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8,少女の新たな仕事仲間?その②


 バックルームまで降りてきて諷は道護を睨んでみるが、道護に気にする素振りはない。だから、仕方なく諷の方が口を開く。

 

 「ちょっとどういうことか少しは説明がほしいんだけど?」

 

 「説明は後からじっくりするから、今のところはあんまり騒がずにしてて、ね?あんまり遅いとリューマも変に思うだろうからさ。」

 

 それだけ言うと道護はさっさと売り場へ出てしまう。諷も仕方なくその後ろから売り場へと出た。

 

 諷は、売り場に出て、おや?と思った。なんだかいつもと違う。何が?と聞かれるとよく分からない。落ち着かない感じがするため、手近な棚をまじまじと見てみる。

 並んでる商品がいつもよりも多い、気がする。あまり流行っていないこのコンビニはいつも少し商品の数が少なくて隙間が多いのに、いつもより商品数があるのだ。それに、不思議なことにその商品の半分くらいはなんだが存在感が薄い…。いや、少し透けて見える??

 諷は頭の中が疑問符だらけになりながら、透けて見えていたカップ麺に怖々と手を伸ばして手に持ってみる。するとどういう事なのか透けて見えていた気がするカップ麺は一気に存在感を増して、普通のカップ麺になってしまった。

 

 その事に目をぱちくりとしていると、ほぅっとリューマが声をあげていた。

 

 「お前…じゃないな、諷だったか?ミッチーと同じ魔法が使えんのか?!」

 

 「…は?」

 

 マホウ?…魔法?と言ったのだろうか?何を言っているのだろう?そんなもの諷が使える訳がない。

 だが、うんうんと1人頷いて納得してしまったようなリューマに問い質す隙もなく、もう1人リューマとほぼ同じ大きさの人がちょこちょこと姿を出した。

 

 「リューマは今日は当番じゃないよ。何騒いでるの?…って誰?お客?」

 

 呆れを含んだような物言いであったが諷を見て首を傾げた。その仕草はなんだか子どもみたいであった。

 

 「リョーマ、新しくここで働くことになったふうちゃんだよ。」

 

 そこはそう言う紹介じゃ変では無いだろうか?と諷は思ったが、さっきリューマに言われた魔法という言葉が未だにぐるぐると回っているせいでうまく言いたい事がまとまらない。

 

 「え?そうなの?リューマがよくサボってここの仕事を僕にばっかり押し付けてくるから、すごく助かるよ!あ、僕はリョーマね。よろしく、ふうさん。」

 

 なんと言うか話し方はリューマとは正反対のようだ。顔は似ているが、よく見ればリョーマの方が優しい雰囲気を纏っている。

 リョーマがにこやかに差し出してきた手に諷は無意識に手を出して握手していた。

 

 「あ、えーと、私は言無諷です。」

 

 とりあえずきちんと名乗り直してみる。するとリョーマは少し驚いた顔になり、言いにくそうに口を開く。

 

 「え?あ、うん。…そうなんだ。…あのね、もしかしてあんまり外に出たこと無い?」

 

 「え?いや、…どうだろう?…なんで?」

 

 諷は、どう答えたらいいのか分からずに曖昧に返事をしてしまう。リョーマが言う外とはアランド側の事だろう。存在を知ったのは昨日。しかも、外になんて出れないからこんなことになっているのだ。

 

 「あー、うん。あんまりそうやって名乗らない方がいいかな、って。ほら、どこで誰が聞いてるか分からないから、ね?」

 

 「……あ、…う、うん。そ、だね…?」

 

 また名前の事を指摘された。意味が分からない。それでも、リョーマは心配してくれているような感じがするから、取り敢えず頷いておく。後でどういう事なのか道護にはきっちりと説明してもらわなければ…。

 

 「んな事より、リョーマ!こいつ…あ、と…諷がミッチーと同じ魔法が使えるみたいなんだ!」

 

 「え?!そうなの?それはすごいね。」

 

 「え?、と……?」

 

 リューマの言葉にリョーマは目を丸くして諷を見てきた。

 いやいや、そんな期待に満ちた目を向けられても、諷には心当たりが無くてどうしていいのか分からない。

 そんな諷の気持ちを知ってか知らずか道護が間に入ってくる。

 

 「そうなんだよ。だから、いいかな、って。ね、ふうちゃん?」

 

 「は…い?」

 

 道護まで何を言い出すんだと諷は呆けた顔になってしまう。まるで助けにも説明にもなっていない。

 

 「そうか、そうか、こんな小娘に務まるかと思ったが、そんな魔法があるなら納得だな!」

 

 リューマが納得したという風に頷き、諷の背中をバシバシ叩く。

 

