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18.少女、異世界の話を聞くその②


 「…呪いって…そんな怖い言い方…。」

 

 諷は顔をしかめていた。

 

 「確かに、ね。でも、そう感じるだけの理由はあるんだ。…代行者はね、凄い魔力を持っていて、世界の理を改変してしまったんだ。」

 

 「ことわりのかいへん??」

 

 意味が分からない。理っていうのは諷の認識が間違って無ければ、決まっている法則のようなものではなかっただろうか。

 

 「世界の在り方って言うべきだったかもね。…それまでアランドでは戦争を沢山繰り返した。それこそ今までコランドで起こったような戦争よりも酷かった、傷付き倒れるだけじゃない。世界中のどの種族を合わせても1万人を切ったとも言われてるんだ。…それなのに、争いは止まらなくてね。…それで、代行者はまず、戦争を禁じたんだ。」

 

 「でも、禁じるだけじゃまた戦争は起こるよね?」

 

 そこまで激化した争いが禁じるだけで収まるとはとてもじゃないけれど思えない。

 

 「そうだね。…でも、代行者は自分の魔力の殆どを使って末代にまで影響を与える魔法を使って禁じたんだ。…この話は千年位前の事だとされているんだけど、その影響は今でも続いてるんだ。…だから、戦争はない。と言うよりもできないんだ。戦争をしようと計画なり、策略なりを練り始めると、途端にそれに関わった人達は病に倒れる。それでも推し進めようとすれば、命はない。」

 

 「そんな凄い事が魔法でできてしまうの?」

 

 そこまでの事ができてしまうなら、それは恐ろしい力で、怖がられても仕方がないように思えた。

 

 「普通はできない。神の代行者だからこそ、神の力を使えたと言われてる。」

 

 そこで道護は言葉を区切った。先があるのに、言いたくないような、そんな間のように諷には感じられた。

 

 「…ミチくん、どうかしたの?」


 道護は諷に視線を戻し、躊躇いを見せた後に続けた。

 

 「…いかに神の力とも言えどもね、代行者じゃ世界中の人に永続的に魔法の効果を発する事はできないんだ。」

 

 「えっ?!それじゃ、今までの話は…。」

 

 「嘘ではないよ。事実として今でも戦争はできない。それだけじゃない、世界中の人達は生まれる時に互いの言葉が理解できる魔法が自然に付与される。」

 

 「それはまた便利だね…。」

 

 「…言葉が分かれば言葉の違いによる争いは無くなるだろう、って言うこと。…差別も同じ理由で認められない。…宗教も何を信じてもいいんだ。1つにするのは不自然だ、っていう流れがあったかららしいんだけどね。ただ、他者の信仰を侵害することは許されない。無理矢理改宗させたり、他の信仰を貶める事もダメなんだ。…それら信仰の対象となっている者は全て平等であるべき、とされてる。」

 

 「それまた凄い話だよ…。」

 

 ある意味理想なんじゃないだろうか。そういう世界なら争いも起きない。…ただ、人の気持ちとしては、自分の信じるものだけが絶対であってほしい欲求は起きそうだけれど…。

 

 「…そうだね。…でも、これらは神の代行者が掛けた魔法じゃないんだ。」

 

 「えっ?!そうなの?」

 

 意思のある者達の行動を抑制させているような魔法をホイホイ使えるような存在はたくさんいてほしいとは思えない。

 

 「うん。…アランドではね、定期的に…100年から300年位の間と言われてるけど、代行者の使者が生まれるんだ。」

 

 「代行者の使者?…つまり、神様の代行の代行って事だよね…。…直接は来れないの?」

 

 「そうだね。神様もその代行者も本来なら世界の在り方何てものには関われないんじゃないかっていうのが今のアランドでの主流の考え方なんだ。…だから使者を遣わせてきて、世界のバランスを保とうとしているんじゃないかって考えだよね。」

 

 「…その使者が言葉が分かったりとかの魔法を掛けたって言うこと?」

 

 「うん、そうだよ。…神様はアランドに降りたってはいない。…そして、代行者は送り出されてきて、平和に導いた。…そして、使者はね、アランドのどこかの種族に生まれ落ちるんだ。」

 

 「生まれ落ちる?」

 

