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水無月蔵光の冒険譚  作者: 銀龍院 鈴星
第一章 伝説のはじまり
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第11話 過去編6~起死回生~

スライムネコ「ゼリー」爆誕!


第11話 ~起死回生~

(かん)!」

蔵光が術式名を叫ぶ。

『何の呪文だ?若は今さら何を?』

誠三郎は最後の蔵光の呪文に違和感を感じた。

「若~!」

誠三郎の声を遮るように、濃く白い霧が一瞬で蔵光達を包み込んだ。

………

「えっ?あっあれ?」

濃い霧の中で誠三郎の声が響く。

「あのぉ、若、これって?」

誠三郎はまたしても事態の把握が出来ていなかった。

霧の中から蔵光の声が聞こえる。

「ちょっと水質変換して酸をただの『水』にしたんだけど、うまくいったよ。」

「み、水ですか…」


誠三郎は先程、蔵光と一瞬に死ぬ覚悟を決めたのだが、蔵光の魔法で事なきを得てしまったので、何か釈然としなかった。

『私の覚悟はどこへ…』

まあ、それはしょうがないかな。


蔵光が使った水魔神拳『水恵・換』とは水の性質を持つもの『液体等』に対して、その性質を変換させることができる。

例えば、酸性をアルカリ性や中性に、汚れた水を浄化し清水にしたりといった具合に変化させる。

今回、蔵光が使った『換』では強酸を中性に、つまりただの水に変化させたのだった。

なので、蔵光達を包み込んでいる霧もただの霧であり、全く身体に影響はなかったのである。


さらに、

(ばつ)!』

と蔵光が言うと、霧がみるみるうちに晴れていく。

そして、エンペラースライムの姿が晴れていく霧の中から再び現れた。

エンペラースライムもこの状況に気づいたのか今度は本体による直接攻撃に移行し始めた。

強化型水化月『アシッドバレット』でも、避けられればダメージを与えられないと判断したのか、今度は接近戦に持ち込もうと、身体の一部を大きく伸ばし、ムチのごとくしならせた触手様のものをいくつも伸ばして蔵光らに浴びせかけた。

確かに高速で迫る水化月よりもさらに数倍速度があるように見える。

そして高速で叩きつけられた触手は硬い地面を深くえぐりとる。

こんなものが体に当たれば只では済まない。

さすがエンペラースライムである。

「若!」

誠三郎が蔵光に声をかける。

しかし、さすがの誠三郎もこれだけの高速攻撃にはかわすのが精一杯で蔵光の様子を見ることができない。

しかし、蔵光の落ち着いた声が横から聞こえる。

「大丈夫だよ、セイさん。」

その声を聞いて、誠三郎は少し安心した。

それと、心なしかエンペラースライムの触手が自分たちに届かなくなったというか、本体がちょっと小さくなったように見える。

「って言うか、段々小さくなっていくぞ?」

誠三郎が最初にエンペラースライムを見たときの体長は100mは優にあったが、今の目の前に見えるエンペラースライムはどう見ても20mにも満たないくらいだ。

「一体?どうして?まっまさか…これって?若、水魔神拳ですか?」

「そう…さっきの『魃』が続いているんだよ。」

「はぁ…」

誠三郎は蔵光の水魔神拳であることはわかっていたが、見るのは初めてであり、何がエンペラースライムに起こっているのか見当もつかなかった。


(ばつ)』…水魔神拳の術式の一つ。

対象となるものの水分を吸収していく術式であり、その気になれば大きな湖さえも干上がらせてしまうという恐ろしい魔法である。


誠三郎は蔵光の落ち着いた行動に感心するとともに、目線をエンペラースライムに戻した。

エンペラースライムはもう既に体長が1mを切ろうとしていた。

身体の水分を水魔神拳により抜かれ続けているのだ。

恐るべき吸水力。

これは蔵光の魔力値がこの怪物よりもはるかに上であることを物語っていた。


しかし、その時だった。

今にもスライムが通常の個体の大きさぐらいから消滅へのカウントダウンを始めたとき、それは起こった。

「まっ、ちょっと待ってえな!」

どこかで聞いた関西なまり。

よく見るとエンペラースライムがしゃべっているではないか。

それを聞いた蔵光の目が見開いた。

「勘弁や!もう悪いことせえへんから、許してえや!」

悲痛な声が聞こえる。

エンペラースライムはもう子犬程の大きさになっていた。

蔵光が『魃』の効果を停止させた。


「君は一体何者なんだい?」

蔵光はエンペラースライムに問いかけた。

まあ、魔物がしゃべることは時々あるらしいが、スライムがしゃべることはまず無いので、蔵光はかなりこのエンペラースライムに興味を持ったようである。

「ワ、ワイは元々はただのスライムや、この森の黒いモヤモヤを吸ってたら段々と大きくなって、結局こんなんになってたんや!それでもっと吸ったらもっと強くなると思おてずっと地面の下を動いてたんや。」

