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水無月蔵光の冒険譚  作者: 銀龍院 鈴星
第五章 甦る正義の血脈
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第117話 魔族大虐殺と神の呪い

悲しいお話です。

第117話 魔族大虐殺と神の呪い

ノースヨーグ砦には、未完成ながらも続々と人がやって来て、既に多くの住民が移住を始めていた。

皆が、夢と希望を持ち、活気溢れる街を作ろうとしていた。

そんな時であった。

魔族が、魔物を引き連れ大襲来を起こしたのだ。

『魔海嘯』にも匹敵するほどの数の魔物を引き連れ、やって来たのはジェノマという地域を治めていた魔王軍に所属する上位魔族達であった。

彼等は、『魔素口』から吹き出る負の魔素を狙ってやって来ていた。

当時、水無月家の者は魔の大森林地帯にある『魔素口』も封印していたため、負の魔素を必要とする魔族に供給される負の魔素が激減していた。

そのため、太陽の光に弱い魔族達であったが、危険を犯して人間の住む土地へ侵攻してきたのだった。

彼等が攻めてきたのは夕刻のことで、日の光が弱くなってきていた頃にそれはやって来た。


魔物達は恐るべき速さで砦を襲っていった。

まるで、訓練し、計算されたような連携された動きであり、みるみるうちに砦は魔族に占領されていった。

何故、これほどまでに迅速な侵攻がなされたのか?

それには、ある魔族の計画が絡んでいた。


それは、魔物達が砦を襲っている隙に、魔族の者達がまだ封印されていない『魔素口』から負の魔素を回収するという計画だった。


また、彼等はこのノースヨーグに水無月家の者がいることは知っていて、彼等が自分達の支配する土地の『魔素口』を封印し、使用できなくしたことを恨んでいたこともあり、復讐の意味を込めての侵攻でもあった。

そのため、街に住んでいた住民は、防御結界が成されていない場所から侵入してきた魔物や魔族の者達に皆殺しにされていった。


水覇も彼等の侵攻を黙って見ていた訳ではなかったが、その頃、受注していた別のクエストの処理でノースヨーグを離れていたため、彼等の侵攻に気付くのが遅れてしまったのだった。

ノースヨーグに残っていたチョッコから渡されていた、『水蓮花』という通信魔法を付与した魔石で連絡を受け、ノースヨーグに駆けつけた。

直ぐに応戦し、恐るべき速さで彼等を殲滅していったが、この時はかなりの住民が殺されていた。

チョッコも、身重ながら、魔物に対抗していた。

街に先行して入っていた警備隊や衛士の者達も応戦したが、さすがに物量作戦には敵わなかった。

三日三晩にも及ぶ戦闘が連日、繰り広げられた。

彼等は全長150km以上にも及ぶ、広範囲にわたる地域に攻め込んできていたため、結果、住民のほとんどが殺されるという最悪の結果となってしまった。


その事が原因となり、生き残った住民は魔族や魔物達を恐れ、ノースヨーグを去っていった。

また、メトラプトラ国の決定で、同砦に駐留予定であった警備隊や衛士などは全て撤退命令が下り、撤収していった。


結局、巨大建造物に残っていたのは、水覇を慕っていた一部の住民とチョッコだけであった。

水覇にとって、この砦は愛するチョッコとの共同作業で作っていた思い出ある建物でもあった。

ゆくゆくは将来生まれてくるであろう子供と住むための夢の場所でもあった。


それを奪われたのだ。


そして、さらに二人にはもう一つの悲劇が襲う。

チョッコは魔族の侵攻を防ぐために、身重ながらも、無理をして戦っていた。

そして、かなりの魔法を行使したことにより、体に変調を(きた)していたのだ。

結果、それが祟り、お腹にいた子供を流産してしまったのだった。


水覇は黒龍を倒すことを使命としていた。

それは、宿命であり、そこに怒りという感情はなかった。

だが、水覇は初めて他者に対する激しい怒りを覚えた。

確かに、彼等の生命の源である負の魔素が噴出する『魔素口』を塞いでいたのは自分達であったが、もっと他の手段、例えば交渉等で塞がない『魔素口』を作るなど出来たはずだった。

