第101話 覚醒の兆し
ヘルメスに異変?
第101話 ~覚醒の兆し~
「通る!!」
ヘルメスが、ザビエラが作ってくれた通路の隙を走り抜ける。
手にはダウスの剣が握られている。
魔力値が上昇したお陰で身体能力も上がっていた。
以前までのスピードの比ではない、物凄い速さだ。
ヘルメスは祭壇のところまで一瞬で到達した。
悪魔の像が怪しく光っている。
「ここか!」
ヘルメスは剣でその像へ横薙ぎに斬り付ける。
カーン!!
悪魔の像は軽い金属音を出して真っ二つに切断される。
相変わらず凄い切れ味だ。
すると、悪魔の像の切り口から煙のように真っ黒な何かが吹き出してくる。
「何が?!」
ヘルメスは剣を構えたまま、残心を解かない。
その煙は段々と何かを形作っていった。
「こっ、これは!」
それは、巨大な死霊だった。
その死霊が何かを喋り始める。
「『死霊の言霊』だ!耳を塞げ!」
ヘルメスが後方にいるザビエラに向かって叫ぶ。
しかし、時は既に遅かった。
『死霊の言霊』はヘルメスはおろか、皮肉なことに『水蓮花』を通して全員に届いてしまったのだ。
「あかん!ヴィスコ!ヤバいぞ!」
「えっ?どうしたのですか?」
「他の奴ら全員に『死霊の言霊』が聞こえてしもうたわ!」
「何ですって?!」
「あっ、ほら言わんこっちゃない!来たで。お前はワイに入っとれ!」
「えっ?」
ヴィスコは一瞬でゼリーの体内の空間魔法の中に入れられた。
「ゼリーちゃん!どうして私達だけ?」
『水蓮花』での通信は空間魔法の中でも通るようにしてある。
ガキーーン!!
物凄い音が『水蓮花』を通じて聞こえた。
誠三郎がゼリーに斬り付けてきたのだ。
ゼリーは物理耐性があるので大丈夫だが…
「ワイらは『聖霊』と契約しとるから、聖霊力で守られとる。せやから大丈夫やったんや!」
「あっ、なるほど!そう言うことか…あっ!?」
目の前の画面に映っていた体内画面から誠三郎が消えた。
「どうなってるの?」
「空間魔法で別の空間に閉じ込めた。自分で自分を傷付けられても困るから刀は取り上げたけどな…」
「す、凄い」
ヴィスコは改めてゼリーの凄さを感じる。
あの剣豪を一瞬で空間魔法に閉じ込め、さらに剣まで取り上げるとは…
向こうの方でトンキとマッソルがポカポカと殴り合いをしている。
まるで泥試合のボクシングのようだ。
トンキは魔族だが体力は、筋肉隆々のマッソルとあまり大差はない。
「あれは、ほっとこか。」
とゼリーがぼそりと言う。
「いやいや、駄目ですよ、回収して下さい。」
とヴィスコが慌てて言う。
「しゃーないな。」
とゼリーが言うと二人のところまで移動して、誠三郎と同じように空間魔法で回収する。
「あっ!」
さらに体内画面にはギルガに向かって走って行くオルビアが映し出された。
「そんな!」
ギルガに敵うはずがないが、理性を奪われているオルビアにはギルガの危険性はわからない。
オルビアは自分の運命までは見通せなかったようだ。
「オルビアが殺されちゃう!」
オルビアがギルガのところまで到達した。
ポカポカとギルガの胸のあたりを叩いている。
まあ、当然と言えば当然だが全く効き目はない。
ギルガが片手でオルビアを持ち上げた。
「キャーー!」
それを見たヴィスコが悲鳴を上げる。
「こいつも回収を頼む!」
ギルガがそう言ってゼリーにオルビアを投げてきた。
オルビアは大きく宙を舞いながら、ゼリーのところまで飛んで来た。
ゼリーはそのまま一瞬でオルビアを体内に回収する。
「えっ?どうして?ギルガ様、普通だ。」
ヴィスコが驚く。
