第107話 軍船内にて
エイダー伯爵の船の中での話です。
第107話 ~軍船内にて~
蔵光達は、エイダーの案内で、軍船エスカルディア号の説明を受けていた。
エスカルディア号は帆船型フリゲートの一等3層甲板の戦列艦である。
3層甲板とは船の側面内側に三段階の高さに設けられた甲板で、貨物を乗せる関係上、中央部分が吹き抜けとなっているため、甲板はそれを周回するような通路状となっていてその高さに横一列に配列された大砲が並んでいる。
砲門の数は100門、それ以上は重さと機動性のバランスの関係で取り付けられていない。
内部は上階級乗員の部屋と食堂の他は、弾薬倉庫と普通の倉庫、そして、本艦の最大の特徴である高さのある貨物を収容可能にするためのホールのような吹き抜け部分で構成されていた。
また、船内部は玉ねぎの様に外側から幾つもの層に分かれていて外周は砲台のある3層甲板層と通路部分の内側に、貨物収容部分はその更に内側に設けられ、他の船からの攻撃で大砲の玉が簡単には貫通しないような構造をしている。
砲門の側には、他の乗員が寝るためのハンモックがズラリと並んで取り付けられている。
このクラスの船ならば最大で800人近くの乗員が乗ることになるのだが、現在の乗員の数は200人くらいと少なめだ。
戦時では無いことと、移動の目的も、あまり人数を必要としない案件のためであろう。
「それにしてもデカイ船だな。」
誠三郎が、エスカルディア号の中を通りながら、キョロキョロとしている。
船底から甲板の裏までの高さは、有に20m以上あり、幅も30m近くある。
「まあ、に驚くのも無理はない、我がヴェネシア王国でもこれほど大きな軍船は数が少なく、また、輸送船としての規模も最大級の大きさを誇っているからな。ただまあ、今のご時世、戦争もないから、輸送船以外の目的では無用の長物になっているのは否めないが…。」
とエイダーはやや自慢を入れながら説明する。
ヘルメス達は、艦長室に案内された。
室内には応接用のテーブルとソファーが置かれていた。
全員という訳にはいかなかったので、ヘルメス、蔵光、オルビア、ヴィスコが入る。
その他の者は魔導バスに待機となった。
ソファーに座る前に、ヘルメスが蔵光を紹介する。
エイダーはヴィスコもよく知っていたし、オルビアも先程の挨拶で顔合わせは終わっていた。
「こちらが水無月蔵光殿です。」
「よろしくお願いします。水無月蔵光です。冒険者をしています。」
「そうですか…水無月蔵光君か、みなづき…みなづき?!も、もしや、あのジパング王国の?」
「あ、はい、そうです。」
さすがにエイダーともなると水無月一族のことを多少は知っているようだ。
「そ、そうか、ヘルメス嬢は凄い人を連れているんだな。」
「ええ、まあ、あと、警備隊の建物内ではお話できませんでしたが、こちらのオルビアなのですが…」
「申し遅れました、私、本名はオルビア・ピスタ・メトナプトラと申します。」
「ええ!?メトナプトラ?!ま、まさか、例の件でトライプから誘拐されそうになった…」
エイダーの顔色が変わる。
そこでヘルメスが正体を打ち明ける。
「メトナプトラ国の最長老エラルド・ピスタ・メトナプトラ氏の孫娘オルビア嬢です。」
ヘルメスはエイダーに、事件のあと、オルビアが冒険者の仲間として蔵光の元にやって来たことや、自分達もその蔵光がいるクランズに所属し、自分はそのクランズのリーダーをしていることを説明した。
「そ、そんなことって……」
エイダーはトライプの件で、ヴェネシア王国から特命を受けていた。
それは、メトナプトラ国に対する戦争回避のための示談申し入れと和解金の金額の調整、自国におけるトライプの処分状況の報告等であり、かなりピリピリとした状況の中での交渉となっていた。
戦争になれば非があるのはヴェネシア王国であり、大義名分のある国の方が強い。
