第103話 二人の勇者と三人の親心
勇者降臨です。
第103話 ~二人の勇者と三人の親心~
ここは、カルト教団『七つの棺』の拠点である協会の地下のホールである。
ヘルメスとザビエラがこの教団を壊滅に追いやり、教祖のバゾニアルアジカンはいずれかに逃走してしまった。
そのバゾニアルアジカンの残した言葉が波紋を呼び、ヘルメスは勇者扱いをされ、さらにはゼリーの見立てでは、ザビエラまでもが勇者に覚醒していると言うのだった。
そして、それを裏付けるような事実が判明することになった。
ゼリーがヘルメスとザビエラに話をしている途中、ヴィスコが、マソパッドの画面を見ながら驚き、震えていた。
そして、とうとうヴィスコまで、
「い、いや、ゼリーちゃんの仮説…正しいかも…」
と言い出したのだ。
「な、何を言っているのヴィスコ?!私なんかが勇者になれるはずが無いじゃないの…」
「だ、だって、ヘルメスの魔力値が200万越えてるんだもん!」
ヴィスコが泣きそうな顔をしている。
もう、勇者でなければ魔物の域だ。
「えーーーーーー!???!」
ヘルメスもこれには驚いた。
下手をしたら龍族のレベルの魔力値である。
「それに、ザビエラさんも170万M越えてるし…」
「ひ、ひゃくななじゅうまん?!」
「魔王級の魔力値ですう。もう、どうなっているんですか?」
ヘルメスはパニくっていた。
ザビエラは落ち着いているようだったが、実のところ、凄すぎて気絶しそうだった。
ここに、二人の勇者が誕生していた。
「とりあえず、村人達を地上に上げるのと、子供達を直ぐに治療させなくては…」
とヘルメスが気を取り直して指揮を執る。
「まあ、今のところワイの空間の中で、衰弱していた子供は、セイノジやトンキ、マッソル、オルビア達に手分けしてもらって、応急の手当てをしてもろてるし、一応、衰弱のひどい奴と怪我がある奴はワイの回復魔法と治癒魔法を施しといた。」
「すまない、助かる。」
誠三郎達は、さっき、ヘルメスが大きな死霊を倒したことで、それぞれ別々に閉じ込められていた空間の中で正気を取り戻していたので、子供の手当てに回っていた。
地上にいたギルガは、村の中で彷徨いていた村人達がバゾニアルアジカンが村から離れたことで正気に戻ったため、戒めの縄を外していた。
その村人達は全員が今までの記憶を失っていた。
だが、自宅に閉じ込もって難を逃れていた他の村人らから事情を聞かされ、ようやく事態の重大さに気が付いたようであった。
この件で、誠三郎曰く、
『面目ない。』
とまあ、彼自身、モグルの件ではモグルに吹っ飛ばされて怪我をするし、今回も『死霊の言霊』に操られてしまうわで、最近はいい活躍が出来ていないのでかなり凹んでいた。
また、地上にいる蔵光も残っていた死霊や歩く死人を、教会で一時的にもらった『聖霊力』を使い、『水化月・無限斬+聖霊力version』でほぼ倒していた。
この蔵光も、モグルの件では、転送魔法に使われる亜空間には自分の魔法が通用しないことや、今回も『死霊』と呼ばれる霊体等の実体のない魔物には、魔力や物理的な力は通用しないことを知った。
ただ、蔵光、誠三郎共々わかったことは、
『世界は広い』
ということであり、この武者修行が無駄ではないことを知った。
と言うことで、ヘルメス達も地上に戻って来ていた。
短いようで長い一日であった。
既に日は暮れて辺りは真っ暗になっていたが、子供達は全員、一旦リサの街に連れていき、医師の診察を受けさせた。
状態の悪い子供から順番に診察をさせたが、衰弱の激しい子供についてはしばらく病院で養生することになるであろうとの医師の見解であった。
また、比較的健康な子供については警備隊を通じて子供の身元を特定し、親元へ返す手続きをした。
子供達の中にはリサの街以外の所から拐われて来ていた者もいたが、治療後、後日、警備隊により帰宅の手続きがとられるようであった。
夜も遅くなって、リスタルの屋敷にキュリティが戻って来た。
キュリティも一旦病院で診察を受け、異常がないということであったため、帰宅となったのだ。
送迎は超高機動型魔導バス『プラチナスカイドラグナー』で行われた。