完全に『死霊の言霊』にやられたと思っていたからだ。
「当たり前や、ギルガは人化してると言っても基本的に古龍やからな、人間と違うものに『死霊の言霊』は効かへんわ。」
「あっ!」
ヴィスコも思い出した。
『死霊の言霊』は人間に対して有効であり、動物や魔物などの生物には効果がないという事を…
「じゃあ、蔵光さんは…」
人間最強の男が『死霊の言霊』で操られてしまえば世界は終わる。
「やっぱりヤバいな…」
とゼリーが呟く。
そこに、『水蓮花』で声が届く。
「みんなどうしたの?気配がなくなったけど?」
蔵光の声だ。
「主ぃーー!大丈夫やったんか!?」
ゼリーが叫ぶ。
「えっ?ああ、さっき、オルビアに言われて『聖霊力』を太陽神ラーの教会でもらってきてた。」
一瞬、無言の間が過ぎる。
「………………あっ!それや!その『聖霊力』のお陰で助かったんや!」
「良かったです!」
ゼリーもヴィスコもホッとする。
「あとは、ヘルメスとザビエラや、二人とも人族の系統やからな。」
人間は当然そうだが魔族も人族の中に含まれる。
そのため、ゴーストの『死霊の言霊』が効いてしまうのだ。
「じゃあ…」
「ああ、カルト教団の教会へ行くで!」
カルト教団『七つの棺』の教会では、とんでもない状態になっていた。
『死霊の言霊』を耳にしたザビエラとヘルメスだが、まず、ザビエラが言霊で操られてしまった。
ザビエラがヘルメスにデスフレアで突き刺してきた。
だが、ヘルメスはこの攻撃をダウスの剣で軽く受け止める。
そして、今度は剣で受け止めた状態でザビエラの腹を右足で蹴り付ける。
ザビエラはその勢いで長テーブルに体がぶつかり、さらに勢いは止まらず、出入口近くの壁に叩きつけられ、壁にめり込む。
ヘルメスは物凄い力になっていたのだった。
ヘルメスは精神を操られているのではなかった、ヘルメスは意識は正常を保っていた。
精神操作耐性、高魔力、上位魔族を凌ぐ攻撃力と防御力……
それはある兆しを表していた。
「すまない、ザビエラ殿」
ヘルメスは後ろを振り返った。
そして、巨大な死霊に剣を構える。
ヘルメスの髪の毛が逆立ち、体から金色の光が溢れ出す。
死霊は精神操作が効かないと分かると姿を消そうとして、実体が薄くなってきていた。
「正中上段斬り」
ヘルメスは高速の足捌きから死霊に斬り付けた。
本来であれば魔力を通した剣であっても切れる事のない死霊だったが…
グギャアアアアアーーーー!!!
ヘルメスの剣が死霊の体に触れた瞬間、大きな断末魔を上げて消滅していく。
「こ、これは……?!」
ヘルメスは剣を見る。
ギギィ
教会の出入口扉が開けられる音だ。
「ヘルメス!」
急いで教会へやって来たゼリーが、ヘルメスを呼ぶ。
「あ、ゼリー!皆は?」
ヘルメスも剣を鞘の中へ納めながらゼリーに近付いて行く。
「大丈夫や、こっちは?」
「こちらも大丈夫、さっき大きな死霊が出たんでやっつけておいた。」
「何やて?そらホンマか?」
ゼリーが妙な顔をしながら驚く。
「どうしたの?」
ヘルメスがゼリーに聞く。
「ヘルメス、お前、『聖霊力』は無いはずやけど…もしかして…いや、まだわからんから断言はでけんけど……ところでザビエラは?」
ゼリーは断言を避けた。
見当たらないザビエラの所在を確認する。
「あっ!忘れてた!」
ヘルメスは自分がザビエラを蹴り飛ばした辺りの方向を見る。
「あれ?」
ヘルメスは壁にぶつかっているはずのザビエラを探したが、そこにはおらず、そこには階下に続く階段があった。
「ゼリー!ここは私に任せて貰えないか?」
とヘルメスが言うと、ゼリーは、
