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水無月蔵光の冒険譚  作者: 銀龍院 鈴星
第五章 甦る正義の血脈
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第106話 エイダー伯爵と軍船エスカルディア号

協力者顕る。

第106話 ~エイダー伯爵と軍船エスカルディア号~

ヘルメスとオルビアが、国境警備隊の一階にある応接室を出て、受付のところまで戻って来た時、不意に横から声をかけられた。


「もしや、ヘルメス嬢ではないですかな?」

「えっ?」

ヘルメスが声のする方を見ると、立派な身なりの男性が、そこに立っていた。

身長が175cmくらい、40代中頃の男性で、しっかりした顔立ちに、ブルーの瞳、口髭を蓄え、茶色の髪の毛も綺麗に整えられている。

一見して貴族とわかる。

横には警護の従者と思われる軽鎧を着込んだ騎士が数名いる。


「えっ?もしかして、エイダー卿?」

「おお、やはり、そうであったか。久しぶりに姿を見させてもらうが、何か英雄か勇者のように、凛々しくご立派になられましたな。」

ヘルメスに声をかけたエイダー卿と呼ばれた男性は、ホッとした表情となる。


ヘルメスの容姿だが、剣を除いて装備品もかなり良いものをヨーグで購入し、装備し直しているためだろう、パッと見のヘルメスはかなり、イケている。

それとあと、本当に勇者になってしまったのだが……


ヘルメスも知り合いのようで気安く言葉を返しながら会釈をする。

「お久しぶりです。何故、ここに?」

「あ、ああ、下手を打った貴族の後始末をな、」

と耳打ちをするようにヘルメスに言う。

ヘルメスはそれを聞いてピンとくる。

「もしかして、スプレイド家の…」

「えっ?何故それを?!」

エイダーの顔が引きつる。

「やっぱり、と言うことは王国からまた、特務を?」

「はは、ヘルメス嬢には隠し事は出来んな、ああ、その通りだ、トライプの馬鹿がとんでもないことをやらかしたみたいでな。一歩間違えれば戦争になるところだった。なんとか、先方さんが矛を納めてくれたみたいなんだが…」

とやれやれといった表情になる。


ヘルメスはオルビアにエイダーを紹介する。

「あ、こちらはエイダー伯爵、私の父の知り合いで、ヴェレリアント領の近くの領地を治めておられる。」

そう説明をすると、オルビアが、会釈をして、

「初めまして、オルビアと申します。」

と自己紹介をした。

流石にここで、フルネームを言うわけにはいかない。

それこそ、大変なことになる。


ちなみにエイダー伯爵は、ヴェレリアント領の西隣の土地を治めている男で、本名をエイダー・ドズ・グラフタールといって、ヴェネシア王国では知らない者はいないと言うくらいの有名人だ。

伯爵とはいえ、王族にも顔が利き、その代わりに面倒な事をちょくちょく依頼されるらしいのだ。

ヘルメスとの関係でいえば、父親のバジルスが彼と大変仲が良く、ヘルメスにとってエイダーは、自分の屋敷にしょっちゅう遊びに来ている人物という印象がある。


「ヘルメス嬢は?どちらへ?」

エイダーがヘルメスに尋ねてきた。

「里帰りです。」

「ほおー、あのじゃじゃ馬、あ、いや失礼、あの負けん気の強いヘルメス嬢が里帰りですか?何か心境の変化でも?」

エイダーもつい、口にするほどのじゃじゃ馬娘だったのであろうか、オルビアがそれを横で聞いて笑っている。

ヘルメスもそこは、突っ込んでいいところなのか考えながら話を続ける。

「えっ?ええ、まあ、冒険者になって一年半位経ちますので、たまには実家にも帰らないといけないかなと……そんなところです。」

と本当のところは言えないので適当に誤魔化す。


「そうでしたか、いやヘルメス嬢が里帰りするということは、バジルス辺境伯もお喜びになられるでしょうな。」

「いや、また、説教をされるだけです。」

「はははは、そうですか、で、ヘルメス嬢はここから、どうやって帰られるのですか?」

「えっ?」

「いや、私もこのまま一度、王国の方に報告をしに行かなくてはならなくて、まあ、こんなところで会うのも何かの縁、もし、良ければ、私共の船でお送りしようかなと思いましてな。」


