第100話 チャルカ村の悪魔憑き達
プラチナドラゴンズ突入開始!
第100話 ~チャルカ村の悪魔憑き達~
プラチナスカイドラグナーがチャルカ村の手前約1kmのところで止まった。
手前に止まったのはチャルカの村人というよりも『七つの棺』の教祖に気付かれないためだ。
ここで、バスの扉が開き、全員が降車するが、全く気配を感じないし、普通の者には全く見えない。
いつもの通りゼリーの透明化と気配遮断魔法だ。
透明化の魔法は、魔法を掛けられている者同士だとお互いが認識できる魔法なので、見失うことはない。
気配遮断も同じだ。
会話は『水蓮花 通信+位置探査version』で行う。
降車場所から歩いて移動となったが、普通であれば行き交う人くらい数人はいそうなものだが、全く誰ともすれ違わない。
「異常やな。明らかに村全体がおかしくなってるで。」
とゼリーが言う。
しばらく歩くと村の入り口が見えた。
『ようこそチャルカ村へ 太陽神ラーの降り立ちし地へ!』
と書かれた看板が立っている。
恐らくそれを謳い文句に観光客を呼んでいたのだろう。
村はほぼ平坦な土地で、まばらに村人達の家が建っている。
建物は木造の平屋建てで、屋根には瓦でなく平たい石をいくつも鱗状に重ねて置かれている。壁は辛うじて土壁が使われているが、全体的にかなり質素な造りをしている。
ここの村は、小麦農家が多く、村の周囲には小麦畑が取り囲んでいた。
何とか小麦は作られている様だが、管理が悪い様で所々枯れているものも見受けられた。
悪魔憑きの増加に伴わない、きちんとした栽培環境が保てないためであろう。
空はどんよりとした曇り空となり、村の雰囲気をさらに重苦しいものに変えている。
先程、バスの中で打ち合わせをし、それぞれに役割分担がなされていた。
ちなみに、ヘルメスとザビエラは、共にチャルカの村に新しく建てられたと言われる教団『七つの棺』の教会に向かう。
信者となっている、ほとんどの村人はここにいるらしい。
他の村人は、家に閉じ籠り、この異常事態に震えていた。
悪魔憑きの村人は、誰を襲うでもなく、ボォーっとして村の中をウロウロとしていて、昨日までしっかりしていた者が悪魔憑きになると、急にそのような状態になる。
村には太陽神ラーを祀る教会があるが、そこの祭司がこの異常事態をリスタルに連絡をしてきたのだ。
村には警備隊員の配置はあるが、その者達も悪魔憑きになっていた。
村を虚ろな目をしながらうろつく村人をオルビアは、
「この者達は肉体も精神も無事ですが、召喚された低級の悪魔に精神を支配されている状態です。なので、絶対に殺したり傷付けたりしないで下さい。恐らく私達が村に入ったことが、教祖バゾニアルアジカンに知られると村人全員が襲ってくることになります。それまでに何とか村人の動きを止めないといけません。」
と説明した。
「それは、難しいな。どうすればいいものか。峰打ちでも結構痛いぞ」
と誠三郎が言うと、
「魔法で眠らせるとか?」
ヴィスコも打開案を出すが、オルビアから、
「彼らは精神支配を受けていますので、眠ることはありません。」
「それはまずいな、ゼリーの催眠魔法でも効かないとなると、手の出しようが無いな。」
誠三郎もこうなると手が出し難い、いっそ斬り倒した方がいくらかマシだ。
「まかしておけ、ゼリー、例の作戦Bで!」
ギルガがそう言うと、ゼリーも、
「そうやな、じゃあ作戦Bで!」
と予定していた行動に移行する。
「パラライズミスト!」
ギルガがそう言うとギルガの身体の周辺から霧が発生してきた。
「はいな!他のモンには物理結界魔法や防御魔法も付けとくわ。」
そう言うとゼリーは呪文を高速で唱える。
ギルガが発生させた霧は、物凄い勢いで村中に拡がっていく。
そして、その霧に触れた者はバタバタと倒れていく。
「トンキ、マッソル!悪魔憑きの村人全員に縄をかけろ!」
ゼリーの指示が飛ぶ。
流石、濃霧龍ギルガンダの霧の技である。
ギルガンダの『パラライズミスト』という霧は魔法ではあるが、霧の性質を『麻痺毒』というものに変化させたもので、性質的には物理攻撃になるので、霧を吸った者は身体が痺れて動けなくなる。
その効力は、生きている者で悪魔憑きの村人だけ有効である。
そして、村には、村人ではない別のものが村人に化けて入っていた。
それは、ギルガの『パラライズミスト』が効かない魔物であった。
「あれ?アイツ、霧の中でも動いているぞ?」
マッソルがそう言って指差した先にいた男は、既に人間でも生物でもなかった。
「死霊です!」
ヴィスコが叫ぶ。
村には余り家が建っていない、そのため、村の奥まで見通しは良い。
魔物が村の中をうろついているのは見えた。
