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竜のプロローグな前日譚

こんにちは。こんばんわ。はじめまして。


俺の名はリント。竜の国を治める偉大な竜王である父の息子をやっています。

……唐突過ぎるとは思うが、まぁ聞いてくれ。


俺は先程言った通り、竜王の息子だ。だけど、唯一というわけではない。

俺の上には歳の離れた二体の兄と一体の姉が。下には同じく歳の離れた三体の妹と二体の弟がいる。


上姉と俺を除けば、全員が双子及び三つ子だ。我が父と母は中々のラブラブっぷりだ。こんなにも子を産んでいるのだし。


そんな母と父と比べ、我々キョウダイの仲はそこまで良くはない。むしろ悪いと言っても良いだろう。


何故なら、最近我が父の体調が宜しくない。そろそろ代替わりの時のようだった。そしてそれはすなわち、次の竜王は誰となるのか、という話になる。


五百年以上も続けているのだから、もう百年くらい竜王として頑張ってほしいとは思うが、流石に無理だろうか。


昔から仲は良くなかったキョウダイ間が、決定的に決裂してしまい、もう殆ど内乱に近い。

で、今現在起こっている次期竜王候補争いでは、三つの派閥が存在している。


まず双子の上兄ことバークを支持するバーク派。因みに双子の下兄はバークを支持している。

次に上姉ことリーンを支持するリーン派。

そして単独では勝てないと悟った下キョウダイ達による同盟派。この三つに分かれている。


俺?俺は、元々王になろうだなんて夢は見れないほどに弱いので、そもそも次期竜王候補争いに参加できない。なので除外。


竜王というのは一番強い奴がなるので、今の状態が続くならバークの一人勝ちだ。

だが、そんなのは他のキョウダイが認めないので、どうにかしてバークを落とし自分が上に立とうとしている。


で、どうにかバークを落とせると思ったら、今度は残りの二派による争いが起きて、その間にバークは復活している。


こんな感じのことが、だいたい五十年くらい続いている。


五十年。五十年だ。五年でも十年でもない、五十年なのだ。そんなに長い間、候補争いなんかやってるのだ。


いやさっさと決めろよ。何手間取ってるんだよ。バークだけでも仕留めろよ。チャンスがきた途端に裏切るのやめろよ。そのせいでバーク復活してるじゃん。


父も母も、キョウダイ同士の争いに関わる気がまったくない。キョウダイの問題はキョウダイで解決しろ、ということなのだろう。

……竜王としては尊敬できるが、親としてはまったく尊敬できないな。


俺を除いたキョウダイ同士の次期竜王候補争いはさらに激化しており、俺にまで飛び火しそうな勢いだった。


このままでは、俺にまで被害が及ぶ───だから、その前に。


俺は逃げ出すことにした。



▼▲▼▲



『今日こそ決着つけてやらぁ!』

『今度こそ退いてもらう、バーク!』

『退くのはてめぇだ、リーン!』


『……まぁたやってるよ』



さて、早速逃げることにした俺だが、竜王の治める国・ヴルムから外に行く道というのは、一つしかない。

それは(アギト)の門と呼ばれる巨大な門だ。


俺たち竜が外に行くには、この顎の門を越えなくてはならない。

空から行く分には何の問題もないが、門を潜ろうとすれば、その門が勝手に開いたり閉じたりして、通ろうとする者を噛み砕いてしまう。


だから顎の門、などと呼ばれているのだ。因みにこの門はかつての初代竜王・アークヴルムがこの地に国を作るときに、侵略者を排除するために設置したものらしい。


でまぁ、それはともかくとして。俺が外に行くためにはあの門を越えなくてはならないが、そこは問題ない。飛ぶだけだからな。


問題なのは、普段からキョウダイたちがこの門の前で争いを繰り広げている、ということだ。


いや他所でやれと言ってやりたい。が、言ったら間違いなく半殺しにされるので、俺も一度しか言ったことはない。

俺、弱いし。



『……とりあえず、上から行くか』



まだ死にたくないので、巻き込まれないようにバークとリーンが戦っている場所よりも上から行くとしよう。


そう思い、翼を羽ばたかようとした、ら。



『リント』

『ん?』



誰かに呼び止められた。いや、この声は……



『ルルリア、か?なんでここにいるんだよ』

『……いては悪い?』

『……あぁ、巻き込まれないように離れてるわけか。お前も大変だな』

『………』



彼女はルルリア。上兄バークの現婚約者であり───俺の、元婚約者だった。


元は俺の婚約者だったのに、今ではバークの婚約者になっているのは……まぁ、そう深い理由はない。

ただ、俺が弱すぎたから、バークに乗り換えられた、というだけだ。


この竜の国では、強さが全てだ。つまり、弱いやつに権利などない。


俺は雌の竜であるルルリアにすら勝てない弱竜であるため、そのルルリアから婚約破棄を言われてしまえば、俺がそれを断ることは出来ない。


