第102話 悪魔族と覚醒者達
何か『力』の名前が色々出てきますが、とりあえず、ヘルメスとか強いです。
第102話 ~悪魔族と覚醒者達~
ヘルメスが、バゾニアルアジカンの操る村人と対峙していた頃、ザビエラは、ホール横の部屋に飛び込んでいた。
「ここは?」
部屋は隣のホールと違い、ほとんど光は無く、辛うじて隣のホールの明かりが入ってきていて薄暗くなっている。
人間の気配はするが動いている気配はない。
それに、ひどい悪臭が部屋に充満している。
恐らく閉じ込められた子供達は、不浄な体にするため、風呂はおろか、便所にも行かせてもらえず、大小便は垂れ流しとなっているのであろうと思われた。
さすがに夜目が効く魔族でも暗すぎるのであろう、ザビエラが灯火の魔法を使う。
「うっ!これは?!」
そこに現れたのは、上の部屋くらいの大きさの部屋に、衰弱した子供達約40~50人が、折り重なるように糞便の溜まりに倒れている光景であった。
ひどい子供は食事も与えられていないためか、骨と皮があるだけといったように痩せ細り、目は焦点が合わず、死を待つばかりといった状態で地面に倒れていた。
「何ということだ!」
ザビエラが余りの惨状に怒りを露にする。
そこへ、突然、奇妙な魔物が現れた。
人間の様な格好であるが手足が蛸のように触手となっていてウネウネと動いている。
頭部に毛はなく、顔や体つきは醜く肥太りブヨブヨとしている。
目が小さく、眼球はバゾニアルアジカンと同じように黒い。
「お前は何者だ?」
ザビエラが尋ねる。
「俺様はバゾ様配下のブータコス様だ!この子供達を不浄の供物にするための管理者といったところかな。」
この惨状の原因はコイツだったのだ。
ザビエラはどちらかと言えば正義感が強い方であるため、このような子供達を狙う輩は許せない性格だ。
「悪魔族か!」
ザビエラが鬼の様な形相になる。
魔族の中に伝わる話で、魔族は普段負の魔素を体に吸収して生存しているが、稀に濃い負の魔素が吹き出す魔素口が生まれることがあり、その魔素を取り続けると、流石の魔族も精神に影響を与えるようになり、凶悪な種族と変貌し、『悪魔落ち』と言われて、異界である『魔界』や『悪魔界』などと呼ばれる場所に送られ、そこで、異形の姿に成り果てるといわれていた。
ザビエラはその異形の姿を見て、直ぐに悪魔族の者とわかったのだろう。
「グアハハハ、俺様が悪魔族とよくわかったな。お前は一体何者だ?ただの人間ではあるまい?」
ブータコスがザビエラに尋ねる。
「ふ、知りたければ教えてやろう、だが私に勝ってからだ、だが、ここでは無理だな。お前達もここでは大切な生け贄が死んでしまっては元も子もないだろう。」
とザビエラが答える。
自分の子供をこのような悪辣な環境に置くような奴は必ず地獄へ送ってやると心に決めた。
だが、ここでは戦えない。
戦えば子供達を戦いに巻き込んでしまう。
この中には必ずキュリティもいる。
場所を変えなくては。
「ハハハハ、俺様はどうでもいいんだが、バゾ様に怒られると困るのでな、仕方がないが場所を変えてやる。」
そう言うとブータコスは呪文を唱える。
周囲の景色が揺らぐ。
すると周りに殺風景な景色が広がった。
灰色の世界、遠くの山々も剣の様にギザギザと尖り、木々は枯れて枝だけが残る焼け野原だ。ブータコスとザビエラだけがそこに立っていた。
「どこだと思う?ここはな、あの教会から何万kmも北に離れた土地だ、俺達が滅ぼしてやった国だよ。」
「貴様!転送魔法を?!」
「ほお、良く知っているな、俺達はな、魔界に送られた後、このような醜い体に変わってしまった。だがな!その代わりに膨大な魔力とこの転送魔法の力を手に入れたのさ!まあ、帰りたければ自分の足で帰ってくれや、フハハハハハハハ!」
ブータコスは不敵な笑いをザビエラに投げ掛ける。
ブータコスは低級の悪魔である。
普通の魔族の者が『悪魔落ち』した場合、魔力は龍族の黒龍化と同じく約10倍は膨れ上がる。
普通の魔族は約3万Mであることから、最低でも
30万マーリョックはあるであろう。
ザビエラの魔力値は20万弱だ。
この差は大きく、普通であれば勝てる相手ではない。
ブータコスは自分の両腕の触手を伸ばし、鞭の様にして、ザビエラへ攻撃した。
だが……
バシッ!バシッ!バシッ!