だがそれは、実体を伴わない霊体であり、物理攻撃は効かない。
全体的にぼんやり光っていて、上半身は白いマネキンのような表情の無い人間の姿をしているが、よく見ると下半身は煙のようにぼやけ、空中を浮遊している。
蔵光が一度、死霊に如意棒で攻撃したが、煙のようで全く効果が無かった。
また、『水化月』でも斬り付けたが、元々が実体を伴わないものであり、また、霊体を構成している組成物質が『霊素』といって、魔法や魔素で出来たものでないため、魔法の干渉や影響を受けないため、魔法攻撃は全くの無効となる。
また、そういったことから破魔特性のある如意棒でも倒せなかったのだ。
「そんな……攻撃が効かないなんて…」
蔵光は、自分の攻撃が全く通用しないことにショックを受ける。
オルビアの言っていた通り、蔵光は『今回は出番が無いかも知れません』と言われた通りになっていた。
死霊の攻撃であるが、人に取り憑いたり、強力個体になれば『死霊の言霊』というゴーストボイスを発して人を発狂させたり、人心を操る力を持つ。
「やれやれ、魔界だけじゃなく霊界からも呼び出してるのか?!面倒な事やな。」
ゼリーが死霊を見てぼやく、そして、
「ヴィスコ!この間教えた『聖霊魔法』や!」
「ええ?!まだ私の聖霊魔法って不十分なんじゃ?」
「かまへん、もう契約しとるし、大丈夫や!」
「わかりました。」
ヴィスコが呪文を唱える。
以前よりもかなりの高速詠唱だ。
そして今唱えている呪文は、聖霊魔法と言って、死霊に対抗できる魔法のひとつであった。
プッ…ギシャー!
ヴィスコが呪文を唱え終わると、死霊は砕けるように霧散する。
「や、やった!」
ヴィスコが笑顔を見せる。
死霊に対抗できる呪文はこれくらいしかなかった。
だが必ず倒せる。
元々、この魔法には魔力は必要は無い。
死霊に魔力干渉は関係がないと言うのは前述の通りである。
聖霊魔法は魔法とは言うものの、死霊が使用する『死霊の言霊』と同じ理屈で『言葉自体に込められている力』を利用している。
それは『聖霊の言霊』と言われるものであり、『精霊』ではない『聖霊』と契約して行使することができる。
『聖霊』は『精霊』の上位の存在である。
それらの力を借りて言霊を発するのだ。
その言葉を浴びせられると悪霊は現世に存在が出来なくなり、砕け散るのだ。
「あれ?アイツ動いてるぞ?ギルガさんの霧が効いていないのかな?」
「足があるから死霊でもないようだし…」
とトンキとマッソルが村人に縄を掛けながら、村の奥にある森の方から現れた人間が何人もこちらに歩いてくるのを見つける。
だが、何か様子がおかしい。
動きが先程の悪魔憑きの村人以上に遅い。
「あれ?いや、あれは『歩く死人』じゃないのか?!」
マッソルが叫ぶ。
確かによく見ると身体が腐敗した状態の者や、骸骨の頭部を持っている個体もあった。
森の中のお墓から這い出てきたものと思われる。
『悪魔憑き』に『死霊』に『歩く死人』とこの村は予想以上にとんでもない状態になっていた。
「死んでいるのか?そりゃ、好都合だ!」
誠三郎はそう言うと、直ぐに『歩く死人』の所に走って行き、次々と刀で真っ二つにしていく。
あっという間に『歩く死人』全員を斬り倒してしまった。
これで終わったと思われたその時だった。
全ての『歩く死人』は胴体を真っ二つにされていたが、今度はその上半身と、下半身が別々に動き始めだした。
上半身は両腕を使って這い始め、下半身はコロンと上向きになったと思ったら、上手に足だけで立ちあがり歩き出す。
上半身型と下半身型のパーツ型『歩く死人』だ。
「何だこれは?止まらないのかよ?」
誠三郎も呆れている。
「これなら何とか…」
とパーツ型『歩く死人』を見た蔵光は、今度は、別の水魔神拳を使う。
「『水化月・無限斬』!」
『水化月』だが別のバージョンだ。
普通の『水化月』よりもやや小振りではあるが、物凄い数だ。
まるで、夕方に洞窟から飛び出していく大量のコウモリの様だ。
それがパーツ型『歩く死人』を細かく切り刻んでいく。
大量の『水化月』は横向きの竜巻のように渦を巻き、死体のパーツを粉々にしていく。
流石の『歩く死人』も粉々になってしまったら歩くことは出来ない。
蔵光は何とか面目躍如といったところか、ホッと胸を撫で下ろす。
そこにオルビアが声をかけてきた。
「蔵光さん、村の中央にある『太陽神ラー』の教会に行ってください。」
「?」
蔵光は一瞬、その意味が良くわからなかったが、オルビアが何かを予知しているのだと判断し、頷く。
「教会で何を?」
蔵光がオルビアに尋ねる。
「一時的ですが『聖霊力』を教会でもらって下さい。」
「『聖霊力』?」
