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7,少女の新たな仕事仲間?


 「…さてと、一応、昼でも外に出れるか試してみようか?」

 

 道護は思い出したようにそう諷に聞いてきたが、諷の方はそんな道護を一瞬だけ見て目を反らす。

 

 「…それはもうやった。…出られなかったよ。あ、でもベランダは出れた。」

 

 諷はその時の事を思い出す。

 

 外階段に続くドアを開けたらよく知ってる風景だったから、大丈夫だと思った。

 だけれど、諷の外へと踏み出したはずの足は結局玄関の中だった。何度か試したから間違いない。

 結論として諷は出られないのだ。ここから。

 それなのに、どうしてかそんなに落ち込まなかった。不安もあまり感じない。

 そもそもあまり居場所というものを見えている風景の中に見いだしていないんじゃないか、と思った。

 帰る家はある。でも、誰も待っていない。友達と呼べる存在も特に思いつかない。諷はここに仕事に来ている時が唯一他人と関わる日々だったんだな、と分かってしまった。それなら、出れなくても問題がないように思ってしまった。


 「ふうちゃん…。」

 

 呼ばれて道護を見れば、何故なのか諷よりも遥かに辛そうな顔になっている。

 

 「…ミチくんがそんな顔をしたところでどうしょうもないでしょ。当面は困ることもないだろうし…。」

 

 「…どうにかして戻れる方法考えなきゃね…。」

 

 道護は独り言のように呟くと気を取り直したように諷に向き直る。

 

 「…それじゃ、ふうちゃんにはあっち側のバイトを紹介しなきゃね。」

 

 道護の調子が戻った事に諷は少しだけ安堵する。

 

 「…ねぇ、ミチくん、あっちこっちって分かりにくいんだけど、名前とかついてないの?」

 

 諷がそう聞くと、道護は少しだけ考えた顔をして答えた。

 

 「…一応あるよ。…あっちがアランド、こっちがコランド。昔からこの場所を管理してる人だけが使ってた名前だから、一般じゃないけど。」

 

 「…そうなんだ。なんですぐに教えてくれなかったの?」

 

 「…すぐに帰れるなら、教えなくてもいいかな、って思ってた。さっきも言ったけど、この呼び方知ってる人なんてほとんど存在しないから。これから紹介するアランド側のバイトも自分達がアランドなんて呼ばれてる世界の住人だ、なんて知らないんだよ。ふうちゃんだってコランドの住人って言われても分からないでしょ?」

 

 「…確かに。分からないね…。…ねぇ、ミチくんは私がそのアランド側の住人とも話せると思ってる?」

 

 「まぁ、ね。…カメラの映像で、見えるって言ってたでしょ?…なんか透けてるなーとかって思った?」

 

 「…普通に見えた。」

 

 「だとしたらかなりの可能性で話せると思うんだよ。言葉は基本的に一緒だし。まぁ、呼んであるからもうすぐ来ると思うんだ。」

 

 「え?呼ぶって……」

 

 諷の言葉を遮るように外階段側の戸が叩かれた。

 道護が戸を開けると、そこには、褐色の肌に焦げ茶色の髪、黒い瞳の子どもがいた。…そう、子ども。背丈が道護の腰に届いていない。

 

 諷が目をぱちくりとしていると、その子と目が合う。

 

 「わわっ!ミッチーの家に女の子がいるー!?」

 

 その子は物凄く驚いた、と言わんばかりに声をあげた。意外と声は大人の男の人のようだった。

 

 「え、えーと、…私の事か、な?」

 

 諷がおっかなびっくりしながらも声を出した。

 

 「他に誰がいるんだよ!なんだよ!ミッチー部屋に連れてくるくらい仲がいい娘がいるなら早く教えろよなー!」

 

 その子はニタリと笑って道護に絡む。

 

 「落ち着いてよ、リューマ。ふうちゃんはそういうのとはちょっと違うんだよ。」

 

 道護がそう言うと、リューマと呼ばれた子は怪訝な顔をした。

 

