第113話 国立魔法学校『グランマリオン』
とんでもない事が起きます。
第113話 ~国立魔法学校『グランマリオン』~
約一週間かけて馬車はタイトバイトス皇国の首都グランマニアに到着した。
国立魔法学校の教頭兼筆頭魔法講師ファラリアス・ジェナイダーは北部地区の子供達を連れてくる担当だったが、結局、チョッコ、ジュリー、エミリアの三人だけだった。
やはり、学費を全額、国が負担するとなると、学校に入るための基準が相当高いのだろう。
入学する人数にも制限がかかって、かなり狭き門になっているのであろうか。
ファラリアスから聞いた話では、今期入学する生徒は全部で10人しかおらず、東西の地区でそれぞれ二人ずつ、南北が三人ずつであると言っていた。
ファラリアスからは、学校を卒業した後は、国の魔法研究機関に所属したり、国の軍部に入り、戦闘専門の魔法使いになったりするという。
魔法研究機関は、魔鉱機や魔導機の開発をする機関で、学校で魔法の能力が余り上がらなかった者等はこちらにやって来ることがほとんどである。
国の軍部にあるといわれる、戦闘専門の魔法使いというのは、読んで字のごとく、戦争等で魔法を使って戦ったりする軍人のことである。
魔法の能力が高い者はこちらの方に回される。
こちらの人物はかなり魔法に長けていて、全ては学校にいるときの成績が左右すると言われている。
「戦争に行くのが嫌だったらどうするんですか?」
ジュリーがファラリアスに尋ねる。
「その場合は、魔法の研究機関行きか、魔物討伐専門の冒険者となってもらうことになるわ。」
「冒険者?」
「そう、人との殺しあいが嫌だという人は、冒険者ギルドというところに所属してもらって、国内に出没する、凶悪な魔物を退治してもらうことになるの、ただ、普通の冒険者と違うところは国の方から派遣された冒険者ということになり、報酬の一部が国に入る事になるの。」
「えーやだー。国にお金とられちゃうの?」
「ええ、そうよ、そのお金は貴女達の入る国立魔法学校の運営費用とかに回され、未来の優秀な魔法使いを育てる資金源にもなるの。」
「あーなるほど、そういうことなんですか。わかりました。」
彼女達の教育費用は全て、学校の卒業生が稼いでいるということだった。
魔法学校へ着いた。
校舎は形良く切り出されたブロック状の大きな石を組み合わせて建てられた、大きな建物で、校舎はいくつかに分けて建てられていた。
バランス良く積み上げられた石の乗せ方で、崩れにくくされた構造は、後にモロマネスク様式と呼ばれる建築様式の原型となった造りで、円柱の塔が建物の端に設けられ、どっしりとした印象を与えている。
屋根は当時としては最新の焼き瓦を使っていた。
建物の外周には結構高さが高めの石の塀が取り囲み、外敵からの侵入を防いでいる。
学校とは言え、国の機関であり、図書館などには秘密文書なども保管されている。
そのための塀であり、塀には魔石が取り付けられ結界呪文を付与していた。
悪意のあるものを侵入させないためのもので、塀に触れると大きな警報音が鳴り響くようになっている。
塀の正面に大きな石造の門が見え、そこには金属製の扉が閉じられていた。
グランマリオン魔法学校は、小高い丘の上に建てられていたが、その周辺は綺麗に整地され、芝生が植えられていた。
また、景観を良くするためか、所々に枝振りのいい木が植樹されている。
また、授業で使用するのか、単に食べるためなのか、敷地の一部が畑になっていて、野菜が栽培されていた。
馬車は門の前に停車した。
すると、門の扉が自動的に開いていく。
馬車はそのまま門を抜けて、敷地内に入っていく。
馬車は塀の内側の通路を走って行く。
中は春らしい花が植えられ、良い匂いが辺りに漂っている。
「ここの庭の花や塀の内外に植えている樹木の管理は国が雇っている専門の職人に任せていますので、勝手に花を摘んだり、木の枝を折ったりしては駄目ですよ。」
とファラリアスが注意する。
馬車はいくつかある校舎のうち、一番大きな校舎の前に止まる。
御者が先に馬車を降りて、馬車の扉を開ける。
校舎の出入口には、木製の両開き扉が設置されていて、ここもチョッコ達が前に立つと自動的に開いていく。
「うわあ!凄い!」
ジュリーが目を輝かせて叫ぶ。
そこには、学校というよりも宮殿といった方が良いくらいの内装であった。
出入口から中に入るとそこは、大きなホールが全員を迎え入れる。
天井からは大きな魔石のシャンデリアがいくつも垂れ下がり、石壁の柱には細やかな細工を施した彫刻が彫られていて、壁には伝説の魔法使いとドラゴンが戦っているシーンが、極彩色の絵画として描かれていた。