エンペラースライムは息も絶え絶えといった感じで話す。

「ということは、今回のこの大量の魔素の流出の原因はお前か?」

誠三郎が問いただす。

「よくわからんけど、そうかも、うちらが色々と地面を掘り返したり、岩に穴を開けたりしたから。」

「うちらって、お前の他にもエンペラースライムがいるのか?」

「いいや、最初は何匹かいたけど、そのうち喰い合いになって、ワイが最後に残った。」


「ということはキングドリル達は、お前達が掘り返した場所から出る魔素を吸って魔物化したということで…お前はお前で()()()エンペラースライムに進化したという訳か。」

誠三郎が追及する。

「うーん、そ、そういうことになるんかな?ちょっとようわからんけど?」

どうもこのスライムは、自分達で勝手に地面を掘り返したあげく、共食いをしてエンペラースライムに勝手に進化したようで、キングドリルらの事情はあまりよく知らない様子であった。

「なあ、頼むさかい、もう(いじ)めんといてや。」

「そう、言われてもなあ。」

蔵光はチラリと誠三郎を見る。

誠三郎は、

「まあ、魔物ですし、討伐でしょうな。」

「そ、そんな殺生な!」

「そんなこと言ってもお前も多くの命を奪ってきたんだろう?」

と蔵光が言うとエンペラースライムは、

「ワイは、黒いモヤモヤがあったから、森の動物とかは食わへんかった。自分から襲ったりせえへん、縄張りに入ってきた奴を追い払って、その時に攻撃されたらやり返したり、飲み込んだりしただけや。」

エンペラースライムが必死で無実を訴える。


「そうなのか?」

と蔵光はこのしゃべるスライムの処遇についてどうするか考えた。

エンペラースライムはさらに、どこで覚えたのか、

「正当防衛なんや~信じてえや~!」

とまで言う始末。

そこで誠三郎がこんな案を出してきた。

「若、従魔契約というのはいかがでしょう。」

「えっ?従魔?」

「ええそうです。そうすればこのスライムは若に服従状態になりますので暴れることも反抗することもできません。それに今後の若の戦力、忠実な下僕(しもべ)となるのではないかと思いまして。」

と説明した。

「そ、そ、それや~!」

エンペラースライムが誠三郎の案を聞いて、自分の命が助かると思ったのか大声で叫ぶ。

表情はわからないがたぶん必死の形相だろう。

「はっ?」

蔵光と誠三郎が同時にエンペラースライムを見る。

「そんな顔せんといてえや、頼んまっさかい、命だけは助けてくれまへんか?あんさんの身に何かありましたら、このワイが守りまっさかいに、どうか下僕として使ってえな。」

エンペラースライムは最後の懇願をした。

「うーんなんというか、現金な奴だな。」

誠三郎もあきれている。

「うーんそうだなじゃあ従魔として働いてもらおうかな。」

と蔵光が言うとエンペラースライムは体を震わせて、

「はぁ~良かった。もうあかんと思いましたわ。」

とホッと胸(?)を撫で下ろす。


「ではエンペラースライムよ、お前は生涯この若、いや、水無月蔵光殿を(あるじ)として、その身、その心を捧げることを、我ら水神ミズハノメ様に誓うか?」

「誓います、誓います、なんぼでも誓わさせてもらいますわ。」

「誓いは一回だけでいい。これは私、八鬼誠三郎の立ち会いの元、真に行われた従魔契約であり、主が従魔を裏切ることも、従魔が主を裏切ることも決して許されない。もしも、この誓いを破った場合、双方にとって一番大事なものを失うことになる。」