 「よし!諷はその魔法でミッチー助けるんだな!店の中の事はリョーマに任せとけ!」

 

 「少しはリューマも手伝ってよ。…それにリューマ、あんまり諷さんに絡むのやめなよ…。ミッチーの目が怖い…。」

 

 リョーマは最後の方はリューマにだけ囁くようにして言った。

 

 「え?あー、なんだ?ミッチー?」

 

 言外になにか言いたい事でもあんのか?と聞こえてきそうな顔でリューマは道護を見た。道護は何かを含ませるような笑みを浮かべて、リューマを見ている。諷はその道護を見て怒っているな、とため息をつきたくなる。

 

 「リューマ、ふうちゃんは色んな人達から頼まれてる大事な預かり人なの。丁重に、とまでは言わないから、あんまり乱暴に関わらないでもらえる?」

 

 「…ミチくん、それ過保護すぎだよ。まぁ、バシバシ叩かれるのは痛いからやめてほしいけど、ミチくんがそこまで怒ることでもないでしょ?」

 

 諷がそう言うと、道護は少し肩をすくめてみせる。

 

 「うん。そうだね。でもね、最初にちゃんと言っておかないとリューマの場合、加減がどんどんなくなりそうだからね。」

 

 「まぁ、リューマはそういうところあるから、釘を刺すっていう意味でははっきり最初に言っておくのはいいと思うよ。…それより、本当にミッチーと同じ魔法が使えるの?」

 

 リョーマにどこか疑いを持つような目を向けられて諷はどうしたものかと思った。何をしてリューマが諷が魔法を使えると勘違いしたのか分からない。

  

 「えー、と、その…」

 

 諷は困って視線を道護へと向けていた。

 

 「ふうちゃんはまだ使い慣れてないから、どうしたらいいのかよく分からないんだよね?」

 

 「え?まぁ、そ、うだね?」

 

 道護が諷にだけ見えるように棚に並んでいるなんとなく透けて見えるカップ麺を指差していた。

 諷はしばらくそんな道護を黙って見ていたが、どうやらその透けて見えるカップ麺を手に持てと言っているのだと判断して、再び恐る恐る手に持ってみた。

 すると、再び透けて見えていたカップ麺は存在感が増し、あっという間に普通のカップ麺のようになってしまう。

 それをリョーマが目を丸くして見ていた。

 

 「本当だ、すごい。…何もないところから、物を取り出すなんて…。そんな事できるのミッチーだけだと思ってた…。」

 

 「は…?」

 

 何もないところ?

 いや、確かに変な風に透けてはいるが、元々ここにあった物を持っただけなのだが…、透けている商品はもしかしなくてもリョーマにもリューマにも見えていない、ということなのだろうか?

 諷は手に持つごく普通のカップ麺に目を落とす。存在感はばっちりでもう透けてなどいない。

 そして、道護を見れば笑顔で頷き返されてしまった。

 

 その時、涼やかな鈴の音が店内に響く。

 

 「いらっしゃいませー。」 

 

 反射的という感じでリョーマが声を出すと、レジの方へと向かっていく。

 

 「それじゃ、ふうちゃん一応お会計とかどうやるのか確認しにレジに行こうか。」

 

 諷は聞きたい事が山ほどあったが、リューマやリョーマがいるところでは何も教えてくれる気は無さそうだと思って仕方なく頷いた。

 

 この店にはレジが2台置いてあるのだが、1台は故障しているらしく常に閉めていた。諷がこの店で働くよりも前からそうだったのだが、リョーマが立っているレジはその常に故障していて閉めていたレジだった。

 

 「…あー、だから故障……。」

 

 諷はなんとなく納得してしまう。ただお金がないから直さないのかと思っていたが、こんな理由があったんだなー、と。

 

 「ん?故障してるのはあっちだよ。」

 

 とリョーマがいつも使ってるレジを指差す。故障と諷が呟いたところだけ聞こえたようだ。

 

 「あー、うん。そうだね。」


 諷はもうなんとも言えない曖昧な顔をしながら頷いていた。

 

 そこにのっそりと現れたのはトカゲ…みたいな2足歩行のナニか…恐竜みたいというか、諷には恐竜にしか見えない…。

 諷はその姿を間近で見てピシリと固まる。ヘビに睨まれたカエルってきっとこんな気持ちかもしれない。頭は思考を拒否して真っ白になる。きっともうすぐお花畑でも見えてくると思う…。そんな風に現実逃避したくなる諷とは違いリョーマは落ち着き払って接客をはじめる。

 

 「いらっしゃいませ。ここのお金は持ってますか?」

 

 「いや、持ってない。」

 

 諷は目を見開く。恐竜が喋り、しかも諷にも聞き取れた事が衝撃だった。

 

 「それじゃ、一度両替しますね。」

 