にも関わらず、魔族共は大軍を率いて罪もない人達を虐殺していった。

そして、生まれてくるはずだった自分達の子供の未来さえも奪っていったのだ。


『絶対に許さん!』

水覇の目からは血の涙が流れていた。


水覇はこの怒りを気付かれまいと平静を装い、チョッコとこの地に残っていた住民を、ノースヨーグ砦の近くに作られていた砦の開発村であった『カキノタ村』に残し、強力な防御結界魔法を掛けた後、魔の大森林地帯に向けて飛び出していった。


そして、ジェノマの地に降り立った、彼の心には、既に『憎しみ』というどす黒い感情で塗り潰されていた。

魔族の女だろうが子供であろうが、全ての魔族の血を憎んだ。


魔王城の結界を破壊して侵入し、まずは今回の侵攻の張本人であった魔王の首を『水化月』で跳ねて殺した後は、城にいた魔族の兵士を全て殺した。

その後は、魔族の者達が住む街へ出て、『水激・零座』で街を、人を、全てのものを切り刻んでいった。

そして、最後には、『魃』で街や、ジェノマの地域全体の魔族の体内の水分を一瞬で抜きとり皆殺しにしてしまったのだった。


彼は『侵攻に関わった魔族』だけではなく、『その地に住む全ての魔族』を殺したのだ。

それほど水覇の悲しみと怒りは深く大きかった。


だが水覇はやり過ぎた。

黒龍を討伐するために与えられた力を、それ以外の目的で、しかも『裁定者』で、◯判定の者であっても殺してしまったのだ。

確かに、人を守るための使用ならば多少の水魔神拳の使用は許容されるであろうが、感情を暴走させ、自分が思うがままに力を振るい、魔族といえどもそれらの女子供を殺すという、結局、自分達の国を襲ってきた魔族と同じことをしていたのだ。

その所業を、その力を与えた神が許すわけはなかった。


ジェノマで大虐殺という大罪を犯した水覇に下った神の裁きは、『時の魔法』による次元幽閉という神の呪いであった。

水覇が大虐殺を行った瞬間にそれは、執行された。

彼は魔力と『超剛力』を奪われ、亜空間の中へ閉じ込められた。

呪いの期間は300年。

その間は、年もとらず、お腹も減らない。眠ることも許されず、じっと、その空間から何もない亜空間の世界を見つめるだけという罰だ。

普通の者であれば精神破壊を起こしても仕方がない罰だ。

水覇も精神異常耐性があるものの、それが永続的に続くわけもなく、何度も精神に異常をきたした。

その都度、死のうとしたが、神の力により死ぬことが出来なかった。


死ねなくとも、水覇の頭には色々と雑念が浮かぶ。

300年も経過すれば、自分の知っている者達は既にこの世を去り、新しい世代が生まれていることであろうと考えると、今、何も出来ないもどかしさと怒りに任せて虐殺した我の罪の深さに苦しさが増す。

