第110話 チョッコ・クリムの謎
ゼリーちゃん可哀想という感じです。
第110話 ~チョッコ・クリムの謎~
ゼリーのとんでもないカミングアウトで一時騒然となったバスの中だったが、何とか平穏を取り戻した。
そして、エイダーには蔵光達の目的についても説明された。
現在、黒龍の出現が確認されていること、先般のトライプの件は、裏でその黒龍のうちの一体が糸を引いていたこと、そして、その黒龍達の討伐のために自分達が立ち上がったこと等…
信じられないような事ばかりであり、エイダーも今回のこの事態にはどう対処するべきであるか考えさせられることとなった。
「わかりました、私も上に報告したいのは山々ですが、この話を誰が信じるのかということです。なので、ヘルメス嬢の言われる通り、他言はしません。あと、何かあれば、私は最大限の協力をさせて頂きます。」
「ありがとうございます。」
エイダーは今後ともヘルメスに全面協力することを約束しバスを降りた。
「いやー、若、ゼリーが転生者だと言い出したときはどうなることかと思いましたぞ!」
と誠三郎が言うと、蔵光も、
「そうだね、まさか、ゼリーが水覇様と関わりがあったチョッコ・クリムだったとは。」
と自分のご先祖様とゼリーに関わりがあったとは思っても見なかったようであった。
「それも、生まれ変わりと言うものでしょうか?」
とヴィスコが、自ら体内に取り込まれた状態で、体内の細胞を採取、研究して、最後にそれと融合し、記憶等を引き継いだことについて、ゼリーに質問した。
ヴィスコは自分が尊敬するチョッコ・クリムだと確認が取れた時点で、かなり緊張でソワソワし出していて、言葉遣いなども変わってきていたが、元々の知りたがりの性格が抑えられないのか、ゼリーに色々と尋ね始めた。
「そうやな、ある意味、それも生まれ変わりと言うんやろな。」
「ということは、ゼリーちゃんは二回転生しているということですか?」
「うーん、そう言うことになるかのかな?記憶とかの移し替えが転生になるかどうかは、ちょっと疑問が残るけどな。」
とゼリーは明言を避けた。
「あと、記憶のことなんですけど、実際のところ、スライムになった時、最初はどこまで記憶とかがあったんでしょうか?」
「あーそれな、それは、最初から、皆に言うた通りや、始めの頃は知識のみが先行していたけど、そのうちに記憶が段々と鮮明になってきて、こっちの国に渡ってきてからは、ドンドンと記憶回復が加速し、今はほぼ、全てのことを思い出したって言う感じやな。せやから、最近はいつのタイミングで、この事を話そうかと思ってたんや。」
「そうだったんですか。」
ヴィスコはゼリーの回答に納得する。
確かに、最初、出会った頃のゼリーと、その後のゼリーでは、現場での判断能力が段々と速く正確に変わってきていたのも、その影響からであろう。
ヴィスコの質問が終わると、今度はヘルメスが質問を始める。
確かに確認したいことが沢山あるだろう。
「ゼリーの性別って、どっちなのかな?前世がチョッコ・クリムなら女性だろうし、女性として扱わなくてはいけないのかな?」
「あーそれは別にどっちでもエエわ。ワイらは分裂で増殖するし、雌雄の区別はほとんど無いから。今のところ、人間の知識や記憶が有るからといっても、男や女に対して異性の興味は示さへんから。」
「あ、そ、そうなんだ。ということはエージ君には特別な感情は無いということになるわね。」
「何やそれは?アホか、前世でもそんな関係とちゃうわ!」
とゼリーはヘルメスにやれやれと言うような態度をとる。
「あと、気になったのが、蔵光殿のご先祖様の水無月水覇様の件で、何かもうすぐ呪いが解けるとかどうとか?」
「あー、あれな、それはもう終わっていることや…」
「えっ?終わっていること?」
「そうや、もう、三百年前に終っている事なんや。呪いは確かにもうすぐ解ける、だがな、ワイがこんな体になってしまって気が付いた。さっき言ったのと答えは同じや。」
「何か、意味がさっぱりわからないんですが?」
とヴィスコもこのゼリーの言葉に疑問を持つ。
確かに水覇のために長寿命を得ているにも関わらず既に終わっているとはどういうことなのであろうか…
「仕方ないな、正直にというか、わかるように言うたるわ。あのな、チョッコ・クリムは水無月水覇を愛していた。相思相愛や、だから呪いが解けるまでの300年間、長寿命の生物となり呪いが解けるのを待ち、呪いが解けた後で、水覇と添い遂げようとしていたんや。でもな、チョッコ・クリムは最大の過ちを犯していた。それはスライムという別の生物になってしまって、初めて、生物学的にというか、物理的にも、人間を恋愛感情で愛することが出来なくなってしまったということに気付いたんや…つまりワイはスライムに変わってから人間の男に全く興味が無くなってしまっていた。そういう訳で全て終わっていたって言ったんや。」
「……………………………」
全員が絶句した。
確かに、生き延びて、待ち人と添い遂げようと思っているのであれば、魔物ではなく、人間の姿でなくてはならない。
男にも女にも興味を示さない体になってしまったチョッコ・クリムことゼリーは、スライムになってしまった時点で、既に終わっていたのである。
「つまり、もう水覇様のことを愛していないと?」
とさらにヘルメスが尋ねる。
何か妙な女子トークになってきている。