「へえーでもワイは別に失うようなもん何もないけどなぁ。」

「その時は、命をもって代えることとなる。」

「ひぇっ!そんなんあかんて…」

エンペラースライムが悲鳴をあげる。

「では従魔契約をやめて今、死ぬか?」

誠三郎がエンペラースライムをジロリと睨む。

「いえ、従魔契約お願いします。従魔契約最高!」

エンペラースライムは即答した。

よほど死にたくないのだろう。

誠三郎は、従魔契約の儀式を続ける。

「若もこのエンペラースライムを従魔と認め、その生涯にわたり、この者の主として付き従わせることを認められますか?」

誠三郎が聞くと蔵光は頷き、

「我が水神ミズハノメ様に誓い、この者が従魔として我に付き従うことを認める。」

と誓う。

すると、両者の間に赤い筋のような光が走り、しばらくの間光った後、静かに消えていった。

「若、従魔の儀、滞りなく終わりました。」

誠三郎が蔵光に告げる。

「ありがとう。」

「あと、そうですな、この者に名前を与えねばなりませんなあ。」

「名前かぁ。」

蔵光は少し考えている。


「えっ?名前やて?それやったらめっちゃカッコええ名前にして…」

「ゼリー!」

蔵光が、速攻で名前を決めた。

「は?」

エンペラースライムの動きが止まる。

「ゼリーみたいでしょ、青くて、プルプルしてて、透き通ってて、何か美味しそう。」

「食いもんちゃうし、ゼリーって、いやいやいやいやあかんて、例えばアレキサンドル・エンペラ…」

「いい名前ですな!若!」

誠三郎がゼリーの言葉を遮る。

「うん、じゃあゼリーに決定!ゼリー今後ともよろしくな。」


ゼリーと名付けられたエンペラースライムはその場にうなだれるように地面に伸びた。

「はっはっはっ!若、こやつ観念したみたいですぞ。」

「うーんでもスライムだから表情とか、わかりにくいなぁ。そうだゼリー、君は犬と猫どちらが好きかな?というか犬と猫って知ってるかな?」

と蔵光はゼリーの前にひざまづき、不思議な質問をした。

ゼリーは意味不明な質問だったが主の質問なので答える。

「はっ?犬か猫って、知っとるけどそんなん聞いてどないすんねん!」

「まあまあ、いいからいいから…好みの問題なんだけど。」

「せやなあ、強いて言えば猫かな。」

「理由は?」

「犬は人にはヘコヘコなつくくせに、ワイらには牙を向けてくるからなあ。アレはアカン。」

「で、猫は?」

「あいつらは、風の吹くまま気の向くままって感じで、まあ、エサ食うときはケンカもするやろうけど、人に尻尾振るときも気の向いたときだけや、ワイらにも普段基本無視やし、まああのアウトロー感は共感できるわ。」

「ふぅん、そうかじゃあ」

と言って蔵光は右手の人差し指を立てる。

「えっ?」

水鏡(みずかがみ)(けい)

蔵光がそう言うと、ゼリーの体がたちまち猫のような姿になった。

ただ、猫だったのは体の形だけで、体色は青色の透明ゼリーで質感もスライムのままであった。

とりあえず頭の部分には目、鼻、口、耳、ヒゲ、体部分は2頭身だが手足と尻尾があった。

またゼリーは変化の間、ずっと

「おっ、あっ、めっちゃ気持ちええ。」

と変な声を出していた。


しばらくして完全に体型が固定した。

ゼリーは自分の手足を見た後、両前足(?)で顔をパンパンと触る。

「こっこっこっ、これは何やねん?お前何てことしてくれてんねん?」

ゼリーが叫ぶ。

それを聞いた誠三郎が注意する。

「こらっ!若にお前とは失礼な奴!(あるじ)と呼べ、主と!」

蔵光はゼリーに対して、

「いやあスライムの状態だと表情が読みにくいし、従魔だったらこっちのほうがいいかなって思って。」

「何勝手に姿作り替えてんねん。」

「駄目だったかな?元に戻そうか?」

「いや、これでええ。いや、これの方が100倍ええ。あんな原始生命体のような姿にはもう飽き飽きや。」

「じゃあ…」

「おう、めっちゃ気に入ったわ」

ゼリーがニヤリと笑う。

顔がプルプルと震える。

「良かった。」

蔵光にも笑顔が見える。

「では、若、残りの魔素の吹き出し口を塞ぎに行きますか。」

「そうだな、幸い、ゼリーが魔素の吹き出し口を知っていそうだし。」

こう言いながら、座っていた状態から立ちあがったところ、横にいたゼリーも2本足で立ちあがった。

「えっ?」

「どないしたんや!」

「いやあ、猫なのに二足歩行なのかなと思って。」

「二足やったらアカンのか?」

「いやぁ別にいいんだけど。」

「それやったらええやん。細かいところ気にすんなや主ぃ。」

ゼリーが蔵光達のあとをトコトコと付いていく。

さあ、あともう一仕事だ。



ゼ「まあ、ちょっと殺されそうになったけど、いよいよワイの時代がやって来たな。」

ワイの時代って、これ、過去編なんやけど。

ゼ「ぬなー?終わっとるんか?もう終わったんか?ワイの時代が…」

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