その頃には愛するチョッコも死んでいるであろう、自分に残されるものは何もなかった。


最初はそのような事を色々と考えていた水覇だったが、そのうちに考えることを止めていた。

誰とも喋らず、ただ、何もない日々だけがどんどんと流れていくだけだった。

数年も経つと、廃人同様に感情を奪われた水覇がそこにいた。


水覇の父親であり水魔神拳の第55代伝承者の水無月海里(みなづきかいり)には、今回の事の顛末がミズハノメから告げられた。

また、今回の事を受けて、それまで水無月一族に備わっていた『裁定者』スキルの補助スキルであった『精神状態異常耐性』が『精神状態異常無効』にランクアップされた。

それは、どんなことが自分の身の上にあったとしても、例え自分が愛する者が目の前で殺されたとしても、常に冷静で自分を見失わないというものであった。

これは、ある意味、水覇の行った行為により、その後の水無月一族に掛けられた呪いであった。

それは悲しくても泣けない、そんな無感情に近いロボットのようなものであった。



そして、今後は、魔族の住む、魔の大森林地帯の『魔素口』の封印は特段の事情がない限り取り止めることとなった。

また、水覇が滅ぼした魔族が住んでいた地域には、魔王以下の魔族を守護する魔神として、なるべく温厚な魔王種を配置させるという話となったらしい。

ちなみに魔神とは魔族が信仰する神であるが、ミズハノメ等よりも遥かに神格が低く、魔王の配置に関しては、ほぼミズハノメの一言で決定していた。


チョッコは、水の女神ミズハノメからのお告げにより、水覇の犯した大罪を聞かされるとともに、水覇の肉体が送られている封印の場所を教えられた。

だが、そこへ今行ったとしても水覇の姿を見ることは出来ないらしい。


実のところ水覇はミズハノメから精神と肉体を分離され封印されていた。

そのため、いくら水覇が死のうと思ったとしても、それは亜空間にある精神だけであり、マーリックに存在する肉体には何ら影響を及ばさないのだった。

呪いの期間が終わったあと、精神が肉体に戻るという話であった。


チョッコはミズハノメから神の呪いの話を聞かされたとき目の前が真っ白になってしまった。


人間にとっては、300年という年月は途方もない時間である。

到底、生きて再会することは出来そうもない。


水覇と共に生きることに喜びを感じていたチョッコにとって、水覇を失うことは非常に辛く苦しいことであった。


吸い込まれそうな瞳、強靭な肉体に似合わない優しい性格、いつも絶やさない子供のような笑顔、全てが好きだった。


初めて会った日から、強く惹かれた。


この人と結ばれると、何となく感じていた。


黒龍を倒すことを使命にしていることも承知の上で仲間となった。


命懸けの恋だった。


そんな心の支えをチョッコは、お腹の子供と共に失ってしまった。


当初は水覇を失ったショックが大きく、初めのうちは何も考えられなかった。

心が脱け殻のようになってしまった彼女は自らの命を絶って死のうとしたが、ミズハノメから止められてしまい、寿命が来るまで死ねなくなってしまったのだった。


そんな時であった、昔の学校の同級生であったジュリーことジュリエッタ・ラムダ・ギャラダストが自分の元を訪ねてきた。


ジュリーは、チョッコが死ぬ前に一言別れを言おうと手紙を書いていたのを見て、慌ててカキノタ村までやって来ていた。

チョッコはジュリーに、死のうとしたが、ミズハノメ様に止められて死にきれずにいることを話す。


「何を言っているの!あの元気で殺しても死なないようなチョッコはどこに行ってしまったの?」

ジュリーがチョッコに喝を入れる。

「うん、そうだね、でもね、生きていても辛すぎるだけなの…」

チョッコは力なく話す。

それを見てジュリーは怒りを通り越して呆れてしまう。

「あーもう!あの頃は飛ぶ鳥を落とす勢いがあったのに、魔法があれば、何でも出来るって豪語してたじゃないの!あの時のチョッコはどこにいるの?」

「そうだよね、魔法で何でも出来るって…」

「そうよ、たかが300年でしょ!貴女なら何とか出来るんじゃなくて?」


ジュリーが言った一言を聞いたチョッコは何か様子が変わっていた。


「魔法で何でも出来る、魔法で何でも…」

チョッコは何度もその言葉を繰り返す。


そして、そのうちに段々と目の中に光が戻ってきた。


「そうよ、魔法があれば、何でも出来る!!」

「そ、そうよ、チョッコ、その通りよ!」

ジュリーもチョッコに合わせる。


「300年くらいが何なのよ!私は天才魔法使いのチョッコ・クリムよ!時間を越える魔法を開発すれば何とかなるはずよ!」

チョッコは立ち上がった。

「ジュリー、ありがとう!私、自分が誰だかすっかり忘れていたわ!」

「良かった、元気になって。」

「あーこんなことしてられない!早くしないと時間はいくらあっても足りないくらいだわ!」

とチョッコは途端にあわただしく動き始めた。

それを見たジュリーは心の中で安堵した。


その後は、流石に時間を操る魔法は完成しなかったため、次に不老長寿の薬を開発しようとして、最後には、長寿命のラージスライムの体内に空間魔法を展開した状態で取り込まれ、その体内で生涯をその研究に費やすこととなるのだった。





マ「なんというか、救えませんねえ。」

ヴ「もう、悲しすぎて、立ち上がることもできません。ただ、ジュリエッタ様が素敵です。」

ト「この後に、スライムに飲み込まれて融合するとかでしたっけ?」

ヴ「そうだよね。」

マ「波瀾万丈の人生でしたね。」

ト「確かに…」

ヴ「間違いないですね。」

とりあえず、チョッコの過去編は終わりです。

ちなみにチョッコの転生前の話は、現在、投稿中の、

『転生前は芸人だった。 宮離霧千陽子の異世界コント ~伝説のお笑い芸人目指して』

で確認できます。


ではでは次回もよろしくです。

ヾ(・∀・。)


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