深夜であったが、アルマニアとトゥーナが屋敷の前で待っていた。
キュリティがザビエラに手を取られてバスを降りてくる。
その姿を見てトゥーナが叫んで駆け寄る。
「キュリティ!」
「お母さん!」
二人はお互いにしっかりと抱き合う。
「怪我はない?」
「うん、ザビエラさんが助けてくれた。」
「そう……」
トゥーナもアルマニアから事情を聞かされていた。
このままザビエラにキュリティを返さなくてはならないとは思っていたが、乳飲み子の時から自分の乳を与えて育てた子供である。
頭では理解していても、やはり、返すことには抵抗があった。
これまで一緒だった娘が自分達の前からいなくなってしまう。
一度失った子供が、あの時に戻って来たと喜んだ。
もう失いたくない、あんな思いはもう二度としたくない。
トゥーナの心は引き裂かれそうであった。
「ザビエラさんは冒険者なんだって、本当のお父さんと同じ名前だけど違うんだって、それで、今日はお父さんに頼まれて私を助けに来てくれたって言ってた。」
「えっ?」
トゥーナはハッとした。
そして、ザビエラを見る。
ザビエラは口に人差し指を当てて、『何も言うな』という仕草をした。
それを見たトゥーナは全てを悟る。
『あの方は、私達にこの子を……』
ザビエラの気持ちを知った時、大粒の涙がトゥーナの両の目からボロボロとこぼれ落ちる。
「あ、あ、ありがとう…ありがとうございます、ありがとうございます、ありがとう……うう…」
何度も何度もザビエラに礼を言う。
そして、もう離さないとキュリティをしっかりと抱き締める。
「それでいいのか?」
誠三郎がザビエラの横に立ち、尋ねる。
「ああ、今のキュリティにはあの二人が必要だ。私ではない。それに、戦いしか知らない私にはあの子を育てる事は無理だ。」
「そうか…」
「生きているとわかっただけでいい…」
ザビエラも本当は自分の娘に父親と名乗りたかった。
しかし、自分にはその資格が無いと思っていた。
そして、そのまま何も言わずに魔導バスに乗り込もうとした、その時だった。
ザビエラのすぐ後で声がした。
「お父さん。」
ザビエラがハッとした表情となる。
『まさか、そんな…』
自分の口からは絶対に正体をばらしはしていない…
ザビエラは後ろは振り向かない。
振り向くと自分が父親だと認めるようなものだからだ。
「私は、アルマニアお父さんからいつも聞かされていました。『お前の本当のお父さんは誰よりも大きくて、強くて、優しいんだぞ』って……なので私、いつもザビエラお父さんってどんな人だろうって思ってました。会えたらいいなっていつも思ってました。でも、ザビエラお父さんは勇敢な魔族の戦士、魔族の土地からは離れられないっていうことも聞いていました。でも、今日はその夢が叶った、だって、ザビエラお父さんは私が思い描いた通りの人だったんですもの…」
ザビエラの目から一筋の涙が伝う。
だが、振り向けない。
キュリティの話は続く。
「アルマニアお父さんから、『ザビエラお父さんは誰よりも人のことを思って行動する』と聞いていました。教団の地下の部屋で私はもう殺されると思っていました。そんなとき、私と同じ色の目や髪の毛をした人が助けに部屋へ来てくれました。その人の名前も、ザビエラと言うのも聞こえてきました。私はすぐに、この人が間違いなくザビエラお父さんであり、私を助けに来てくれたと思いました。ですが、その人は自分は冒険者ギルドの冒険者だと言って、私の本当の父親だとは名乗りませんでした。自分を父親だということを隠していると感じたとき、私はわかりました。本当のお父さんだからこそ、アルマニアお父さんやトゥーナお母さんのことを思って……二人から私を引き離さないようにと思ってそんなことを言ったのだと……」
キュリティの言葉は七歳にしてはあまりにも明確であった。
「違う!」
キュリティに背中を見せながらザビエラは叫ぶ、何かから自分を断ち切る様に。
「それはお前の考えすぎだ。私はお前の父親なんかではない。人違いだ!」
ザビエラの背中がキュリティを拒む。
「どうしてですか?何故、そんな嘘を言うのですか?私が嫌なのですか?」