「何や、ヘルメス、こんな時に腕試しか?」
とからかう。
「何故だかわからないが、下に潜んでいる奴を自分が倒さなければならない気がして……」
「わかった、わかった、とうとう目覚めてきたみたいやな。」
「えっ?目覚めてきた?誰が?」
「はっ!もうエエて、はよ行き。」
とゼリーがヘルメスを送り出す。
「すまない。」
ヘルメスは薄暗い階段を降りていった。
壁面はレンガを積んで造られたものであったが、地下水が漏れ出て壁と共に床の石も滑って歩き難い。
階段は直線でかなり深かった。
ある程度の深さまで降りたところで、灯りが見えてきた
「あれは!?」
どうやらヘルメスは一番下まで降りてきたようで、階段が終わる場所から、今度は奥に向かって通路が延びているようだ。
灯りはその通路の先の部屋から漏れてきていた。
ヘルメスが灯りの点いていた部屋に出る。
そこは、上の部屋とは比べ物にはならないくらい巨大な部屋であった。
「こ、これは!?」
ヘルメスが部屋を見渡す。
部屋は地下の岩盤をくり貫いた巨大なホールといった感じで、天井はかなり高く、約20mくらいはあろうかと思われた。
そして、壁には魔石の灯火が、いくつも取り付けられ、地下であるのにかなり明るい。
そこに、この村の住民と思われる者達がいた。
その数、約150人、噂通りだ。
全員が何かに向かって跪いている。
奥にある祭壇だった。
例の悪魔の像、しかも上にあったものより、かなりこちらの方が大きい。
そしてそのホールの中で大きな声が響き渡った。
「諸君、我々の救いの神ガロヤ様に祈れ!そして、君達の命を脅かす者達を排除するのだ!」
そう言ったのは、雨合羽の様な形の一枚の布を羽織り、頭は顔が少し出る程度に被っていて、表情はよくわからない不気味な男であった。
恐らくは、この祭壇の上に立ち、村人達を煽動している男こそがカルト教団『七つの棺』の教祖バゾニアルアジカンであろう。
村人達はバゾニアルアジカンの言葉に従うように立ち上り、ゆっくりとこちらへ向きを変える。
その目は明らかに何者かに操られている様子であり、正気を失っている。
「くっ!」ヘルメスが一瞬だが怯む。
さすがに操られている人間には手を出せない。
村人はヘルメスの方へジリジリと近付いてくる。
「ヘルメス殿!」
ヘルメスは不意に隣から声を掛けられた。
ザビエラだった。
「はっ!?ザビエラ殿!正気に戻ったのか?」
「お陰さまで、少々、きつめの一発でしたが…」
とザビエラは冗談を言える余裕があった。
まあ、村人と上位魔族の戦闘力は桁違いだからと言うのもあるのだろう。
「先程、気配を消して、この部屋を調べました。奥にもうひとつ部屋があるみたいです。そこに拐われた者達がいると思われます。」
「わかった!ではザビエラ殿!ここは私が引き受けます。ザビエラ殿はキュリティさん達を助け出して下さい。」
ヘルメスは村人達の方を向きながら言う。
「わかりました、では御武運を!」
ザビエラはそう言って頷くと、素早い動きで部屋の奥に走って行く。
「何をしている!奴を取り押さえろ!」
とバゾニアルアジカンは、ザビエラを静止させようと村人に指示する。
「そうはさせん!」
ヘルメスは剣を鞘に納めたまま、素手で村人の中へ突っ込んでいく。
そして、村人の一人の襟首を片手で掴むや、横に放り投げる。
結構な体格の男であったが紙クズのように投げ飛ばし、10mくらいは転げ回る。
そして、一人また一人と掴んでは投げ、掴んでは投げを繰り返す。
ヘルメスの体に体当たりをする者もいたが、ヘルメスはまるで重戦車の如く、全く微動だにしない。
