみたいでギルガに尋ねようとする。


「そう言えば、ギルガンダ様…」

ヒダカは急にギルガに近寄り、声の大きさを低くして話し出した。

「ここではギルガと呼べ、みんなもそう呼んでいる。」

「わかりました、ギルガ様、私をいとも簡単に手玉にとる、あの蔵光という少年は一体何者なんですか?それにあの手に持っている金属のような自在に形を変える棒は…まるで、あなた様が以前聞かせてくれた、例の龍を殺しまくっていると言う『水無月の一族』の者が持っている棒に似ている気がするのですが。」

「はははは、似ているも何も、蔵光さんは『水無月の一族』だからな。」

とギルガがさらりと蔵光の正体をばらす。


「は?えっ!?…………なんで?ギルガ様?命を彼等に狙われていて、逃げ続けていると言われていたのでは?」

「あーあれか、あれはただの勘違いだ。はははは!」

とギルガは笑い飛ばす。

「か、勘違い…?」

ヒダカは何がどうなっているのかさっぱり解らなかった。

とりあえず、蔵光の正体を知ったヒダカは蔵光に再度、仲間にさせてもらうよう、丁寧にお願いするとアッサリと仲間入りを認められた。


「おい、ヒダカ、この試合が終わったら直ぐに仲間を抜けるなどと言うなよ。」

とギルガが釘を刺す。


「わかっていますよ。ギルガ様に、()()から何があったのか色々と聞きたいですから。」

そういうことで、ヒダカが蔵光の代わりに大将として戦うことになった。



「試合は、一対一の対決で、相手が死亡、戦意喪失、気絶などの戦闘不能状態に陥った場合、降参した場合は、その者の負けとなる。武器は何を使っても構わない。魔法も使用可能。古代魔法、隷属魔法、毒魔法、全て可能だ。殺しに来てもらっても構わない。」

ザビエラがヴァンガロスの魔族達に説明した。


最初は、武器や魔法は何でも使える、相手を殺しても構わないと聞いて目を輝かせていた凶悪な魔族達だったが、先程のゼリーの催眠魔法を思い出したのか、何やら深刻な顔をしだした。

逆に言えば、相手も同じ条件なのだ。

殺されても誰も文句は言えない。

つまり、全員が生きて帰れるには、最初に一番強い奴を出さなければならないことに気付く。


「あー言い忘れたが、私がこのメンバーの中で一番弱いからな。」

とザビエラが追加情報を与える。

そうなると、なおさら先鋒に一番強い奴を出さなければ意味がない。


「よし、最初は俺だ!」

そう言ったのはやはり、リーダー格の魔族の男だった。

「お前の名は?」

ザビエラが相手の名前を確認する。

「俺の名はラグゾール、ヴァンガロスの魔軍将だ!お前の名は?!!」

「私は元ジェノマ軍魔准将をしていたザビエラという者だ!」

そう言うと、ザビエラが本来の魔族の姿に戻る。

やはり、魔族の姿に戻ったザビエラはデカい。

上位魔族でも4m以上もある者はそうはいない。


「な!?お、お前は…あの『ジェノマの狂鬼(きょうき)』か?!」

ラグゾールがザビエラの正体を知って驚くと共に馬鹿にしたような笑い顔を浮かべる。


「ふ、お前のような者が、人間の下に付くとは落ちたものだなザビエラ!なるほど、先鋒とは……一番弱いというのが本当なのか確かめてやろう。」

ラグゾールが腰の剣を抜く。

体格に合わせているためか、剣もかなりの大きさだ。

ラグゾールは5人の中でも身長や体格は一番大きく、あのドラギゴよりも大きかった。


「行くぞ!」

「おう!」

魔族は戦闘民族である。

戦いの中に生き甲斐を見出(みい)だす種族であり、戦いの中で死ぬことを誇りとしていた。


そのため、ラグゾールはザビエラの魔力が自分達の魔王よりも大きく感じることに違和感を覚えていたが、何よりも強者と戦えることに一種の興奮を覚えていた。

だが、戦える喜びというものは、本来、お互いの力が拮抗していて初めて感じるものであり、その力の差が大きければ大きいほど、それはただの残酷なショーにしかならない。


ラグゾールが、ザビエラに仕掛けた。

それは、赤子が、大人に掛かっていくようなものであり、試合等というものでは到底なかった。

ザビエラは、ラグゾールの剣を(かわ)すとすぐさまデスフレアの柄の部分をラグゾールの腕に叩き付けた。


ボギン!


鈍い音を立てながらラグゾールの両腕が折れて、体の前に垂れ下がる。

「ぐあっ!」

ラグゾールがうめき声を上げる。

更にザビエラはラグゾールの心臓にデスフレアの先端を突き刺した。

炎の槍は強靭なラグゾールの体を貫き、背中まで突き抜けた。

圧倒的なという言葉は時に残酷さを増す。

魔力値が10万Mを越える魔族が、一瞬で殺される。

そんな光景を()の当たりにしたヴァンガロスの魔族達の表情には、先程までの余裕が消えていた。


次の犠牲者が誰になるのか…

彼等に死のカウントダウンが始まっていた。


ト「あー、あの空間内でこんなことがあったのか。」

ヴ「見学したかったなあ。」

マ「あれ?いつの間にかヒダカさんが仲間になってますよ?」

ト「大所帯になってきましたけど、ゼリーさん、ギルガさん、ヒダカさんって全員、魔物でも目茶苦茶強い方ですよね。ちょっと怖すぎです。」

ヴ「イヤイヤ、ザビエラさんとトンキも本来、人間が恐れる魔族なんだし、それを怖いって…何?」

ト「いやぁ私なんか魔力値が少し高いだけで、力はマッソルとあまり変わらないですからね、一般人の枠ですよ。」

マ「人間なのかどうなのかよく解りませんが、当然、蔵光さんは凄いですし、それに、ヘルメスの姉御も最近は人間離れしてきてますから、私達だけですよ普通枠は。」

ヴ「そうよね、あと、人間枠といえば最後はオルビアかな?彼女は?」

トンマッソ「うーん、微妙ー!」

おーい!誠三郎忘れてるぞ!

まあ、彼は最近、影が薄いので、また出番を増やします。


ではまた、次回をよろしく。

(* ̄▽ ̄)ノ~~ ♪





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