「うーん、愛し合っていたという記憶はあるが、今となっては、もう、恋愛対象ではないな…まあ、強いて言うたら生物としての愛は辛うじてあるかもな。なんせ、こればかりは呪いが解けたときにしか、答えが出ないやろうけど…」
とゼリーは答えた。
「あの、水覇様に掛けられた呪いって、どういうものなの?」
と今度は蔵光が聞いてきた。
まあ、自分のご先祖様のことだし、あれだけの力を持つ水無月一族の者を封じ込めるような呪いが自分にも掛けられるような事態が、自分にもあるかも知れないと思うと、聞かないではいられなかった。
「やはり聞いてきたか…しゃあないな…まあ、その話をする前にチョッコ・クリムの事から話したるわ。」
とゼリーが言うと、凄絶な話がゼリーの口から語られた。
約300年以上も前、チョッコ・クリムは、とある国に転生した。
生まれたときから、自分の過去、つまり、コント芸人宮離霧千陽子としての記憶があった。
前世では、最初、ファンタジー的なことは知らなかった。
しかし、ある時、相方のカリスマエージから、異世界コントのネタ合わせをした際に、剣と魔法の世界の事についてしっかりとした予備知識がないと、目が肥えたお客様がコントを見たときに『ああ、こいつら付け焼き刃やな』とすぐに見抜かれてしまうと言われた。
それが、悔しくて、ファンタジーの事を結構勉強したり、エージにも色々と質問して教えてもらっていたことで、転生したマーリックで、その知識がここで生きてきた。
コントでやっていた事が、実際に出来る世界が目の前にあった。
コントでは、『ファイヤー』と言っても実際に火が出るわけではない。
だが、この世界では本物の『火』が出た。
だが、それは幸せではなく、不幸の始まりでもあった。
生まれたとき、チョッコ・クリムの名前は元々の名前とは違っていた。
あまり裕福な家庭ではなく、両親は何かの商売をしていたが、その記憶はなかった。
その家で名前が付けられ、最初は普通に生活していた。
三才くらいになった頃、ある時、その魔法を使ってしまったことが大事になってしまった。
両親は自分達の子供がすごい魔法を使う事に、最初は驚いたが、徐々にそれを金儲けの対象としか見なくなっていた。
魔法を見世物に使われるようになり、魔力が枯渇するまで魔法を使わされた。
魔法が出なくなると、怒鳴られて殴られ、蹴られたりと虐待を受けていた。
生傷が耐えない日々が続く。
小さな体では抵抗も出来ず、また、一人だけで生きるには幼すぎた。
食べるものも満足に食べさせてもらえない日が何日も続いた。
ある日、本当に自分の命が危ないと思えるほど父親から棒で殴られた。
もう、この時には、既に父親とは思っていなかったし、母親も殴られる子供を見ても全く見もせず、隣で酒を飲んで笑っていた。
『このままでは殺されてしまう。』
そう思うと自然に魔法が相手に向けられていた。
殺すところまではいかなかったが、魔法で両親には死ぬ程の苦しみを与えた。
相手は、これまで育ててやった恩を忘れたのかと呪いの言葉を発していたが、彼女には届かなかった。
その後は、治療魔法と回復魔法を自分にかけて傷を治して回復させ、その家から逃げた。
すぐに両親は警備隊等に届け出て、自分を探すに違いない。
見つかってしまえば、再び、あの悪魔のような親達の元に戻され、見世物にされ、殴られ続ける生活が自分に戻ってくるだけだと思うと、自然に街から離れて深い森の方に足は向けられていた。
森は恐ろしい魔物がいると言われていたので誰も追っては来なかったが、当然、自分にとっても森の魔物は危険な生き物であった。
オークという豚のような魔物や、圧倒的な数を武器とするゴブリン等がいると言われていたその森で、最初にであったのはゴブリンであった。
体は小さかったが、体つきは筋肉質で、汚い緑色のただれたような皮膚に覆われていた。
頭部ははげていて、申し訳程度に毛が生えていた、顔付きは残忍な顔立ちで、歯並びも悪く、いくつかの歯は唇の間からはみ出ていた。
2体ほどであったが、実際に三才の女児が相手するには無理があった。
だが、殺らなければ殺られると思ったら自然と魔法が唱えられていた。
ゴブリンどもは炎に包まれて声をあげて死んでいった。
その声を聞き付けて次のゴブリンが何体か現れたが、全てを魔法で返り討ちにした。
オークも何体か現れた、巨大なこん棒をもち、巨体を使って襲ってくる。
得意な火の魔法で相手の体に火を付ける。
見世物にされていたときにやっていた、目の前にある丸太に火を付ける要領で相手に火を付け、次々と燃やしていった。
オーク達も恐ろしい断末魔の叫び声を上げて死んでいった。
だが、もう魔力が足りなくなってきていた。
逃げる前にかなりの魔力を使い果たし、それに今まで満足な食事も与えられていなかったために随分と衰弱していた。
もう、魔力が足りない、魔法は使えない。
これ以上はもう駄目だ戦えないと思っていたとき、目の前に不思議な家が現れていた。
逃げ込むようにその家に入っていった。
ヴ「私、涙出ました。」
ト「酷い親ですね。」
マ「ホントソルッス!」
ヴ・ト「……」
ヴ「マッソル、無理しないで。」
ト「そうだよ、いくらコーナーに出たいからって無理は禁物だよ。」
マ「……そうっすよね。止めときます。」
本当だよ、マッソル、そんな気を使わなくても、このコーナーには出てもらうから。
マ「あ、ありがとうございまッソル。あ、」
………
ということで、少しチョッコ・クリムの話になりますのでよろしくお願いします。
ではまた、次回をよろしく!
ヾ(・∀・。)