床は大理石の床石が敷き詰められ、シャンデリアの灯りをキラキラと反射していた。
ホールの奥、中央には末広がりの大きな階段が設けられ、その階段踊り場奥の部分は無数のバラの柄で彩られた大きなステンドグラスのはめ殺しの窓が取り付けられていた。
階段の脇は、細かい細工を施した手すりが取り付けられている。
壁の所々に窓が取り付けられているが、木製で上部がアーチ型になっていて、上下に上げ下げが可能な可動式の窓で、空気の入れ替えもできた。
「先生、これが学校なのですか?」
エミリアが興奮して尋ねた。
「そうです、ここが、国立魔法学校『グランマリオン』なのです。ただ、これが全てとは思わないで下さいね。」
とファラリアスが意味深な答えをする。
「他にも何か?」
チョッコが質問する。
「それは、今後、貴女達が追々知ることになるでしょうから、今は説明するのを止めておきましょう。」
結局、ファラリアスはそれ以上は何も答えなかった。
チョッコ達は、その後、ホールを抜けて、奥の建物の2階に上がると、自分達が使う寮室に案内された。
そこは、先程のホールと同じように寮室と言うには豪華すぎた造りだった。
部屋の造りはもちろんのこと、室内に置かれている調度品は全て高級品であり、共同スペースの部分には大きなテーブルが置かれていたが、有名な家具細工師の製作した、超高級品であった。
そして、さらに部屋の中には共同スペースを囲むように、それぞれの個室が用意されていた。
その個室にはベッドと机、個人用のロッカー等があり、鍵の掛かる扉が取り付けられていた。
「さあ、ここが貴女達の部屋です。部屋の中に貴女達の名前が入ったローブと制服が置いてあります。それに着替えてから、先程のホールまで来てください。校長先生からのお話があります。」
そう言うとファラリアスは部屋から出ていった。
「チョッコ、個室に制服が置いてあるよ。」
「ということは、その制服が置いてある場所が自分達の部屋ということかな?」
「あら?ここに名前が書いてある。」
エミリアが個室の扉にネームプレートがあるのを見つける。
「この部屋がチョッコの部屋みたい、その右隣が私で、左隣がジュリーね。」
と言うとエミリアは自分のネームプレートが貼り付けられた部屋に入っていく。
チョッコも自分のネームプレートの貼られた部屋に入る。
ベッドの上に、制服と黒のローブが置かれていた。
制服は紺のブレザーで、下はスカートとなっていた。
ブレザーの内側に自分の名前の刺繍が施されていた。
ローブは留め金の表面が学校の紋章となっていて、羽織ると膝下まで隠れるくらいの長さであった。
また、ローブの布の生地は上質な羊毛を使って作られていて、肌触りは抜群である。
「着替えたら、さっきのホールに集まるんだよね」
とチョッコはみんなに確認する。
「そうだよ、どうしたの?」
ジュリーが尋ねる。
「いや、学校っていうから、もっと沢山の生徒がいるのかなって…」
「そう言えばそうね、さっきから誰とも会わなかったよね。」
「もしかして、生徒は私達だけとか?」
「いや、でも、ファラリアス先生は全部で10人の生徒がいるって言ってたし…」
「そうよね、ちょっとおかしいわね。」
とジュリーも不審がる。
エミリアも何か思い当たる事があったみたいで、
「先生達もいないんじゃない?」
「そういえば、人の気配がしないよね。」
三人はこのような大きな学校なのに、誰もいない事に違和感を覚えていた。
「とりあえず、ホールに行ってみようよ。」
チョッコがそういうと三人は制服に着替えて廊下に出た。
やはり、人気がない。
静かな廊下をホールの方へ向かって歩いていく。
グチャッ、グチャッ
お昼なのに薄暗い廊下を抜けようとしたところ、寮と校舎との間の渡り通路の方で妙な音がする。
すると、突然、背後から声がした。
「静かに!」
そして、その声と共に三人は急に、しゃべれなくなり、体も動かなくなっていた。
『な、なんだ?これ?声が?体も?』
チョッコも声が出ない。
「ゆっくり後ろを向いて。」
と言われると体だけが動くようになる。
そして、声がした後ろの方を向くと、ファラリアスがしゃがんでいて、ちょうど自分達の顔の位置くらいにファラリアスの顔があった。
『どうしたの?』
とチョッコは聞こうとしたが声が出ない。
「ゆっくり後ろを振り返って…」
ファラリアスは小さな声で、全員に喋りかける。
「静かに、落ち着いて見て、右の方を…」
何故か、昼なのに辺りが薄暗い。
外が曇っているのだろうか?
