第112話チョッコの 旅立ち
チョッコは外で気持ちを切り替えました。
第112話 ~チョッコの旅立ち~
チョッコが外から帰ってきた。
そして、椅子に座って薬の調合をしているマグローシャに一言尋ねた。
「本当に、私を捨てるんじゃないんだよね?」
チョッコは外に出て、自分なりに考えていた。
最初、マグローシャからは、何を言われても
どんな結果になろうとも、マグローシャを信じると思っていたのに、ちょっと出て行った方が良いと言われて取り乱した自分を戒めた。
こんなことでは駄目だ、マグローシャさんは自分の事を考えてくれている、自分もその気持ちに答えなくてはと思ったのだ。
「当たり前だよ、バカだね、私がそんなことをすると思うのかい?」
とマグローシャが言うとチョッコは首を横に振る。
「お前はね、神様に選ばれた人間なんだよ、そんな人間を私が独り占めしたら、神様に叱られちまうよ。」
とマグローシャはチョッコに話を続ける。
「チョッコ、人間には自分が持つ使命を果たさなければならない時が必ずある。その使命を果たすまでは死んでもいけない。だから、命は大切にするんだよ。」
「うん、わかった。」
「わかったら、魔法の練習だよ。神様に選ばれても、サボっていたら見放されるからね。」
マグローシャはチョッコの頭を軽く押さえて髪の毛をクシャクシャとする。
それはマグローシャの愛情表現だった。
チョッコはそれを知っていたし、マグローシャにそうされることが好きだった。
しばらくして、チョッコが魔法学校に入る日が来た。
チョッコは、この時まで、自分が住んでいる国の名前すら知らなかった。
チョッコが住む森を治めていた国の名は『タイトバイトス皇国』と言ってヴェネシア王国の西側にある国で、規模はヴェネシア王国と同じくらいであるが、この国は魔法文化が非常に進んでいて、魔法の能力が優れている者は、身分の差を問わず優遇してくれるという特徴があった。
チョッコはマグローシャの推薦で、このタイトバイトス皇国の首都『グランマニア』にある国立魔法学校『グランマリオン』に入学することになっていたのだ。
身分の差を問わずとなってはいるが、やはり、そこは貴族と平民との差はあって、学校内での派閥争いがあるようであった。
「体に気を付けて行っておいで、お前の今の力なら、森の魔物でも、余程の個体で無い限り心配はないよ。」
とマグローシャがそう言って送り出す。
「え?余程の個体って?そんな恐ろしい魔物がいるの?」
「そりゃ、いるわさ、まあ、そんな奴は森の奥の更に深い所にいるよ。」
「そうなんだ。じゃあ、それに食べられないように、急いで森を抜けるよ。」
チョッコはマグローシャ直伝の身体強化魔法や生命体感知、気配遮断等の魔法を自分に掛ける。
「じゃあ行ってくる。」
「ああ。」
チョッコはマグローシャに一言、言うと風のように森の中に消えていった。
「マグローシャさんの話では、森を抜けたところで、馬車が待っているとか言っていたな。」
とチョッコは森の中を抜けながら、マグローシャの言葉を思い出していた。
途中でゴブリンの群れに遭遇したが、風の魔法で切り裂いていく、森の中では火の魔法は御法度らしい。
下手に使うと森林火災になってしまい、多くの動物の生命に危険が及ぶからという理由だ。
そういえば、初めてこの森に入って来たときは、火の魔法を使いまくっていた。
今更ながら、恐ろしいことをしていたものだと、チョッコは反省する。
ゴブリンに対しては、小さな風魔法で急所を狙う。
そうすれば、魔力消費量も抑えられるし、草木が生い茂る森の中では、それらが魔法の障害物となるため、障害物を回避させながら命中させるには、魔法展開を小さくした方が効率が良いのだ。
鋭い風は真空の刃となって、草の間や、枝の隙間を縫って的確にゴブリンを襲う。
恐ろしい程の正確さだ。
あっという間に、数十体のゴブリンが森の栄養分となっていた。
また、あのデカイ、オーク達も、今のチョッコには敵わなかった。
彼等は毒氷柱を体に打ち込めば直ぐに動かなくなった。
ようやく、森を抜けた。
そこには、7年前に逃げてきた草原地帯が広がっていた。
遠くまで広がる草原の先に見える高い山脈は山頂に雪を残していた。
空は快晴で、青空が広がり、雲はほとんど見られなかった。
そして、近くに目をやると、周辺は綺麗な花が咲き乱れ、その間を通っている石畳の道に大きな馬車が止まっていた。