ザビエラはブータコスの攻撃を難なく弾き返す。
「な、?」
驚くブータコス。
「ヌオオオオ!」
ザビエラの怒りが更に膨れ上がる。
すると、ザビエラの体に変化が見られた。
ザビエラは元の巨大な魔族の姿に戻ったが、それと共に、ヘルメスと同じようにして体から眩しい金色の光が溢れてきたのだ。
「な、何だ?!お前、魔族だったのか!?」
「そうだ!それがどうした!」
デスフレアも元の大きさに変わる。
「しかも、何だその光は?!まるで、まるで、勇者の聖光ではないか~!」
とブータコスが叫びながら、さらに触手の攻撃をザビエラに放つ。
「ふん!」
ザビエラがデスフレアを振ると、触手の腕が千切れ飛ぶ。
「グガアア!ハア、ハア、き、貴様、この魔力?魔王族の者か?!」
ブータコスがザビエラの攻撃に驚く。
「くそお!これでも食らえ!」
ブータコスは今度は口から黒い霧を吐き出す。
「ハハハハ!これは猛毒の霧だ!魔族の者が吸えば、一瞬であの世行きだ!黒い霧のせいで俺様の姿も見えなくなるし、俺様を探している間に毒を吸って死んでしまえ!」
とブータコスは勝ち誇ったように高笑いをした。
しかし……
ズン!
「グハ、、な、、?」
黒い霧の向こうから飛んできたデスフレアがブータコスの体を貫く。
黒い血液がブータコスの体からドボドボと流れ出る。
「そ、そんな、この俺様の体を一介の魔族が……」
そう言うとブータコスはその場に崩れ落ち、そのまま溶けていった。
ザビエラの体から出ていた光は無くなっていた。
ザビエラは再び人間の姿に変化する。
「奴は倒したが、しかし、ここからどうやって帰ったものか……」
ザビエラが辺りを見回す。
すると、ブータコスの溶けた跡に魔石がひとつ落ちているのを見つける。
それは金色に輝く魔石であった。
ザビエラがその魔石を拾い上げた瞬間だった。
魔石から次元の狭間とも言うべき、亜空間の揺らぎが生じる。
「こ、これは?!空間の魔法?」
ザビエラは迷わなかった。
すぐさまその揺らぎの中へ飛び込んだ。
ザビエラは空間の揺らぎの中へ入った瞬間に、元の地下の部屋に戻っていた。
「戻って来た……はっ!!」
足元には先程と変わらず子供達が力なく転がっていた。
「みんな!大丈夫か?!」
ザビエラが、誘拐されてきた子供達に声を掛ける。
「これはいかん!ゼリー殿!」
ザビエラが『水蓮花』で連絡を取る。
「何や?」
「こちらザビエラですが、子供達がかなり衰弱しています。直ぐに応援を願います。場所は…」
「ああ、わかった。今、下まで来とるんで、そっちへ行くわ」
ザビエラが『水蓮花』の通信を切る。
背後に何者かの気配を感じる。
「?!」
後ろには、小さな女の子が立っていた。
「今、名前をザビエラって言いませんでしたか?」
女の子は、髪は金髪で、どこかフレアに似ていた。
ザビエラはドキリとする。
「も、もしかしてキュリティか?」
「あ、はい!あの……」
「私は冒険者ギルドの冒険者でザビエラという者だ、君のお父さんのアルマニアさんに頼まれてここに来たんだよ。」
と冒険者ギルドで手渡されたギルドカードの指輪を見せながら話す。
「そ、そうですか。冒険者ギルドの……」
キュリティは、ザビエラの名前を聞き、一瞬、自分の父親ではないかと思ったのだ。