婚約破棄されてからは、まったくといっていいほど関わることがなくなったので、今では何をしているのかは不明だ。

まぁ、知りたいとも思わないのだが。



『そういう貴方は、何でここに?』

『いや、ただの散歩だよ。暇だしな』

『……少しは鍛えようとすれば?』

『それはもう諦めた』



そんな関係の俺たちであるが、久しぶりに会ったというのに案外話せるものらしい。スラスラと言葉が出てきた。


それと、俺が逃げ出すことは誰にも言っていない。だって変に騒がれても面倒だし。

……そもそも騒いでくれるかどうか、疑問に思うが。



『あれ、いつまで続いてるんだ?』

『……二刻ほど』

『体力有り過ぎるだろ……』

『貴方が無さすぎるだけ』

『そりゃまぁ、そうだけどよ』



とりあえず、目撃者であるルルリアがここにいる以上、今から門を越えることは出来なくなった。

ルルリアがいなければ、既に外に行ってたんだろうが……仕方ないので、バークとリーンの戦いが終わるまで暫くここに居座ることになった。



『……いつまで居る気なの?』

『んー……暫くいるつもりだけど』

『そう……なら』



ルルリアが先の言葉を出す前に、こちらに声を掛けてきた者がいた。兄のバークだ。



『リントォ!てめぇ、なに俺の女に手ぇ出してんだ!?てめぇから先にぶっ殺すぞ!?』

『……』



バークに目を付けられた時には、何も言わず、何もしない方がいいのは、経験でわかっていた。

前に何度か、喋ったり行動したりしたら更にキレて半殺しにされたことがある。


何も反論せず、動いてはいけない。それが、バークに半殺しにされないようにするための方法だった。



『余所見とは、随分な余裕ね……!』

『あ!?てめぇ、邪魔してんじゃねぇぞ!』

『隙を晒したお前が悪い!』

『ハッ、リントは後回しだ。まずはてめぇからぶっ殺してやるよ!』



なんか姉のリーンがバークを引き付けてくれたので、無傷で済みそうだった。


……もしあのまま、バークが俺のことを半殺しにしようとしてきたなら、俺はそのまま顎の門を越えようとしただろう。


もう会うことはないだろうが、リーンには感謝しておこう。



『……もういい。帰る』

『え?バークは、いいのか?』

『バークの力は、私もよく理解してるから』



つまり、バークのことを信頼しているってことか。負けるはずがないだろう、と。


……俺の時とは大違いだなぁ。俺の時だったら何処かに行くだけで心配していたのに……まぁ、俺が弱すぎるだけなんだが。


ルルリアは翼を広げ、門とは逆の方向へと飛び去っていった。


………さて、これでルルリアはいなくなった。あとは、俺が顎の門を越えるだけだ。

しかも運が良いことに、リーンとバークは場所を移して戦っていた。これなら誰にもバレずに行けるだろう。



『……こうしてみると、感慨深いモノがあるなぁ』



顎の門の上に乗り、振り替えれば俺の故郷である竜の国が見えた。


俺も、父も、母も、そしてキョウダイ達も───あそこで生まれ育ち、成長してきた。そう考えると、生まれ故郷を離れることは、なんだか寂しくも感じる。


恐らく、俺がこの地に戻ってくることは、もうないだろう。戻るつもりなんてないのだから、当然だ。

だから、この光景を見るのも最後になる。



『……よし、行くか』



しばらく見つめ続け、気持ちの整理をつける。いや、つけた。



『じゃあな、生まれ故郷』



もう二度と戻ることはないだろう。だからさようなら。

母と父はお元気で。キョウダイ達は、まぁ頑張れ?

ルルリアは……もう会えないだろうから、さようならだ。


こうして俺は顎の門を越え、その先へと羽ばたいて行くのだった。




▲▼▲▼




───というのが1年前の話で、あれから俺は、様々な場所を飛び回った。


海だったり山だったり平地だったり森だったりと……まぁ色々あるんだが、俺は生まれて初めての自由を謳歌していたのだ。


時に人と遭遇したり、魔物と対峙したりもしたが、逃げたり戦ったりしていたから、大惨事になったことは一度もない。


そして当然、わざわざ危険な場所に赴くこともしていなかったのだが─────


俺は一体、何処で間違えたのだろうか。


空から周りを見渡せば、目に写るのは数々の鉄の柱。地上を見れば高速で走る鉄の馬車。

淀んだ空気に、下からこちらを見上げる大量の人間。そして俺の周りを飛び回る、人の乗った鉄の虫。



『こ、ここは一体何処なんだ!?これは、一体なんなんだ……!?』



あまりにも、見知ったものとは異なるものが多くある。見たことがないのだ、これは。


この一年、とにかく色んな場所に行けるようにと長く滞在することはなかったが……こんな場所は、見たことがなかった。



『……逃げよう。うん』



あまりに混乱していた俺は、いつもの行動を取ることにした。


それは────『逃げる』であった。

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