ヘルメスは急な申し出に躊躇(ちゅうちょ)する。

送ってもらえるのは有り難いが、色々と問題があるためだ。

自分だけならいいが、人数も多いし、あとあの大きな魔導バスごと乗り込むとなると、かなりの大きさの船でなければならず、その様な船だと限られてくる。


「あ、いや、それは…」

と言いながらヘルメスはオルビアを見る。

オルビアは目で了解の合図を送る。

「あの、私達がここまで、乗ってきた魔導車なんですが、かなりの大きくて、えーっとその…エイダー卿の船に載せられるかどうか…」

とヘルメスが遠慮がちに応える。


「あーそんなことですか、大丈夫でしょう、私共の船は、輸送用の軍船ですから、四頭馬車でも30台は輸送可能ですよ。」

「あの、高さは?」

「あーそれも大丈夫でしょう、結構、高さのある投石用のカタパルト等も運べますから。」

「そうなんですか、良かった!じゃあ、お願い出来ますでしょうか?」

「もちろんですよ。お連れの方は何人かおられるのですか?」

「ええ、全員で9名と一匹です。」

「えっ?一匹?」

「はい、従魔が一匹いますので…」

「あーなるほど、わかりました。では、小一時間程しましたら、私達も船に戻っています。西端の方に停泊していますので、警備の者に声を掛けて下さい。船の目印は船首にあるゴーゴンの女神像ですね、では、」

そう言うと、エイダー卿は応接室近くにいた職員に声をかけ、応接室の中に入っていった。


「はあ、とりあえず、国に戻れる算段がついたわ。」

とヘルメスは国境警備隊の建物から出ると大きく息を吐き出した。


「ヴィスコ!」

ヘルメスが、『水蓮花』でヴィスコを呼び出す。

『どうしたの?』

「さっきエイダー卿に会って、私達を乗せて王国まで連れて帰ってくれるって。」

『えっ?エイダー卿が?嘘!ホントに!やったー!』

ヴィスコの喜び様が手に取るようにわかる。

「じゃあ、バスに戻りましょう。」


その頃、蔵光、ゼリー、トンキの三人はキタルボ近くの魔素口探しをしていた。

トンキがヴィスコからバージョンアップしたマソパッドを借り、トンキの操作で魔素口を見つけると、まずはザビエラとトンキの魔素補充用のために、負の魔素専用の魔石で吸い取った後、蔵光に封印をしてもらうというパターンだ。

ただ、あまり大きくないものを封印すると、これまた色々と問題があるらしくて、結構大きくなっているものを対象に封印していた。


また、誠三郎とザビエラは、ホストゴーレムを連れて食料品や日用品などの買い出しに出ていた。


ギルガは留守番だ。


外出していた者たち全員は、しばらくして用が済むと、順次魔導バスまで戻ってきた。


「しかし、この魔導バスを載せることが出来る船があるとは思ってもみなかった。」

とヘルメス。


全員、魔導バスを降車した後に、ゼリーの空間魔法で体内に魔導バスを収納すれば、小さな連絡船にも乗船出来たのだろうが、何故かゼリーはそうしなかった。


その理由について、バスの中ではヴィスコ、トンキ、マッソルの論議が始まった。

場所は『中の間』である。

「何故、ゼリーちゃんが空間魔法で体内に魔導バスを入れなかったかわかる人!」

とヴィスコが議題を出す。

「はい!」

「はい、トンキ君!」

「面倒臭かったから。」

「ブー!多分違います。ゼリーちゃんは逆に面倒事が大好きですから。」

と解説を入れる。

「はい!」

「はい、マッソル君!」

「空間魔法という存在を忘れていた。」

「ブッ、ブー!忘れる訳がないでしょ!」

「じゃあ、ヴィスコはどうしてだと思うんだよ?」

トンキがヴィスコに尋ねる。

「うーん、空間魔法に使用される魔力の相互干渉が不具合を起こすとか、バスの中の施設が使用不能になるとか、そんな辺りかしら?」

と色々な理由が推測されたが、明確な答えが出なかった。

そこへ、ゼリーが通りかかる。


「ん?なんや、えっ?魔導バスを空間魔法で体内に入れなかった理由やて?」

「うん、ゼリーちゃんがその答えを知っているんだから、」

「教えて、」

「下さい。」

三人がローテーショントークを発揮した。


「アホかお前らは?、何であんな目立つバスを体内に入れとかなあかんねん。」

とゼリーが答える。

「えっ?どう言うこと?」

「あのな、ワイらはクランズ『プラチナドラゴンズ』を結成してまだ日も浅い、目立った実績も無い!つまり、無名に近いんや、無名やと、他の冒険者にナメられるし、指名クエストも()ーへん!そのためには冒険者は名を売らなアカン!このバスはそのための広告塔や!派手な柄で皆の目を引かせるんや!それやのに、バスを空間魔法でワイの体内に入れとくやと?どの口が言うとるんや?!」