しかし、流石に話に聞く魔族のザビエラがあの魔の大森林地帯から魔王アリジンの配下を抜けて、冒険者ギルドに登録しているとは夢にも思わなかったため、すっかり、ザビエラの言葉に騙されてしまっていた。
ザビエラも今すぐにでも自分の娘を抱き締めたかったが、キュリティに会っても父親であることを言わないと決めていた。
『今、自分が父親だと言って名乗りをあげて何になる?娘がいなくなったのに、探しもせず、只、只、戦争に明け暮れていたバカな親父が、何を今さら娘の前で父親面をして正体を曝す必要があるのか?』
そう思っていた。
そのため、あくまでも他人のふりをしていたのだった。
「もうすぐ、私の仲間が助けにやってくるから待っていてくれ。」
ザビエラがそう言うとキュリティは小さく頷いた。
一方、ヘルメスは……
「お前は!?悪魔か!!」
そんな、ヘルメスの質問も余所にバゾニアルアジカンがヘルメスの圧倒的な魔力に驚いていた。
「お、お前こそ、そんな、聖光を放つなど、勇者くらいしか…いや、世界はまだ勇者の誕生を預言していない。いや、しかし、この聖霊力は……いや聖神力か…とするとやはり、コイツは…」
バゾニアルアジカンがヘルメスの方も見ず、ぶつぶつと何かを呟いている。
「おい!さっきから何をブツブツと言っているんだ!」
ヘルメスがバゾニアルアジカンに怒鳴るが、当の本人は他に気を取られてヘルメスの事を忘れたかのように余所の方向を見て、考え事に没頭している。
「何だコイツは?」
とヘルメスが言ったとき、バゾニアルアジカンがようやくこちらを向き、尋ねてきた。
「お前!もしやヴェレリアント家の眷属か!?」
バゾニアルアジカンはヘルメスの家名を言い当てる。
「だとしたら……どうする?」
ヘルメスが応える。
「フハハハハハ!正に勇者ここに顕るか、なるほど、今、向こうから帰ってきたのはブータコスではないな、ああ、コイツもか、これは由々しき事態だな。」
バゾニアルアジカンは亜空間を抜けて戻って来たザビエラの気配を感じ取っていた。
「グダグダ言わずに掛かってこい!」
ヘルメスはバゾニアルアジカンに向かって大声を張り上げる。
しかし、本人はヘルメスに対し、
「いやいや、お嬢様、私は貴女の力には到底敵いません。ですので、ここらで退散させて頂きます。」
「何!?」
「まあ、今回は私の負けということで失礼しますよ。ああ、もう一人の方にもヨロシクとお伝えください。では…」
「お、おい、ちょっと待て!」
ヘルメスがバゾニアルアジカンに待ったを掛ける。
しかし、彼は呪文を唱え、魔界の空間を出現させ、そして、その空間の歪みの中へ入って行く。
「くっそ、やられた!逃げられた!」
ヘルメスが地団駄を踏み、悔しがる。
そこへ、先程の精神操作を受けていた村人達がやってきてヘルメスの前で全員が膝まづき、神へ祈るように両手を合わせる。
そして、その中の高齢男性がヘルメスの前に進み出る。
「ありがとうございます。勇者様、貴女様のお陰でこの村は助かりました。この御恩は一生忘れません。」
と再び膝まづきヘルメスに手を合わせる。
「あ、いや、私はそんな勇者ではない。何かの勘違いでは?」
「そんなことは、先程の悪魔のような姿の者も貴女様に言っておられたではありませんか。『正に勇者ここに顕る』と…」
「いや、あれは、ただ単にあの者が言っただけであって……」