ヴェネシア王国を取り囲む列強国にとっては、メトナプトラ国側に付いて参戦し、ここでメトナプトラ国に恩を売りつつ、あわよくばヴェネシア王国の領土のいくらかを奪い取ることも考えるだろう。
トライプのしでかしたことはそれほどの大事であった。
そして、事情を知らなかったとは言え、その事件の当事者である、オルビアを自分達の船に乗り込ませていたのだ。
こんなことが他に知れれば、さらに大問題になることは間違いない。
「お、ヘルメス嬢、それは非常にマズイですぞ、まだ、火種が燻っている時ですから、ヴェネシアの船にメトナプトラの姫様が乗っているとなれば、下手をすれば何者か悪意を持ったものがこれを利用して二国間の関係を悪化させることも出来ますからな。」
とかなり焦った表情でヘルメスに説明する。
「すみません、そこまで考えていませんでした。」
とヘルメスが慌てて謝罪する。
オルビアがこの船の中で怪我を負ったり、亡くなれば責任は船の艦長であるエイダー及び、彼の属するヴェネシア王国となり、もう戦争回避の交渉とか言っていられない。
ヴェネシア王国を狙う国は無いこともない、この話を聞き付けた他国がオルビアの命を狙うことは十分に考えられる事であり、今は極秘裏にオルビアをヴェネシア王国へ移動させることが最重要課題となる。
「仕方がありません、船は明日の昼頃にヴェレリアント領のユブノ砦港に到着の予定です。それまでは、この事は口外無用でお願いします。」
エイダーは船の予定を伝え、オルビアの事については箝口令をひいた。
「とりあえず、オルビアは魔導バスの中にいれば安心だけど、船ごと狙われたら大変だな。エイダー卿、お願いがあるのですが?」
と蔵光がエイダーに申し入れをする。
「何でしょうか?」
「この船に防御結界をかけてもよろしいでしょうか?」
「えっ?防御結界?この船にですか?」
エイダーは蔵光に対して敬語を使っている。
水無月家と言えばジパング王国の側近の家系であり、家の格で言えば公爵クラスだからだ。
それに、実際、国の政治を動かしているのも水無月一族である。
貴族はそういう人間関係については、ハッキリとしている。
そうでないと、国によっては不敬罪として捕まったり、処罰されるからだ。
そんなとこの坊っちゃんに偉そうな口はきけない。
「かなりの大きさですが、可能なのでしょうか?」
エイダーが心配している。
「大丈夫です。任せてください。」
と蔵光は応えると、直ぐに部屋を出て、
心配するエイダーを横目に、蔵光は最上階の甲板に上がると、一瞬で結界魔法の呪文を行使する。
すると、エスカルディア号全体に強固な防御結界が張られた。
後から甲板に上がってきたエイダーが驚く。
「おお、これは凄い、流石、水無月家の方の魔法は違いますな。」
「これで、相当の攻撃を受けたとしてもほぼ跳ね返しますので…」
「そうなんですか、ありがとうございます。これで、私共も一安心と言ったところです。」
「ただ、マストだけ風を孕みますので、防御結界はつけていませんから、了解をよろしくお願いします。」
「わかりました。」
何とか防御結界が張れたため、船の安全は守られた。
だが、新たな問題が発生する。
軽鎧の騎士が近寄ってきた。
結構慌てている。
「艦長!」
「どうした?何かあったのか?」
「それが、北西にかなりの雨雲が来ています。」
「何?それはマズイな、西に進路を取るか…」
言われて見ると、確かに、北西方向の空模様が怪しい。
真っ黒な雲が海上を覆っている。
「わかりました。」
エイダーの指示を受けると騎士はその場を離れる。
「この時期の北西の雨雲はかなり荒れるんで、西に進路を向けたんですけど、本当は北に進めば、目的地には早く着くんです。ただ、そこを通れば魔族の領土近くを通ることになるので、結局、危険回避のためには仕方がないんですがね…」