 「なんだ?どういうことだ?」

 

 「あんまり詳しくは言えないんだけど、ちょっと事情があって、ウチでしばらく預かることにしたんだ。店も手伝ってもらうから顔を合わせておこうかな、って思ったんだよ。」

 

 「ふぅーん。で、お前、名前なんて言うんだ?」

 

 道護の説明に納得したのかは分からないが、リューマは諷に向き直ってどこか偉そうに聞いてきた。

 その態度に諷は少しだけムッとしてしまう。

 

 「………言無諷」

 

 素っ気なく諷が言うと、リューマが眉間にシワを作った。

 

 「…変な名前だな。…オレはリューマだ。」

 

 諷はまたしてもカチンとくる。なぜに初めて会う子どもにこんなにも言われなければいけないのか…。

 諷の不満が顔に出ていたのか、道護が諷に向かって口を開く。

 

 「あのね、ふうちゃん。リューマはドワーフで一応歳は28なんだ。」

 

 「えっ?!」

 

 諷は驚いてまじまじとリューマを見てしまう。だが、やはり諷には子どもにしか見えない。

 

 「なんだよ。じろじろ見て。まさかと思うが子どもにしか見えないとかって言うつもりじゃねぇだろうな?」

 

 今度はリューマの方が不機嫌な顔になる。

 

 「ごめんね、リューマ。ふうちゃんはドワーフを見たことないんだよ。」

 

 道護がすかさずフォローした。

 

 「はぁ?…ちっ、なら仕方ねぇか。」

 

 不機嫌な顔はそのままだが、一応納得はしたようだった。

 

 「あ、あの…ごめんなさい。」

 

 諷が言うと、リューマはふんっと鼻を鳴らした。

 

 「ふうちゃん、この人はバイトの先輩にあたるから、分からない事があったら聞いてね。それと、今、下で仕事してるのは、リューマの弟のリョーマね。」

 

 「え?下で?今仕事してるの?でも、それって…」

 

 登子さんなんじゃと言いそうになって諷は口をつぐむ。道護が諷にだけ見えるように人差し指を口に当てて片目を瞑ってきていたせいだ。

 

 「顔合わせか何かでオレを呼んだのか?」

 

 「まぁ、そうだね。確認したいこともあったからね。」

 

 「なんだよ。てっきり仕事かなんかだと思っただろ。」

 

 不満そうな顔をしてリューマは道護を見るが、道護は涼しい顔だ。

 

 「これも仕事の1つでしょ?」

 

 「本業とは違うって知ってるだろ。安く材料仕入れる為に仕方なくやってるだけなんだから、そこんとこミッチーももう少し分かってほしいんだけどな。」

 

 「タダでとは言ってないよ。そうだなぁ、炭酸水1本。」

 

 道護の台詞に諷は目を丸くする。一体どこにそんな報酬で喜ぶ人が居るというのだろう…。という諷の気持ちとは反対にリューマは嬉しそうな顔になる。

 

 「まじか?約束だぞ?」

 

 「勿論。それじゃ、リョーマも紹介したいから下に行こうか?」


 「よし!任せろ!」

 

 リューマは、さっきまでの不満を忘れたかのように意気揚々と階下へ向かっていく。 

 

 「…そんなのでいいの?」

  

 諷はそんなリューマの後ろ姿を見ながらぼそりと口に出してしまったが、聞こえたのは道護だけだったようだ。

 

 「理由は追々ね。ふうちゃん、これしっかり持ってて。ポケットに入れといてくれればいいから。」

 

 「ビー玉?」

 

 「そう。それ持っててくれれば登子さんはふうちゃんに気付きにくくなるからさ。だからってあんまり目立つようなことしないでね。」

 

 「え?どういうこと?」

 

 「それも後で説明するから。さっ、リューマが行っちゃったから、ふうちゃんも行こうか。」

 

 「え、ちょ、ちゃんと説明がほしいんだけど?!」

 

 諷は道護に押されるようにして階下へと向かった。 

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