「ヘルメス、大変な人気者やな!」
後からゼリーが声を掛けてきた。
振り向くとヴィスコとザビエラも一緒だ。
「ザビエラ殿!子供達は?」
「今、ゼリー殿の体内空間に入れて貰って保護している。」
「えっ?いつの間に?」
「ヘルメスが、あの教祖とやりあってる時に横を通らせてもらったで。」
ゼリーが説明する。
「えっ?そうなのか?」
「もちろん透明化してね。で、子供達全員をゼリーちゃんの中に入れてここに戻ってきたら、ヘルメスが勇者様になってた。」
とヴィスコが付け加える。
「それと、ザビエラもな。」
「えっ?どういうこと?」
ヘルメスが、『えっ?』の連発である。
「さっき『水蓮花』で聞こえてきてたけど、あのバゾニアルアジカンとか言う奴が言ってた『聖神力』ちゅう力のことや、それは『勇者』のみが持ち得ると言われる神秘の力でな、魔力と聖霊力との両方の特性を持っていると言われているもので、今まで出現した勇者がいずれも持っていたと言われている力なんや。多分やけどその力が、自分等二人から出てるっちゅう訳なんや。これが…」
「こ、根拠はあるのか?」
「まあ、恐らくやけど、自分等に共通して言えることは、まず、聖霊と契約していないのに『死霊』を倒せること。」
「た、確かに、普通は物理攻撃や魔法攻撃は効かないと聞いていたが、私の攻撃は効いていた。」
とザビエラが言う。
「わ、私も、そうだ、あの『死霊の言霊』を発したあの大きな死霊をこの剣で触るだけで倒せた。」
とヘルメスも両手を見る。
「そして、その次に、眩しいほどの金色の光が体から出なかったか?」
ゼリーはさらに続ける。
「出た。」
二人が口を揃えて言う。
「やっぱりな、さっき言うた『聖神力』が体外に放出されるときは、金色の光を伴うといわれている。ワイとヴィスコが死霊を倒せたのは『聖霊力』のお陰やけどな、聖霊と契約を持たないヘルメス等にそのような力があるとは考えられない。あったのであればザビエラは最初からあの死霊の言霊には操られなかったはずや。」
とゼリーが解説する。
「私はあの言霊は効かなかったが?」
とヘルメスが言う。
「恐らくやけど、ヘルメスの方が先に勇者として『聖神力』の覚醒が始まっていたと思う。だから、死霊も倒せたし、『死霊の言霊』も効かなかった。ザビエラの覚醒には時間差があって、つい先程、覚醒したんやと思う、だから、最初の頃は、低級の死霊はザビエラが所持していた武器『デスフレア』で倒せるけど、高位の死霊の唱える『死霊の言霊』の影響は受けてしまうような中途半端な状態であったんやろうな。せやけど、それが何かのきっかけで覚醒し、自分より魔力値が高いはずの悪魔族も倒せたという訳や。まあ、あくまでもワイの仮説やけどな。」
「い、いや、ゼリーちゃんの仮説…正しいかも…」
ヴィスコが手に持ったマソパッドの画面を見ながら震えていた。
バゾニアルアジカンに逃げられるんかーい!
その前の大きな死霊の時は追い付いたやん!
ト「姉御は相手が敵意を見せないとダメなんスよ。」
ザビエラはスゴいけど。
マ「そんなことはないっす!姉御はやるときはやりますから。」
まあ、相手はまだ奥の手を持っていそうだし、もう少し様子を見てみよか。
ト・マ「よろしくお願いします!」
ではまたまた、次回まで、さようなら。
⊂(・∀・⊂*)ダーヤー!