体に貼り付いた者も掴んで剥がし、こちらへ向かって来る村人に投げ付ける。
あれだけいた村人は、ほぼ全員が床に転がされていた。
上位魔族のザビエラを足蹴りして壁に叩きつける程の力だ、これでもかなり手加減しているのだろう。
その、様子を見ていたバゾニアルアジカンが、手に持っている杖をヘルメスに向けながら叫んだ。
「おっ、お前は一体何者だ!!?」
ヘルメスは腰の剣を静かに抜き、叫ぶ。
「お前こそ何者だー!村人をこんな目にあわせる様な奴は許せん!」
「…………いや、それはお前が…」
バゾニアルアジカンはヘルメスにツッコミを入れる。
「うるさい!人心を操り、人を拐かして生け贄として殺す様な奴のことを言っているのだ!」
「あ、なるほど、って!……貴様……どこまで知っているのだ?生け贄の事を知られているのでは、生きて帰ってもらっては困るな。」
バゾニアルアジカンは杖を上空に向ける。
そして、何かを呟いている。
「呪文?」
ヘルメスが剣を構える。
「フハハハハハハハ!これを見よ!」
無数の人魂の様な光る球が空中に浮かんでいる。
そして、それら全てが村人の体の中に入って行く。
「今のは魔界から呼び寄せた低級の悪魔の霊体だが、上にいる悪魔憑きの村人とは別物だ!こうなれば、こいつらは、死ぬまでお前に向かっていくぞ!!」
バゾニアルアジカンはその被り物で見えない奥で笑う。
倒れていた村人達はむっくりと起き上がり、再びヘルメスの方へ向かってきた。
先程まではただ精神操作を受けていただけなのだろう。
今度は悪魔が肉体と精神を乗っ取っていた。
地上の村人と違って、華奢な体の村人も体の筋肉が肥大して凶悪な表情に変化している。
動きも速くなっている。
近くにいた村人がヘルメスに飛び掛かる。
ヘルメスはそれを剣を持っていない方の手で払いのける。
村人は先程とは違って空中を直線的に吹っ飛び、奥の壁に叩き付けられた。
その拍子に岩壁がガラガラと崩れる。
ヘルメスの表情が怒りに変わる。
「うおおおおーー!!やめろおおーー!!!」
ヘルメスが叫ぶとその体から先程の金色の光が、さらに眩しく輝き、部屋全体に放出される。
光が収まると先程までヘルメスに敵意を向けていた村人達の表情が、憑き物が取れたようなスッキリとしたものに変わる。
「あれ?ここは?」
「どうしたんだ?」
村人は何故こんなところにいるのか不思議そうな顔をしている。
バゾニアルアジカンが村人全員に取り憑いていた悪魔が無くなっていることに気付く。
「な、な、何だお前は?!何をした?!ま、まさかお前は!」
バゾニアルアジカンは驚きでその場に尻餅を付く。
その拍子に頭に被っていたフードが取れる。
それは骸骨にうっすらと皮が貼り付いたような不気味な容姿で、頭部には黒い角があり、ギラついた黒い眼球と獣のような牙がさらに異様さを引き立てる。
ヘルメスはその顔を見て叫ぶ。
「お前は!?悪魔か!!」
それは、魔界からやって来た混沌の使者であった。
ト「何があったんスか?姉御は?」
体の変化でしょうか?
マ「変化ですか?」
それとも、体から金色の光が出る病とか?
ト・マ「いやそれはない。」
おいおい二人ツッコミか!中々高度やな。ヴィスコよりツッコミ上手いんとちゃうか?
ト「そうですか?」
マ「まあ、ヴィスコは元々、ツッコミより、ボケの方ですからねえ。」
ヴ「何かいうたか!?」
ト・マ「うわ!」
ト「ヴィスコ!?どうして?」
ヴ「何か私の事を噂してるような気がしたんで。」
すごい勘やね。
また次回をヨロシクお願いしやす。
⊂(・∀・⊂*)ダー!