第1話 最強の水魔神拳の使い手現れる。それは誰にも抗えない ~港町タスパ~
初めての投稿です。
皆様に、なるべく読みやすく分かりやすい言葉で書いて行こうと、思っています。
主人公はいわゆる反則級の力を持っています。自分の能力を自覚しているのか、どうなのか?徐々に明かされていく力の秘密。設定多くしすぎてパニクってますが、気楽に読んで下さいね。
その昔、地上には恐るべき魔法の存在が知られていたという。
髪の毛神、いや違う、神の化身とも言われたその魔法を使う者は悪を懲らしめ、弱者を救うと伝えられていた。
だが、時代の流れによって、その魔法の存在は人々の記憶から忘れられていった。
第一章 伝説のはじまり
第1話 最強の水魔神拳の使い手現れる。それは誰にも抗えない~港町タスパ~
「若!着きましたぞ、タスパへ」
こう呼ばれて振り返ったのは若干15歳の少年、水無月 蔵光である。
身長は170㎝くらい、黒髪で、痩せてはいるが筋肉質で、拳法家のような動きやすい服装をしている。
まだ幼さの残るその顔貌とは違い、深い緑のその眼光は優しいながらも鋭く、またこれから出会うであろう様々な出来事へ期待を膨らませていた。
彼が今いる場所は、定期便の木造中型帆船の上であり、彼が存在する魔法世界「マーリック」の海上である。
現在の天候は快晴で、水平線の上には巨大な入道雲が立ちあがり勇壮な姿を見せる反面、波は穏やかで、何羽かの海鳥が海面付近の魚を求めて飛んでいる。
この世界は地球の文明によく似てはいるが、科学はあまり発達しておらず、言わば中世ヨーロッパの時代を彷彿させる時代背景における剣と魔法の世界とだけ言っておこう。
「おぉ~!」
蔵光が船の縁から、手をかざして見る先には大きな陸地が見える。
一応、この世界の大陸のひとつだが、それでも一番小さいところで、ここにはメトナプトラという国が存在し、この地を治めている。
王国ではないが、昔から国の各州に住む部族の長老がをそれらの地域を治めており、それぞれが協力して国を維持している。
国の主な産業は酪農でメトナ産の牛乳やチーズは有名である。
タスパというのはメトナプトラの東に位置する港街で蔵光らの乗っている定期便の船などの発着場所にもなっている。
この街の治安は安定しているといわれているが、最近は色々と問題があると言われているらしい。
蔵光を若と呼んだのは、彼の従者で名前を八鬼 誠三郎と言い年齢は30歳くらいで、身長180㎝くらい、すらりとした体格に、着衣は着物っぽい上着に、下半身は袴っぽいものを着け、腰には刀を1本差している。
蔵光も金属製の棒を手にしているが、全体の表面は黒く、一部が金色になっている箇所があるだけで一見すると只の鉄棒だ。
その様な姿であるため、他人から見れば蔵光が拳法家、誠三郎が侍といったところであろうか。
そして、蔵光の傍らには全体が深い青色の半透明の物体が立っている。
少し楕円形の頭の上には、小さな丸い耳、クリっとした目が2つ楕円形の中にあり、その下部には二頭身の体があり四肢は短く、一見して猫のようなかわいい生き物がいる。
二足歩行をしている。
名はゼリー、プヨプヨとした質感はスライムの体を彷彿させるが、自称スライムネコということで、蔵光の従魔ということらしい。
そのゼリーが口を開いた。
「なぁ、主ぃ~、この街で例のボーケンシャとかいうのになるんか?」
と何やら西の方面でよく使用される地域言語をを発した。
その姿とは違い言葉遣いは粗い。
「あぁ、じいちゃんの命令だからな。お前も誠さんと一緒に登録するからな。」
と言って蔵光はゼリーに視線を向けながらニヤリとした。
ゼリーは眉間にシワを寄せ、
「はぁ?そんなん初耳やけど、まあ美味いもんが食えたらそれでええし。」
元々頭が良いのか思考の切り換えも早く、ゼリーは一瞬だけ嫌そうな顔をしたが直ぐに話を食べ物の話題に変えた。
「ははは、ゼリーは相変わらずだな。」
と誠三郎はそのやり取りを茶化す。
そうこうしていると、船はタスパの港に着いた。
比較的大きな港で小型から大型の船まで何十艘もの船が停泊していて、港周辺に見てとれる人の数もかなり多い。
蔵光達は船内での入国審査のあと、ようやくタスパの地に足を着けた。
港周辺では威勢のいい声も方々から聞こえてくる。
魚や貝などの魚介類や海産物を売っている屋台や店の声だ。
さすがにこの地域は酪農ではなく、漁業が主流で、漁師町というだけあって活気が溢れる街の目抜通りには屋台の他、魚介類専門の食堂も多く、それを目当てにやってくる観光客も多い。
建物は中世ヨーロッパ風の下町と行った感じであり、建てられてからかなりの時代が過ぎているようで一言で言うと古い。
蔵光が目をキョロキョロとさせて物珍しさにあちらこちらへフラフラと移動し、誠三郎が、街の賑わいに感心している。
「ほお、これは賑やかですな。」
「そうだね、でも…」
蔵光の目に一瞬だけ警戒の色が走るが、直ぐに残念な表情に変わった。
「はぁ、仕方ないですなぁ。」
誠三郎も深いため息を吐く。
蔵光らが、感じ取った気配は、おそらく街に到着した観光客や旅人を狙ったチンピラか何かであろう。
侍の誠三郎はともかく、蔵光は一見すれば華奢な子供に見える。