とエイダーは蔵光達に説明した。
「なんだ、それだけのことか、それだったら北に向かっても大丈夫だと思うけど?」
これは普段の蔵光であるが、エイダーにすればそうではなかった。
「そ、そんなことって、相手は魔族ですよ、普通の低級魔族でも人間の魔力持ちの約30倍以上の魔力を持っていると言われているんですよ、そんな、いくら水無月家と言えども魔族の大群には到底敵わないでしょう。」
それを横で聞いてヘルメスがプププと笑う。
「何がおかしいんですか?ヘルメス嬢、魔族の危険性を身近に知っているのは、辺境を守っているヴェレリアント家の方々ではないんですか?」
エイダーが興奮している。
どうも蔵光の事を過小評価しているようだ。
「エイダー卿、蔵光殿は私達のクランズの中でも一番の猛者です、私は彼が巨大な古龍を投げつけるところや、上位魔族を蹴って岩壁に叩き付けるところも見ています。そんな彼が魔族に遅れを取るとは思えませんが……」
まあ、確かに嘘ではないが、にわかには信じがたい話だ。
「い、いくらなんでもそんな人間離れした事は勇者でもない限り無理でしょう。」
彼の中では彼なりの勇者神話があるようだ。
「いや、例え勇者でも古龍を投げつけることはちょっと難しいかな?」
とヘルメスは付け加える。
いくら勇者と同等にヘルメスが強くなったとは言えギルガには勝てないだろうと思った、率直なヘルメスの言葉だった。
「いや、最近、この海域はかなりの確立で魔族の目撃が増えていて、そんな奴等に会ったら、いくら私共の船が強いと言っても何の自慢にもなりません。この防御結界もどれくらい持つか…」
ホントに過小評価しているようだ。
だが、この間のデストロの件でジェノマによるメトナプトラ等への下位魔族の派遣は無くなっている。
それでも目撃があるというのであれば、別の地域の魔族であろう。
「というか、魔族が、海賊行為をしているのですか?」
とヘルメスが尋ねる。
「えっ?!、あ、ま、まあ、そうですね。」
エイダーが何か言いにくそうにしている。
だがその態度を見れば何かを隠している事は、非常に分かりやすく一目瞭然だ。
そして魔族の狙う物と言えば限られてくる。
負の魔素か、それを蓄えておくための改造魔石か、その元となる魔石かだ。
ここでは、恐らく魔石だろう。
「魔石ですか?」
「!!」
エイダーは一瞬驚いた表情をしたが、やれやれというような顔をする。
どうやら図星のようである。
しかし、魔石は魔鉱石を精製して造られるものである。
従って、その製法を持っている人間しか魔石を造れない。
では何故魔族の土地に魔石が存在し、必要とするのか…
ゼ「聞け!バカ者どもよ!」
ト・マ「ははぁー!」
ゼ「お前達二人は、しゃべりに個性があまりというか、全く無い!」
ト「という事はどういうことでしょうか?」
ゼ「それや!その、ですます口調や!聞いてたらと言うよりも、読んでる奴等には解らへん!ワイみたいにしゃべってたら、誰でもワイやとわかるやろ?」
マ「た、確かに、ですが、急にしゃべり方を変えろと言われても無理ッス。」
ゼ「それや!マッソル、お前は今から語尾に『ッス』を付けるんや。それでトンキは『ッス』を止める事。」
ト「何ッスか?!私にも使わせて下さいよ。」
ゼ「あかん、キャラが被る。」
ト「そんなー!マッソルだから、『無理ッソル』とかにしたらいいじゃないですか?!」
ゼ「ははー!それ採用!マッソル、『ッス』は禁止!『ッソル』でいこか!」
マ「そんな言葉遣い使いにくいッソルッス」
ゼ「ヒーー!それサイコーサイヨー!」
ト「結局どうしたらいいんッスか?」
ゼ「笑いすぎて腹が吊った。」
あーまた、勝手にしゃべってる!
ゼ「あ、見つかった!逃げるぞ!」
ト「ウィーッス!」
マ「ソルッス!」
あ、逃げた。何だったんだ、今のは。
また、次回も見てくださいソルッス。
(* ̄∇ ̄*)