とゼリーが(まく)し立てる。

確かに、このバスは目立ちまくっている。

結成してからの実績もモグルの件しかないし、その件もかなり、極秘の部分が多すぎて公表出来ないレベルだ。

つまり、ゼリーの言う通り『プラチナドラゴンズ』は今のところ無名なのだ。


「な、なるほど、そう言うことでしたか。」

とマッソルも頷いて納得する。

「流石です、ゼリーちゃん師匠!」

とヴィスコ。

「言われれば確かにその通りです。お見それしました。」

とトンキ。


「どーやーさー!!」

ゼリーが皆に感心され、誉められてドヤっている。

「せやからな、お前らも、今後はドンドンとうちのクランズを宣伝するんやで!」

「ラジャー!!」

ヴィスコ以下三人は敬礼する。


そうしている間に、バスは海岸線を囲むような格好で港となっているキタルボ港の西の端へ到着していた。

そこには一際大きな帆船が停泊していた。

エイダーの言っていた通り、船首にはゴーゴンの女神像が取り付けられていた。

普通、船の船首には女神像が一般的であるが、このエイダー伯爵の船には恐ろしい魔物と言われるゴーゴンが取り付けられている。

ゴーゴンは、ゴルゴンとも言われ、上半身は女性の体、下半身は蛇という半人半獣の体をしていて、手には猛毒の弓矢を持ち、頭部の髪の毛の部分は、無数の毒蛇に覆われていて、また、魔眼と言われるその瞳を見た者は一瞬にして石にされてしまうという伝説があった。

そのため、航海をする際に、船を襲う、様々な魔物や嵐などの天災を防ぐための魔除けとして取り付けられていたのだ。


ヘルメス達がバスを降り、船に近付く。

船の側には、先程のエイダー伯爵に付いていた側近の騎士らしき者と同じ格好をした者達が何人か立っていた。


「ヘルメス様でしょうか?」

向こうから声をかけてきた。

「ああ、そうだが、エイダー卿は?」

「先程お帰りになられ、今は、中でヘルメス様をお待ちになられておられます。魔導車の件は聞いております。車両はこちらが運転の者に案内誘導をして載せますので…」

「わかった、では、よろしく頼む。」

「はっ、(かしこ)まりました。」


ヘルメス達は案内係の騎士の後に付いて、陸地から船に掛けられた板状の橋を渡る。


予想以上に大きな船だった。

木造で建造が可能なのかと思われる程の大きさだ。

船の甲板ではエイダー伯爵がヘルメス達を出迎えた。

「ようこそ、我が『エスカルディア号』へ!」

「こんなに大きな船だったとは思いませんでした。こんな巨大な船が造れるものなのですか?」

とヘルメスはその大きさに驚く。

輸送船兼軍船であるため、船の側面には多数の砲門が顔を出す。

「はははは、西の砂漠地帯に生息するヤイダ樫という恐ろしく硬い木で出来た木材で作られているんだ。距離や角度によれば鉄砲の玉くらいなら弾き返す程だ。」

ヤイダ樫は木剣の素材にもなる木材で、ヘルメスと誠三郎が、冒険者の適性検査の試験官として使用していたのもこのヤイダ樫の木剣である。

とにかく固すぎて切り出すためには専用の器具を使用しないと、普通の斧やノコギリでは刃がもたず直ぐに折れたり欠けたりして壊れてしまうといわれている。


ヘルメス達と魔導バスが乗船完了すると、船は静かに離岸した。


こうして、蔵光達は何とか魔導バス『プラチナスカイドラグナー』の輸送手段を確保したのだった。


どうなるかと思ったけど何とか上手くいきました。

ト「ご都合主義ですか?」

ご都合主義言うな!

調べたら『ご都合主義……ストーリーの進行に都合のよいように作られた強引もしくは安直な設定・展開のこと。』って書いてあったわ!

あ、そのまんまや…

マ「それだったら、『普通に船に乗った』でいいんじゃないんですか?」

いや、それだと、戦争になるかもって言ってるくらいなのに、ヴェネシア王国が全く誘拐事件に無関心になっているみたいだし…事態回収には実力のある貴族が動くだろうし、それを辺境伯の娘ヘルメスがエイダーを知らないと言うのもどうかなと…まあ、あと色々あるんだけど…

ト「それって、あんまり言っちゃダメなんでは?」

はっ!そうです、ご都合主義でお願いします。


次回もよろしくお願いします。

(* ̄▽ ̄)ノ~~ ♪


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