護衛をつけたどこかのボンボン、世間知らずのお坊ちゃんに見えるのだろう。
そう見える蔵光はチンピラどもにすれば「金」に見えてしまうのは仕方がないことであろう。
「とりあえず行くよ」
と言うと蔵光は屋台の並びから少し外れ、人通りの少ない通りに移動した。
そこは人通りが少ないというよりも人がいない。
建物の間も狭く、光も少ししか入り込まないため昼間でも薄暗く、そのためか表通りとは違い治安の悪い空気が漂う。
「挟んできたで。」
ゼリーが小声で話す。
「わかってる。」
「若、やり過ぎないように。」
誠三郎も蔵光に声をかける。
「それもわかってる。」
二人と一匹の前に現れたのは、予想通りというか、まあ俗に言うチンピラだった。
人数はだいたい10人くらいで、強面だが全員痩せてて正直強いとは思えない。
「おうおう兄ちゃん、護衛付きでいい身分だな?ようこそタスパの街へ…へっへっへ」
チンピラリーダーと思われる男が蔵光に話しかけた。
その表情は残忍というか残念で締まりのない顔つきで、凄んでいるようだが怖さを感じさせないところが逆に恐ろしい。
「どうも。」
蔵光が友達にあいさつをするかのように片手をあげて答える。
それを見て、チンピラリーダーが顔をひきつらせながら、
「ちっ、世間知らずのお坊ちゃんか?まあいい、おうそこの護衛のオッサンも聞きな、ここを通るには通行料というものがあってね、それを払ってもらってからじゃないとここは通せないんだよ!」
とチンピラリーダーは蔵光らにまくし立てた。
「へぇー」
蔵光がちょっと感心したように答えたが、あまりにも緊張感のないその態度にチンピラリーダーがキレた。
「へぇーじゃねえ!おうお前ら、俺達を怒らせたらどうなるか、こいつらにわからせてやれ。」
「おう!」
それに応えるのが、チンピラ子分達。
慣れているのか動きはいい。
狭い路地でも逃がさないようにジリジリと蔵光らを囲んでいく。
一気に飛びかからないのは誠三郎が帯びている刀を意識しているためか、かなり慎重そうに見える。
それを見た蔵光がちょっとガッカリというか予想通りというような表情で口を開いた。
「はぁ、やっぱりそうだよな、もう少し楽しませてくれるかなと期待したんだけどなぁ。」
蔵光がそう言うと、チンピラリーダーを除く子分達が一斉にその場に倒れてしまったのだ。
一瞬のことで何が起こったのかチンピラリーダーには理解できなかった。
『相手の動きには特に何もなかったのに…』
とチンピラリーダーの意識が蔵光から途切れた瞬間であった。
「おい。」
いつの間にか蔵光がチンピラリーダーの前に立っていた。
「えっ?」
蔵光と眼が合う、蔵光は静かに声をかけた。
その眼と声には絶対抵抗を許さないという威圧感があった。
一瞬で距離を詰められたチンピラリーダーの動きが固まる。
その刹那、蔵光のデコピンが軽くチンピラリーダーの額に入った。
チンピラリーダーは、首がもげとれそうな勢いで後方へ弾け飛び、路地の建物の壁に叩きつけられた。
当然、意識はなくなっている。
「ふむ、情けない奴らですな、若の抑え気味の気迫だけで気絶しおって。」
誠三郎が呆れた様子で倒れているチンピラ子分を見渡す。
また蔵光は、
「俺を襲うなら、もうちょっと腕を上げてから来いよ。」
と言って少しだけ懐からお金を出して、気絶しているチンピラリーダーの傍に置いた。
しかし、この蔵光の言葉にゼリーが突っ込みを入れる。
「っていうか、こいつらがいくら頑張って強くなろうが、主がいくら力を抑えてようが、絶対に主には勝たれへんし、無理やし。」
蔵光の力が相当なものであることをうかがわせるが、どれ程のものかは今の段階では他人が見たとしても、全くわからない。
「まあ、若も、王鎧殿からあまり魔法や秘術は使うなと言われておりますからなぁ。ははは」
と誠三郎が言うと、すかさずゼリーが、
「あのなぁ、セイノジも冗談も大概にせえや!主が魔法使うたら、この辺一帯がどえらいことになるんやで!」
と間髪いれずに突っ込む。
誠三郎も少し真顔に戻り、
「はっはっは、悪い悪い、ちょっと悪のりをしてしまったな。」
と、ゼリーに謝る。
「まあセイさん、じいちゃんも生活魔法程度なら使ってもいいと言ってるから、少し位は別にいいのでは…」
と蔵光が言いかけたところ、
「ダメです!」
「あかんて!」
誠三郎とゼリーから同時にダメ出しを食らった。
「あのな、主、よう聞いてや、生活魔法でも、主がこんなところでつこうたら、ムソーやでムソー!」
と突っ込みに疲れてきたのかゼリーも半笑いでニヤリと笑う、名前の通りゼリーのように笑うとプルプルと顔が震える。
※無双…そこに二人とは並び立たない、二つとなく優れていること。この場合はまあ全員死亡ということかな。
「ところでセイさん、街に着いて早々だけど、冒険者ギルドへ行く予定だったよね。」
「おお、そうでした、すっかり忘れておりました。早速参りましょう。」
一行は再び屋台街へ出ると魚の干物を売っている威勢のいい兄ちゃんから冒険者ギルドの場所を教えてもらい、足を向けた。
あかん、ゼリー、やってもうたわ。もう後戻りでけへんわ。
ゼ「まだ肝心なところまで進んでないやん。」