 「そう。アランドのどこかで赤ん坊として生まれる。…時には人、時には獣人、時にはエルフ、200年くらい前にはゴブリンだったよ。…使者の役割は代行者の掛けた魔法の修復と維持、その時に必要なら新しいルールを追加する事なんだ。…生まれた使者はその種族の普通の赤子らしくてね。高い魔力を持っている事と、星見で“理”っていう言葉が出る事以外何も変わりがないんだ。」

 

 「…もしかして、星見で、初めて分かるの?」

 

 「…まぁ、多分。…星見は使者をいち早く見つけるための儀式でもあるから、生まれた子どもは例え捨て子であろうと必ず受けるんだ。…隠れて生むことはできない。赤子が生まれれば反応する魔法道具をどこの里でも1つ以上持ってるからね。」

 

 「え…なんかそれって…怖いよ…。」

 

 それはまるで見張られているようにも感じられる。

 

 「…それほどまでに使者は恐れられていて、それでいてどこの種族も喉から手が出るほど欲しがっているんだよ。…よその種族に生まれた使者を赤ん坊のうちに暗殺したっていう歴史もあるくらいだしね。」


 「酷い…。…使者だってなるとその子はどうなっちゃうの?」

 

 「…他の種族は知らないけど、人なら有無を言わさずに神殿に預けられる事になってるよ。正しい教養と知識を与えなければいけないからね。」

 

 「理を創るから?」

 

 「そう。…だけど、本当はそれだけじゃないんだ。…戦争を禁じられているからね、他の種族よりも優位になるためには、使者を利用して、有利な事柄を理に組み込めばいいんだよ。」

 

 「…そんな事、出来るの?」

 

 諷は少しずつ息が苦しくなってきていた。道護の話は気になるのに、聞きたくない。

 

 「出来ないって思われてたよ。少なくても200年前までは、だけどね。…その時の使者はゴブリンでね。…彼等は試しに使者に炭酸水を独占できるようにしてもらったんだ。…そんなどこかの種族だけが得をするような事はできないとされてきたのに、できてしまった。…使者にそれが正しいと思わせる事ができれば、これまでの“理”すらも覆せるかもしれない、そういう考えが生まれたんだ。…だから、次代の使者がいつ、どこに生まれても対処できるように、どこの種族も目を光らせてる。」

 

 「…自分達の都合のいい子に使者を育てる為に?」

 

 「そうだよ。…いかに高い魔力を持つ使者でも所詮最初は赤ん坊だからね。…使者が生まれてくる少し前から前兆はあって、…星見で“守護者”と出る子どもが生まれるんだ。」

 

 「守護者?…使者のっていう事?」

 

 不意にぽとんと、何かが嵌まってしまう気がした。バラバラのモノが1つにまとまるように。

 

 「…そうだよ。そういう子をいち早く見つけるための星見だからね。…それ以外の子達はただの占いみたいなものだよ。必ずその時に出た結果に沿うような人生になるわけでもないからね。」

 

 「……守護者も保護されて、都合のいい子にされちゃうの?」

 

 「…それをしたいんだろうけどね。…守護者は使者よりも厄介かもね。」

 

 「それって、どういう意味?」

 

 「守護者は特別でね。魂の一部を使者に預けて生まれてくるんだ。…代わりに莫大な魔力と知性を持って生まれる。…生まれたその時から使者を待っている。待つために自分を最初は守るんだ。使者の為だけにその魔力を発揮できる。自分を守るのも勿論できるよ、だってそれが使者を守ることに繋がるからね。…だからあまりにも利己的な考え方を植え付けようとしてもダメだったんだよ。守護者は生まれたその時から使者の物だから。」

 

 道護はそこで区切って諷をじっと見つめてきた。

 諷はそんな道護の目を見返して自分が嫌な汗をかいている事に気付いた。

 そもそも、道護が何を隠しているのかを諷は聞いたはずで、アランドの世界の歴史なんて聞いてはいない。なのに、わざわざこんな話をする意味はどこにあるのか…。


 迷いを帯びた目を一瞬だけ見せた道護が再び口を開く。 


 「…僕はね、ふうちゃんの守護者なんだ。…ふうちゃんは今代の使者として生まれた。」

 

 告げられた内容に諷の頭は真っ白になっていた。

 

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