それは二頭立ての立派な馬車で、馬車のボディには、国立魔法学校のシンボルマークである、ヒッポカンポスという、上半身が馬で、下半身が魚という不思議な動物が2体、向かい合うような格好で聖杯を挟む絵柄模様が描いてあった。
そして、チョッコがその馬車に声をかけようかどうしようか迷っていたところ、馬車のドアが静かに開けられた。
そしで、中から長い金髪の綺麗な女性が現れた。
金縁の眼鏡を掛け、痩せた体に淡い緑色の服を着ている。
上だけ見ればスーツのように見えるが、下の部分は膝下まで長い。
まるで、どこかの大学の応援団の着ているいわゆる長ランと言われる学生服のようだ。
ただ、それは、それほど野暮ったい物ではなく、洗練されたものであった。
あと、やや耳が長めで尖っている。
『エルフだ。』
チョッコはマグローシャから、時々、聞いていた。
彼等の種族は、魔力値が総じて高く、魔族にも引けをとらないと言われる程で、魔法の行使に長け、中には古代魔法にも精通している者もいる。
人間には友好的であるが、プライドが高く、一旦ヘソを曲げると中々、おさまらない。
性格は個体によって様々であるのだが、魔力の供給の関係から森の中で暮らしているためか、引っ込み思案というか、かなりの人見知りと言うような、イメージを持たれている。
だが、一度、気を許した相手には寛容であるとも言われている。
長寿命種で、大体、人間の10倍くらいの寿命を持つと言われている。
ただ、成熟期は、早く、成人期が長い。
身体的な特徴は、頭髪の色で、大体が銀色か金色で、女性は髪が長いほど美しいと言われているためか、長髪が多い。
男は、女性に比べやや、くすんだ色をしている。
耳が長めで尖っているが、人間よりやや、長いといった程度で、長耳族程は長くない。
瞳の色は淡い緑色か、青緑色をしていて、肌の色は、かなり白い。
太陽の光には、抵抗力はあるが、森の中の種族のため、やや苦手のようで、ここは、魔族に近いものがあるようだが、魔族程ではない。
食べるものは森の中の果物や木の実、川魚を取って食べる。
狩猟により、動物を捕ることもあるが、食べるためではなく、森の環境を守るための『駆除』といった方が近く、また戦闘を想定した『訓練や練習』といった意味もある。
狩った獲物は、人間の街に持っていき、金銭に交換するか、その金で野菜や果物、穀物、パンなどを購入する。
貴金属には余り興味を示さないが、呪術的な意味で用いられる宝石や魔石には大変興味を示す。
しゃべる言葉や文字は、住んでいる地域によって様々であるが、古代言語である『アレフイア』というものを使用し、魔族の言語『レフイア』の語源とも言われていて、レフイアや人間の共通言語も解する者もいる。
伝承文化と文字は魔族と同じように、古代語を使用し、魔法も現代魔法と共に古代魔法を得意とする個体も存在する。
古代魔法と現代魔法との違いだが、古代魔法は必ず長い詠唱を必要とするが、その分、効力は絶大で、逆に現代魔法は、詠唱は短めであるが、効果は古代魔法よりはかなり弱い。
無詠唱は出来なくもないと言われるが、普通の人間で出来たという者はいない。
蔵光のような脳内詠唱等はかなり特徴なケースと言えるであろう。
チョッコも基本無詠唱であるが、これは転生時のギフトであり、古代魔法もこの後、使えるようになるが、古代魔法は必詠唱なので『高速詠唱』というスキルが発動し、高速で行使できるようになる。
「貴女が、チョッコ・クリムね?」
と金髪エルフが尋ねてきた。
「あ、はい。そうです。」
「マグローシャさんから話は聞いているわ、説明は馬車の中でするので、中に入って、お友達も中で待っているから。」
そう言われてチョッコは馬車に乗る。
中には二人の子供が乗っていた。
二人とも女の子だった。
一人は金髪でもう一人は栗毛であった。
「こんにちは。初めまして、私はジュリエッタ・ラムダ・ギャラダストと言います。」
と金髪の子が言うと、栗毛の子が、
「初めまして、私はエミリア・サムソライトと言います、よろしく。」
「チョッコ・クリムです、よろしく。」
三人の自己紹介が終わる頃には、馬車は進み始めていた。
「お互いの自己紹介は済んだようね。私は、首都『グランマニア』にある国立魔法学校『グランマリオン』の副教頭兼筆頭魔法講師のファラリアス・ジェナイダー、貴女達のクラス担当の教師です。よろしく。」
ファラリアスは三人にニコッと笑って挨拶をする。
「よろしくお願いしまーす!」
三人は揃って挨拶をする。