 リョーマはそう言うと、何やら台座を取り出して続ける。

 

 「この上に両替するお金か、換金できる物を乗せてください。」

 

 「むっ…これでも大丈夫か?」

 

 恐竜もどき?がそう言いながら、ころんと台座の上に置いたのは光を放つ石だった。

 

 「光石ですね。それでは鑑定します。」

 

 そうリョーマが言うと台座がフォンと音を立てる。特に光輝くとかそういった現象はなかった。ただ、光石が微かに霞み、そこに千円札がうっすらと見える、気がする…。

 

 「鑑定が終わりました。こちらはここでの金額で言いますと、千円になります。…分かりやすく言えば銅貨10枚分ほどですね。」

 

 「なるほど…。で、これはいくらなんだ?」

 

 恐竜もどき?はカウンターに置いた商品の炭酸水を指差して尋ねる。

 

 「そちらは、1200円です。」

 

 「えっ?」

 

 「な、なんだとっ!」

 

 諷と恐竜もどき?は同時に声をあげていた。カウンターに置いてあるのは只の炭酸水だ。普段店にあるのと同じ。コンビニであるこの店は量販店よりもやや高いがそれでも100円もしないはず。ぼったくりもいいところだ。

 こんな吹っ掛けるような値段を言ってこの恐ろしい姿の恐竜もどき?が店内で暴れだしたらどうしてくれるんだ!と諷は内心冷や汗が止まらなくなる。

 

 だんっ!!

 

 恐竜もどき?が凄い勢いでカウンターを叩く。

 

 ほら!!やっぱり!諷は心の中で叫び目を閉じる。

 

 「な、なぜそんなに安くできるんだ!!」

 

 ほらっ!怒ってる!そんなに高い値段言うから…………ん………?……安い……?安いと言った…?


 諷は恐る恐る目を開けていた。

 そこにいるのは驚きでワナワナとしている恐竜もどき?だ。

 

 「あー、それは企業秘密ってヤツです。リザードマンさんの常識からはかけ離れちゃうと思いますけど、この炭酸水は人口的に作ったもの、らしいです。」

 

 「な、んだって…?」

 

 恐竜もどきはリザードマンらしい…。そんな事よりもこのやり取りはどういう事なのか…。

 そんなにも炭酸水は貴重なんだろうか…?

 貴重、なんだろうな…。と驚きすぎのリザードマンを見て諷は思っていた。

 

 「まぁ、作り方は僕も分からないんですけどね…。」

 

 リョーマが肩をすくめながらそう続けると、道護が横から口を出していた。

 

 「ただ、ウチでここまで安く炭酸水を売ってるのを黙ってもらえるなら、今回は千円…つまり光石を両替した分だけでいいですよ。…ただ、内密にしてもらいたいんですよね、ほら、例の所に目をつけられると商売はやりにくいんで…。」

 

 リザードマンはそれを聞いて訳知り顔で頷く。

 

 「確かに、あそこは炭酸水を独占販売してるから、こんなに安いのがあったら商売敵として目をつけられるだろうな…。だが…その値段で品質は大丈夫なのか?」

 

 「それはもちろん。むしろこっちの方が扱いやすいかもしれないですよ?」

 

 道護がにこやかにそう言うと、リザードマンは道護の顔をしばらく見つめてから大きく頷いた。

 

 「よし、買う。それで性能を試して良ければまた越させてもらう。」

 

 「ありがとうございます。それじゃ、、光石は換金して、それをお代としてもらいますね。」

 

 道護が台座に手をかざすと、光石がフッと消え、そこには千円札が現れた。

 リョーマが炭酸水のバーコードを読み取るとレジの液晶画面には“炭酸水 1200円”と表示される。そこから道護は200円引き操作を行い、レジに千円札をしまった。

 その間にリョーマは、炭酸水にシールを貼り、リザードマンに商品を手渡していた。

 

 「あ、そうだ。あまり目立って炭酸水で商売する気はないんで、売れるのは1人1日3本までにしてるんです。」

 

 道護がそう言うと、リザードマンは文句を言う事もなく頷いて見せた。

 

 「分かった。こんなに安価で売っていることに気付けばみんな黙っていないだろうからな…。」

 

 それだけ言うとリザードマンはのっそりと店の外へと出ていった。

 それを見送ってリョーマが諷に向き直る。

 

 「どう?商品を売るまでのやり取りは分かった?」

 

 「う、うん…。」

 

 言いたい事も聞きたい事も山ほどある。でも、今はこれ以上追及しても道護は答えてくれない気がする。リョーマに何かを聞くにしてももう少しちゃんと理解してからでないと会話が噛み合わなくなる予感もあり、諷はおとなしく頷くだけにしていた。

 

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