ファラリアスの言った方向から先程の音が聞こえてきていた。
グチャ、グチャ
気味の悪い音がする。
それと、何か生臭い臭いも辺りに立ち込めている。
『何?』
何か黒い大きなものが渡り通路の横にいる。
『あっ!』
三人は息を飲む。
そこにいたのは、体長が30~50mくらいもありそうな巨大で黒いドラゴンであった。
頭から尻尾の先まで真っ黒で体の表面を覆っている鱗は鈍い光を放つ。
また、その眼は血のように真っ赤になっていて、見るからに凶悪そうなオーラを漂わせていた。
口からは黒い靄のようなものが出ている。
そのドラゴンは、頭を地面の方に下げて頭を動かしている。
辺りにも黒い霧のようなものが漂っていて、はっきりとは見えなかったが、よく目を凝らしてみるとようやくそれが何であるのかが見えてきた。
『あっ。人だ!』
三人とも、それが何であるかに気付く。
そのドラゴンは人間を食べていたのだ。
重なっている死体を、前足で押さえながら胴体にかぶりつく。
グシャグシャ
そして、ある程度口の中に入ると、頭を上に持ち上げ、しゃくるようにして、それを飲み込んでいく。
ドラゴンの喉の付近が膨らみ、それが首の下の方へ移動していく。
一人二人ではなかった。
見るもおぞましい光景であった。
「さあ、こちらへ来なさい、早く!」
三人は足がすくんでしまい、最初はうまく動けなかったが、ファラリアスが半ば強引に三人の手を引っ張り、元来た寮の方へ連れて逃げる。
ある程度逃げたところで、沈黙の呪文が解ける。
「先生!」
最初に口を開いたのはジュリーだった。
「あれは、あのドラゴンは一体、何なのですか?!」
それは全員が知りたいことだった。
ファラリアスは立ち止まると、説明を始めた。
「あれは、黒龍と言って、人間を主食にしている恐ろしいドラゴンです。何故だか理由はわかりませんが、このグランマリオンに入り込んでいたようです。」
とファラリアス自身も信じられないといったような話し方であった。
「魔法でやっつけられないんですか?」
とチョッコが聞く。
「人間の魔法では無理です。彼らの魔力値は我々よりも遥かに上で、魔法を放ったとしても干渉できず、彼等の体には到達すらしません。」
「ど、どうして、この魔法学校に?」
「奴らは普段、魔力のない人間の肉も食べると言われていますが、普通の人間の肉よりも魔力を持った人間の肉は彼等の魔力の回復力を促進させる効果があると言われているようです。しかし、学校全体に防御結界が張られていたはずなのに、何故か無くなっていますね。警報音も鳴っていなかったし、もしかして破られたのであれば、それはあの黒龍がそれほどの力を持った個体だということです。」
「あ、あの人達は?さっき渡り通路を通った時、あそこには誰もいなかったのに…」
ジュリーは目端が効くようで、辺りの状況をよく見ていた。
確かに、ファラリアスに案内をされていた時は何の気配もなかったはずだった。
「恐らくは、彼ら特有の次元魔法を使って閉じ込めていたのかも知れません。」
「次元魔法?」
「ええ、空間魔法の一種で、彼ら龍種しか使えないと言われる固有の魔法です。」
「それを、解除したとかですか?」
チョッコが尋ねた。
自分と同じような魔法を使える者が他にもいた事や、その使い方にも驚いていた。
「まあ、そうでしょう、捉えて閉じ込めて、ある程度集まってから、空間から捉えた人間を出して食べていたのでしょう。」
「怖いです、先生!」
エミリアが泣きそうになっている。
まあ、10歳の子供だ仕方がない。
「今のところ、私達は気付かれていないと思いますので、しばらくはこのまま、ここに隠れていて下さい。連絡用のつばめを飛ばしましたが、相手は黒龍です。助けに来てくれるとは限りません、私は他にも残っている生徒達がいるかどうか確認してきます。絶対に動かないで下さいね。」
そう言うとファラリアスはチョッコ達から離れていった。
チョッコ達は寮の一室に逃げ込んでいた。
見つかってはいけないので、明かりは点灯けられない。
彼女達に絶対絶命のピンチが迫っていた。
ヴ「黒龍って、ヤヴァいじゃないですか!」
マ「どうなるんですかね?」
ト「でも、チョッコ・クリムさんは生き残るんですよね?」
まあ、チョッコの過去の話ですから。
それでは、次回もよろしくお願いします!
ヾ(*´Д`*)ノ