「はい、それは、あの死霊を唯一倒せる力です。ヴィスコさんが『聖霊魔法』で死霊を倒したのを見て頂いたと思いますが、それが無いと先程のように蔵光さんは死霊に対して全く無力になってしまいます。」
『聖霊力』は言葉として話すときに混同しないように『精霊力』と分けて使えるように『せいれいちから』と呼んでいる。
「なるほど、そう言うことか。でも魔力とその『聖霊力』とは一緒に使えるのかな?例えば『水化月』に『聖霊力』を乗せるとか?」
「大丈夫でしょう。」
「わかった!じゃあ行ってくる。」
「お願いします。」
蔵光は死霊を倒せる方法が何とかわかったのですごく嬉しそうに、弾丸スピードで走って行った。
一方、ヘルメスとザビエラであるが、村の外れにあるカルト教団『七つの棺』の建物の前にいた。
教団の建物は、教会らしき格好をしているが、木造で作られた小ぢんまりとしたもので、20人も入れば満員になる程度の大きさだ。
屋根は切り妻型の屋根に素焼きの瓦屋根、土壁には漆喰を塗り固めてあり、周囲の村人の家よりはしっかりとした造りをしていた。
他の仲間の動きで、既に中の奴等には気配を悟られているであろうと思われた。
ヘルメスが少し大きめな両開きの木製出入口扉を開ける。
ギギィー
出入口の扉からは、建て付けの悪い建物特有の嫌な音がする。
室内は真っ暗という訳ではなく、所々、壁に燭台があり、その燭台の蝋燭の火がチラチラと燃えているのが見えた。
その灯りで、中を確認したが、普通の教会のように、中央の通路部分を挟んで、奥から順番に長テーブルがズラリと並べられ、その通路の奥には祭壇が設けられていた。
ただ、一つだけ違ったのは、祭壇に飾られている像が、悪魔のように不気味で、恐ろしげな怪物の像であった。
沢山いると見られた村人は、この教会の中には一人も見られない。
だが、何か得体の知れない何かの存在がヘルメスには感じられた。
「何も無いようですね。」
ザビエラが、気配を探るがフロアには誰もおらず、気配も感じない。
「いや、何か、人間ではない、何かがいます。」
ヘルメスには、先程から何故か特殊な気配が感じられていた。
それを聞いたザビエラがハッとした表情となり、その目の警戒心を強くする。
『何かの影響か?ヘルメスの魔力値が上がっているような?』
今のヘルメスの魔力値はザビエラより高い。
ザビエラでも20万近い魔力値を持っているが、ヘルメスは今や50万以上、魔王族並みの魔力だ。
それに、実は、ヘルメスは空を飛んだ日から、ずっと魔力値が上がり続けていた。
測定はしていないが、今や、魔王アリジン並みの魔力があるのでは無いだろうかと思える程の圧力がある。
生暖かい空気と共にフロアの中央付近に死霊が現れる。
その数は10体程である。
「死霊か!?」
ヘルメスは『水蓮花』を通じて、先程から外で戦っている仲間の声が聞こえ、ある程度状況がわかっていた。
噂にも時々聞いたことがあった。
『ゴーストには物理攻撃は効かない』
と………
「とりあえず、オルビアから効果があると言われたこの槍で、私が倒していき、相手を引き付けます。その間にヘルメス殿は子供達を探して下さい!」
ザビエラが高速でデスフレアを死霊に突き刺す。
フギャーー!!
先端の炎が触れると死霊は断末魔を上げて消滅していく。
やはり、オルビアの言っていた通り、デスフレアは死霊に効果があった。
「凄い!」
ヘルメスがザビエラの攻撃を見て驚く。
ヘルメスもダウスの剣の柄を握る。
オルビアはこの剣を使えと言っていた。
本来、ゴーストには物理攻撃は効かない。
今、自分にあるのは最近上がってきた魔力だけだ。
だが、その魔力も、蔵光の魔法を見る限り、魔力を剣に通しても死霊に効果は無いはず。
それに、『水蓮花』で聞こえてきていた『聖霊力』…当然、自分にもその力は無い。
一体、どうすればいいのか?
「ヘルメス殿!今です!」
ザビエラが叫ぶ。
ヘルメスがその声にハッと我に返る。
真ん中の通路のゴーストは減っていた。
死霊達もザビエラの攻撃が自分達に通ることがわかった様で、通路から離れて距離を取っていたのだ。
この祭壇の奥に何かを感じる。
今しかない!
「通る!!」
迷いながらもヘルメスは抜刀して、通路を駆けた。
何気にオルビアが指揮とってるよな。
ト「いやぁ、あの人は凄いッスよ!」
マ「ホント、ホント、何かバスに乗ってから、いきなり、女子連中が風呂に入ってたんすよ…」
ト「そうそう、そして、風呂上がりに彼女達を見てみると…」
マ「全員がオルビアにヘコヘコしてましたからねぇ。」
あーーそれは……あっ!いかん、いかん、思わず口走るとこやわったわ!
ト「何すか?今、何か言おうとしてましたよね?」
いや、気のせいだ、きのせい、ツリースピリット!OK?
では、次回までさようなら。(´・ω・`)/~~