キュリティの声が涙声になってきているのが、後ろを向いていてもわかる。
「う、嘘じゃない!嫌いじゃない!」
ザビエラは動揺していた。
自分が娘のことなど嫌うはずもない。
一日だって忘れたことがない。
だが、その娘を泣かせてしまっている。
「嘘です、お父さんは嘘をついています。だって、だって地面にそんなに涙が落ちているんですもの…」
キュリティの目からも涙が流れている。
「ザビエラお父さん!」
そう叫ぶとキュリティはザビエラに駆け寄りザビエラの背後から近付き、ザビエラの足にしがみつく。
「お…とう…さん、会いたかった…」
キュリティがしがみつく手に力を込めている。
ザビエラはグッと両手の拳を握り締めた。
さすがのザビエラもとうとう観念した。
キュリティの方へ向きを変えるように動くと、それに反応するようにキュリティは少し後へ離れる。
そして、ザビエラはキュリティの方へ振り向き、そのままキュリティの目の高さまでしゃがみ込んで、声をかける。
「キュリティ、大きくなったな…」
そう言ってキュリティを抱き締める。
キュリティはこの時、初めて抱かれる父親の大きさ、優しさを知り、そして、泣いた、溜まっていた何かを吐き出す様に…
「お父さーん!会いたかったよう…うぁぁーん!」
大人には到底わからない、小さな子供にはとても重たい心の荷物であったのだろう。
しばらくの間、キュリティはザビエラにしがみついて泣きじゃくっていた。
いつの間にかザビエラの元にアルマニアとトゥーナが来ていた。
「ザビエラ様……」
二人は不安そうな表情をザビエラに向ける。
決めるのはザビエラであり、キュリティでもあった。
ザビエラはキュリティをアルマニア夫妻に預けることに決めていた。
だが、キュリティの気持ちは聞けていない。
ザビエラの元に行くと言えば、それに従わなくてはならないだろう。
「うむ…」
ザビエラがキュリティに話しかける。
「キュリティ…聞いてくれ、今、お父さんは…」
と言いかけたところでキュリティが話し出す。
「わかっているよ、ザビエラお父さん。お父さんは大事な使命を持っているんでしょ?心配しないで。お父さんが帰ってくる、その日まで、私はアルマニアお父さん、トゥーナお母さんと一緒にこの街で待っているよ。」
「うん、うん。」
ザビエラが目に涙を溜めながら頷く。
ザビエラは立ちあがり、アルマニア夫妻へ向き直る。
「アルザーク、娘をよろしく頼む。」
「かしこまりました。私の命に代えましてもキュリティ様はお守りいたします。」
アルマニアが応える。
「アルマニアお父さん、私に『様』を付けるのは止めてよ!」
「しかし…」
既にザビエラとの親子の顔合わせは終わっている。
元々は自分の上官であった男の娘である。
もう、今までのように呼び捨てには出来ないと思っていた。
「あなた、キュリティの言う通りにしましょう。」
トゥーナがキュリティの両肩に手を乗せて笑顔を見せる。
「そ、そうだな、わかった。キュリティ、今後ともよろしくな。」
「うん、ありがとう、お父さん、お母さん!」
キュリティは笑顔を見せた。
その後、しばらくは四人で昔のことや現在のこと、そして、今後のことを話していた。
泣いたり、笑ったり、まるで全員が家族のように……
こうして、長かったザビエラの心残りは解消されていったのだった。
「じゃあ出発しまーす!」
トンキの出発の合図で、超高機動型魔導バス『プラチナスカイドラグナー』は朝もやの中、静かにリスタルの屋敷前から出発した。
バスの窓から蔵光、オルビア、ヘルメス、ザビエラらが顔を出す。
それをリスタル、アルマニア夫妻とキュリティが手を振って見送る。
いつしか、夜が明けて、空が白み、どこからか『コケコッコー』という鶏の軽快な鳴き声が聞こえてきて、一日の始まりを告げていた。
キュリティ頭良すぎ。
ト「いい子っすよね。」
マ「出来過ぎ、七歳とは思えない。」
魔族の、特に上位魔族の子供は、時として頭脳明晰な子が生まれることがあるらしい。
ト「そうなんですか?」
マ「すげえ。」
まあ、あんまり解説をすると、ネタばらしになるので、この辺で終わります。
それではまた、次回をよろしく。
さようならー!( ´∀`)/~~