ここにいる全員はいずれも10歳前後であり、魔法が使えれば、大体、今の年齢くらいから推薦され、審査の末に入学となる。
推薦のあった子供は、その実力を、学校にいる審査員が本人の所へ、極秘裏にやって来て審査をする。
魔法学校には、一定の基準以上の実力が無いと、入学はさせてもらえない。
その代わり、入学すれば、学費はすべて免除、食事や生活に必要な費用は全て国が負担する。
そして、生徒は優秀な魔法使いになるための英才教育を受けることとなる。
綿密に組み立てられた学習カリキュラムで、これまでにも何人もの魔法使いが輩出されていた。
「ねえ、チョッコって呼んでもいいかしら?」
とジュリエッタが聞いてきた。
「いいけど…」
「あ、私はジュリエッタなんだけど、ジュリーって呼んで。」
「わかった。」
チョッコが応える。
「ところで、チョッコ、貴女の師匠は何という方なの?」
「えっ?師匠?あ、マグローシャさんのこと?」
「ええ!?マグローシャさんて、あの『森の美魔女』と言われる有名な魔法使いじゃない!」
とジュリーが驚いたように言うと、チョッコはすぐに、
「有名かどうかは知らんけど、絶対に『美魔女』やない!」
と訂正した。
またエミリアも興奮したように、
「すごーい!マグローシャさんて言えば、タイトバイトス皇国の中でも四大魔女のうち『北の魔女』と言われる方じゃないですか!」
と話す。
「えっ?『北の魔女』?」
「えっ?知らないんですか?じゃあ、教えて差し上げますわ。このタイトバイトス皇国には東西南北にそれぞれ巨大な森があって、そこには各々恐るべき魔力を秘めた魔物が住んでいるのです。タイトバイトス皇国はそれらの魔物が我が国の脅威となっているため、4つの森の魔物を抑えるため、強大な力を持った魔法使いを配置したのです。それを称して四大魔女と言い、そのうち北の森を抑えているのが『北の魔女』こと美魔女マグローシャさんなんです。」
「美魔女はいらんけどな。それにそんなこと、ひとつも言わんかったで、あの人。」
とチョッコはサラッとツッコミを入れるが、そんなことには全く感知しないがごとく、エミリアは話を続ける。
「そんな、すごい人に魔法の修行をつけてもらってたなんて、チョッコ凄いです。」
「いや、大したこと無いて。」
とチョッコが言うと、ジュリーも、
「私の師匠は、そのマグローシャさんの弟子の弟子で、セイントマルクという人なんです。だから、チョッコはマグローシャさんの直弟子だから私の師匠よりも格が上になるんだから、もっと偉そうにしても良くってよ!」
「いや、別にそれはエエけど、ジュリーとエミリアはどんな魔法を使えるんや?」
チョッコは先程からのツッコミの連続で完全に転生前の言葉遣いに戻ってきていた。
「私は、火の魔法かな、まだ、十分に根元素理解が出来ていないってよく師匠に怒られているわ。」
「根元素理解?何やそれ?」
「何やって…チョッコ根元素理解知らないんですか?」
エミリアが驚く。
「根元素理解が出来ていないと魔法、特に元素魔法は使えないんだけど、チョッコってどんな魔法を使うの?」
「えっ?どんなって、火とか水とか、まあ、色々。」
「えっ?火とか水とかって、ひとつじゃないの?!」
ジュリーも驚く。
「は?何やそれ?ひとつって?」
「私達の年齢だと、魔法は覚えていてもひとつか、凄く頑張っても2つが限度よ!それを、貴女は…一体いくつの魔法を覚えているっていうの?!」
ジュリーとエミリアは美魔女マグローシャの弟子であるチョッコに違和感を感じていた。
根元素理解が出来ていないのに色々な魔法が使えるなんて…普通じゃあり得ない。
それから、三人は今晩泊まる街まで黙っていた。
特にジュリーとエミリアはチョッコの超規格外な魔法の内容やそのデカ過ぎる態度に萎縮して、窓の外を見ていたが、チョッコは馬車の中で大きなイビキをかいて寝ていた。
だが、ファラリアスはその様子を見て
『マグローシャさんも、中々面白い子を見つけて来たわね。』
と思いながら笑っていた。
ヴ「ゼリーちゃん師匠、もといチョッコ・クリムさん、もう規格外過ぎ!10歳でヤヴァいです。」
ト「転生者のチートスキルってとんでもないですね。魔族の中にも魔力値が高くても魔法が使えない奴もザラにいますからね。」
マ「へーそうなんだ。魔力値が高い=魔法が凄いではないんですね。」
とにかく、チョッコの魔法学校編が始まります。
でわ、さようなら、次回をお楽しみに~
⊂(・∀・⊂*)どーん!